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誰しも不名誉なあだ名を付けられる時がある

シキの名前の由来→()欲の色から取りました。安直すぎますかね(*´-`)

 




 騎士団が戦闘に参加したこともあり、戦況は完全に冒険者側に傾いていた。けど、戦闘に参加する人が増えたせいか、ついに負傷者が運ばれてくる。

 ……怪我人に冒険者が1人もいないのはどうしてなんだろうね。本当に人間を辞めてるよ……。



「少年! 包帯とポーションを持って来てくれ!! 大至急だ!!!」


「はい!!」



 さすがに真面目な顔つき──いや、重症患者を見て恍惚な笑顔を浮かべるセツナさんに、頼まれたものを手渡していく。優秀だと自分で言うだけあって手際は良いんだけど、『ふへへ、骨が見えているじゃないか! 愉快だな〜!』とか呟いてる。僕ならこんな人に命を預けたいとは思わない。


 ほら! 処置をして貰っている騎士さんの顔が引きつってるじゃん!! 可哀想だから辞めてあげて!!



「──ユウタ君! そっちの軽傷者の応急処置をお願い!!」


「わかりました! セツナさんが手に負えなくなったら呼んでください!!」



 教会から派遣されているシスターさんが、包帯を片手に新しく運ばれて来た人を示す。人手が足りない今、子供の僕もフル回転で働いている。


 けど、この場を離れるのは不安だよ……。いつあの人が人体実験を開始するかわからないんだ。僕がしっかりと監視しなくては! 手伝ってくれているシスターさん達じゃ、きっとあのマッドサイエンティストを止められ無いだろうしね。健気に頑張るシスターさんに手を振り、傷を抑える騎士のもとに行く。


 うわぁ……、がっつり斬られてるよ。血がドボドボじゃん!



「……すまない。こいつから、治療してやってくれ」


「わかりました。皆さんもすぐ治療しますので、もう少し我慢してください」



 小隊長らしき爽やかイケメンに言われ、苦しそうに蹲る青年を診察する。ああ、鎧の隙間を狙われたんだね。そのせいか、かなり深くまで肉が抉られている。これは内臓も傷ついている可能性があるね……。


 テレビとかで見た時は何も感じなかったけど、リアルで見ると吐き気がしてきた……。なんてバイオレンス!

 とりあえず、血を止めないと危ないな。魔法といえども、血まで増やすのは無理だ。まずは止血をして……よし、これで良いな。


 この人もしっかり治療してあげたいんだけど、まだ後が詰まってる。痛みを和らげて、内臓の修復をしておこう!! 他の人じゃ、多分できないからね!!



「これでもう安心でしょう。後はシスターさんのところに行って、しばらく安静にしていてください」


「あ、ありがとう……。そうか、俺は助かったのか……」


「ええ。ゆっくり休んでいてください」



 傷が治って緊張が切れたのか、ポロポロと涙を流す青年騎士を見送る。まだまだ怪我人はいるんだ!! 張り切っていきましょう!!!



「僕が応急処置をしますので、終わった人はシスターさんの指示に従って移動してください!」



 次々と運ばれてくる騎士さんに向かい声を張り上げ、重症の人から治療して行く。今この場で全員直してあげたいんだけど、僕ってまだまだ未熟だからね。魔力がもたないんだよ……。


 手が血で真っ赤に染まりながら、流れ作業で応急処置をして行く。冒険者と違って、騎士の人達は礼儀正しくて良いね! というか、常識が通有する相手て素晴らしい!! 無駄に気苦労をしなくてすむよ!!!



「はい! これでもう大丈夫ですよ。後はゆっくり体を休めてください」


「すまない、助かったよ。まさか君のような幼い少女が、ここまで的確な処置ができるとは思わなかった。騎士団で雇いたいくらいだよ」


「ちょっと待ってください! 僕は男ですよ!? そこはデリケートなんで間違えないでください!!」



 この街でまともな部類に入る騎士団の人までに女の子認定されたら、もう僕は生きていけないよ!! 実力を評価してくれるのは嬉しいけど、絶対にコレだけは譲れない!!!



「ぬっ! そうだったのか……すまなかったな。だが、なぜメイド服を着ているんだ? それなら勘違いされてもしょうがないと思うんだが……」


「聞かないでください……これには海よりも深く、空よりも高い事情があるんです……」


「そ、そうか……。あ〜、治療をありがとな。私はこれで失礼するよ」



 き、気を使われたぁぁぁ!!! なまじっか常識的だから、無かったことにしてくれたよ!! こういう時はいじってくれたほうが楽なのに……。


 切り換えよう。もうあの人達と会うことはないんだ。この程度のことなんて、厨二病だった頃に比べれば百倍マシだもん。まだやり直せるはず……!


 そそくさと立ち去る騎士を見送り、とぼとぼとセツナさんのもとに帰る。ああ、ここから更にS〇N値がゴリゴリ削れるんだろうな……。



「──大変だ!ゴブリンの別働隊がこっちに向かって来ているぞ!!!」



 切羽詰まった声につられ顔を上げると、数十体のゴブリンが奇声をあげながら突っ込んで来た。

 ま、まさか怪我人んを狙うなんて……。魔獣のくせに考えたじゃないか!! 良い手だよチクショウ!!


