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魔王って結構なラスボスじゃ無いの!?

もうすぐで一章も完結します!

 


 周りの状況についていけずボッチをかました僕は、不貞腐れてセツナさんと一夜を過ごした。……別にいやらしい意味はないんだよ? なんか魔王種が攻めてくるとか言って、薬の調合を一晩中手伝わされただけだからね。


 そんな薬品まみれの体を、肌を刺すように冷たい井戸水で清める。こんな忙しい時に風呂を沸かしている余裕はない。というか、ギルドにはお風呂は無いらしい。



「少年〜! ミラベルが君のことを探していたぞ!」



 修行僧な気持ちで水垢離をしていると、隈をビッシリと浮かべたセツナさんが駆け寄ってくる。一睡もしていないせいか、普段よりもハイテンションだ。



「ミラベルさんが、僕のことをですか? 一体どうして?」


「ふむ。それは知らないが、たぶん魔王種襲来についてではないか?」


「まあ、状況的にそれしかないですよね……」



 問題はどうして僕が呼ばれるかだ。最近ギルドの仕事を手伝っているせいで、僕が戦力外なのは知られている。それなのに、この状況で僕を探しているなんて……どうしてだろう?



「そんな不思議そうな顔しても、わからないものはわからないんだ。ミラベルは一階にいるはずだから、とりあえずは行ってくるといい」


「そうですね。ちょっと行ってきます!」



 しゅたっ!と、手を挙げギルド内に駆け込む。まだ夜明け前のはずなのに、一階は人で溢れかえっていた。冒険者以外の人も大勢いるし、全部魔王種が襲ってくることに対応しているんだろう。事情をよく知らない僕だけど、この光景を見ればかなり大変な事が起こっているのは薄々気づいている。


 怒号が飛び交い物資が頻繁に行き来する中を、スルスルと走り抜ける。目的のミラベルさんを見つけたいところだけど、人が多すぎて身長の低い僕では効率が悪い。すぐ人混みに紛れちゃうんだもん。



「どうするかな……とりあえず、コゼットさんのところに行ってみるか?」



 受付嬢であるコゼットさんなら、ミラベルさんの居所を知っているかもしれない。

 そう思いつくと、見慣れてきた受付へと足を向ける。外と行き来する人が多いせいか、泥や砂利がこびりつく床を踏みしめ、窓口までたどり着く。すると、コゼットさんと目的の人物が、書類を片手に相談をしていた。



「──左翼は騎士団が担うそうです。問題は、問題児達をどう制御するかですが……」


「あ〜……、いっそのこと好きにさせたほうがいいんじゃないですか? あの人達に集団行動を求めても無駄ですし」


「そうですね。彼らは協調という概念を持ち合わせていません。一番危険な戦場に放り込むくらいでちょうどいいでしょう」



 なんか物騒な話をしているな……ものすごく声をかけずらいよ……。



「──あ! ユウタくん、来てくれたのね。そんなところに居ないで、こっちにおいで」



 視線に気づいてくれたのか、コゼットさんが、ちょいちょい。手招きをしてくれる。これで会話のきっかけはできたけど、常に無表情なミラベルさんが怖いよ……。



「朝から呼び出してごめんなさい。あなたにお願いしたい事があったの」



 ……逃げ場は無いか……。

 コゼットさんの声でこちらの存在に気づいたミラベルさんが、喧騒の中でも輝きを失わないアメジストの髪をなびかせ、そっと僕の前に屈む。

 そして、透き通る蒼い目で、僕をまっすぐ見据える。たったそれだけのことなのに、自然と背筋が伸びる。



「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。難しいことはお願いしませんから」


「そうそう。ミラベルさんはバカには厳しいけど、普通の人には優しいから安心して」



 全然安心できません!!! 僕はバカなんですぅ!!!



