邪な気持ちなんてないんです!!
できればバレンタインネタをやりたかったんですが、本編が進まな過ぎて番外編を書いている余裕がありませんでした……
「どうだ? 少しは落ち着いたか?」
「はい……」
椅子に座りなおし、入れてもらった紅茶を口に含む。ほのかに香るハーブがじんわりと体に染み込んでいく。
ああ……心が安らぐよ……。
「まあ、あれだ。例え攻撃ができなくても、君の魔力量とセンスは一級品だ。使い方に慣れれば大抵のことはできるだろう。今は前向きに自分の才能を伸ばすことを考えろ」
……セツナさんは優しいな。最初は無愛想な人だと思ったけど、ただ不器用なだけだったんだなぁ。
「ありがとうございます。セツナさんの言う通り、自分のできることをします」
「うむ。それが賢明だ」
ガタガタ。何やら引き出しを探るセツナさん。その内容量を明らかに上回るヘンテコなものを投げ捨て、何か探しているみたいだ。
何を探しているのかわからないけど、これ以上部屋を散らかさない方がいいんじゃないかな……。
ただでさえ足の踏み場もないのに、どんどん物が山積みになっていく。それにしても、見たことのないものばかりだな。ちょっと鑑定してみるか!
ギフトカードからモノクルを取り出し、宙を舞う物品を鑑定していく。どうか危険物がありませんように……
・ゴラッソの狂気。 ゴラッソ山に生息する生物の血を凝縮した薬品。死の恐怖が濃縮されたこの液体を使うと、一時的に精神を破壊し死を恐れない死兵を生み出す霊薬。遥か昔に戦争で使われ、現代では所持するだけで犯罪とされる禁忌の薬である。アヘンよりヤバいんだぜ!
・剛力の証。 あらゆる薬草を混ぜて偶然の産物として生み出されたドーピング剤。一時的に筋力を爆上げするが、代償として一生歩けない体になる。あまり使用はオススメしないぞ!
・ハイドリーマー。 妖精の涙をベースとして作られた霊薬。あらかじめ魔力でイメージを吹き込んでおくと、夢で全く同じものを体験できる。しかも現実と変わらない感覚を持つ事ができ、拷問やモテない童貞の妄想に使われる。ある意味世界最強の薬かもしれないね!
……ああ、ダメだ。まともな物がない。大体が使ったら社会的にも、肉体的にも死んじゃいそうなんだけど……。というか、セツナさん捕まっちゃうんじゃないの!
「──おお! あったあった! 普段使わないから、なかなか見つからなかったよ」
宝物を見つけた様に、高々と透き通る水晶を掲げる。こんな危険物の中に埋もれていたものだ。どうせろくなものじゃ無いんだろうな。もう疲れてきたよ……。
「少年よ。そんなしょぼくれた顔をしていないで、この水晶を見てみろ。これは魔法適性を調べる魔道具でな、各ギルドに一つしか支給されないレア物だぞ! 随分前にパクったのを思い出して引っ張り出したんだ! 早速試してみよう!!」
「ちょっと待って下さい!! 今、聞き捨てならない事が有りましたよ!!!」
「なんだ、騒々しい。つべこべ言わずに試してみろ」
なんでそんな平然としているんだこの人!! 明らかにまずいこと言ってたよね!!!
「……セツナさん。その魔道具は盗んだものなんですか?」
恐る恐る確認してみる。いくらセツナさんでも犯罪は起こさないよね? 僕の勘違いなんだよね?
おかしいほど汗が流れる中、ジッとセツナさんを見つめる。すると不思議そうな顔をしていたセツナさんは、ポン! と手を叩き、にこやかに、
「別に盗んではいないさ。ただ研究に使うからと言って、無理やり持ってきただけだ」
「アウトォォォォっ!!!」
ダメだよ! 借りパクしちゃってるよ!!!