 だけど、そんなに慌てることはない。ちゃんとここにも護衛の騎士がいるはず──



「ブクブクブク…………」 ←(セツナさんのモルモットにされた残骸)

「びくっびくっ…………」 ←(冒険者に闇討ちされたイケメン)



 なんて事してくれてるんだよあの人達はぁぁぁぁぁあああ!!!! 頼むから時と場所を考えてくれよぉぉ!!!


 くそぉ、どうするんだよ! ここには怪我人と、非戦闘員しかいないんだ。戦える人なんていない。逃げるにしても怪我人が多すぎて間に合わないし、打つ手がないじゃ無いか……!

 こうなったら、僕が時間稼ぎをするしかない!!



「よっしゃ! やってやんよぉぉ!っ!!!」



 今こそメイドの真の実力を見せる時! もう男の娘なんて言わせ無いぞ!!



「君! 子供は下がってなさい!! 私達がなんとかするから、早く逃げるんだ!!」



 む、あれはさっきの小隊長さんか。まだ動けるわけ無いのに無理して……。そんな痛々しい姿を見たら、逆に引き下がれ無いよ!!



「バカを言うんじゃありません! 怪我人は引っ込んでいてください!! そもそも怪我人を見捨てて逃げるなんてメイドの名折れ。ここはおとなしく僕に任せなさい!!!」



 こちとらボルドーさんにボコられたせいで、今更ゴブリンなんて怖くないんだよ!

 まだ何か言っている小隊長を無視し、箒を顕現させる。何も僕が倒す必要はないんだ。少し耐えていればすぐに応援が来るはず。それまでの辛抱だ!


 血なまぐさい空気を限界まで吸い込み、下半身に力を入れて行く。そして溜めに溜めた力を爆発させ、テントの前方へと飛び出す。


 風を切り、宙を滑るように駆ける。後ろには怪我人と美少女なシスターがいるんだ。何人たりとも近づけたりはし無い!



「さあ来い! 全員吠えずらかかせてギャフンと言わせてやんよぉぉぉおお!!」



 奇声をあげて突っ込んで来るゴブリンに叫び返し、箒を大きく振りかぶる。メイドに喧嘩を売った事、後悔させてやる!!


 ゴウッ!!


 全力で薙ぎ払われた箒から、津波の様な風刃がゴブリンへと襲いかかる。ギフトの制約のせいで、致命傷を負わせることはでき無い。

 ──けど、嫌がらせならできるんだよ!!



「ギャギャッ!?」



 僕の旋風によって砂埃が舞い、ゴブリン達の視界を奪う。けど、本当の狙いはそこじゃない! 僕のギフトの本懐──消しとばす効果は伊達じゃないんだ!!!



「ギャギャ? ──ゴフッ!」

「ゴバッ!?」



 ふははは! 摩擦力を消し飛ばしたら、どんな物でもコケるんだよ! ザマァ!!

 足元の摩擦を消されて、氷の上でもがく様に一向に前に進め無いゴブリン。科学を知ら無いお前らじゃ理解でき無いだろうけど、いくらあがいても無駄だよ!! 増援が来るまでそこで這いつくばってろ!!


 全力で走っていた勢いをそのままに、受け身も取れず転倒したゴブリン達。全身を強打して脳震盪を起こしている奴や、歯が折れて血まみれになっていたりする。足止めとしては、十分に役割を果たしたはずだ。後は見張っているだけ──「ゴギャぁぁっぁあ!!!」



「うにゃっ! デカ! キモっ!? 何なのあいつは!!?」



 緑色をしている普通のゴブリンとは違い、肌を赤銅の様に染めたゴブリン。膨張した筋肉に浮かび上がる傷跡。いかにも歴戦の戦士といった風貌で、ドラクエならボスエンカウントのメロディーが流れて来そうだ。



「──少年! 今すぐ逃げるんだ!! 殺されるぞ!!!」


「そんなことを言われても、逃げ場なんてないですよ!! やるしかないでしょ!!!」


「バカ者め! そいつはゴブリンナイトだぞ! そこいらのゴブリンとは格が違うんだ。一瞬で殺されるぞ!!!」



 セツナさんの悲鳴の様な叫びを背に、弾丸の様に飛び出す。

 相手がどんなに強かろうと、僕のすることは一つ──みんなを守る事だ!! ここで退くわけにはいかない!!!!



「でやぁぁぁああ!!!!」



 無防備なゴブリンナイトに向かって、全力で箒を振り下ろす。どんなに優れた筋肉を持とうが、摩擦力を打ち消されたら動けないはずだ。恐れることは無い!



「それにこれだけで終わると思うなよ!! ──メイド力全開、行け!! ファンネル!!」



 キュイン! カードから顕現した雑巾達が、縦横無尽に動き回りゴブリンナイトを翻弄する。

 水に濡れた雑巾は口に貼り付き、気道を塞ぐ。大きく歪んだゴブリンナイトの口は雑巾一枚ではとても塞がらず、僕の出せる最大枚数──10枚でも力負けしてしまう。凄まじいアゴの力だ。噛みつかれたら人たらりも無いだろう。


 くっそー! なかなかイメージ通りにいかないな。全然有効な一撃を入れることができない!!