「……コゼット、私ってそんなに怖いかしら? まだ怯えられているようなのだけど……?」


「たぶんミラベルさんが、ボルドーさん達を折檻してたからじゃないですか? はたから見ると、かなりバイオレンスな光景でしたよ」


「なるほど、確かに幼い子供には刺激が強かったですね」



 そういう問題じゃ無いんだけどな……まあ、それで納得してもらえるならいいんだけど……。

 2人して頷きあうミラベルさん達。この人達が18禁でも止まらないグロ画像を生み出すんだもん。異世界は不思議がいっぱいだ。



「んんっ。誤解は少しづつ解いていくとして、本題に入りましょうか。──ユウタ君、貴方には救護班に協力していただきたいのです」


「ふぇ!? きゅ、救護班ですか!!」


「ええ。救護班です」



 言いながら手元の書類を一枚抜き取り、僕に差し出してくる。それを怖々と受け取り、内容に目を通すと──なるほど。僕に話が回ってきた理由がわかったよ。



「……そうですよね。セツナさんだけじゃ、色々な意味で不安ですよね」



 丁寧な字で書かれていたことを簡単にすると、『セツナさんが優秀なことは認めるが、性格に難がありすぎる。冒険者達から、モルモットにされそうで怖い!』 という苦情が来た。で、最近回復魔法を覚えた僕が、サポート兼監視役に選ばれたと……セツナさん。日頃の行いって、大切だと思います。



「ええ。私個人の意見としても数千人規模の戦闘で、救護班をセツナ1人に任せるのは不安です。一応協会や騎士団からも人員は派遣されて来ますが、彼らにセツナを制御できるわけがありません。そこで、白羽の矢が立ったのが君です」


「……なるほど。ものすごく納得しました。僕でよければ、喜んで協力します」


「ご協力ありがとうございます。後ほど正式な依頼書を発行しますので、サインをお願いしますね」



 抑揚の変わらない声でお礼を言い、僕から書類を受け取るミラベルさん。なんだかこの状況に巻き込まれて来ているけど、何も知らないよりましだよね。


 用件が終わったのか、コゼットさんと会話を再開させながら、ミラベルさんが立ち去ろうとすると、その背後から懐かしい人影が迫ってくる。



「ユウちゃん〜〜っ!!!!! 会いたかったです〜〜〜〜!!!!!!!」



 むぎゅう。圧倒的質量を持つ、この懐かしい柔らかさは──



「レーテさん! お久しぶりです!!」


「はい〜! 私ですよ〜、ユウちゃん!!! 寂しかったでしょう。思う存分甘えてください!!!!」



 3日ぶりに会ったせいか、レーテさんの温もりが懐かしい。

 今は緊急事態だとわかっているけど、無意識のうちに甘えたくなってしまう。これが包容力の違いか……!



「うふふ。そんなに一生懸命に抱きついて来て、やっぱり寂しかったんですね! 私もユウちゃんが恋しくて、毎日自分を慰めていたんですよ!!!」


「……レーテ、10歳の子供になんてことを言ってるのよ……」



 ぐりぐり。むにゅむにゅ。お互い寂しさを埋めるように、頰をこすりあう。レーテさんのこの感触。やっぱり落ち着くよ……。それにレーテさんの胸に顔を埋めると、帰ってくるべき場所に戻って来た気がする。


 周りからされているであろうツッコミを無視して、ひたすら抱き合う。たまにレーテさんの手が、僕の下半身を触ってくるけど問題ない!! 今はこの幸せを謳歌するんだ!!!



「あう〜、レーテさん……!」


「はぁはぁ……ユウちゃん……」



 レーテさんのミルクのように甘い香りを吸い込み、脳髄が痺れたように震える。もしかしたらレーテさんの抱擁は、麻薬のような中毒性があるのかもしれない。じゃなきゃ、こんなに抱きつきたくなるはずがないもん!!!


 はぁはぁ。と、耳元で熱っぽい吐息が溢れる。気になって顔を胸からあげると、うさ耳をピコピコ動かし、瞳をトロンとさせたレーテさんがいた。



「三日間もユウちゃん成分を補給していなかったせいで、理性が吹っ飛びそうだわ……! ユウちゃんも嫌がっていないですし、ここは最後まで行っても──あふん!!」


「何をやっているのですか!! こんな緊急事態に盛っていないで、早く装備を整えて来なさい!!!」



 スパーン! と、気持ちの良い音が耳元で聞こえる。どうやらミラベルさんが、書類でレーテさんを引っ叩いたみたいだ。



「でも〜、久しぶりにユウちゃんに会ったんですよ!! もっと堪能させて下さい!!」


「バカなこと言ってないで、こちに来なさい!! 貴方にはしてもらう事が山積みなんですからね!」



 ユウちゃん〜! と人を和ませるタレ目から涙を流し、ミラベルさんに連行されていく。僕も理性が飛びかかってたけど、やる事は凄いあるんだよね。名残惜しいけど、真面目に働かなきゃ!