「細かい事を気にするんじゃない。ギルドには変わりの水晶が支給されたはずだ。全く問題はない!」
「ありますよ!! 問題しかないですよ!! その自信はどこから出てくるんですか!!?」
「はん! 私の様に優秀な人材を手放す組織などないさ。そんなどうでもいいことは置いておいて、早くこの水晶に触れてみろ。面白いことになるぞ」
「……はぁ。分かりましたよ。どうせ何を言っても無駄でしょうし、さっさと終わらせちゃいます」
これ以上この人に言うことは無い。どうせ相手にしてもらえないもんね!
諦めにも似た感情を抱きながら、何者にも染まらず穢れのない水晶に触れる。拳大の水晶はヒンヤリとしていて、肌に吸い付く様だ。
なんだ。何も起こらないじゃないか。
肩透かしを食らった気がして、セツナさんに文句を言おうと顔を上げる。すると、呆然としているセツナさんと目が合った。
「どうしたんですか? そんな変な顔をして」
「……少年。君の目は節穴か? いや、この場合は感覚がおかしいのか……」
「? よく意味がわからないんですけど……」
「はぁ。その水晶に触れている手に意識を集中しろ。そうすれば、君の鑑定結果がわかる」
すごい罵倒されたけど、気にせず手に意識を集中する。すると、水晶から情報が流れ込んできた。
セツナさんを驚愕させる鑑定結果が出たんだよね。となると、今度はどんな奇天烈な結果が出たのかな?
不安と期待が混ざった不思議な高揚感を元に、頭の中に映し出された鑑定結果を見ていく。
適性 練金・鍛治・調薬・回復・治療・裁縫・生活・支援魔法
固有魔法 神奏演舞……歌や演奏によって様々な効果を発動させる。魔力量と演奏の技量によって効果の大きさも変わり、歌に込めた意味が力を持ち様々の恩恵を与える広範囲魔法。恥ずかしがって、小声で歌っちゃダメだぞ! カラオケのノリで逝くのだ!!!
水晶さんから一言。 いやぁ〜、見事に後方支援特化ですね! ここまでくると感動しちゃいます。貴方は他人とは違う特別な才能があり、それを生かすだけのポテンシャルも持ち合わせていますね。鍛錬を欠かすことなく、日々過ごして下さい!!!
追伸。 貴方の固有魔法は非常に強力です。特にギフトと併用することで、恐ろしい威力を発揮する事でしょう。悪用せず、人々のために使う事をオススメします!!! 力ね溺れるなよ!!
「……………………なんですかコレ?」
ツッコミたいことは山ほどあるけど、あえて一つ言わせてもらおう。何だこれ? 理解不能なんだけどっ!! 特に水晶さんからの一言って、水晶さん自我があったの!? だったらセツナさんに文句言おうよ!!! それに追伸って何だ! 小学生の頃の『あゆみ』を思い出したわ!!!!
「ふふ。少年も言葉を失っている様だな。それだけこの結果は衝撃的で、魅力的でもある。私は少年のことが欲しくなったぞ」
意味深な視線をセツナさんから感じる。けどね、僕とセツナさんじゃ驚いている部分が違うと思うんだ。これは確かめないと僕の精神衛生上よろしくない。問い詰めなきゃ!
「──セツナさん。色々聞きたいことがあります。冗談とかいらないので、端的に分かりやすく答えて下さい」
「ん? いいぞ。何でも聞くといい」
言質も取ったことだし、遠慮なく聞こう。今の僕に悠長にしていられるほど余裕はないんだ。
「まず、魔法適性についてです。なんで魔法の適性なのに鍛治とか裁縫があるんですか? 魔法じゃないですよね?」
「少年は知らなかったのか。珍しいが鍛治魔法や裁縫魔法は存在するぞ」
「え! あるんですか!?」
「もちろんだ。で、他には何が聞きたいんだ?」
出鼻をくじかれた感じだけど、まだ疑問は山ほどある。ここで挫けるな! 頑張れ、僕!
「じゃあ、固有魔法って何ですか?」
気合を入れ、再び質問をする。なんか水晶さんのコメントに色々書いてあったけど、わからないことが多すぎる。というか、水晶さんについても聞かなきゃ!! 忘れてたよ!!!
