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第十二話 本部の騒ぎは大増殖中⁉

****


「オヨヨー? ナンダカ スゴク ネテタ キガスルー!」


 (しょう)(ぞう)研究室(けんきゅうしつ)(つくえ)(うえ)で、ツバサはバタバタ(よん)(ほん)(あし)(うご)かしました。


「うむ、これでメンテナンスは完了(かんりょう)じゃな」


 (しょう)(ぞう)はツバサを()きかかえると、タカヤにほいっと手渡(てわた)します。


「おかえりツバサ」


「ヨク ワカンナイ ケド、タダイマ タカヤー! スキスキ」


 タカヤの(うで)(なか)でツバサが(しあわ)せそうに(からだ)をよじるのを、(しょう)(ぞう)はほっとした様子(ようす)()つめました。


無事(ぶじ)部品(ぶひん)交換(こうかん)出来(でき)てよかったわい。タカヤとショースケが必要(ひつよう)材料(ざいりょう)()ってきてくれたおかげじゃな」


「エ! ソウナノー? アリガトー タカヤ! ……ショースケ」


「なんで(ぼく)だけ小声(こごえ)なの」


 (そば)にいたショースケはじとりとツバサをにらんだ(あと)、ふと(なに)かを(さが)すように(あた)りをキョロキョロ見回(みまわ)します。


「そういえば……スイとティナは? さっきまでいたのに」


 不思議(ふしぎ)そうに(くび)(かし)げるショースケの(まる)(あたま)を、(しょう)(ぞう)はカカカと(わら)いながらぐりぐり()(まわ)しました。


二人(ふたり)なら(そと)仕事(しごと)()っとるよ。ワシはもう(すこ)(やす)んでからの(ほう)がいいんじゃないかと()うたんじゃが……どうにも()けたくない相手(あいて)がおるらしい。はて、(だれ)(だれ)のことじゃろうなぁ」


 (しょう)(ぞう)はとぼけて両手(りょうて)(ひろ)げます。


 それを()いたショースケは、()でられてぼさぼさになった(かみ)(ととの)えながら、(うれ)しそうににやりと(わら)いました。


「ふーん、そうなんだー……(ぼく)らも()けてられないね、タカヤ!」


「あ、ああ。そうだな」


 (あま)えん(ぼう)なツバサに触覚(しょっかく)でほっぺたをムニムニ()まれながら、タカヤはなんとか返事(へんじ)します。


「おお、そうじゃったタカヤ。今回(こんかい)、ツバサに使(つか)っておるエネルギーの(かたまり)をワシが開発(かいはつ)した最新式(さいしんしき)()()えておいたぞ」


 (しょう)(ぞう)()う「エネルギーの(かたまり)」とは、地球(ちきゅう)()電池(でんち)のようなものです。


 このエネルギーの(かたまり)使(つか)うことによって、ツバサは自由(じゆう)(うご)くことが出来(でき)るのです。


「ふふふ……今度(こんど)のエネルギーの(かたまり)には(あたら)しく、(ちょう)(はげ)しく発熱(はつねつ)できる機能(きのう)をつけたんじゃ! やろうと(おも)えばツバサの背中(せなか)目玉焼(めだまや)きが一瞬(いっしゅん)()けるようになったぞ。面白(おもしろ)いじゃろー、でも(つよ)(ちから)じゃから使(つか)いすぎには注意(ちゅうい)するんじゃぞ」


「オオ! スゴーイ! タカヤ、ボクノ セナカデ リョウリ スル?」


「いや……台所(だいどころ)でするからいいかな」


 (うれ)しそうにおしりをぷりぷり()るツバサを()でながら、タカヤは(こま)ったように(わら)います。


 (はなし)()いていたショースケは、(あき)れて(ふか)いため(いき)()きました。


「じーちゃん、いつも使(つか)いどころに(こま)機能(きのう)()けたがるよね……」


「だってぇー! (へん)機能(きのう)()けないと面白(おもしろ)くないんじゃもん! 仕事(しごと)(たの)まれる発明(はつめい)全部(ぜんぶ)真面目(まじめ)でつまらんしー」


 たっぷり()まった書類(しょるい)(やま)(まえ)で、(しょう)(ぞう)()どものようにジタバタ駄々(だだ)をこねました。


(まった)くもう、じーちゃんって天才(てんさい)だけど本当(ほんとう)(こま)ったさんだよね。そんなんじゃ(ぼく)がさっさと特級(とっきゅう)になって、じーちゃんのお仕事(しごと)()っちゃうよ?」


 自信(じしん)満々(まんまん)人差(ひとさ)(ゆび)()てながらショースケは(つづ)けます。


「ふふん、(ぼく)めきめきと発明(はつめい)(うで)()げてるんだから、すぐに()いついちゃうんだからね!」


「ワシ仕事(しごと)したくないもーん。さっさと()いついて、ワシの仕事(しごと)()わりにやっとくれショースケ」


 (しょう)(ぞう)現実(げんじつ)から()(そむ)けるように、書類(しょるい)(やま)反対(はんたい)方向(ほうこう)()いてある椅子(いす)にどっかりと(すわ)って(おお)きなあくびを(ひと)つしました。


「ふわぁ……。ところで、二人(ふたり)はこれからどっかへ()かけるんか?」


「あ、はい! (にい)ちゃんとエイギスさんの仕事(しごと)()見学(けんがく)()こうと(おも)います」


 ツバサにまたもやほっぺたを()まれているタカヤが(こた)えると、ショースケは()ってましたと()わんばかりにキラキラと()(かがや)かせます。


「そうなの! (まえ)見学(けんがく)できなかったから今度(こんど)こそ是非(ぜひ)って(こえ)をかけてくれたんだー!」


 ()ちに()った宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)のお仕事(しごと)見学(けんがく)に、ショースケはウキウキとその()小躍(こおど)りを(はじ)めました。


「やっぱり(あこが)れるよねー本部(ほんぶ)でのお仕事(しごと)! もしかして(ぼく)、『(きみ)はとっても優秀(ゆうしゅう)だから是非(ぜひ)うちに()てくれ』なーんてスカウトされちゃったりして! うひゃー、そのときはごめんねタカヤ!」