 まだレーテさんの温もりが残る手を握りしめ、勢いよく立ち上がる。ミラベルさんの話だと、救護班を手伝うんだよね。それならセツナさんの所に行かなきゃ!!


 まだ会っていないシーシェさん達のことを考えながら、開け放たれた治療室のドアをくぐる。セツナさんのことだから、多分ここに居るだろうけど……。



「む? 少年か? 何の用か知らんが、今は忙しくてね。あまり構ってやれないんだ」



 予想は正しかったのか、いつもの三割増しでだるそうなセツナさんが、乳ばちを片手に視線だけ向けてくる。



「だからこそ手伝いに来ました。 ミラベルさんに頼まれましたし、正式な依頼ですよ」


「ふむ。それは助かるな。さっそくで悪いが、天露の霊草を煎じてくれ──」



 声に喜色を混ぜ、指示を飛ばしてくる。いつも足の踏み場も無いほど積まれている薬品は姿を消し、その代わりに箱詰めされたポーションが置かれていた。これだけの量を今朝から作らされたのなら、さすがのセツナさんでも疲れちゃうか……。


 今度甘いものを作ってあげようと心に決め、指定された霊草を鍋で煮込んでいった。




 ♢




「我らの街──アケディアを護るため集まった同志達よ!! 命の危険も顧みず、招集に応じてくれたこと感謝致します!!」



 無骨ながらも堅牢な城壁。その大上段に登ったミラベルさんの声が、思い思いの装備に身を包んだ冒険者達を、頭上から引き締めるように響き渡る。



「ギルドマスターが役に立たない為、今回も私が指揮を取らせていただきます!!」


「ちょ、ミラベルちゃん!? わしって、君の上司なんですけど!!」


「黙りなさい──さて、大まかな作戦ですが、貴方達が複雑なことを覚えていられるとは思っていません!! なので、私から言う事は1つです」



 半泣きになっている巨漢の男性を蹴り飛ばし、他を圧倒する凛とした声で続ける。

 誰も反応しないことから、ギルドマスターの扱いは普段からあんな感じなのだろう。不憫すぎる……。


 そして、言葉を一旦区切ったミラベルさんは、集まった冒険者達を見回し、艶やかな唇をもう一度開く。



「──蹂躙しなさい。我らの街を脅かそうとする魔物達を、一匹残らず駆逐する。それが貴方達の仕事です。周りの被害など気にせず、正面突破で魔王種の首を獲りなさい!!!!」


「「「「「ウオッシャーっっっ!!!!」」」」」



 城門前に集まった冒険者達が、熱に浮かされたように雄叫びをあげる。魂から絞り出された声は、自らを奮い立たせる勇気を。アケディアを襲われることに対する怒りを。そして──これから起きるであろう戦闘への期待が込められていた。


 総勢200人弱の冒険者達は、五千のゴブリンに立ち向かうとしても、誰も怯まず戦意を漲らせる。これがアケディア支部の冒険者か……! 普段は変態ばかりだけど、いざという時は頼りになる……!



「その意気やよし!! 間も無く魔物の群が目視できるはずです。それまで待機していなさい!!!」



 冒険者達の反応に満足そうに頷くミラベルさん。まだ仕事があるからだろうか、取り出した書類を片手に城壁の中に消えていく。興奮冷めやらぬ広場に、ミラベルさんと入れ替わるように1人の青年が現れた。



「てめぇら! 遂に、遂に俺たちの時代が来たぁぁぁぁああああ!!!!!」



 大地すら震わす大音声。バンダナにジーパン姿の青年は、冒険者達の注目を一身に集め、演説を繰り広げられる。



「お前らは忘れちまったのか!!! この前の大侵攻の時、結局騎士団に良い所を持って行かれた。その結果、何が起きたのかをっ!!!」



 問いかけるように、大仰な仕草で城壁の上を舞う。その大胆であり、魂を揺さぶる熱意に冒険者達も真剣に耳を傾ける。その反応に気を良くしたのか、饒舌な口調で再び口を開いた。