「これでわかっただろう! 少年には荷が重すぎる。早く下がるんだ!!」


「セツナ殿の言う通りだ! 君は十分に役割を果たした。後は私たちに任せろ!!」



 自分たちだってボロボロで戦えないくせに、騎士って真面目な人しかいないの!? 冒険者を見すぎてまともな人を見ると鳥肌が立つよ……。

 包帯だらけの騎士が立ち上がり、陣形を組む。本当に戦う気なの!? 冗談抜きに殺されちゃいそうだよ!!



「子供に守られては騎士の名折れ。──者共! 私に続けぇぇぇええ!!!」


「「「オオォォッ!!!」」」



 乱れの無い統率された動きで、騎士達がゴブリンナイトに殺到する。さすがは騎士といったところで、怪我をしていようと剣筋の鋭さは失われていない。未だ動けないゴブリンナイトを、途切れることなく斬りつけて行く。

 グギャァァッァァアア!!!!

 血を吹き出し、苦悶の声を漏らすゴブリンナイト。だが、それは痛みからでは無く、苛立ちによるものだろう。騎士達が必死に攻撃しているが、所詮は手負いの弱った斬撃だ。刃は肉までは届かず、皮膚を浅く傷つけているだけ。このままじゃ、拉致があかないだろう。


 マズイな……。みんな頑張って攻撃してくれてるけど、そろそろ箒の効果が切れる頃だ。もしゴブリンナイトが動ける様になったら瞬殺されちゃう!!



「! みなさん離れてください!! 能力の効果が切れました!!!」


「っく! 全員後退、体制を立て直せ!!」



 体の感触を確かめるゴブリンナイトから、攻撃をしていた騎士達が距離を取る。

 コッチはみんな疲れ切っているのに、あちらさんは元気そうだなぁ。むしろ怒りで元気百倍って感じだ。


 鬱憤を晴らす様に無骨な棍棒を振り回すゴブリンナイト。これから僕達を蹂躙することが楽しみなのか、愉悦に浸った表情で一歩一歩近づいてくる。

 クソ野郎……! こっちがビビるのを見て楽しんでやがる。なんて性根の腐ったやつなんだ。だから童貞なんだよ! バカ、バーカ!!



「まだ援軍は来ないのか……! このままでは全滅だぞ!!」


「……僕がもう一度動きを止めます。その間にセツナさん達を逃してください!」


「バカなことを言うな! これ以上君を危険な目に合わせるワケには──くっそ、全力であの少年を援護しろ!! 騎士団の意地にかけてでも、あの少年を死なせるな!!」


「「「了解しました!!!」」」



 飛び出した僕の後ろに、騎士達も続く。あんな漫画みたいなことを言う人がいるんだ……。ますます死なせたく無いよ、あの人達は!!


 ヒラヒラとスカートを靡かせ、余裕をぶちかますゴブリンナイトに接近する。

 近づくと獣臭いし、顔もめっちゃ怖い。正直逃げ出したいと思ってるよ。でもね、僕だって男なんだ! カッコつけたい時だってあるんだよ!!!



「ファッキンゴブリンが! いったらんかぁぁぁいっ!!!」



 小蝿を払うように、無造作に繰り出される棍棒。非力な僕じゃこれだけで即死だろう。でも、当たらなければ意味が無い!!


 ギィィィっ!!


 箒で砂埃を舞い上げ、眼球に直撃させる。こっちは一撃でも食らったら即お陀仏だ! 正面からまともに戦うかよ!

 ちょこまかと動く僕に苛立ち、ゴブリンナイトが大降りになる。バカめ、メイドに隙を見せたりすると──



「タップリと吸い込めよ!! 特濃酸素だバカヤロウ!!!」



 ギャアギャア五月蝿いゴブリンナイトの周囲を、魔力を多めに込めた箒で薙ぎ払う。さすがに人間相手にやるワケにはいかないけど、魔物相手なら別だ。純度100%の毒素となった酸素爆弾を食らいやがれ!!



「──蝶のように舞い、蜂のように刺す。これぞメイド殺法! 後はゴキブリのように逃げるだけだ!!」



 体を掻き毟るように苦しむ怨敵に背を向け、全力で逃亡する。

 これ以上僕にできることはないもん。後は大人しく騎士の人に任せ──


 ブン!



「にゃぁぁぁぁあ!! 危なぁっぁあ!! 箒が真っ二つだよ!!!!」



 どうして!? 何が起こったの!!?



「少年! 早くこちらまで来い!! 錯乱したゴブリンナイトが、無作為にソニックブームを放っているんだぞ!! 近ずいたら即スプラッタだ!!」



 ひぃぃぃいい!! 異世界の生物はしぶとすぎなんだよ! 大人しくやられてくれぇぇぇえ!!

 ビュン! ブオン!

 大気を唸らせ、光さえも切り裂き、圧倒的な暴力の塊が僕に迫る。


 ──あ。これはマジでやばいやつだ。死ぬ未来しか見えない!!