 ハッピーな妄想(もうそう)()まらないショースケをタカヤと(しょう)(ぞう)(あたた)かく見守(みまも)りますが、反対(はんたい)にツバサの視線(しせん)はとっても()ややかです。


「ショースケ アタマ オハナバタケ」


「こらツバサ、そういうこと()わない」


「オット。クチガ スベッタ」


 タカヤに(つよ)めに()きしめられて、ツバサは触覚(しょっかく)自分(じぶん)(くち)(ふさ)ぎました。


 しかしいつもは()()てならないそんな言葉(ことば)(なが)せるほど、(いま)のショースケは上機嫌(じょうきげん)です。


「えへへー。そろそろ約束(やくそく)時間(じかん)じゃない? ほらタカヤもツバサも()くよ! あ、じーちゃん、スイとティナによろしく(つた)えといて!」


 タカヤの背中(せなか)をぐいぐい()しながら、ショースケは出口(でぐち)()かいます。


「お、()さなくてもちゃんと()くよ。じゃあ(しょう)(ぞう)さん、()ってきますね。(おれ)からもよろしくお(つた)えください」


「おー、()ってこい()ってこい。さて、ワシはちょっくら昼寝(ひるね)でもするかのぉ……」



****



 透明(とうめい)なチューブ(じょう)のエレベーターに()って、ショースケとタカヤとツバサは宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)()(かい)へやってきました。


 いつもながら廊下(ろうか)(とびら)もどこもかしこも()(しろ)で、(すこ)()がチカチカするほどです。


「あ! いたいた。タカヤ、ショースケくん!」


 二人(ふたり)()つけて(とお)くから()()って(はし)ってくるのは、この宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)では(めずら)しい地球(ちきゅう)(じん)、タカヤの(あに)のヒカルです。


(にい)ちゃん! (むか)えに()てくれたん……だっ⁉」


 (なに)()廊下(ろうか)のど()(なか)でヒカルが見事(みごと)にすっ(ころ)んだので、タカヤは(いそ)いで()()りました。


(にい)ちゃん大丈夫(だいじょうぶ)⁉」


「あはは……大丈夫(だいじょうぶ)……。うぅ、(おれ)っていつもこんなだなぁ……」


 へにょりと(まゆ)()げて、ヒカルはその()(すわ)ったままガクリとうなだれます。


「マッタクー ヒカル カワッテナイネ」


 タカヤの(うで)(なか)から、ツバサがぴょんっと()()してヒカルの(ひざ)(うえ)(からだ)をのせました。


「え……わ、ツバサだ! (ひさ)しぶり!」


「ヒサシブリ ジャ ナイヨ。 ヒカル ゼンゼン カエッテ コナイ カラ タカヤ ガ サビシイ ジャン」


 ツバサは三本(さんぼん)触覚(しょっかく)をぶんぶん()(まわ)して、ヒカルの(むね)をペチペチ(たた)きます。


「あたたた……ごめん、(おれ)要領(ようりょう)(わる)くて仕事(しごと)(おそ)いから全然(ぜんぜん)(かえ)れなくて。時間(じかん)(なが)れも地球(ちきゅう)とは(ちが)うから(むずか)しいし……。で、でも! 今度(こんど)こそ絶対(ぜったい)(かえ)るからさ!」


「ソウイウノ モウ ナンカイメ?」


「う……ごめんなさい……」


「ま、まあまあ! ツバサもいるし、(おれ)一人(ひとり)大丈夫(だいじょうぶ)だから! それに……」


 タカヤは(かが)んで、しょんぼりうつむくヒカルの(かお)(のぞ)()みました。


(おれ)はお仕事(しごと)頑張(がんば)ってる(にい)ちゃんのこと、すごくかっこいいと(おも)ってるよ」


「タ、タカヤぁ……ありがとう!」


 ヒカルはぐずぐず(なみだ)ぐみながらタカヤに()きつきます。


「うぅ……あんなに(あま)えん(ぼう)だったのにいつのまにかこんなに立派(りっぱ)になって……(にい)ちゃんは(うれ)しいよぉ……!」


 その様子(ようす)を、廊下(ろうか)(とお)本部(ほんぶ)職員(しょくいん)ET(いーてぃー)たちは何事(なにごと)かとチラチラ()ながら(とお)()ぎて()きます。


「ちょっとヒカルさん、()られてるから! (まった)く、これじゃどっちがお(にい)さんかわかんないよ」


 ショースケがヒカルの(うで)()()って()たせていると……


「うふふ……もう、こんなところで(なに)してるの?」


「あ、エイギスさん! ()ての(とお)りだよ、ヒカルさんがまた()いてるの」


 金属(きんぞく)がコツコツ()たるような足音(あしおと)()らして(あらわ)れたエイギスは、()メートル以上(いじょう)ある(なが)(からだ)ぐっと()げて、自分(じぶん)(ひも)のように(ほそ)(うで)でヒカルの(なみだ)(ぬぐ)ってあげました。


「もう、()かないの。二人(ふたり)()るから()いところ()せるんだーって、あんなに準備(じゅんび)して()()ってたじゃない。ほら、ワタシたちの仕事(しごと)見学(けんがく)してもらうんでしょ?」


「あ……そうだ、そうだった!」


 ヒカルは目元(めもと)をぐいっと(ぬぐ)って()()がり、(ひざ)についていた(よご)れを(はら)います。


「ごめんごめん……(あらた)めて、(おれ)たちの仕事(しごと)()へようこそ! どこから案内(あんない)しようかな。(きず)ついたET(いーてぃー)たちを保護(ほご)してるあの部屋(へや)がいいかな。それとも貴重(きちょう)資料(しりょう)がたくさん(あつ)まってるあの部屋(へや)が……」


 ポケットからびっしり()かれたメモを()()して、ヒカルがウキウキと(かんが)えを(めぐ)らせていると……



 廊下(ろうか)(じゅう)(だい)音量(おんりょう)でアナウンスが(ひび)きました。


至急(しきゅう)至急(しきゅう)()()いている隊員(たいいん)強制(きょうせい)転送室(てんそうしつ)(あつ)まってください。()(かえ)します……」


 (ちか)くを(ある)いていた宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)たちは(みんな)(あわ)てた様子(ようす)(ひと)つの方向(ほうこう)へと()かっていきます。