「固有魔法か。これまた珍しいんだが、その名の通り人それぞれ固有の魔法であり、唯一無二の魔法だ。全てが強力であり、特殊な効果を発揮すると聞いたが、私も所有者を見たのは初めてでな。よく分からないんだ。だから、自分で試してくれ。ちなみにレポートを提出してくれてもいいんだぞ?」
「それは遠慮しておきます。──あとは、水晶さんについて聞きたいんですが……」
パチ。とウィンクするセツナさんをスルーする。そんな可愛らしい顔したってレポートなんて出しませんからね!
僕の拒否オーラが伝わったのか、肩をすくめてやれやれとゼェスチャーをする。そもそも冗談だったのか、すんなり諦めてくれた。そして、真剣な顔に戻って、
「水晶さんについてか……。とうとう少年もこの世界の真実に触れるときがきたのか……」
意味深な発言をする。まだ出会ったばかりだけど、この人が芝居掛かった話し方をする時って、大概どうでもいいことなんだよな〜。
両手を組んでゲンドウポーズをとるセツナさんを冷めた目で見ていると、案の定ロクでもないことだったみたいで、
「そんな目で見ないでくれ。水晶さんについては全てが謎に包まれているんだ。私とて知っていることは何もない。そもそも水晶さんにコメントしてもらえること自体が稀なんだからな。研究のしようがないんだよ」
「……それならそうと、初めから言ってくれればいいのに……」
「少年よ。それは違うぞ。私は君のことを思って、こういう言い回しをしているんだ」
「本当ですか〜」
今までの言動を見るに、全く信憑性がない。口からでまかせなんじゃないかな?
「む? 信じていないなぁ。私は小粋なジョークで場を和ませようとしたんだ。感謝してほしいものだね」
「……あれは冗談だったんですか……」
多分世界一難解と言われる、ブリティッシュジョークより難しいんじゃないかな。
セツナさんも微妙な空気になっていることを察したのか目が泳いでいる。今まで周りにツッコム人がいなかったんだね。ボケ倒して話が進まないよ……。
気持ちを入れ替えるために、空になったカップに紅茶を注ぐ。そしてハーブの香りに癒されたのか、饒舌に戻ったセツナさんの解説が始まった。
「んんっ。少年には面白い話をしてやろう。君は回復魔法と治癒魔法があることに疑問を抱かなかったかね?」
「え! そう言われれば、何で二つあるか不思議ですね。意味合い的には同じに聞こえるのに……」
指摘されるまで気づかなかったけど、僕の適性にも治癒と回復があった。今まで正確な言葉の意味なんて気にしてこなかったから分からないけど、この2つの言葉の違いって何だろう? 気になってきた。
むむむ。と僕が悩んでいるのを見て、セツナさんが控えめな胸を張っている。すごく得意げだ。なんだかんだ言っても、この人は自分の知識を人に聞かせたいタイプの人なんだなぁ。説明している時もすごく楽しそうだもん。現に今も、嬉々として解説を始めてくれた。
「だろう? 実際にこの2つの魔法は一括りにされることが多い。けれど、明確な用途は分かれているのだよ。具体的に挙げるならば、治癒は病気に対して効果を発揮する。逆に回復魔法は、怪我を直すのに適しているのだよ」
この話を聞いて、思わず頷いてしまう。治癒と回復って、そんな風に分けられているんだね……。
「だが、これは広義の解釈でしか無い。一般人が認識しているように、治癒だろうが回復だろうが効果は同じだ。どちらかの方が効果が出やすいというだけで、全く効き目がないわけでは無いのだからね。それに最後は術者の腕と知識量がモノを言う。具体的には、その症状が発症した理由や状態・治療の明確なプロセス。これらを知識として蓄え、正確に想像することができなければ真に直すことなどできないのだからね」
色々一気に言われすぎて頭の処理が追いつかないよ……。ええっと、要約するとどうなるんだ? 治癒魔法と回復魔法はあまり違いが無くて、術者の技量と知識が回復量に直結すると。そう言うことなのかな……?
