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第十四話 プニプヨ料理でお大事に!

****


 まだまだ(あつ)ーいある()()昼間(ぴるま)


 (くろ)くて凸凹(でこぼこ)のアスファルトは、さんさんと()(そそ)(ねつ)をこれでもかと吸収(きゅうしゅう)して(おそ)ろしい温度(おんど)になっています。


 (ねっ)された鉄板(てっぱん)のようなその(うえ)を、タカヤはパタパタと(いそ)いで(はし)っていました。


 コスモピースの(ちから)()()れてから(あつ)いやら(さむ)いやらという感覚(かんかく)()くなったタカヤにとって、今日(きょう)最高気温(さいこうきおん)がどうだのということは(とく)影響(えいきょう)はありませんが……(いま)()()っている保冷(ほれい)バッグの(なか)に入っている手作(てづく)りアイスクリームには多大(ただい)なる影響(えいきょう)があります。


「うーん、ちょっと()けちゃったかもな……」


 不安(ふあん)そうにバッグの(なか)(のぞ)きながら、タカヤはショースケの(いえ)()(りん)()らしました。


 はーい、と(こえ)()こえて重厚(じゅうこう)なドアが(うす)(ひら)き、ショースケが隙間(すきま)からちらりと(かお)()しましたが……


「どうしたショースケ、(なに)かあったのか?」


 タカヤが(おも)わずそう()いてしまうほど、その(かお)(つか)()っています。


「もう大変(たいへん)なんだよ……とりあえず(はい)って」


 (くつ)(なん)(そく)()しっぱなしにしていても問題(もんだい)なさそうなほど(ひろ)玄関(げんかん)(はい)ると、なにやら(おく)部屋(へや)から(こえ)()こえます。


「ルルさん、この(ほん)()いてある適量(てきりょう)とは正確(せいかく)には(なん)グラムのことを()うんですか?」


「さぁ……(わたし)にもわかりませんが、こういうのはライトさんが()れたいと(おも)(りょう)()れたらいいのではないかと」


「そうはいきません、(すう)ミリグラムの()()()(おお)きな(ちが)いを()むかもしれないんです。やはりここはグラム(すう)()えた試作(しさく)()(かえ)すことによって正確(せいかく)(あたい)()()した(ほう)が……」


「それでは()()れてしまうどころでは()まないような……」


 ()()隙間(すきま)から()こえるルルの(こま)(ごえ)()いて、ショースケは(なん)度目(どめ)かわからない(おお)きなため(いき)()きました。


「……と、まぁこういうわけなの」


「ど、どういうわけなんだ……?」


 さすがに()たばかりで状況(じょうきょう)(つか)めないタカヤに、ショースケは説明(せつめい)(はじ)めます。


(じつ)昨日(きのう)から、メグさんが体調(たいちょう)(くず)しちゃって。どうも脱皮(だっぴ)時期(じき)(むか)えたらしいんだ」


「そういえばプニプヨ星人(せいじん)って定期(ていき)(てき)脱皮(だっぴ)をするんだったな」


「そうそう。それでね、プニプヨ星人(せいじん)がスムーズに脱皮(だっぴ)するためにとっても有効(ゆうこう)(くすり)()わりの料理(りょうり)があるらしくて。(ほん)調(しら)べたら、(さいわ)材料(ざいりょう)はある程度(ていど)ライトさんの実験室(じっけんしつ)(そろ)ってるみたいだったし、それを(つく)ろうって(はなし)になったんだけどっ……!」


 ショースケは乱暴(らんぼう)()()(ひら)いてズカズカとキッチンに(はい)ると、(うで)(おも)いっきり()ばしてライトを(ゆび)さしました。


「ライトさんが! 真面目(まじめ)すぎて! 全然(ぜんぜん)作業(さぎょう)(すす)まないのー!」


「うわぁ! びっくりした……あ、タカヤ(くん)いらっしゃい」


 ライトはいつもと()わらない笑顔(えがお)()かべながら、(なに)やら精密(せいみつ)そうな(おお)きな(はか)りでミリ単位(たんい)計測(けいそく)をしています。


「まだその(こな)(はか)ってんの⁉ だーかーら、その(こな)はラバラの()(ふた)(ぶん)くらいの(りょう)()れたらいいって()いてるんだから目分量(めぶんりょう)()れたらいいじゃんか!」