「えぇ⁉ うう、これからって(とき)に……」


 ヒカルはしょんぼりと、メモをポケットに(もど)しました。


強制(きょうせい)転送(てんそう)(しつ)ってことは……(なに)危険(きけん)なものが(おく)られてくるのかも。仕方(しかた)がないわ、二人(ふたり)案内(あんない)するのは後回(あとまわ)しね。ワタシたちも(いそ)ぎましょう、ヒカル」


「わかったよエイギス……。そうだ、タカヤとショースケくんも一緒(いっしょ)()てくれないかな? 隊員(たいいん)って()ったから多分(たぶん)本部(ほんぶ)職員(しょくいん)じゃなくても大丈夫(だいじょうぶ)だし、おそらく人数(にんずう)がいる仕事(しごと)だと(おも)うから!」


 そう()(のこ)して二人(ふたり)(はし)()します。



(おれ)たちも(いそ)いで()くぞ、ショースケ」


 タカヤはツバサを()()げながら(こえ)をかけました。


「えーっと……(ぼく)たちここで()ってない?」


「どうしたんだ? いつもはすぐに()きたがるのに」


「……だって危険(きけん)なものかもって、エイギスさんが()ってたし…」


 先日(せんじつ)(あぶ)ない()にあった経験(けいけん)が、ショースケは結構(けっこう)なトラウマになっているようです。


大丈夫(だいじょうぶ)(なに)かあったら(おれ)がショースケを(まも)るから」


「でもでもでもぉ……」


 ()()りがつかないショースケは、なかなかその()(うご)こうとしません。


 ()かねたツバサがタカヤの(うで)(なか)からぐぐっと()()()して、触覚(しょっかく)でペチペチとショースケの(あたま)(たた)きます。


「ショースケ! シッカリ シナサイ! トッキュウ ウチュウケイサツ ニ ナルンデショ! ボク モ イッショ ニ イッテアゲル カラ」


「わ、わかった()くよ……うう、出来(でき)るだけ(こわ)いのじゃありませんように……」



****



 (ひろ)(ひろ)強制(きょうせい)転送(てんそう)(しつ)には、(かぞ)()れないほどの宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)たちが(あつ)まっていました。


 部屋(へや)()(なか)には(おお)きなワープ装置(そうち)()()けられていて、その中心(ちゅうしん)では虹色(にじいろ)のブラックホールのような(うず)次第(しだい)(おお)きくなっていきます。


「いたいた。ショースケくん、タカヤ、ツバサ」


 (さき)到着(とうちゃく)していたヒカルとエイギスが、手招(てまね)きしてショースケたちを部屋(へや)(おく)()びました。


「ここにある()()を、とにかくいっぱい()っておいて。ポスエッグにも(はい)るだけ収納(しゅうのう)しておくといいよ」


(なに)これ……()(もの)?」


 ヒカルが(ゆび)さした(さき)天井(てんじょう)(とど)くほど山積(やまづ)みになっているのは、片手(かたて)(おさ)まるくらいの(おお)きさで円柱(えんちゅう)(がた)の、しっかり(ふた)()まる透明(とうめい)なケースでした。


 一体(いったい)(なに)使(つか)うのかよくわからないまま、ショースケはそれをエッグロケットの(なか)へたくさん(ほう)()んでいきます。


「これが(わた)されるってことは、強制(きょうせい)転送(てんそう)(おく)られてくるのはもしかして……」


「え、タカヤわかったの? (ぼく)にも(おし)え」


 ショースケがそこまで(しゃべ)ったところで、ワープ装置(そうち)虹色(にじいろ)(うず)がバチバチと(おと)()てて(ひか)(はじ)めました。


「ニッカルコピ(せい)からの強制(きょうせい)転送(てんそう)開始(かいし)放出(ほうしゅつ)します」


 アナウンスが()こえて、(おどろ)いたショースケが一度(いちど)だけまばたきをして()(ひら)いた(とき)には……


 視界(しかい)一面(いちめん)(なん)(じゅう)、いや何百(なんびゃく)? それすらわからないほど無数(むすう)のクリーム(いろ)のおまんじゅうのようなET(いーてぃー)(あらわ)れていました。


「わわわ⁉ こ、これってもしかして……」


「チュマウンよ! ショースケ、(わた)したケースに一体(いったい)ずつチュマウンを()れていって!」


 エイギスに()われたとおり、ショースケは周囲(しゅうい)にいるチュマウンをむにゅりと片手(かたて)(つか)んで、ケースに()れて(ふた)をします。


 チュマウンは惑星(わくせい)ヌマンアに生息(せいそく)しているET(いーてぃー)で、その最大(さいだい)特徴(とくちょう)は……チュマウン同士(どうし)(ふた)つくっつくと増殖(ぞうしょく)して(ばい)(よっ)つになるところです。


 そしてその(よっ)つがまたくっついて(やっ)つに、そして(やっ)つが……と、とにかく(ほう)っておくと(おそ)ろしいほど(かず)()えてしまう生物(せいぶつ)なのです。


惑星(わくせい)ヌマンアには天敵(てんてき)もいるし生態系(せいたいけい)のバランスが()れているから、そこまで(かず)()えたりしないんだけど……今回(こんかい)みたいに(ほか)(ほし)()れて()ってしまうと収集(しゅうしゅう)がつかなくなるんだ!」


 ヒカルがまた(ひと)つチュマウンを(つか)んでいる(あいだ)にも、()(まえ)()(たい)のチュマウンがくっついて(ばい)へと増殖(ぞうしょく)していきます。


 (つか)まえても(つか)まえても、(かず)()るどころか()わっていないようにしか()えません。


「マッタク コレジャ ラチガ アカナイヨ」


「うーん、どうしたらいいんだろう……」


 (あたま)触覚(しょっかく)(さん)(ぼん)器用(きよう)(うご)かしながらチュマウンを(つか)まえているツバサの(よこ)で、タカヤは()(うご)かしながら(かんが)えます。


 コスモピースの(ちから)使(つか)って背中(せなか)から無数(むすう)触手(しょくしゅ)()したら、一体(いったい)ずつチュマウンを(つか)まえることができるでしょう。