と言うか、結局どっちなんだ? セツナさんの説明だと、治癒と回復の差があまり分からないよ……。
「そんな考え込まなくていい。最悪症状が判らず効果的な処置ができなかったとしても、魔力を大量に消費することで何とかなったりするからね。大体まともな医療知識を持っている人間が少なすぎるんだよ。だから薬剤師が作る薬と魔法を併用するのが一般的なんだ。でないと完治なんてできないからね!」
あはは。とセツナさんが高らかに笑う。その姿は空元気を出しているようにも見えて、胸の奥がチクリと痛んだ。きっと、昔何かあったんだろうなぁ。
……僕の現代知識を使えば、かなり効果的な治療ができるんじゃ無いかな。この世界の魔法は万能では無いけど、かなり応用が効くみたいだ。幸いな事に僕は薬を作ることも治療をすることもできるんだから、この世界で役に立つことができるかもしれない。
それに、ちょっと思いついたことがあるんだよね……!
「セツナさん。試して見たいことがあるので、協力してくれませんか?」
「ん? 何か閃いたみたいだな。興味もあるし、喜んで手伝うさ!」
ふふふ……あっさりとオーケーをくれたね……! これで言質はとったよ! セツナさん、覚悟!!
「ひゃい! い、いきなり何するんだ!? 驚いたじゃないか!!」
「ごめんなさい。すぐ終わりますからじっとしていて下さい」
くすぐったそうにするセツナさんをなだめ、そのきめ細かい肌に手を触れる。どこが一番実感できるか考えて顔にしたんだけど、セツナさんの小さく整った顔に近づくとやっぱり恥ずかしいや。セツナさんも同じなのか、新雪のような肌がほんのりと赤みを帯びる。
手にセツナさんの体温を感じながら、魔力を練り上げていく。体の中に流れる力が変質していき、僕の思い描いた通りに効果を発揮する。
「──な! いったいどんな魔法を使ったんだ!? 」
「ただの回復魔法ですよ。まぁ、回復させるものが肌の潤いですけど」
水色に淡く発光する僕の魔力が、セツナさんの肌をモチモチタマゴ肌にしていく。僕だって詳しい原理を知っているわけじゃなけど、自己再生力を上げ、魔力で薬効成分を作り流し込む。そうするとあら不思議! 高須ク〇ニックもビックリのアンチエイジング効果!!
自分の肌の変化についていけてないのか、目を見開いたまま固まるセツナさん。
ふふふ……驚いているね! 僕も成功するとは思わなかったから、セツナさん以上に驚いているよ!!!
「──少年よ。君は本当に面白いな。こんな愉快な気分は久しぶりだよ。どうだ、このまま薬学についても学んで見ないか?」
「喜んで!! 時間の許す限り教えて下さい!!!!」
「よく言った! それでは、まずポーションの種類から──」
魔法が成功したことでハイテンションになった僕は、同じくハイテンションなセツナさんと薬草の山に埋もれていく。セツナさんが取り出した妖しげな薬草を受け取りすり潰す。時には煮込み、成分を抽出する。そんな作業を繰り返すうちに没頭していき、陽が暮れるまで調合をし続けていたのだった──
♢
「……それで、こんな時間まで調合をしていたんですか?」
「「はい」」
「……サランが何度も呼びにきても気づかないほど没頭していたと」
「「はい」」
「……はぁ。もういいです。ユウタくんはともかく、セツナさんはいつもの事ですからね」
勢いに任せて調合しまくっていたせいで、サランさんが呼びにきているのに気づかなかった。結果、それを聞いたコゼットさんが乗り込んできて、絶賛お説教中です。正座なんて久しぶりにしたよ……。
「それにしても、怒っているコゼットさんも可愛いな〜」
「ふぇ! い、いきなり何を言っているの! お世辞を言っても許さないよ!!」
しまった! 心の声が口に出ちゃった! お説教されている途中にこんな事を言うなんて、ふざけてると思われちゃうよね……。
案の定怒らせてしまった僕は、ビクビクしながらお仕置きを待っていると、意外なところから助け舟が出された。
「こ、コゼットさん……。そのくらいで許してあげたらどうですか? 反省しているみたいですし……」
「もう。サランは優しいんだから。まぁ、もう帰る時間だしね。このくらいで勘弁してあげましょう」
コゼットさんが隣にいる女性を見て、諦めたように目頭を抑える。
そして僕たちを救ってくれた女性は、小動物を思わせる守ってあげたくなるような雰囲気。しかしその印象とは裏腹に、身長は180センチ超え肩幅も広い。そして大きな体に比例して胸も大きく、僕が見てきた中で最大級のサイズだ。けど、最も目を引くのは、流れるような深紅の髪の間から主張する1本の角だった。
……っと、サランさんに見とれている場合じゃない! 今はコゼットさんに謝罪しなければ!!