 付箋(ふせん)がたくさん()ってある分厚(ぶあつ)(ほん)(ひら)いて、ショースケはライトの(かお)(まえ)にぐいっと()()します。


「いや、ラバラの()(おお)きさに結構(けっこう)バラつきがある()なんだから、どの(おお)きさが(ただ)しいのかきちんと見極(みきわ)めないと。そもそも、その(ほん)()かれているラバラの()(じゅく)しているかいないかで(おお)きさが多少(たしょう)()わって……ああ()って? さっき(はか)ったデキオウの()粉末(ふんまつ)にしたものも、もしかしたら(あお)()じゃなくて(むらさき)()のことだったのかも…やっぱり(いち)から(つく)(なお)した(ほう)が」


 ……ライトの(くち)()まらないのでショースケはもう()きそうです。


「……と、いうわけなんだよタカヤ。わかってくれた?」


「あ、あぁうん。なんとなく……あの、ライトさん?」


 タカヤはへにょりと笑顔(えがお)()かべながら、右手(みぎて)()った保冷(ほれい)バッグを(むね)(たか)さに(かか)げました。


(おれ)(いえ)でアイスを(つく)って()って()たんです。(いま)から一緒(いっしょ)()べてくれませんか?」



****



「このバニラアイス美味(おい)しいね。タカヤ(くん)本当(ほんとう)料理(りょうり)上手(じょうず)だね」


 (ちい)さな金属(きんぞく)のスプーンでもう一口(ひとくち)、ライトはアイスを満足(まんぞく)そうに頬張(ほおば)ります。


「いえ、レシピ(ぼん)()てその(とお)りに(つく)ってるだけですよ。ごめんなさい、ちょっと()けちゃってましたね」


「やわらかくて()べやすいから、(ぼく)はこれぐらいがちょうどいいと(おも)うけど」


 ライトが使(つか)っているものと(おな)(ちい)さなスプーンで(おお)きく(えぐ)るようにアイスを(すく)ったショースケは、それを一気(いっき)(くち)()れて……(あん)(じょう)、キーンと(いた)んだ(ひたい)をゴシゴシ(こす)りました。


本当(ほんとう)美味(おい)しそうですね、(わたし)もいつか()べてみたいです。メグも()べられたら()かったんですけれど……」


 (もの)()べる必要(ひつよう)()いアンドロイドのルルは、心配(しんぱい)そうに()(かい)にあるメグの部屋(へや)天井(てんじょう)()しに()()げます。


「かなり具合(ぐあい)(わる)そうだもんね…脱皮(だっぴ)(ちゅう)食欲(しょくよく)()くなるらしいし。だから(はや)料理(りょうり)(つく)って(わた)そうって()ったのに……!」


 ショースケがじとりと(にら)むと、ライトは(もう)(わけ)なさそうに()()らしました。


「ごめん……()になることがあったら(こま)かく追求(ついきゅう)しないと()()まなくて……。でも、ショースケ(くん)大雑把(おおざっぱ)すぎるよ! ちゃんと(りょう)記載(きさい)されている材料(ざいりょう)全然(ぜんぜん)(はか)ろうとしないし!」


「ちょっとくらい(おお)くても(すく)なくても一緒(いっしょ)でしょ。お(なか)()れちゃったら(なん)とかなるってじーちゃんも()ってたし」


「いやいやならないよ! もっと具合(ぐあい)(わる)くなったらどうするんだ!」


 また()(あらそ)いを(はじ)めた二人(ふたり)(まえ)に、ルルとタカヤは(こま)ったように(わら)()いました。


「ごめんなさいタカヤさん、今日(きょう)はずっとこのような(かん)じで……」


「いえ、お(かま)いなく……そうだ! メグさんに()べていただくお料理(りょうり)(なに)(おれ)(ちから)になれることありますか?」


「まぁ! 手伝(てつだ)ってくださるんですか? タカヤさんが協力(きょうりょく)してくださるなら百人力(ひゃくにんりき)です」


 ルルは(うれ)しそうに両手(りょうて)()わせると、料理(りょうり)(つく)(かた)()っている(ほん)をキッチンから()ってきてテーブルの(うえ)()きました。


「このレシピ(ぼん)はプニプヨ(せい)のものなんですけれど、どうも普通(ふつう)のプニプヨ()をかなり(くず)して()いてあるみたいで……解読(かいどく)だけでかなり時間(じかん)がかかってしまっているんです。メグに()こうにもずっと(ねむ)っていますから(むずか)しいですし……タカヤさん()めませんか?」


「うーん、ごめんなさい。(おれ)はコスモピースの(ちから)ET(いーてぃー)さんたちが(つた)えたいことはなんとなくわかるんですけど……()かれた文字(もじ)はこの(ちから)では()めないんです」