 錯乱状態に陥ったゴブリンナイトが、酩酊した様に覚束ない足取りで迫ってくる。あと一押しで倒せそうなのに、暴風の様に吹き荒れる風刃がそれを許さない。というか、先にこっちが斬り刻まれそうだよ!!!



「──おやおや。随分と賑やかじゃのう。わしも混ぜてくれんかな?」



 戦場に似つかわしくない、のんびりとした口調で話しかけられる。この妙にバリトンボイスで、人を惹きつける声の主はまさか──



「クーデルンさん!? なんで貴方がいるんですか!!!」



 僕にギフトを授けてくれた変態司教、クーデルンさんが鼻をほじりながら立っていた。

 なんでこの人が戦場にいるんだ!? しかもこんなヤバめの場面に!!!



「いやいや。こんな面白そうな事が起こっているのに、見に来ないワケないじゃろうが!!」


「最悪ですね! それでも聖職者ですか!!!」


「ホッホッホ! さすがに冗談じゃよ。救援要請を受けたんで、こうして足を運んだんじゃ」



 まぁ、性格は置いておくとして、能力だけは一流らしいからね。救援要請がクーデルンさんに行くのも不思議じゃない。

 ……でも、この場面で来る必要はあったのかなぁ。この人が来ても戦力になるか怪しいよ……。



「しっかし、みんなボロボロじゃのう。治療してやりたいが、ちとあのデカブツが邪魔じゃ。ご退場願おうか」


「え!? まさか戦う気なんですか! 歳を考えてください!!」


「ツッコムところはそこなのかい? まぁ、心配されるだけマシかのう」



 ピン。と鼻くそをとばし、猛り狂っているゴブリンナイトに近づいて行く。何か秘策があるのかと観察してみるが、武器はおろか緊張感すらない。まるで散歩に行くかの様な足取りだ。

 ……全くもって期待できないけど、もしかすると奥の手とか持ってるのかな? アレでも一応司祭様だし、強力なギフトぐらい持ってそうだけど……。


 あっははは! と高笑いするクーデルンさんは、荒れ狂う風刃の中に足を踏み入れ

 ──ザシュッ

 鮮血を散らし、無数の刃に切り裂かれた。



「何やってんですかぁぁぁっ!! あんたアホでしょぉぉぉおお!!」



 なんでドヤ顔でやられてんの!? マゾなのか。実はあんたマゾなのか!!!


 何事もない様に歩くクーデルンさんだが、無防備に晒された体は傷つけられ、遠目からでも骨がむき出しになっている。

 明らかに致命傷を受けても、その足取りは揺らがずまっすぐと暴風の中心地点へと向かう。しかし丸太の様な棍棒が、直接クーデルンさんを捉え──グシャリ。生々しい破裂音がやけにはっきりと聞こえた。



「……ウソでしょ……腕が吹っ飛んでるじゃん……」



 なんで自分の腕が吹っ飛んでんのに、あんなに余裕をかましてられるんだ!? 本当に人間なの!!?



「ユウタ君。あの人を心配するだけ無駄ですよ」


「ルチアさん!? それはどういう意味ですか!!」



 自分の上司が殺されそうなのに平然としているルチアさん。驚いている僕を横目に、クーデルンさんを淡々とけなして行く。



「あの変態スケベ司祭は、体を粉々にされたくらいでは死にません。普段はただの性犯罪者ですが、その実力だけは本物です。わかりやすく言うと、Sランクの冒険者に匹敵する力を有しています」


「え、Sランク!? そんなに強かったんですか!!!」



 確か世界に3人しかいないっていう激ヤバな人達だよね!? それに匹敵するなんて……もはやキモいよ……。



「誠に遺憾ながらも事実です。我らが司祭は、かつて世界を救ったと言われる英傑にして救済者。彼が振るうは神の拳。彼が導くは神の教え。正しく神の代弁者と言われる、名実ともに世界最強のヒーラーです」


「……確かに丈夫な人だとは思っていましたが、そんなにすごい人だったなんて……」


「ええ。だから安心して見ていてください。すぐに決着がつきます」



 ルチアさんの言葉には誇張は無く、ただ純然たる事実しか無い。それを証明するかの様に、自分の傷を治したクーデルンさん。

 ギャァァァ!!

 最後の力を振り絞って繰り出された死の鉄槌。それをいつも通り高笑いしながら受け止め、自分の体より太い棍棒を握り砕く。



「ホッホッホ。なかなかヤンチャな子じゃのう。少しお仕置きしてやろう」



 ペち。可愛らしい音と共にシッペが繰り出される。けど、その威力は絶大で、ゴブリンナイトの頭が吹き飛んだ。



「ウソだぁっぁあああ!! どこの世紀末だよ!!!」


「ウソじゃ無いですよ。これが現実です」



 信じたく無い!! というかグロいんだよぉっ!!!