「ありがとうございます。反省します」
「同じく。次から気をつけるとしよう」
「まったく……。反省しているのか怪しいんだから、もう。私は荷物を取ってくるから、サランとユウタくんはギルドの外で待っててね」
僕らが目をそらしているのを見て、色々と諦めたコゼットさん。颯爽とドアをくぐり、通路に消えて行ってしまった。
……ふぅ。助かったよ。コゼットさんは怒ると怖いからね、気をつけないと!
「すまないね、サラン。助かったよ」
「い、いえいえ。気にしないで下さい。大したことはしていませんから……」
しゅたっ! 手を上げてお礼を言うセツナさんに、恐縮したようにサランさんが答える。やっぱりおどおどした印象を受けるな。それに泣きぼくろがチャーミングで、見惚れちゃうな〜。って、惚けてないで、僕もお礼を言わなくちゃね!
「そんな事はありませんよ。サランさんのおかげで助かったんですから。きちんとお礼を言わせて下さい」
「あうぅ〜……恥ずかしいです……」
顔を真っ赤にして縮こまるサランさん。思わず抱きしめたくなる可愛さだ。ぜひお持ち帰りしたい。
「よっこらせっと! 私は後片付けをしなければいけないからね、見送りは無しだ。だが少年よ、時間が空いたらいつでも来るといい。歓迎するよ」
おっさん臭い声を出しながら、プルプルと立ち上がる。……セツナさん、足が痺れたんですね。
ガクガクと生まれたての子鹿のように足を震わせるセツナさんだが、なんでもない風に装っている。
指摘するのは簡単だけど、かわいそうだからやめとこう。それにここでダラダラして、コゼットさんに怒られるのは避けたいからなぁ。
「ありがとうございます! またセツナさんに会いに来ますね!!」
「っつ! 君と言う奴は……。楽しみに待っているよ」
「はい! また会いましょう!!」
「わ、私も失礼します……」
バイバイ! と手を振り治療室を後にする。今日はいろんな事を学べて楽しかったな〜。一応魔法も使えるようになったし、異世界の薬も作れるようになったからね。これでシーシェさん達を驚かせられるといいなぁ。
「た、楽しそうですね。何かいいことがあったんですか?」
「ふぇ。そんな風に見えましたか〜。でも、今日はいろんな初めてのことがあって楽しかったです!」
「ふふ。それは良かったですね。今日はボルドーさんにイジメられてしまったと聞いて、少し心配していたんですよ」
「ああ〜……ありましたね。セツナさんと居るのが楽しくて、そんな事は忘れてました」
そういえばそんな人居たよね。ミラベルさんに処刑されたらしいけど。
「そ、そうなんですか。セツナさんとはどんな事をしていたんですか?」
「う〜んと、魔法の練習をしたり、調合の仕方を教わっていました!!」
「ま、魔法が使えるんですか!? ユウタ君は凄いんですね〜」
「そんな事はないですよ! まだまだ簡単な魔法しか使えないですからね」
とりとめもない話をしながら、サランさんとギルドの外に出る。どうやらコゼットさんはまだ来て居ないみたいでその姿は無く、代わりに大通りは仕事終わりの人で溢れかえっていた。冒険者達もクエストを終えて帰って来たのか、魔物の皮やら牙を担いで続々とギルドの中に入って行く。
そんな人の流れを何気なく眺めて居ると、私服に着替えたコゼットさんが周りの視線を集めながら登場した。
「お待たせ〜! 着替えるのに時間がかかってしまったわ。お腹も空いたし早く帰りましょう」