「そうだよなぁ。忘れていないよなぁ。なんたって──可愛い子をみんな持って行かれちまったんだからなっ!!!!」


『『『『『!!!!!!!』』』』』』


「騎士団のイケメンリア充共は『怪我は無かったかい?(キラ!)』とか恥ずかしげもなくのたまい、キャーキャー言われながら宿屋に消えていった──かわい子ちゃん達と一緒に……」


『『『『『…………………』』』』』



 青年の言葉に、この場にいるすべてのものが聞き入ってしまう。城壁前には戦闘前の緊張感とは別の雰囲気が漂い、その全てを青年が掌握していた。


 そして、完全に場を掌握した青年は、溜めに溜めた言葉を噴火するように吐き出し、



「許せるわけないだろうがぁぁぁぁあああ!!!!!!」



 血の涙を流しながら、堰を切ったように声を紡ぎ始めた。



「俺たちが殆どんの魔物を倒したのに、モテるのは騎士団の奴らだ!!! 俺たちがキモいと言われている間に、かわい子ちゃん達としっぽりやっているのは騎士団の奴らだぞ!!! やっていられるかぁぁぁぁぁぁああ!!!!」


『そうだよな!! やってらんねえぇよ!!!』

『ああ! 俺たちだって、美人のねえちゃん達と一発やりたいぜ!!!』


「……………」



 女性陣の冷たい視線を物ともせず、男達はひたすら盛り上がる。テンションが最高潮になろうとした時、青年が、すっと手を虚空に突き出す。



「落ち着けい! 騎士団の連中を粛清するのは後だ。今はやることがある。そう──この街を守る事だ!!」


『『『『『『!!!!!』』』』』



 ピタっ。邪な気持ちで盛り上がっていた男達が、水を打ったように静まり返る。しかし、その凪模様の広場に、青年が新たな起爆剤を投入した。



「この街は貿易都市だ。そのせいか、色んな国のかわい子ちゃんが集まっている。てめぇら、よ〜〜っく考えてみろ。この機会に街ごとかわい子ちゃんを守り、できる男アピールするんだ。そうすりゃあ──モテるぞ」


『『『『『!!!!!!!』』』』』


「そうだ!! 獣っ子美少女から、合法ロリのドワーフまでなんでもござれだ!!! 死ぬ気で手柄をあげて、好みのかわい子ちゃんと愛欲に溺れた一夜を過ごすんだ!!!

 ──今こそ立ち上がる時! 全ての雄よ! モテるために、そして、女と一発やるために死ぬ気で魔王種の首を取れぇぇぇぇ!!!!! そいつは間違いなくハーレム王になれるぞぉぉぉぉおお!!!!!」


『いよっしゃぁぁぁああああ!!!!!』

『ハーレム王に、俺はなる!!!』

『我らが愛すべき幼女よ!! 必ず迎えにいくぜ!!』


「………………」



 ズオオオ……。全ての男の気持ちが1つに合わさり、大気を揺るがすほどの熱量を生み出す。

 今や戦闘に対する恐怖は無く、いかにモテるかを本気で考えている。


 かくいう僕も、1人の男として立ち上がらないわけにはいかない!!! かわい子ちゃんよ、待っていてくれ!!



「よっしゃあ!! 開門だ!! かわい子ちゃん目指して、俺に続けぇぇぇぇえ!!!!」


『テメぇら! シキに遅れるんじゃねぇぞ!!』


『ガッテン承知!! この戦いが終わったら、酒場のシズエちゃんに告白するんだ!!』



 バンダナを巻き直し、青年が目前に迫っていた魔物の群に突入する。後続の冒険者達も、負けずと土埃をあげ突撃を開始した。その姿は勇ましく、瞳には雄としての本能が揺らめいている。

 ……異世界でも、男が行き着く場所は同じか。僕もこんなところで油を売っている場合じゃない!! 魔王種の首を取らなくちゃ!!!