 しかし、コスモピースの(ちから)のことを()っているのはごく少数(しょうすう)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)だけなのです、こんな大人数(おおにんずう)(あつ)まる場所(ばしょ)使(つか)ったらパニックになってしまいます。


「うう、(つか)れた……。こんなんだったらチュマウン吸引機(きゅういんき)とか発明(はつめい)しとくんだったよ……」


 ゼーゼー(いき)()きながら、ショースケはまた(ひと)つケースの(ふた)()じました。


 (ほか)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)たちにも(つか)れの(いろ)()(はじ)め、(つか)まえる速度(そくど)()いつかなくなり、部屋(へや)(なか)のチュマウンの(かず)(すこ)しずつ()えていきます。


(なん)だかおかしいわ。チュマウンの増殖(ぞうしょく)スピードはこんなに(はや)かったかしら? もっとゆっくりだったと(おも)うんだけど……」


 あまり器用(きよう)では()(ほそ)(うで)必死(ひっし)(うご)かしながら、エイギスは(なが)(くび)をひねりました。


「そうなの?」


 ショースケは(あせ)(ぬぐ)いながら(たず)ねます。


「ええ、ワタシ(まえ)にも一度(いちど)、こんな(ふう)にチュマウンを(つか)まえてケースに()れる仕事(しごと)をしたことがあるんだけど……そのときは(いま)よりも(すく)ない人数(にんずう)(すべ)(つか)まえることができたのよ」


「え、それじゃおかしいじゃんか! 一体(いったい)どういうこと?」


「そうね、あくまでワタシの(かんが)えなんだけど……このチュマウンたちは進化(しんか)してしまったのかもしれないわ」


進化(しんか)⁉」


 (おお)きな(こえ)()したショースケの()(まえ)で、また(ふた)つのチュマウンが(よっ)つにポンッと増殖(ぞうしょく)しました。


「ニッカルコピ(せい)は、チュマウンたちの故郷(こきょう)惑星(わくせい)ヌマンアより大型(おおがた)肉食(にくしょく)生物(せいぶつ)(おお)いの。気温(きおん)だってかなり(ひく)いし……。そんな過酷(かこく)環境(かんきょう)繁栄(はんえい)するために、増殖(ぞうしょく)のスピードが()がってしまったんじゃないかしら」


 エイギスが(はな)している(あいだ)にも、どんどんどんどん部屋(へや)(なか)増殖(ぞうしょく)したチュマウンで()まっていきます。


「アー ウマルー タスケテ タカヤー」


「ツバサ⁉ 大丈夫(だいじょうぶ)か!」


 (からだ)(ちい)さなツバサを、タカヤはチュマウンの(うみ)から()()()しました。


 チュマウンはもうタカヤとショースケの腰元(こしもと)まで()まるほどたっぷり()えてしまい、しかもまだ増殖(ぞうしょく)(つづ)けています。


「まずい! このままじゃ(おれ)たち()まっちゃうぞ!」


 ヒカルがそう(こえ)()げたとほぼ同時(どうじ)に、どうやら危険(きけん)(かん)じた隊員(たいいん)一人(ひとり)がこの強制(きょうせい)転送(てんそう)(しつ)(とびら)(ひら)いたようです。


 大量(たいりょう)のチュマウンがこの(とき)()っていたと()わんばかりに、出口(でぐち)()かって一気(いっき)(なが)()んでいきます。


「どわわわ! (なが)される!」


「ショースケくん!」


 チュマウンの(なが)れに(あし)()られて(ころ)びそうになったショースケを、ヒカルがなんとか()()げました。


緊急(きんきゅう)事態(じたい) 転送(てんそう)されたチュマウンが本部(ほんぶ)(ない)大量(たいりょう)放出(ほうしゅつ)されました。隊員(たいいん)たちはすぐさま捕獲(ほかく)()かってください」


 アナウンスが(だい)音量(おんりょう)本部(ほんぶ)(ない)何度(なんど)()(かえ)されます。


 大勢(おおぜい)隊員(たいいん)たちがバタバタと大慌(おおあわ)てで、この強制(きょうせい)転送(てんそう)(しつ)からチュマウンが()げた廊下(ろうか)へと()()していきました。


「ワタシたちはとりあえずこの部屋(へや)(のこ)っているチュマウンを捕獲(ほかく)しましょう!」


「わかったよエイギス!」


 ショースケを(やさ)しく地面(じめん)()ろしてから、ヒカルはまた(ひと)透明(とうめい)なケースの(ふた)()じました。



****



「うぁああ……(つか)れたぁ……」


 チュマウンが一体(いったい)ずつ()れられた透明(とうめい)なケースが山積(やまづ)みになっている強制(きょうせい)転送(てんそう)(しつ)で、ショースケは(だい)()になって寝転(ねころ)びました。