 すみません、とタカヤは(かた)()とします。


「ふーん、タカヤというか……コスモピースにも出来(でき)ないことがあるんだね」


 ショースケはカップの(そこ)(のこ)ったアイスを一滴(いってき)(のこ)さないようにスプーンでかき(あつ)めながら、意外(いがい)そうに()いました。


「あはは……(おれ)がコスモピースの(ちから)()()せてないだけかもしれないけどな」


 タカヤがいつものように(もう)(わけ)なさそうに(わら)様子(ようす)(すこ)()にかけながら、ライトは(から)になったアイスのカップを()いて、ごちそうさまと()()わせます。


美味(おい)しかったよ、タカヤ(くん)ありがとう。さて……料理(りょうり)(つづ)きをしないとね」


 (うで)まくりをしてキッチンへ()かうライトを、ショースケは()ったと(つよ)()()めました。


「ライトさんもうキッチンに()かないで! 全然(ぜんぜん)作業(さぎょう)(すす)まなくなるから!」


「なっ……! き、()()けるから! それならいいだろ?」


「ダメ! ライトさんそう()って()()けられたこと(いま)まで()いじゃん!」


 ……図星(ずぼし)()かれたライトは(なに)()(かえ)せず(くち)をつぐみます。


 すると(はなし)()いていたルルがふわりと微笑(ほほえ)んで、椅子(いす)からゆっくりと()()がりました。


「みなさん、ここは二手(ふたて)()かれて作業(さぎょう)をするのはどうでしょう?」


 いつもの見慣(みな)れたメイド(ふく)()(つつ)んだルルは、背中(せなか)についた(おお)きなリボンを()らしながら(つづ)けます。


(わたし)とタカヤさんがお料理(りょうり)を、ライトさんとショースケさんがレシピ(ぼん)解読(かいどく)をそれぞれ担当(たんとう)するんです。そうすればより(はや)く、メグに料理(りょうり)(とど)けることができるのではないでしょうか?」


(たし)かに、それは()(かんが)えですね。(ぼく)はキッチンに(はい)らない(ほう)()さそうですし……」


 しょんぼりと(うつむ)きながらライトは納得(なっとく)しましたが……


「えー、(ぼく)料理(りょうり)担当(たんとう)がいいなー。その(ほう)(たの)しそうだもん、タカヤ()わってよ」


 ショースケが(くちびる)(とが)らせるので、ルルは自分(じぶん)(ほお)片手(かたて)()えて(くび)(ちい)さく(かし)げます。


「あら? ショースケさんはとってもとーっても(かしこ)(かた)ですから、さぞかし解読(かいどく)がお得意(とくい)だろうと(おも)ったんですけれど……料理(りょうり)(ほう)がいいですか?」


 それを()いたショースケは、ニヤニヤしながら(むね)(まえ)(うで)()みます。


「ま、まぁ? (ぼく)すっごく(かしこ)いし? 解読(かいどく)くらい朝飯(あさめし)(まえ)だけど?」


「さすがショースケさん、期待(きたい)してますね! ではタカヤさん、(わたし)たちはキッチンの(ほう)()きましょうか」



****



「タカヤさん、そこに()いてあるピンク(いろ)液体(えきたい)()っていただけますか?」


「これですね、どうぞ。ルルさん、(たの)まれていたオーリョの(くき)のみじん()()わりました」


 ルルとタカヤは着々(ちゃくちゃく)と、レシピ(ぼん)解読(かいどく)()んでいるところまで料理(りょうり)(すす)めていきます。


本当(ほんとう)、タカヤさんが()てくださって(たす)かりました。ライトさんもショースケさんも頑張(がんば)ってくださったんですけれど……その、あの調子(ちょうし)でしたから如何(いかん)せん作業(さぎょう)(すす)まなくて」


 (ちい)さくふぅっと(いき)()らすルルの(となり)で、タカヤはあははと苦笑(にがわら)いしながら(つぎ)工程(こうてい)(はい)ります。


「えーっと、出来上(できあ)がったポノムとレガフルを(なべ)()れてフヨルキギュする……。えーっと…?」


 (くび)(ふか)(かし)げるタカヤの(あたま)(なか)(はてな)マークでいっぱいです。


「タカヤさん、ポノムは(さき)ほど(つく)ったこのピンク(いろ)()(もの)のことです。レガフルはここに()いてある(あお)(くさ)と、タカヤさんが(きざ)んでくださったオーリョの(くき)()ぜたもの。フヨルキギュは……(なん)でしょう? (わたし)にもわかりません」