2つ持っていたカバンの1つをサランさんに渡しながら、空いた手で僕の手を握ってくれる。反対の手が寂しかったのでサランさんの手を握ってみると、恥ずかしがりながらも握り返してくれた。
そんな和気藹々とした雰囲気で、石畳の街を進んで行く。仕事帰りの人を狙った屋台の食べ物に凄くそそられるけど、夕飯があるから生唾を飲み込み我慢する。買い食いと、美少女の手料理は比べるまでもないのだ。
2人の体温を感じながら幸せ気分でいると、五分もしないうちにコゼットさん達の家へと到着する。受付嬢の人達でシェアハウスをしているだけあって、華やかな印象を受ける建物だ。ピンク色の壁なんてそうそう見られないもんね。
「さ、遠慮せずに上がってね」
綺麗にガーデニングされた庭を通り、ドアから煌々と溢れ出す光の中に足を踏み入れる。そして輝きの奥にあったのは、2人の美少女が料理を並べている光景だった。
「おかえりなさい。ちょうど夕飯ができたところです」
「あら、おかえりなさい! 今日はお姉さんが、腕によりをかけて夕飯を作ったのよ! 冷めないうちに食べなさい!!」
僕たちをみると、温かく迎え入れてくれる2人の女性は少し対照的だった。最初に話しかけてくれた女性は、ライトブラウンの髪を赤いリボンで2つに纏め、小柄で真面目そうな印象を受ける。
逆にもう1人の女性はサファイヤの様に蒼い美しい髪を肩口で揃え、頼れるお姉さんといった感じだ。
そんな2人にコゼットさん達も笑顔で答える。
「ただいま。ベティのご飯は美味しいから、楽しみだわ」
「は、はい! 私も楽しみです!! でも、ついつい食べ過ぎちゃうのが難点ですけどね……」
「んふふ〜! そんな事を気にしてたら美味しいものは食べられないわよ!! 」
「まぁ、その通りよね。美味しいものほど太りやすいのが世界の法則だもの」
「──皆さん。いつまでも玄関で立ち話をしていないで部屋に上がってください。それにそちらの少年のことも、紹介してくれるとありがたいです」
淡々としたもう1人の女性の言葉に顔を見合わせたコゼットさん達は、『あはは……』と苦笑いを浮かべながら素直に従って行く。
その際にチラッと僕も見られたけど、とても不思議な目をした人だ。表情から何を考えているのか全く読めないよ。
「ユウタくんも、遠慮せずにこっちに来なさい。みんなに紹介するからね」
ちょいちょい。と手招きされ、コゼットさんの隣に座る。目の前のテーブルには色彩豊かな料理が並び、バランスの良い献立となっていた。シーシェさん達の食卓とは大違いだよ。
「じゃあ、みんなも知っていると思うけど、こっちの男の子がユウタくん。今日からシーシェ達が帰ってくるまで預かる事になりました。仲良くしてあげてね」
ベティさんの献立に感動していると、いつの間にか紹介されていた。
う……! 凄い見られているよ。これは下手な事は言えないな……。
「コゼットさんに紹介されたユウタといいます。不束者ですがよろしくお願いします!」
「わ、私はサランです! こ、こちらこそよろしくお願いします!!」
「礼儀正しい方ですね。私はヒルデガルトと申します。気軽にヒルダとお呼びください」
「あは! 面白い子だね〜。私はベティよ! お姉ちゃんと呼んでもいいからね!!」
僕の言葉にニッコリと微笑んだみんなは、丁寧に挨拶を返してくれた。優しい人達みたいだし、ここでも仲良くやっていけそうでよかったよ!