「少年! 君のいくべき場所は、戦場では無く野戦病院だ。早くその箒をしまいたまえ」


「止めないでください! 僕も1人の男として、戦わなきゃいけないんです!!」



 ここで引いたら男がすたる!! 普段からメイド服を着ているせいで男の娘扱いなんだ!! これ以上男の矜持を失ってたまるか!!!


 顕現させた箒を握りしめ、戦闘を開始した冒険者に続こうとする。けど、思いのほかセツナさんの力が強くて、拘束を振りほどけない。普段引きこもっているはずなのに、何でこんなに腕力があるんだ……!



「まったく……。あのアホどもに感化されるんじゃない。君には君にしかできない役割があるだろう?」


「う……っ! それを言われると辛いです……」


「──ユウタ君。貴方まであの変態達と同類にならないで下さい。まともな人材は必要ですが、これ以上アホは求めていません」



 騒々しい広場の中であっても、凛とした声が鼓膜を震わす。

 どうやら、城壁の中からミラベルさんが出て来たみたいだ。それに気づき緩んだ拘束から抜け出して、ギフトを発動してメイド服へと転身する。



「……僕も男として、戦いに参加したいのです……」



 僕の戦装束といったら、残念なことにメイド服しかない。だからギフトを発動させることで意気込みを示そうとしたんだけど、ミラベルさんの表情が変わらなくて怖い。叱られるより、無言で見つめられる方が威圧感があるよ……。


 僕の言葉を聞き流しながらセツナさんに目配せをしたミラベルさんは、疲れたようにため息をこぼす。憂いを帯びた横顔も目を惹きつけられるけど、今は見惚れて無力化されるわけにはいかないんだ。



「………………」


「………………」



 喧騒に包まれている広場から隔離されたように、僕たちの間に深い静寂が降りる。今更後には引けないし、かといって説得できるとも思わない。まさに八方塞がりといった感じだ。どうすればいいかな……。



「…………はぁ。ユウタ君の気持ちもわかりますが、今は時間がありません。無理矢理にでもいうことを聞いてもらいます」



 いつまでも続くと思われた沈黙を破り、ミラベルさんがそッと足を踏み出す。



「どうして私の言葉より、あの汚物の言葉の方が心に響くのでしょうか? 理解出来ませんし 、理解したいとも思いませんが……」



 しゅん。と、僕を捕まえるために近づいたはいいけど、自分の言葉に凹んで勢い失う。そのまま教科書でよく見る進化論図を、逆再生したように蹲ってしまった。


 ええ〜……ミラベルさんもこういうタイプだったの……。



「あちゃ〜、鬱モードに入ってしまったか……。シキが演説を始めたあたりで予想していたが、この状況でなってしまうか」


「あ〜……、ちなみにセツナさんは、対処法とか分かりますか?」


「ああ。知ってはいるんだがね、今はそれをする余裕はない。となると自然回復を待つことになるんだが、普段毅然としている反動か一度折れると長いんだ」



 その言葉を証明するように、座り込んで地面にのの字を書くミラベルさん。うん、これは重症だわ。

 しかし、このまま放置するわけにはいかない。この戦いの総指揮を取っているのはミラベルさんなんだ。指揮官が行動不能になったら前線は崩壊してしまう。となると、どうにかしなきゃいけないんだけど……。



「うう……所詮私はいらない子なんです……」



 僕の手に負える気がしない。トラウマスイッチが完全に入っちゃってるよ!



「ミラベル。君はとても優秀な人間だ。自信を持つんだ!」


「! そうですよ、ミラベルさんはすごい人だと思います!! さっきの演説なんて、凛々しくて見惚れちゃいましたもん!!」



 現状を打破するべく、セツナさんに乗っかっる。こんなありきたりな言葉じゃ効果がないと思ったが、重力に完全敗北していた頭が少し上がった。後もう一押しだ!!



「ミラベルさんは、美人で仕事もできて憧れちゃいます!! アメジストの髪なんて、陽光を弾き煌めいて女神様みたいですよ!!」


「…………少年。君は意外とタラシなのかい?」


「違います! ツッコまないで下さい!!!」



 ちぃっ! セツナさんめ、余計なことを言ってくれたな……! このタイミングでツッコまなくていいじゃないか!!