 ルルは(おく)本棚(ほんだな)から(ふる)びてボロボロのプニプヨ(せい)辞典(じてん)()って()(ひら)きます。


「あ、ありました! フヨルキギュは……プニプヨ(せい)生息(せいそく)するET(いーてぃー)、ニュムニュムに変身(へんしん)してその背中(せなか)(はね)鱗粉(りんぷん)をできるだけたくさん()りかけること……だそうです」


「へ、変身(へんしん)ですか……」


 タカヤは(まゆ)をしょぼんと()げて(こま)ってしまいました。


「メグも地球(ちきゅう)(じん)変身(へんしん)していますし、プニプヨ星人(せいじん)変身(へんしん)得意(とくい)ですからそういう調理法(ちょうりほう)もあるんですね…しかし、(こま)りましたね。(わたし)たちは変身(へんしん)出来(でき)ませんし」


 ルルも口元(くちもと)()()ててしばらく(かんが)()んでから……あっ! と(たか)(こえ)()げました。


「ニュムニュムと()えば、先日(せんじつ)この(いえ)()まれて本部(ほんぶ)へと(おく)(かえ)したET(いーてぃー)ですよね? それならライトさんの実験室(じっけんしつ)にその鱗粉(りんぷん)保存(ほぞん)されているかもしれません。ライトさんはニュムニュムの(からだ)検査(けんさ)していらっしゃいましたし」


「なるほど……! 変身(へんしん)しなくても本物(ほんもの)()れることが出来(でき)れば(さき)工程(こうてい)(すす)めますね!」


「はい! ではタカヤさん、ライトさんの実験室(じっけんしつ)(たず)ねてニュムニュムの鱗粉(りんぷん)があるかどうか確認(かくにん)して()ていただけますか? (わたし)(すこ)しメグの様子(ようす)()てきますね」


「わかりました!」



****



 タカヤが実験室(じっけんしつ)(とびら)をノックして……返事(へんじ)()いのでゆっくり(ひら)くと、(なか)ではショースケとライトがまたもや()()いをしています。


「だーかーら! この文字(もじ)のこの部分(ぶぶん)絶対(ぜったい)横棒(よこぼう)だって! ライトさんはもっと柔軟(じゅうなん)(かんが)えないと!」


「いーや! これは(なな)めの部分(ぶぶん)(くず)して()かれているだけだ、それならこの文章(ぶんしょう)意味(いみ)(とお)るだろ⁉」


「あのー……二人(ふたり)とも?」


 その(こえ)で、やっと二人(ふたり)はタカヤがいることに()がついたようです。


「タカヤ(くん)ごめんね、()がつかなかった。どうしたの?」


(じつ)はニュムニュムの鱗粉(りんぷん)必要(ひつよう)で……ライトさん()ってませんか?」


「ああ、この(あいだ)採取(さいしゅ)したから()ってるよ。(いま)()すからちょっと()ってて」


 ライトは(おく)(たな)(ひら)いて鱗粉(りんぷん)(はい)った(びん)(さが)(はじ)めました。



「タカヤ、料理(りょうり)(すす)具合(ぐあい)はどう?」


「かなり順調(じゅんちょう)(すす)んでるよ。解読(かいどく)はどうだ? ショースケ」


「いやー……これがかなり大変(たいへん)で。ミミズみたいなむっにょむにょの文字(もじ)()かれてるから全然(ぜんぜん)()めなくてさー、この実験室(じっけんしつ)にあったプニプヨ(せい)辞書(じしょ)()らし()わせながら頑張(がんば)ってるところだよ」


 ショースケはライトが日頃(ひごろ)使(つか)っているキャスターの()いたふかふかのデスクチェアにドカリと腰掛(こしか)けて、その()でくるくると(まわ)ります。


「あ、この(つくえ)(うえ)解読(かいどく)出来(でき)たところまでのレシピ()いておいたよ」


「ありがとう……あれ?」


 レシピの(となり)には(あつ)(じゅっ)センチはあると(おも)われるポスエッグの説明書(せつめいしょ)が、(おも)そうな文鎮(ぶんちん)(ひら)きっぱなしにされています。


 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になってポスエッグを()()るのと同時(どうじ)に、この説明書(せつめいしょ)(くば)られるのですが……(ちい)さな文字(もじ)(ぜん)ページに(わた)ってびーっしり()かれたそれを最後(さいご)まで()んだという隊員(たいいん)は、タカヤを(ふく)めてもごく少数(しょうすう)でしょう。