 触れるだけで頭を吹き飛ばすとか、聖職者の戦い方じゃ無い。それより、人としての常識を疑うよ……。


 おははは。と高笑いしながら、残りのゴブリンを掃討するクーデルンさん。もはやこの人とシキさんだけで過剰戦力じゃ無いかな。



「さて、ここはあの人に任せて大丈夫でしょう。私達は負傷者の治療に戻りますよ」


「あ、はい。わかりました! 怪我人も増えましたし、張り切って行きましょう」


「いやいや、君も怪我人だからね。少年も少し休みたまえ」



 ぽん。避難していたはずのセツナさんが、僕の頭に手を置く。

 怪我人って言ったて、僕はかすり傷しか無いんだけどなぁ。周りの騎士さんの方がボロボロだよ。

 まだまだやれるアピールをして見たものの、セツナさんから休む様に言い含められてしまった。しかもご丁寧に監視役としてルチアさんまで付けるんだもん。どんなだけ信用ないんだろうな、僕。少し傷ついたよ……。



「ユウタ君。こっちに来てください。君も意外と危なっかしいですからね。絶対に私から離れちゃダメですよ」


「あう……僕は1人でも大丈夫なのに……」


「はいはい。冒険者はそう言って無茶するんですから。おとなしく言うことを聞きなさい」



 救護テントの端に腰かけたルチアさんに宥められ、渋々隣に座る。冒険者の人たちと一緒にされたのは不本意だけど、ルチアさんには絶対に勝てないからな〜。普段からクーデルンさんに鍛えられたルチアさんの実力は本物だし、何より圧力が半端ない! 口答えをすると、背筋がゾッとなるんだよ!! 役者が違うわ〜……。



「素直に言うことを聞く子は好きですよ。もうじき決着もつきますし、ここでゆっくりしていましょう」


「ふにゃ〜……戦闘が終わりそうってことは、そろそろ魔王種を倒せそうなんですか?」


「魔王種ですか? それならさっき、シキさんが瞬殺してましたよ」


「はいぃっ! 魔王種ってそんな簡単に倒せるものなんですか!!?」



 だって魔王だよ!! よくラスボスで出てくるあの魔王だよ!! なんで瞬殺できるのさ!! シキさんの方がよっぽど魔王っぽいわ!!!


 信じがたいけど戦場に目を向けると、すでに追撃戦が始まっていた。救護テントが小高い丘にあるせいでよく戦場を見渡せる。だから冒険者が圧倒的に優勢なのはわかるんだけど……



『ぎゃははは!! 無様やなぁ!! 弱すぎて話にならんわ!!!』

『派手に血しぶき上げろやぁぁ!! こんなんじゃものたりねぇぞぉぉぉぉおおお!!』

『おんどりゃぁぁっ!! 俺がモテるための礎となれぇぇぇええっ!!!』



 正直どっちが悪者かわからないよ!! 個人的には笑いながら虐殺している冒険者の方が、絶対に悪役に見える。

 シキさんは騎士団の人が手柄を奪ったって言うけど、実際はこの光景を見て女の人がドン引きしただけなんじゃないかな……。


  自分達の何倍もいるゴブリンを蹂躙する冒険者達。その中に見知った姿を見つけた。



「も〜っ! ウジャウジャ鬱陶しい!! いくら斬ってもキリがないよ!!!」

「情けないことを言うな!! この程度の雑魚、何匹居ても変わらん!!!」

「うう〜! いい加減血なまぐさいのには飽きたんだよ〜……早くお風呂に入りたい……」

「なら早くこいつらを片付けろ! その後なら何しても構わん!!」

「わかったよ!! 真面目にやりますよぉっ!!」



 割と余裕そうに戦場のど真ん中で漫才をする2人。見覚えのある金と銀の尻尾を揺らし、ゴブリンをなます切りにしていく。

 ビュン。

 2人の刃が、鈴の様に涼やかな音を響かせ、空を切り裂く。虚空に鮮やかな銀線がが刻まれる度に、ゴブリン達の頭が胴と泣き別れをする。


 ものすごい達人技なんだろうけど、緊張感に欠けるな〜。それに比べてディアさん達は──



「……あははは……もえろ〜……」


 チュドーン


「うざいキモい穢らわしい!! 私がユウちゃんとイチャつく時間を奪う奴なんて、全員肉塊にしてやります!!」


 グチャっ!

 武器を投げ出し、泣きながら逃げるゴブリン達を吹き飛ばしていく。ディアさんは無表情に焼き尽くし、レーテさんは悪鬼羅刹の如く大鎚で叩き潰す。本日何度目かはわからないけど、やっぱりこう言うよ。

 ──立場が逆だよね!!! 明らかにディアさん達の方が略奪者だよ!!!


 ディアさんは大量虐殺する時まで顔が変わらないし、レーテさんなんて少し嬉しそうじゃないか!!いつもの穏やかな姿はどこ行ったんだよ!!!



「はぁ……。なんで冒険者の人って、まともな人がいないんだろう……」


「シーシェ達なんてましな方よ。あっちを見てごらん。極め付けの奴らがいるから」



 僕のつぶやきを拾ったルチアさん。白魚の様に透き通った指を上げ、戦場で一際異彩を放つ集団を示した。



「ああん! ゴブリンちゃんもなかなか可愛いじゃない! 今晩どう? 気持ちよくしてあげるわよぉぉぉ!!」

「オラオラオラぁっ!! てめぇらのせいで幼気な少女が怯えてんじゃねぇかっ!! 少しは自重しやがれ!!!!」

「あら、失礼しちゃう! ヤンキーのくせにロリコンのあんたらよりマシよ!!」

「ふざけんじゃねぇ! この変態性欲魔人が!! オメェらみたいなオカマよりマシだわ!!!」



 かたやアフロで筋肉マッチョのオカマ。もう片方はバリバリのヤンキー集団。もはや冒険者ですら無いよね!!? なんであんなのがいるの!!?