「本当ですか? 本当にそう思っていますか?」



 セツナさんのせいで失敗したかに思われたが、意外と反応がいい。輝きを失っていた瞳には力が宿り、心なしか威厳が戻ってきた気がする。

 ギロッ! と、セツナさんを睨むと、罰が悪そうに頰をかき視線で謝ってくる。そして、そのままアイコンタクトをかわし、最後の一押しをする。



「勿論です!! ミラベルさんに嘘なんてつきませんよ!! ねっ、セツナさん!」


「ああ。私は君ほど有能な人間は見たことがない。もっと誇ってくれたまえ」


「…………ありがとうございます。少し、自信を取り戻せた気がします」


「「ふぅ…………」」



 なんとかなったかな? 確認がてらセツナさんに視線を向けると、Vサインで答えてくれた。これで一安心だろう。



「私と少年はケガ人の治療に行くとしよう。ミラベルも、仕事を頑張ってくれたまえ」


「ええ。任せて下さい。最上の結果を残せてみせますから」



 すっかり自身を取り戻せたようだ。いつも通りの凛々しさも復活しているし、これで心配はいらないだろう。

 キリッとした表情になったミラベルさんと別れ、仮設テントが建てられた一角に向かう。なし崩し的に連れてこられちゃったけど、今更戦いに行く気にはならないからね。大人しく自分の仕事をしますか……。



「少年よ。君の仕事はケガ人の傷の度合いの判断。できるなら応急処置まで頼むよ」


「分かりました。けど、冒険者の人たちは大丈夫なんですか? かなりの戦力差があるみたいですけど……」



 想像よりまったりとしている救護テントに入り、ずっと思っていたことを聞いて見る。だって、ミラベルさんの話が本当なら、200対5000という圧倒的に不利な状況だ。なぜか二千人居るという騎士団の人は後方支援で、前線に立って居るのは冒険者だけ。これって、捨て駒にされてない?


 そんな僕の心配を、セツナさんはあっけらかんと否定する。



「問題は無いさ。たかだか数千のゴブリン相手に、ウチの冒険者が遅れを取るわけがない。むしろ過剰戦力だ」



 当たり前だろ、と言わんばかりの口調。目の前で繰り広げられている乱戦を見て、カケラも負けると考えていないのだろう。さすがに不審に思って周りを見回すけど、他の人たちも同じ感想みたいだ。

 不思議なことに、戦闘が始まってから数十分経つのに負傷者が1人も来ない。だからみんな安心しているのかな?



「納得していないようだな。それなら、戦場をよく見てみるといい。私の言っていることが理解できるはずだ」



 したり顔で示された先を、ジッと見つめる。そこには、あり得ない光景が広がっていた。



「ぼ、冒険者の人達が、圧倒的に押している!?」



 そう。十倍以上の人数差があるにもかかわらず、冒険者たちが戦線を押し上げているのだ。常識破りにもほどがある。




「当たり前だ。このくらいの軍勢なら、最悪シキだけでも対応出来る。誠に不本意ながらも、あいつはこのギルドで二番目に強いんだからな」


「ええ! あの人って強いんですか!?」



 だって、セクハラしかしていないでしょ!! どうしてそんなに強いの!!?



「ああ。なんせあいつは、世界で20人しか居ないAAAランクの冒険者だ。その気になれば、騎士団の一個大隊を無傷で制圧できるぞ」


「冗談ですよね? 冗談だと言って下さい!!!!」


「そんなに信じられないかね? それならぜんせんをみてみるといい。私が言っていることが真実だとわかるはずだ」



 そう言われて、渋々視線を向けると──全てを圧倒するシキさんが居た。



「オラオラオラぁぁっ!!! 俺がかわい子ちゃんと、イチャイチャする為の生贄となれぇぇぇぇ!!!」



 キィィィン。全身に灼銀のオーラを纏い、魔物の群れに飛び込むシキさん。着地すると同時に、周囲にいたゴブリンが肉塊へと姿を変える。

 そして休む間も無く襲ってくるゴブリン達を、拳1つで打ち砕く。


 ゴシャッ! バキっ! グチョ! もはや残像しか見えない速度で繰り出される拳。ゴブリン達が隊列を成そうと、知恵を巡らせようと全てを屈服させる圧倒的な暴力の奔流。セツナさんの話が真実だと体現していた。