「もう(うで)がビキビキだよ……(ぼく)何回(なんかい)(ふた)()めたんだろう」


「お(つか)(さま)、ショースケ」


 そう()って(となり)(かが)んだタカヤは、わかっていたことですがとてもピンピンしています。


「……ほんと、コスモピースの(ちから)ってすごいよね。全然(ぜんぜん)(つか)れてないじゃんか」


 (ねた)ましそうな()()けるショースケに、タカヤは(まゆ)()げて(わら)って()せました。


「フタリトモ オハナシ シテル バアイ ジャ ナイヨ。マダ オワッテ ナインダカラ」


 ツバサが(ちか)づいてきて、(あたま)触覚(しょっかく)二人(ふたり)をペチペチ(たた)きます。


「ツバサの()(とお)り、ここにいたチュマウンが全部(ぜんぶ)(つか)まえられたのは、ほとんどがこの部屋(へや)(そと)()()っちゃったからだもんなぁ」


 ため(いき)をつきながら(くち)(ひら)いたヒカルは、(つか)()った(うで)をぐーっと()ばして(とびら)(ほう)をちらりと()ます。


(おれ)たちも(はや)()いかけなきゃだけど…(つか)れたし(やす)んでからじゃダメかな? エイギス」


「ダメよヒカル。ほら()きましょう?」


 エイギスは(ひも)のような(くろ)(うで)を、ヒカルの右腕(みぎうで)にぐるりと()()けてぐいぐい()()りました。


「わかったわかったよ……うぅ、エイギス体力(たいりょく)(そこ)なしだもんなぁ」


 ヒカルはしぶしぶ(おも)(あし)(うご)かします。


「ショースケ、(おれ)たちも()くぞ」


「えーもう()くの⁉ (ぼく)(うで)限界(げんかい)だよ……」


 タカヤはツバサを片手(かたて)()っこすると、()いている(ほう)()でショースケの手首(てくび)(つか)んで(とびら)(そと)へと()()って()きました。



****



「うわぁ⁉ (なに)あれ!」


 ()(しろ)廊下(ろうか)(すこ)(すす)んだ(さき)()えた異様(いよう)光景(こうけい)に、ショースケは(おどろ)いて(こえ)()げました。


 (なん)(じゅっ)(たい)というチュマウンが、廊下(ろうか)のど()(なか)一カ所(いっかしょ)にぎゅっと(あつ)まり、こんもりと(たか)(やま)(つく)っています。


 そしてその(やま)内側(うちがわ)から……(かぜ)(おと)()間違(まちが)えるほど(ちい)さな(こえ)()こえました。


(だれ)かが(なか)にいるみたい、(いそ)いで対処(たいしょ)しましょう!」


 エイギスが左足(ひだりあし)につけたポスエッグの(なか)から透明(とうめい)なケースを大量(たいりょう)()()します。


 そのケースを()()って……みんなは(さき)ほど(いや)()うほど()(かえ)した、チュマウンを一体(いったい)ずつケースにしまって(ふた)をする作業(さぎょう)(ふたた)(はじ)めました。


「うぅ、(うで)がもうヘトヘトなのに……」


 ショースケは文句(もんく)()れながらチュマウンを一体(いったい)(つか)んで……びっくりして()見開(みひら)きました。


「あれ⁉ なんでこのチュマウンこんなに(つめ)たいの⁉ (こおり)みたい!」


 (さき)ほどまでのチュマウンはお風呂(ふろ)のお()くらい(あたた)かかったのに……まるで(おな)()(もの)では()いみたいです。


「しかも……今度(こんど)はくっついて(よっ)つに()えたりしないね?」


 不思議(ふしぎ)(おも)いながら、ショースケが()えた()でどんどんケースを()じていくと……


 チュマウンの(やま)中心(ちゅうしん)から、ぐったりとした(くろ)ET(いーてぃー)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)()てきました。


大丈夫(だいじょうぶ)ですか! バルエン星人(せいじん)さん!」


 タカヤはすぐさま(くろ)ET(いーてぃー)(やま)(なか)から()()()します。


「バルエン星人(せいじん)さん……え、この(ひと)が?」


 ショースケの()っているバルエン星人(せいじん)は、(あか)くて()()えているような()()をしているはずなのですが……この宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)はまるで(すみ)ように()(くろ)です。


「チュマウンたちに(ねつ)()われてしまったのね」


 (のこ)りのチュマウンをケースにしまいながらエイギスは(つづ)けます。


「チュマウンは増殖(ぞうしょく)するときのエネルギーとして(からだ)(ねつ)使(つか)うの。そして体温(たいおん)(ひく)くなって増殖(ぞうしょく)出来(でき)なくなると、(ほか)のところから(ねつ)(うば)って(からだ)(あたた)めようとするのよ。バルエン星人(せいじん)(からだ)表面温度(ひょうめんおんど)がとても(たか)いから(ねら)われてしまったみたいね」


「でも……どうやらたくさん(あつ)まりすぎて、チュマウンたちが増殖(ぞうしょく)できるほど(あたた)まることはできなかったみたいですね」


 タカヤがふぅっと(いき)()きながら、ここにいる最後(さいご)一体(いったい)のチュマウンをケースに()れて(ふた)()めました。 


「よし! これでここにいたチュマウンたちは全部(ぜんぶ)(つか)まえられたね。あとは……」


 ヒカルは廊下(ろうか)(はし)でぐったりと(よこ)たわっているバルエン星人(せいじん)をよいしょとおんぶします。


「とりあえずこの(ひと)(やす)めるところに()れて()かないと。ええっと……(たし)かこの部屋(へや)にはベッドがあったはず!」


 ヒカルが()をかざして(とびら)(ひら)くと……



「わー! ()けるなー‼」


 部屋(へや)(なか)から(おお)きな(さけ)(ごえ)(とも)に、これまたドバドバと大量(たいりょう)のチュマウンたちが()()してきました!


 チュマウンたちはヒカルたちの(よこ)をどんどんすり()けて、廊下(ろうか)(さき)へと()げていきます。


「なんで()けるんだよヒカル! もう(すこ)しだったのに!」


 透明(とうめい)なスライムのような宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)が、ふよふよと()かびながらヒカルに(いか)りをぶつけます。


「ご、ごめん……この(ひと)()かせてあげたくて。ここで(なに)してたの?」


 部屋(へや)(なか)にあるベッドにバルエン星人(せいじん)()かせて、ヒカルは(もう)(わけ)なさそうに(たず)ねました。


「チュマウンたちは(いま)(からだ)(ねつ)()りなくて増殖(ぞうしょく)できないだろ? だから温度(おんど)(たか)いところへ()って()るんだ。そこで!」


 透明(とうめい)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)(まる)くて(あか)(たま)()()して()せます。


「このやけどするほどアツアツのファヤイ(たま)使(つか)って、チュマウンたちをおびき()せて、部屋(へや)(とびら)()めて一気(いっき)(つか)まえる!……って作戦(さくせん)だったんだよ! たった(いま)失敗(しっぱい)したけど!」


 やわらかそうな(からだ)をプクーッと(ふく)らませたまま、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)はしょんぼりと波打(なみう)ちました。