 しかしよく()てみると……ライトの(つくえ)(うえ)(ひら)かれたそれには、(あか)いペンでたくさんの修正(しゅうせい)(ほどこ)されています。


「おまたせ。これがニュムニュムの鱗粉(りんぷん)だよ……ってああ、それ?」


 ライトは(びん)(ひと)()って(もど)ってくると、分厚(ぶあつ)説明書(せつめいしょ)()をやります。


今度(こんど)改訂(かいてい)しようと(おも)って。()(しょう)収納(しゅうのう)機能(きのう)説明(せつめい)、もっと(くわ)しくしようと(おも)ってるんだ。(となり)()いてあるのがその原稿(げんこう)だよ」


 ……(たし)かに(となり)には(おそ)ろしい(たか)さの(かみ)(たば)()()がっています。


「ま、まさかこの説明書(せつめいしょ)……ライトさんが()いたの?」


「そうだよ。(ぼく)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になった(ころ)はまだポスエッグの説明書(せつめいしょ)って()くて……あったらきっと便利(べんり)だろうと(おも)って頑張(がんば)って(つく)ったんだ。ショースケ(くん)ももちろん()んでくれたよね?」


「えーっと……」


 まさか開始(かいし)()ページでやめたとは()えません。


「そ、それよりさぁ! レシピ(ぼん)解読(かいどく)(すす)めなきゃだよね! さっきのこの文字(もじ)、やっぱりライトさんの解釈(かいしゃく)()ってるんじゃないかなぁー?」


「お、ショースケ(くん)もそう(おも)ってくれる? じゃあ(つづ)きの解読(かいどく)(うつ)ろうか、あと(すこ)しだし頑張(がんば)ろう!」


 ……タカヤは鱗粉(りんぷん)(はい)った(びん)()()ると、(とびら)(まえ)(ふか)くお辞儀(じぎ)をして実験室(じっけんしつ)(あと)にしました。



****



「おかえりなさい、タカヤさん」


「ただいま(もど)りましたルルさん。メグさんの様子(ようす)如何(いかが)でしたか?」


 そう()かれると、ルルはしょんぼりと()()せます。


「メグはとっても具合(ぐあい)(わる)いようで……ET(いーてぃー)姿(すがた)ですっかりしおれてしまって、(しゃべ)ることもしんどいみたいです。(はや)くお料理(りょうり)(つく)ってあげないと」


「それは大変(たいへん)ですね! (いそ)ぎましょう」


 タカヤがもらって()たニュムニュムの鱗粉(りんぷん)(なべ)()れようとしたところで……ルルは(すこ)()いにくそうに(くち)(ひら)きました。


「その、タカヤさん? (わたし)さきほどこの辞典(じてん)()ていて(おも)ったのですけれど……」


 ルルはプニプヨ(せい)辞典(じてん)(ひら)いて、『変身(へんしん)』という項目(こうもく)()せます。


「どうやらプニプヨ星人(せいじん)変身(へんしん)表面(ひょうめん)(てき)()()のみ、らしくて……つまりメグも地球(ちきゅう)(じん)変身(へんしん)してはいるものの、内側(うちがわ)はプニプヨ星人(せいじん)のまま()わっていないそうなんです」


「と、いうことは……?」


「その……()()だけニュムニュムに変身(へんしん)しても、中身(なかみ)はプニプヨ星人(せいじん)のままなのですから……レシピに()かれている鱗粉(りんぷん)とは、プニプヨ星人(せいじん)(からだ)一部(いちぶ)のことなのでは……?」


 ……キッチンは数秒(すうびょう)沈黙(ちんもく)(つつ)まれて……、(さき)にルルが(くち)(ひら)きました。


「……きっと勘違(かんちが)いですね! もしそうなら(わたし)たちは、(ねむ)っているメグの触手(しょくしゅ)一本(いっぽん)切断(せつだん)させてもらわないといけなくなってしまいますから。えーっと(たし)かこれは……出来(でき)るだけたくさん()れるんでしたね!」


 そう()ってふわりと(わら)うと、ルルは(なべ)(なか)にタカヤがもらって()たニュムニュムの鱗粉(りんぷん)全部(ぜんぶ)投入(とうにゅう)しました。


 (なべ)(なか)はその途端(とたん)に、ギラギラと(かがや)くドブのような(いろ)()わります。


「こ、これ……()べられるんでしょうか」


 (なん)とも()えない異臭(いしゅう)()ちこめるキッチンで、タカヤは不安(ふあん)そうにルルを()つめました。


「……プニプヨ星人(せいじん)味覚(みかく)地球(ちきゅう)(じん)とは(ちが)うでしょうから大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。ええ、きっとそうに()まってます」