「ようやく納得したか?あの変態──シキ=グラドールは、煩悩を魔力に変えるという稀有なギフトを持ち、とどまることを知らない妄想力でAAAランクまで登りつめた天才だ。その溢れる性欲を持ち、あらゆる性犯罪を制覇したことを讃えられ【変態王】の二つ名を持つ男だよ」



 ……全く尊敬できない……というか、ただの犯罪者じゃん……。

 しかし、押し寄せる魔物達を蹴散らす実力は本物だ。現に今だって、



「ふははは! 俺に力を! 世界中のおねぇさん達よ、俺にエロという力をぉぉぉぉ!!」



 と、敵をなぎ払い続けている。尊敬できるかは微妙だけど、やっぱり強いな……。



「ふむ。それならあの黒ずくめの男を見てごらん。面白い光景が見れるはずだ」



 どういう事だ? もうお腹いっぱいなんだけど……。

 嫌な予感にかられながらも、視線を戦場の中央から左へと向ける。そこには、ポケットに手を突っ込んだ、顔まで隠した黒ずくめの男が所在なさげに立っていた。


 え? あのままだと危なくないかな……。


 僕の心配はもっともだと思う。現に、彼に向かって一列に並び、槍を構えたゴブリンが突っ込んでいく。

 統率の取れた動きで、一斉に槍を突き出すゴブリン。魔物ながら知能も持っているのか、勝利を確信し笑みを浮かべた瞬間──血を吹き出して四散した。



「あっははははは! 無様やなぁ! 愚かしいゴブリンのくせに俺に逆らうからこうなるんだ! クズはクズらしく、ゴミに返りやがれ!!!」



 血の雨を降らせるゴブリンを見て歓喜の声をあげる冒険者。……これじゃあ、どっちが悪者かわからないよ!!

 そんな黒ずくめの冒険者に、敵討ちとばかりにゴブリンが突っ込んでいく。今度は罠を警戒してか、全方向から波状攻撃を繰り返していく。


 ズシャァァ! あるゴブリンは落とし穴に嵌る。仲間のピンチにつられたゴブリンは、突如地面から生えて来た槍に貫かれ絶命した。



「どうした? ビビっちまったのか!? 獣のくせに怯えるんじゃねぇ!! 俺にもっと悲鳴を、憎悪を、苦しみを聞かせてクレェぇっ!!」



 黒ずくめの冒険者が奇声をあげるたび、ゴブリン達が凄惨な死を迎えていく。

 血飛沫が舞い、肉片は飛び散り、白濁した眼球が絶望を称え転がる。まさに地獄絵図だ。


 うわぁ……! このギルド最大のヤバイ人だ! フィクションの中じゃなきゃいないような、イっちゃってる人だよ……。僕はグロ方面は遠慮したいです。本当に危な過ぎるでしょ……。



「さすがに刺激が強かったか? 私としては、とても愉快な光景なんだがな」



 セツナさん、あなたもか!! ホントっ、なんでこんな人しかイナインダロウカ……。



「あの黒ずくめの不審者は、AAランクの冒険者ヨミだ。見ての通り罠にかけて生物を殺すことに快楽を覚える変態でな、ついた二つ名が【触れてはならぬ者】(トラップ・ボックス)だ。私的に一押しの冒険者だよ!!」



 そう嬉々としてグロい光景を実況するセツナさん。

 ……僕は心底理解したよ。このギルドには狂っている人しか居ないってことがね!!!!



「──総員突撃体制!! 冒険者が撃ち漏らしたゴブリンを掃討する!!!」



 この街の良心とも言える騎士達が、鈍色に光る甲冑を着込み城壁の前に整列する。

 ああ、あのまともそうな姿を見ると心が癒されるよ。それに騎士団が突撃するなら、そろそろ戦闘は終わりを迎えそうだ。


 勇ましい雄叫びをあげながら突撃するなら騎士団を眺め、1人遠い目をする。この狂気的な戦いも、終盤へと突入して行った──









些細なことでも構いませんので、感想をいただけると嬉しいです!!

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