 (そば)にいたエイギスが(なが)(からだ)(こし)から()()げて(あたま)()げます。


本当(ほんとう)にごめんなさい……でもすごく()作戦(さくせん)ね。ねぇヒカル、ワタシたちもやってみない?」


「やるのはいいけど……そのためにはチュマウンを()()せられるくらいの(ねつ)必要(ひつよう)だ。うーん、(なに)かいいものあったけ」


 ヒカルがポスエッグの(なか)(さぐ)ろうとすると、エイギスは(なが)いまつげを()らしながら(くび)()りました。


道具(どうぐ)使(つか)うよりもっと高温(こうおん)()せるものがあるわ。……ワタシがその(ねつ)発生源(はっせいげん)になるの」


「え。まさかエイギス、あの機能(きのう)を…⁉」


 ヒカルは()(まる)くします。


「んー……エイギスさん、そんなに(あつ)そうには()えないけど?」


 ショースケは(うえ)から(した)まで、まじまじとエイギスを()つめました。


 (さき)ほどのバルエン星人(せいじん)のように(からだ)()えているわけでもありませんし、どちらかと()えば()()(つめ)たそうです。


「ふふ。ワタシ、ちょっと(めずら)しい生物(せいぶつ)なのよ。そしてそこの貴方(あなた)……ツバサだったわよね」


 エイギスは(くび)をぐっと()げて、タカヤに(かか)えられているツバサに目線(めせん)()わせました。


「ネェネェ モシカシテ エイギス、ボク ト オソロイ?」


「そうよ。だからツバサ、貴方(あなた)にも協力(きょうりょく)して()しいの」


「ワーオ。ソウイウ コトナラ ガッテン ショウチ!」


 ツバサは(うれ)しそうに触覚(しょっかく)をゆらゆら()らします。


()まりね。じゃあ早速(さっそく)、チュマウンたちがたくさん(あつ)められそうなところへ()きましょう?」


 エイギスは()(しろ)廊下(ろうか)早足(はやあし)(すす)(はじ)めました。



****



 (いっ)(かい)(ひろ)いエントランスはいつもなら本部(ほんぶ)職員(しょくいん)たちで(あふ)れているのですが、今日(きょう)はみんなチュマウンの捕獲(ほかく)()かっているのかとても(しず)かです。


「ここならたくさん(あつ)められそうね。それじゃあ(はじ)めましょうか、(あぶ)ないから(はな)れていてね」


 エイギスはしなやかな両腕(りょううで)を、胸元(むなもと)についた(おお)きなひし(がた)宝石(ほうせき)にかざしました。


 すると宝石(ほうせき)(あざ)やかな水色(みずいろ)(かがや)(はじ)め、(あか)るいはずの本部(ほんぶ)(ない)薄暗(うすぐら)(かん)じるほど、(まぶ)しい(ひかり)(はな)ちます。


「わぁ……綺麗(きれい)……ってうわぁ⁉ (あつ)い!」


 ショースケはエイギスから(いそ)いでもう(さん)()ほど距離(きょり)()りました。


「ワタシの(からだ)は、この(むね)()いたエネルギーの(かたまり)のおかげで(うご)いているの。これは(しょう)(ぞう)発明(はつめい)した最新式(さいしんしき)で、(はげ)しく発熱(はつねつ)できる機能(きのう)がついているのよ。そして……」


 エイギスはツバサと()(あわ)せながら、にっこりと(わら)います。


「ツバサ、貴方(あなた)にも(おな)じものが使(つか)われているのよね」


「ソウトモ!」


 ツバサはタカヤの(うで)(なか)から()()すと、エイギスと(おな)じように(からだ)水色(みずいろ)(ひか)らせながら体温(たいおん)()げていきます。


「うーん……(しょう)(ぞう)さんからエイギスのエネルギーの(かたまり)発熱(はつねつ)機能(きのう)()けた、って()いたときは一体(いったい)どこで使(つか)うんだと(おも)ったけど…まさか(やく)()()()るとはなぁ」


 (すこ)(はな)れたところから、ヒカルは(ねつ)()していく二人(ふたり)心配(しんぱい)そうに()つめました。


 その(となり)で、ショースケは(まぶ)しそうに()目元(めもと)(おお)いながら(たず)ねます。


「それにしても、(うご)くためにエネルギーの(かたまり)必要(ひつよう)なんて、エイギスさんって不思議(ふしぎ)生物(せいぶつ)だよね……(ぼく)()たどの図鑑(ずかん)にも()って()いし。一体(いったい)どこの(ほし)から()たの?」


「……ワタシは()つけてもらった(とき)自分(じぶん)名前(なまえ)しか(おぼ)えていなくて。だからワタシ自身(じしん)何者(なにもの)なのかよくわからないの」


 (すこ)(かな)しそうに、エイギスは()()せて(わら)いました。


 エイギスの水晶(すいしょう)()りばめたような模様(もよう)(つの)水色(みずいろ)(ひかり)反射(はんしゃ)してキラキラ(ひか)って、リボンのような(かみ)がふわりと()って。


 その姿(すがた)はやっぱりとても、この()のものとは(おも)ないほど(うつく)しいのでした。


「……記憶(きおく)()くたって、エイギスはエイギスだよ。(おれ)大事(だいじ)な……その、コンビ! だよ」


「ふふ、ありがとうヒカル。さぁ、足音(あしおと)(ちか)づいて()たわ。みんな、捕獲(ほかく)をよろしくね」


 エイギスとツバサがさらに(からだ)温度(おんど)上昇(じょうしょう)させると……


 (まえ)から(うし)ろから(よこ)から(なな)めから、そして(うえ)からも次々(つぎつぎ)本部(ほんぶ)(じゅう)のチュマウンたちが()()せて()るではありませんか!