 ルルはいつものやわらかい笑顔(えがお)とは()って()わって、(みょう)真剣(しんけん)面持(おもも)ちで(なべ)にガチャンと(ふた)をします。


「さ、さて! これから(さん)十分(じゅっぷん)煮込(にこ)みの時間(じかん)ですね……そうだタカヤさん、この辞典(じてん)興味深(きょうみぶか)いことが()いてあったんですよ!」


 (なべ)(なか)出来上(できあ)がりつつある現実(げんじつ)をあまり直視(ちょくし)したくないのか、ルルは(ふる)いプニプヨ(せい)辞典(じてん)視線(しせん)(うつ)しました。


「タカヤさんはトリスタル伝説(でんせつ)ってご(ぞん)じですか?」


「……はい、()いたことはありますよ。それがどうかしましたか?」


「その(むかし)惑星(わくせい)トリスタルという(ほし)()んでいたと()われるトリスタル星人(せいじん)は、それはそれはすごい変身能力(へんしんのうりょく)()っていたそうです。地球人(ちきゅうじん)で例えると……細胞(さいぼう)(ひと)(ひと)つまで変身(へんしん)させることが出来(でき)て、本当(ほんとう)にその生物(せいぶつ)そのものになれたらしいですよ。ふふ……案外(あんがい)(ちか)くにいらっしゃるかもしれませんね」


 ボゴボゴと(あや)しい(おと)()てる(なべ)極力(きょくりょく)視界(しかい)()れないように、明後日(あさって)方向(ほうこう)()きながらルルは(わら)います。


「……あはは、ルルさんは面白(おもしろ)いことを(おっしゃ)いますね」



****



解読(かいどく)できたよー! ……って(なに)この(にお)い!」


 ショースケはキッチンに(つな)がるリビングに(はい)って、開口(かいこう)一番(いちばん)(さけ)びました。


 (あと)から(はい)ってきたライトもぎゅっと(まゆ)をしかめます。


「お(つか)(さま)でした、ライトさん、ショースケさん。料理(りょうり)(ほう)は……この(とお)り、とっても順調(じゅんちょう)ですよ!」


 ルルがわざとらしいほどニコニコと(わら)うので、タカヤも(となり)()きつった笑顔(えがお)()かべるしかありません。


順調(じゅんちょう)、なの……これ?」


 ショースケは(ふた)(すこ)()けて(なべ)(なか)確認(かくにん)しました。


 煮込(にこ)んだことによってドロドロになったそれはもはや(たと)えの言葉(ことば)すら()かばない、()まれて(はじ)めて()物体(ぶったい)です。


「……えーっと……それでですねルルさん」


 ライトは(なべ)(なか)物体(ぶったい)からすっと()(そむ)けて、解読(かいどく)したレシピ(ぼん)のメモを()()しました。


「どうもこの料理(りょうり)は、プニプヨ(せい)ではお(まつ)りのときに大人数(おおにんずう)(つく)られていたらしくて。その……最後(さいご)調理(ちょうり)行程(こうてい)がですね……」


 (かお)(あか)くしながら、ライトは(ふた)(せき)(ばら)いをして……(いき)()ってから(こえ)()しました。


料理(りょうり)(はい)った(なべ)中心(ちゅうしん)()いて、その周囲(しゅうい)()になってみんなで(おど)りまくる……というものだそうです」


「……はい?」


 あまりに予想外(よそうがい)言葉(ことば)に、ルルは笑顔(えがお)()()けたまま(くび)(かし)げます。


「いや、(ぼく)だって(しん)じたくなかったですよ! でもどうやらプニプヨ星人(せいじん)(おど)りが()きな陽気(ようき)種族(しゅぞく)らしくて……解読(かいどく)したらそう()いてあったんですもん……」


 ライトはリビングテーブルに()えられた木製(もくせい)長椅子(ながいす)腰掛(こしか)けて、(あたま)(かか)えて項垂(うなだ)れました。


「と、いうわけなんだよ。タカヤ」


 ショースケはタカヤの右手首(みぎてくび)をぎゅっと(つか)んで、ずずいっと()()ります。


「タカヤも(おど)ってくれるよね?」


「え、えええと……わかった、わかったから……」


 (みみ)まで()()にして()(うる)ませながらも、タカヤは(ことわ)ることが出来(でき)ない性分(しょうぶん)なので(くび)(たて)()りました。



****



 テーブルや椅子(いす)(すこ)(はな)れたところへ移動(いどう)させて、(ふた)をしても(なお)(あや)しい(にお)いを(はな)(なべ)をリビングの中心(ちゅうしん)()いて…準備(じゅんび)完了(かんりょう)です。