「あのオカマの方が【二刀流】(バイ)のゴンザレスよ。シキに次ぐ色魔で、揺かごから墓場までって公言する変態よ」


「それって、完全に犯罪者じゃないですか!!? ムッチャ危険人物ですよ!! なんで野放しにしているんですか!!?」


「彼? の実力が高すぎて誰も捕まえられないのよ。それに彼女? と一晩共にした人は、2度と彼以外では満足できない体になるらしいわ」



 ……何それ、本気で怖いんだけど! ぶっちゃけ魔王種なんかより危険人物でしょ!! 絶対に関わらない!! 何があろうと関わらないんだ!!


 ……落ち着け、落ち着くんだ僕。正直お腹いっぱいだけど、まだ残っている人たちがいるんだ。気を強く持て!!



「ふぅ。それでその横にいるヤンキー集団なんだけど、彼らは【楽園の果実】というパーティーよ。見た目はアレだけど、幼い少女を守るために街を巡回し、孤児院に寄付をするわりかしマトモな連中よ。

 ──ただ、12歳以上の女性を女として認めない変態集団だけど……」



 はいアウト〜! 完全にロリアウトですっ!!! 今すぐ刑務所の中に入ってください!!!

 もう何なんだよ……性犯罪者しかいないじゃ無いか……。


 ため息と共に魂が抜け出てしまいそうだが、改めて変態達を眺める。

 オカマことゴンザレスさんは、鍛え上げられた肉体を駆使してゴブリンを血祭りに上げていく。見た目は正視に耐えないけど、その身のこなしはたゆまぬ努力で培ったものだろう。大柄な巨体から繰り出される拳は、正確に、鋭く、相手の急所を打ち抜く。


 ……見た目さえマトモならヒーローにでもなれそうなんだけどなぁ……。


 そんな筋肉辰馬のオカマさんの隣で、奇抜なファッションのヤンキー集団が猛り狂う。ある者は鉄パイプを片手に戦場を駆け回り、また別のヤンキーはメリケンサックを血に染め愉悦の表情を浮かべる。

 ……もうどうでもよくなってきたな……。



「ルチアさん。何だか疲れちゃったみたいです。少し休んでいていいですか?」


「え? 別にいいけど、もうすぐで戦闘は終わるわよ。そうしたら恒例のアレがあるじゃない」


「? 何のことです? 先頭の後処理以外に何かすることがあるんですか」


「──ああ。ユウタ君は知らないのか。この街の冒険者がする事といったらアレしか無いわ。

 ──そう、宴よ!!」



 得意げにルチアさん手を振り上げる。それとちょうど同じタイミングでミラベルさんの勝ち鬨が聞こえ、アケディア防衛戦は幕を閉じた。




 ♢




「あなた達の尽力もあり、無事魔王種の襲撃を乗り切ることができました。……今日は無礼講です! 費用は全部ギルドマスターに奢らせますので、好きなだけ飲みなさい!!」


『オオォォッ!!!』

『今日は飲みまくるぜぇぇぇ!!』

『ミラベルちゃ〜ん! 愛してるぅぅぅっ!!!』


「いや、ちょっとぉ! ワシ、そんなこと一言も──「かんぱーい」って、えええ!!」


『かんぱーい!!!』



 無視され続けるギルドマスターを尻目に、ギルドでは祝勝会が始まった。結局あの後蹂躙し尽くした冒険者達は、好き放題したのも関わらず後処理を騎士団に丸投げし、こうしてギルドでは宴を始めてしまった。

 ……騎士の人たちって、本当に不憫だな……。


「──ユウタ君。今日はお疲れ様でした。あなたの活躍がなければもっと被害が広がっていたでしょう。ギルドを代表してお礼をさせてください」



 さっきまで音頭を取っていたはずのミラベルさんが、いつの間にか僕の後ろに立っていた。

 ……この前も一瞬にして背後を取られたな。やっぱりこのひとも、エゲツない戦闘力を持っているのか……!



「つきましては、今日中にでも報酬をお渡しするので楽しみにしていて下さいね」


「ふぇっ!? あ、ありがとうございます!すごく嬉しいです!!」



 やったぞ! これで僕はニートから脱却できる!! これまでシーシェさん達に養われる日々だったけど、ようやく胸を張ってみんなに会える!!


 微笑ましいものを見るようミラベルさんが笑みを浮かべる。今は子供っぽくてもいい!! 何せちゃんとした初任給を貰えるんだからね! 素直に喜んじゃうぜ!!