 そしてそれを()いかけてきた大勢(おおぜい)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)たちもこのエントランスに集結(しゅうけつ)して、全員(ぜんいん)大量(たいりょう)のチュマウンを次々(つぎつぎ)(つか)まえてケースに()れていきます。


「すごい、さっきよりずっと人数(にんずう)()えてる……これなら全部(ぜんぶ)(つか)まえられるかも!」


 ショースケは(よろこ)びましたが……残念(ざんねん)ながらそう(あま)くはありません。


 どこかで(ねつ)(うば)ったチュマウンがまた増殖(ぞうしょく)()(かえ)したのでしょう。()っても()っても()()れないほどの(おそ)ろしい(りょう)()()せて、まるで()わりが()えません。


 そして(つか)(そこ)ねたチュマウンたちが、高温(こうおん)(はっ)しているエイギスとツバサの(からだ)にまとわりついてその(ねつ)(うば)おうとします。


「オワー スワレルー」


「ツバサ、エイギスさん! 一度(いちど)温度(おんど)()げよう、このままじゃまた(ねつ)()われて増殖(ぞうしょく)する!」


「ワカッタ タカヤー!」


 ツバサはすぐに(からだ)温度(おんど)()げて、タカヤの(むね)()()みました。


 しかし……


「うぅっ……!」


 エイギスが突然(とつぜん)(くる)しそうに(こえ)()げました。


「エイギス⁉ 一度(いちど)温度(おんど)()げるんだ! エイギス!」


 ヒカルが何度(なんど)(さけ)びますが、エイギスにその(こえ)(とど)きません。


 エイギスは(あたま)(かか)えて、うめき(ごえ)をあげながら体温(たいおん)をさらに(はげ)しく上昇(じょうしょう)させていきます。


 エイギスの(むね)宝石(ほうせき)から(はな)たれる水色(みずいろ)(ひかり)()()けていられないほど(まぶ)しく(つよ)まり、(ねつ)(うば)おうと(ちか)づいてきたチュマウンたちが(あわ)てて(はな)れていくほどの高温(こうおん)になっていきます。


「エイギス!」


(にい)ちゃん(ちか)づいたらダメだ! (あぶ)ないから()がって!」


 タカヤはヒカルの(うで)必死(ひっし)(つか)みます。


「ど、どういうこと? (なに)()こってるの…うう、(あつ)い……!」


「エネルギーが暴走(ぼうそう)してるんだ! ショースケも(いそ)いでここを(はな)れるぞ!」


 もうエイギスにはとても(ちか)づけないほど、エントランスには熱風(ねっぷう)()()れています。


 タカヤは(いそ)いでみんなを()れて出口(でぐち)()かいましたが……増殖(ぞうしょく)したチュマウンたちが本部(ほんぶ)(そと)()げるのを(ふせ)ぐため、出口(でぐち)封鎖(ふうさ)されていました。


 大量(たいりょう)()()せて()(ほか)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)たちも、(ひら)かない出口(でぐち)(まえ)熱風(ねっぷう)(おそ)われながら(くる)しそうに(たす)けを(もと)めます。


「コノママジャ ミンナ ヤラレチャウヨ」


「……大丈夫(だいじょうぶ)(おれ)(まも)るよ」


 (まよ)っている(ひま)はありません。


 カタカタ(ふる)えるツバサを()きしめて、タカヤはコスモピースの(ちから)解放(かいほう)するため、(ひとみ)(かがや)かせようとしました。



****



 (まぶ)しい水色(みずいろ)(ひかり)(なか)で、エイギスは(ゆめ)()ていました。 


 ひどく(いた)(あたま)(なか)に、(かすみ)がかったような景色(けしき)がが()かびます。


(ワタシは……以前(いぜん)にもこれくらい……ううん、これとは(くら)べものにならないくらい(つよ)いエネルギーを(はっ)したことがある……ような……)


(ワタシの名前(なまえ)()んでる…貴方(あなた)たちは、(だれ)? ワタシに()()()……)


貴方(あなた)は……あぁ、そうだ。ワタシに名前(なまえ)をくれた貴方(あなた)名前(なまえ)は……)


「アィーシャ……」



****



(なに)をしとるんじゃエイギス」


 エレベーターを()りてきた(しょう)(ぞう)は、ズカズカと高温(こうおん)(ねつ)(はっ)するエイギスに(ちか)づいていきます。


「え、じーちゃん⁉ (ちか)づいたら(あぶ)ないよ!」


平気(へいき)じゃよショースケ。ワシこれでも特級(とっきゅう)なんじゃから」


 (しょう)(ぞう)(おお)きなあくびをしながら、ズボンのポケットからグレーのポスエッグを()()して(にぎ)りました。


 そしてそのポスエッグは、(しょう)(ぞう)身長(しんちょう)よりも(なが)(つえ)へと姿(すがた)()えます。


 そしてエイギスの(となり)まで(ちか)づくと…


「ほれ、ちょっと()ておれ」


 そう()って(つえ)(あたま)を、エイギスの(むね)宝石(ほうせき)にポンッと()てました。


 その途端(とたん)……エイギスから()ていた(ひかり)(ねつ)はまるで電池(でんち)()れたようにピタリと(おさ)まり、エイギスはその()にふわりと(たお)()みました。


「エイギス!」


 ヒカルが(いそ)いで()()って、エイギスの(なが)(くび)()()げます。


心配(しんぱい)はいらん、ちょっとエネルギー(げん)()(のぞ)いただけじゃ。(あと)(かえ)しちゃる……さて」


 (しょう)(ぞう)(なが)(つえ)(さき)()いたポスエッグから、それはそれは(おお)きな掃除機(そうじき)のような機械(きかい)()()しました。


「あとは、あいつらじゃな。一気(いっき)()くぞい!」


 機械(きかい)のスイッチをポチッと()れると、周囲(しゅうい)(あふ)れかえっていたチュマウンたちが一気(いっき)()かび()がり、次々(つぎつぎ)機械(きかい)吸引(きゅういん)(ぐち)()()まれていくではありませんか!


 そして機械(きかい)(うし)ろから、()()まれたチュマウンが(ひと)(ひと)つケースに()れられた状態(じょうたい)でぽんぽん()()してきます。


「よし、これで大丈夫(だいじょうぶ)じゃろ」


 (しょう)(ぞう)今度(こんど)(ちい)さなあくびをして(からだ)()ばしました。


「いやいやいや! じーちゃん!」


 そのまま研究室(けんきゅうしつ)(かえ)ろうとする(しょう)(ぞう)を、ショースケは(うし)ろからガッシリ(つか)まえます。


「こんな便利(べんり)機械(きかい)()ってるならもっと(はや)()してよ! (ぼく)らチュマウンをちまちま(ひと)つずつ(つか)まえててめちゃんこ大変(たいへん)だったんだから!」


(べつ)()っておったわけじゃないぞ? さっきチュマウンが()えて大変(たいへん)ーっていうアナウンスがあったじゃろ。じゃから(つく)ったんじゃ。()ぼけとったから(さん)十分(じゅっぷん)くらいかかったがの」