「あ、そうだ……」


 ライトは(うつ)ろな()(はん)(わら)いを()かべながら、ポケットの(なか)から(ちい)さな機械(きかい)()()しました。


「プニプヨ(せい)(まつ)りで(うた)われている(うた)があるらしくて……一応(いちおう)それも準備(じゅんび)して()たよ……」


 機械(きかい)のスイッチを()すと、にゃろにゃろと()いたことの()音楽(おんがく)(なが)(はじ)めます。


 ……どうやら歌詞(かし)は『にゃろにゃろ』だけのようです。


「なんだろうこの……中途(ちゅうと)半端(はんぱ)()れないリズムは……」


 ショースケがゆらゆらと()れながら(おど)りを模索(もさく)していると、ライトは覚悟(かくご)()めたのか両手(りょうて)でパンッと自分(じぶん)(ほお)(たた)いて()見開(みひら)きました。


「とやかく()ってても仕方(しかた)()い! もうヤケだ(はじ)めるぞ‼」




 各々(おのおの)自由(じゆう)(おど)(はじ)めて()(ふん)(なべ)にまだ変化(へんか)()られません。


「うう……もう(つか)れてきた……それにしてもルルさん(おど)上手(じょうず)だね」


 片足(かたあし)()ったままくるくる(まわ)っているルルの(ほう)へ、ショースケは視線(しせん)()けます。


(わたし)博士(はかせ)(つく)った最高(さいこう)傑作(けっさく)ですから、(おど)りも多少(たしょう)出来(でき)るように(つく)られているんですよ。ええと……ライトさんは……」


(なん)ですかルルさん」


 とにかく必死(ひっし)にぎこちなく(からだ)(うご)かしているライトは、()ずかしさのあまり(にら)むようにルルを()ました。


「いえ……独創(どくそう)(てき)(うご)きでとっても可愛(かわい)……素敵(すてき)です! 是非(ぜひ)動画(どうが)保存(ほぞん)させていただきたいんですけれど!」


 ルルは興奮(こうふん)(かく)()れず、()をキラキラ(かがや)かせてねだりますが……


(たの)むから勘弁(かんべん)してください!」


 もちろん(いち)(びょう)()たずに(ことわ)られてしまいました。




 ……(おど)(はじ)めて十分(じゅっぷん)(なべ)(なか)から(なに)やらプツプツと(ちい)さな(おと)()こえ(はじ)めました。


「あ! (おと)()こえる……よかった、ちゃんと(おど)ってる意味(いみ)あったんだ……!」


 タカヤは(りょう)(うで)頭上(ずじょう)()らしながら、(うれ)しそうに(あし)でピコピコとリズムを()りました。


本当(ほんとう)だよ。これで(なに)()こらなかったら(ぼく)たち、ただ()になって(おど)ってる愉快(ゆかい)集団(しゅうだん)だもんね」


 ショースケはその(へん)にあったタオルを()(まわ)しつつ(こし)()っています。



 その(とき)突然(とつぜん)(なべ)からボコボコと(おと)がして、()(のぼ)った(おお)きな(あわ)(なべ)(ふた)()()ばしたかと(おも)うと……(なべ)中身(なかみ)(まぶ)しい虹色(にじいろ)(ひかり)(はな)ちました!