「喜んで貰えたようですね。私はまだ仕事が残っていますのであるこれで失礼します。今日は本当にお疲れ様でした」



 喧騒の中でも霞む事のないアメジストの髪をなびかせ、颯爽とミラベルさんが立ち去っていく。大して働いていない僕がこんなに疲れているんだ。ミラベルさんにはどれだけの負担がかかってるんだろう……うん。今度お菓子でも作って差し入れに行こう。



『1番シキ、歌いま〜す!!!』

『あひゃひゃひゃ!! 踊れ踊れぇぇ!!』

『シズエちゃ〜ん! 野球拳しようぜ〜!!』



 アルコールが入って、普段の数倍達が悪くなった冒険者達。まだ宴が始まって数分しか経っていないのに、酒場は混沌としている。

 ……変な人に絡まれないうちに避難しておこう。無力な僕じゃ、この人達に敵うわけ無いからね……。


 忍者になった気分で酒場から抜け出そうと階段に行くと、不意に後ろから抱きしめられてしまう。ああ……ついに僕も年貢の納め時タイムか……。



「ユウタく〜ん! 怪我は無い? お姉さんは心配したんだぞ〜!」


「ええ。ゴブリンナイトに突っ込んでいったと聞いたときは、心臓が止まるかと思いました」


「──ベティさん、ヒルダさん! 会いたかったです!!」



 僕を抱きしめた犯人は変質者では無く、ベティさんだった。

 ……ああ、ベティさんからものすごくお酒の匂いがする。どんだけ飲んでんだろう? 正直ベティさんに抱きつかれてるだけで酔っちゃいそう……。



「うふふ〜! ユウタ君もお姉さんに会いたかったのか〜! コレはデレたという事かな!?」


「……もともとユウタは、あなたに対してデレていたと思いますが……」


「違う違う。戦いの後で高ぶっているだろうし、私に童貞を捧げてくれる気にになったって事よ!!」


「ベティさん。頼みますからズボンを下ろそうとしないで下さい!! セクハラです!!」



 シレッと僕の社会の窓を全開にするベティさん。

 ……危ない。気を抜いているうちに貞操の危機に陥っていたよ……!


 ああん! と艶かしい声を上げるベティさんから距離を取り、ヒルダさんの影に隠れる。これ以上精神的に疲れるのはカンベンだよ。今日はもう十分すぎるほどにS〇N値が削れたからね……。



「まったく。ユウタに手を出すなんて何を考えているんですか! 貴方はもっと常識をわきまえて下さい!!」


「ちぇ〜、つまんないの〜! ヒルダが意地悪だから、サランに構ってもらいに行くわ!!」



 変な捨て台詞を最後に、人ごみの中に消えていってしまう。何というか、自由な人だ。あのくらい自分に正直じゃ無いとこの世界は生きていけないのかな?

 むむむ。と匂いだけで酔ってきてしまった頭で考え事をしていると、会いたくてしょうがなかった人達が姿を現わす。



「──ユウタ君!! ようやく会えたね〜!!!」


「シーシェさん!! 無事でよかったです!!!」



 ぼふ。目に涙を浮かべ、力一杯抱き合う僕ら。2日ぶりのシーシェ温もりに押し込めていた不安が顔を出し、ついつい弱音が溢れてしまう。



「うう……シーシェさん! 寂しかったですぅ!!!」


「不安にさせてごめんね! でも、もう大丈夫だよ!! 絶対にユウタ君を離したりしないからね!!」



 安心させるように、背中をさすってくれるシーシェさん。懐かしい感触に、心がポカポカするのを感じる。

 はふぅ……! 帰ってきたって感じがするよ! もう僕は、シーシェさんなしでは生きていけない!!


「シーシェばかりズルイわ!! 私にもユウちゃんをギュッとさせてぇぇぇ!!」



 と、シーシェさんの肩越しに、この世の終わりのような顔をしたレーテさんが叫ぶ。

 側から見たら、依存症の気がある人に見えるから不思議だ。



「はいはい。騒ぐのはいいから、とりあえず座らないか? 私はいい加減疲れた」


「……同感……ゴミを焼却するのに魔力を使い過ぎた……」



 いつも通り呆れたように抱き合う僕らを見たイルザさんは、ディアさんを伴って空いている席に座る。

 ミラベルさんの言葉は冗談ではなかったようで、『ギルドマスターの奢り!』と書かれた皿を遠慮なく取り、リスのように頬張っていく。そしてモギュモギュと厚切りのベーコンを頬張りながら、思い出したように口を開く。



「──そういえば、ユウタにも二つ名がついたらしいな」


「もう! 食べながら話さないの!! で、ユウちゃんに二つ名がついたというのは本当ですか?」


「ああ。さっきミラベル達が話しているのを聞いてな、どうやら本当みたいだぞ」


「すごーい! この歳で二つ名がつくなんて滅多に無いよ!!」


「……ユウタはやはり出来る子だった……私もハナタカだよ……」



 僕を置いてきぼりにして盛り上がる4人。どうやら僕に二つ名がついたらしいんだけど、それってすごい事なのかな? 個人的には厨二病っぽくて嫌なんだけど……。


 ウェイトレスさんからお酒をもらって、グビグビと飲み干すシーシェさん。見た目高校生なのにお酒を飲んでいることは置いておいて、とりあえず僕を抱きしめたまま飲酒するのは控えてほしいと思う。