「ワーオ サスガ ボクノ ハカセ。テンサーイ」


 タカヤの(うで)(なか)で、ツバサは(うれ)しそうに触覚(しょっかく)()らしました。


「さ、(さん)十分(じゅっぷん)……⁉ (さん)十分(じゅっぷん)でこれ(つく)ったの……⁉」


 ショースケは機械(きかい)(しょう)(ぞう)(かお)交互(こうご)何度(なんど)()ます。


「おっとそうじゃ。エイギスにエネルギーを(かえ)してやらんとな」


 (しょう)(ぞう)はもう一度(いちど)(つえ)(あたま)でエイギスの(むね)宝石(ほうせき)をポンッとつつきました。


 エイギスが(なが)いまつげを()らして()()まします。


「エイギス‼」


「……ヒカル……? ふふ、今度(こんど)はどうして()いてるの?」


「だってエイギスが暴走(ぼうそう)しちゃって……! ()びかけても全然(ぜんぜん)(おさ)まらなくて……お、(おれ)……(なに)出来(でき)なくて……!」


 ぼろぼろ()まらないヒカルの(なみだ)を、エイギスは(ほそ)(うで)(ぬぐ)ってあげました。


「ごめんなさい、迷惑(めいわく)をかけて……。そうよワタシ……(なに)かを(おも)()しそうになって……、それで(あたま)(いた)くなって……エネルギーが制御(せいぎょ)できなくなったの」


 それを()いた(しょう)(ぞう)は、(きゅう)真剣(しんけん)()つきに()わります。


(なに)(おも)()したんか、エイギス」


「そうなんだけど……ごめんなさい、また(わす)れてしまったみたい」


「そうか……それがええわい」


 (しょう)(ぞう)(なが)(つえ)今度(こんど)(ちい)さなポスエッグへと()えると、ズボンのポケットの(おく)にしまいました。


「ほんじゃ、ワシは研究室(けんきゅうしつ)(もど)って昼寝(ひるね)のやり(なお)しするから(あと)よろぴくー」


 (あたま)片手(かたて)乱暴(らんぼう)にガシガシ()きながら、(しょう)(ぞう)はエレベーターの(ほう)へと()えていきました。




「エイギス、もう()って大丈夫(だいじょうぶ)なの?」


「ええ、どこも(いた)くないわ。心配(しんぱい)しないでヒカル」


「そっか……それならよかった」


 ヒカルが安心(あんしん)してへにょりと(わら)ったのを、タカヤは(となり)でそっくりな笑顔(えがお)()かべて(うれ)しそうに()つめました。


(しょう)(ぞう)さんの機械(きかい)のおかげでチュマウンも(すべ)(つか)まえられたみたいだし、無事(ぶじ)()んで()かったなショースケ。……ショースケ?」


「ううん……じーちゃんとお仕事(しごと)するにはあれが(さん)十分(じゅっぷん)(つく)れなきゃいけないのか……。(ぼく)いつまでもじーちゃんに()いつけないような()がしてきたよ……」


 ショースケはうずくまり、地面(じめん)にのの()()いて(へこ)んでいます。


「だ、大丈夫(だいじょうぶ)だってショースケ!」


 タカヤが一生懸命(いっしょうけんめい)(はげ)ましますが、(いま)のショースケにはいまいち(とど)きません。


「ショースケ メンタル ヒンジャク」


「ツバサ! そういうこと()わない!」


「オット。クチガ スベッタ」


 ツバサはわざとらしく、触覚(しょっかく)自分(じぶん)(くち)(ふさ)ぎました。


「むぅ……しかももうこんな時間(じかん)なんだ。またバタバタしてたら(かえ)時間(じかん)になっちゃったよ」


 ショースケは()()がって、タブレットを確認(かくにん)しながらため(いき)()きます。


「え⁉ 二人(ふたり)とももう(かえ)るの⁉」


 ヒカルがガッカリとうなだれたのを()たエイギスは、タカヤとショースケに(かお)(ちか)づけてこっそりと耳打(みみう)ちしました。


「ねぇみんな? まだ時間(じかん)はあるかしら」


「ええっと……(かえ)りを(すこ)(おく)らせればなんとか」


 タカヤが小声(こごえ)(かえ)します。


(いま)からでもよかったら、ワタシたちの仕事(しごと)()見学(けんがく)してもらいたいんだけれど。ほら、ヒカルがね? すごく一生懸命(いっしょうけんめい)二人(ふたり)のために準備(じゅんび)していたからどうしてもやらせてあげたくて」


 エイギスは(ちい)さな両手(りょうて)(むね)(まえ)()わせました。


「ワタシのお(ねが)い、()いてもらえないかしら」


「ショースケどうする?」


「そりゃー(ぼく)見学(けんがく)させてもらいたいよ。地球(ちきゅう)(おそ)到着(とうちゃく)する問題(もんだい)は……まだ宿題(しゅくだい)()わってないことくらいだよ」


「え⁉ 本部(ほんぶ)()(まえ)にやっておく約束(やくそく)だっただろ!」


()(なか)、そう(おも)ったようにはいかないものだよタカヤ。お昼寝(ひるね)したくなっちゃったんだから仕方(しかた)ないじゃん」


 いつも(どお)りの()()いをしている二人(ふたり)(よこ)をすり()けて、ツバサが触覚(しょっかく)でうつむくヒカルの(ひざ)をツンツンつつきます。


「アー ボクタチ スッゴク ヒカル ノ シゴト ケンガク シタイナー」


「え! 本当(ほんとう)⁉」


 ヒカルは(かお)()げて、(ひとみ)をぱぁっと(かがや)かせました。


「じゃ、じゃあ! やっぱりまずは貴重(きちょう)資源(しげん)がたくさん()いてあるあの部屋(へや)から……!」


「ヒカル、あんまり(はし)ったらまた(ころ)ぶわよ?」


大丈夫(だいじょうぶ)だよエイギス! 今度(こんど)()()けるから!」


 ぱたぱたと(うれ)しそうに()けだして()ったヒカルの背中(せなか)を、みんなは微笑(ほほえ)ましそうに(うし)ろから()いかけるのでした。


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