「わわわ! なになに⁉」


 タオルを両手(りょうて)()って、ショースケは(おも)わず()(おお)います。


「この(ひかり)は……! 料理(りょうり)完成(かんせい)したんだ!」


 ライトがゼーゼーと(いき)()きながら、(うれ)しそうに(こえ)()げました。


「え、やったー! どれどれ、(なに)虹色(にじいろ)(ひか)ってたし……美味(おい)しそうにできたかなー?」


 ショースケを先頭(せんとう)に、()(にん)はわくわくと(なべ)(なか)(のぞ)()んで……一斉(いっせい)表情(ひょうじょう)(くも)らせました。


 だってそこにあったのは…ギラギラと(まぶ)しく(かがや)きながら異臭(いしゅう)(はな)つ、ドブ(いろ)のドロドロだったからです。


「……どうやら(おど)ったところで、()()変化(へんか)()いみたいですね。さ、さて!」


 ルルはお(たま)使(つか)って、(おお)きな深皿(ふかざら)(なべ)中身(なかみ)(のこ)さず(すく)()りました。


「あとはこれをメグに()べてもらうだけですね! それでは部屋(へや)()って()って()ます!」


 ルルはパタパタと階段(かいだん)()がっていきました。



 ……ライトとタカヤとショースケも、ルルに(つづ)いて階段(かいだん)(のぼ)(すこ)(はな)れたところから様子(ようす)(うかが)います。


「メグ、()きられますか? 脱皮(だっぴ)円滑(えんかつ)にするという料理(りょうり)(つく)ってきましたよ」


「……あノ、ルル……?」


「はい?」


「ワタシの()っている料理(りょうり)随分(ずいぶん)()()(ちが)うのですガ……」


()にしないでください、大事(だいじ)なのは()()です。さあ、あーんして」


「あノ……」


「あーんしてください」



 ……言葉(ことば)にならないメグの悲鳴(ひめい)(ひび)きます。


「え、えーと……(ぼく)(しょう)(ぞう)おじさんから(なに)連絡(れんらく)(はい)ってたから、それを確認(かくにん)して()ようかなー……」


「そ、そうだタカヤ! (あたら)しく()せたい発明品(はつめいひん)があるんだ、(ぼく)部屋(へや)()()てよ!」


 (さん)(にん)はそれぞれ、その()(はな)れて()きました……。



****



 (から)になった深皿(ふかざら)()って、ルルは(いっ)(かい)のリビングに(もど)ってきました。


「あら? ライトさん、ここでコーヒーブレイクなんて(めずら)しいですね。いつもは実験室(じっけんしつ)()()がっていらっしゃるのに」


「ちょっとルルさんにお(はな)したいことがあって。そうだ、その……メグさんは大丈夫(だいじょうぶ)でしたか?」


 湯気(ゆげ)()(のぼ)るコーヒーカップを片手(かたて)に、ライトは(すこ)不安(ふあん)そうに(たず)ねます。


「そのことなんですが、(なん)とあの料理(りょうり)()べてすぐにメグの(からだ)(しろ)っぽくなって、するすると(かわ)()(はじ)めたんです! プニプヨ(せい)()べていた料理(りょうり)でもここまでの効果(こうか)()かったって、メグもとっても(おどろ)いていました!」


 ルルは(うれ)しそうにライトの(となり)(すわ)りながら、まあ……と言葉(ことば)()()します。


(あじ)(いま)まで()べたものの(なか)で、(くら)べようもないくらい一番(いちばん)不味(まず)かったそうですが」


「な、なるほど……とにかく、メグさんの体調(たいちょう)(すこ)しでも()くなったみたいでなによりです」


「はい、顔色(かおいろ)()くなって安心(あんしん)しました! それでライトさん、(わたし)()かせたいお(はなし)とは(なん)でしょう?」


 ルルはライトの(かお)(のぞ)()みます。


「そうなんです! (じつ)は……」


 ライトはコーヒーカップをソーサーの(うえ)()いて、表情(ひょうじょう)をぱぁっと(かがや)かせました。


(しょう)(ぞう)おじさんから連絡(れんらく)があって……! コスモピースに(かん)する()がかりが()つかったそうなんです!」


 ()きそうに目元(めもと)(ゆが)めながら、くしゃりと(わら)ってライトは(つづ)けます。


「やっと……、やっと、タカヤ(くん)をコスモピースから解放(かいほう)してあげられるかもしれないんです……! だから(うれ)しくて」


「……ライトさんは、そのために()()()しんでたくさん頑張(がんば)って()られましたもんね。(わたし)(うれ)しいです」


頑張(がんば)るのは当然(とうぜん)です。だって……タカヤ(くん)(ぼく)所為(せい)で、コスモピースに翻弄(ほんろう)されることになったんですから……。あの()(もと)(からだ)(もど)すためなら(ぼく)(なん)でもします」


 ライトはそのまま、まだ(あつ)(のこ)りのコーヒーを一気(いっき)()()しました。


「そうだ、タカヤ(くん)(かえ)(まえ)にコスモピースの検査(けんさ)をさせてもらわないと。すみませんルルさん、ちょっと準備(じゅんび)をして()ますね」


 ライトが口元(くちもと)(ゆる)ませたままリビングを()()くのを、ルルは(しあわ)せそうに見送(みおく)りました。




 ……階段(かいだん)(うえ)でその会話(かいわ)()(みみ)()てていたタカヤは、その()(ちい)さくため(いき)()いてからショースケの部屋(へや)へと(もど)って()きました。


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