「ぷはーッ! それでユウタ君はどんな二つ名をもらったの? すごく気になるよ!!」


「ああ、それがな、これまた驚きなんだが……なんと、二つも二つ名ができたらしいぞ!!」


「……二つも二つ名がある……なんかわかりにくい……」


「同感ね。でも、ユウちゃんなら納得だわ!! こんなに可愛いんだもの!」


「はいはい。レーテの親バカ発言は放っておくぞ」



 呆れたように手を振り、お酒のせいで赤くなった顔を僕に向ける。その表情には面白がっている、更にはいじってやろうという下心が透けて見える。

 ……う〜ん、また不名誉な称号でも貰っちゃうのかな? それはなんとしてでも避けたいんだけど……。


 裸になったり喧嘩をしている冒険者を眺め、冷静さを取り戻していく。あれと同類にされるのは癪だし、とりあえず二つ名について確認するかな?



「あの〜。今更なんですが、二つ名ってなんですか?」


「「「「………………」」」」



 あ、あれ〜……また変なことを言っちゃったかな……。


 あれほど喧しかった喧騒は鳴りを潜め、痛々しい沈黙が訪れる。

 個人的にはこういう空気が一番辛いよ!! 誰か何か言ってぇぇ!!



「まあ、そうだよな。ユウタが知らないのも無理はないか」



 と、イルザさんが沈黙を破り、みんなもそれに続いて。



「うんうん。ユウタ君は冒険者になったばかりだもん! 知らなくてもおかしくないよ!!」


「二つ名とは、実力ある冒険者に付けられるものですからね。新人のユウちゃんに説明されてないとしても不思議ではありません」


「……どうせコゼットが言い忘れた……以外に抜けてるからね……」



 うんうん。と、4人揃ってフォローしてくれる。今はその優しさが痛いよ……。



「さっきレーテがほとんど言ったが、二つ名っていうのは功績のある冒険者に付けられるんだ。例えば、ヨミなんかがわかりやすいだろう? |【触れてはならぬもの】《トラップボックス》なんて、あいつの代名詞だからな」



 なるほど。確かに言われてみれば納得だよ。それにセツナさんにも説明された気がするしね。ほら、シキさんが【変態王】とか絶対に忘れないでしょ!!

 ……けど、その二つ名が僕にもつくのか……ダメだ、不安しかない。このギルドに来てから、こういうサプライズ系のイベントでろくな目にあったことがない。今回はどんな方法で精神を削りに来るのかな? いい加減勘弁してほしいよ……。


 今までの出来事を思い出し本能が聞くことを拒否しているが、楽しそうな顔をしているみんなに水をさすわけにはいかない。ここは腹をくくって聞くしかないのか……!



「どうしたんだ、そんな深刻そうな顔をして?」


「いえ、何でもありません。それで僕の二つ名ってどんなのですか?」


「ああ、それはな…………」



 ぷるぷると笑うのを堪えられないと言った風に、震える声で、



「──【ギルドのマスコット】だ! どうだ!!! 面白いだろう!!!」



 あっははは! と壊れたように笑い転げるイルザさん。

 くそっ! 予想していたとはいえ、案の定すぎるでしょ!! もうちょっとマシななのは無かったの!!? こんな屈辱2日ぶりだよ!!!!


 シーシェさん達も「可愛くて良いね!!」としか言わないし、僕の味方はいないのか!! 神様、いるんなら助けてください!!!



「そんな不満そうな顔をするな! くくっ、もう一つあるんだから、そっちに期待しろよ……!」


「……その反応を見る限り、まったく期待できないんですけど!!」


「まあそう言うな。次は期待しても良いぞ」



 腕を組み、自信満々にニマニマとイルザさんが笑う。

 ……ああ、この人が楽しそうに笑っているって事は、僕にとっては最悪って事だね。はぁ、何てバイオレンス……。


 でも、奇跡にかけてみましょうよ!! ミラベルさんが名前を考えるのに関わっているなら、もう一つがまともな可能性は残っている! 諦めるな、僕!!



「そう身構えるなって、さすがに二つ連続可笑しい名前のはずないだろう」


「……本当ですか? 信じて良いんですね?」


「もちろんだ! この私を誰だと思っている? イルザさんだぞ!!」



 だめだ。不安が一気に膨れ上がった。

 絶対に酔ってるよね!? 正気じゃないよね!!?



「ごほん。では発表してやろう。ユウタのもう一つの二つ名は──【メイドスター】だ!」


「何と言うか想像通りですねこの野郎っ!!!!!」



 くそぉお!! 少しでも信じた僕がばかだったよ!! だいたい予想通りだったじゃないかぁっぁぁああ!!!! もう嫌だ、絶対に訴えてやるぅぅぅう!!!



 ──この日、命を削って戦った結果、僕は不名誉な称号を得てしまった……。







ようやく一章が完結しました! ここまで付き合っていただき本当にありがとうございます。゜(゜´Д`゜)゜。 幕間を挟んで二章を投稿しますので、こ引き続き読んでもらえると幸いです!!

そして感想をくれた皆様!! 本当にありがとうございました!! 皆様から頂いた感想を励みに、これからも執筆を続けたいと思います!!

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