テーブルを挟んでほっこりとした空気で見つめ合う僕たちを見て、ウンウンと頷いたコゼットさんが、
「打ち解けたみたいだし、夕食にしましょうか!」
ぱん! 手を叩き食器を配る。そして全員に行き渡ったところで、待望の夕食が開始された。
「んん〜! 相変わらずベティのご飯は美味しいわね! 頰が落ちそうだわ!!」
「そうですね。見事な腕前です。感嘆に値しますね」
「は、ふぅ……。また食べ過ぎて太っちゃいます……」
「そうでしょう! 私の料理が美味しくないなんてありえないからね!!」
あははは。と腰に手を当てて高笑いするベティさん。なんというかお調子者って感じだけど、凄く親しみやすくて本当にお姉さんみたいだよ。
眩しいくらい明るいベティさんを見つめていると、目が合ってしまった。そしてイタズラっぽく微笑み、
「ユウくん。お姉ちゃんの料理はどうだったかな〜?」
と、問いかけてくる。もちろん僕の答えは決まっていて、
「──すっっごく美味しいです!!! 」
と、満面の笑みで答える。その言葉に偽りはなくて、特にこのラザニアなんて絶品だ。今まで食べたことの無いくらい美味い。写メを撮ってツイッターにあげたいくらいだよ!!!
「ふふふ〜! 当たり前よ〜!! この私が作ったんだからね〜!!」
僕の発言に満足したのか、ベティさんはニマニマ微笑み食事を再開する。その後は終始和やかな雰囲気で夕食は進み、あっという間に完食してしまった。
「ふぅ。ついつい食べ過ぎてしまいました」
「んふふ。私としては嬉しい限りよ〜!」
満足そうにお腹をさするヒルダさんに、ベティさんが抱きつく。
「2人とも仲がいいわね。私とサランで後片付けとお風呂の準備をするから、その間にユウタくんとも仲良くなっておいてね」
「了解しました。親睦を深めておきます」
「お姉さんにまかせなさ〜い! すぐにネチョネチョラブラブな関係になるわよ〜!」
「……ほどほどにお願いね。ユウタくんは子供なんだから、間違っても手を出さないでよ」
「だいじょう〜っぶ! お姉さんを信じなさい!!!」
「はぁ……。ヒルダ、ベティが暴走しないように見張っておいて」
「もちろんです。ベティを犯罪者にしたりしませんから」
ドン! 小柄な割にある胸を叩き、気合を入れるヒルダさん。ベティさんは不服そうに頰を膨らますが、サランさんも苦笑いしているし、ある意味ベティさんは信用されてないみたいだな。というか僕は、ベティさんに手を出されるのだろうか? それはそれで嬉しいんだけど……。
心配そうに僕らを見回していたコゼットさんは、疲れたようにため息をつき、名残惜しそうに廊下の奥へと消えていく。それを見送ったサランさんも腕まくりをして気合を入れ、ズラ〜っと並べられた食器を片付け始めた。
やっぱり僕も手伝った方がいいよね。居候の身だし、何か役に立たないと申し訳ないよな〜。
「サランさん。僕も何か手伝いましょうか?」
「ふえ!? そ、そんな気を使わなくても大丈夫ですよ!! ユウタ君はゆっくりしていて下さい」
「そうそう。ユウ君はこっちに来て、お姉さん達と親睦を深めるのだ〜!」
手伝おうとしたが、やんわりと断られてしまった。確かに慣れない場所で無理に手伝うのも邪魔だよね。ここは大人しく、ベティさん達と親睦を深めよう。
ピョンと椅子から降り、2人が座っているソファーまで近づいていく。それを見たベティさんはニヤ〜っと笑い、勢いよく立ち上がった。そして固まるヒルダさんを脇に退け、おもむろに僕に近づいてくる。
なんか嫌な予感がするんだけど……。だって、この手の人が楽しそうにしていると、大概録でも無いことを考え──
「うみゃ!」
「ふふふ〜! 捕まえたぞ〜!!」
予想通りいきなり僕を抱き上げ、そのままソファーに飛び込む。
ボスん! 2人分の体重が合わさり、ソファーが大きく波打つ。姿勢正しく座っていたヒルダさんは、ピシッとしたまま数センチ浮かび上がってしまった。
「ほほう。これがシーシェちゃん達を魅了する少年か〜。確かに肌がプニプニで可愛いわね! それに何かいい匂いもする〜♪」
「にゃ! 匂いを嗅がないで下さい!! 服を脱がさないで下さい!!!」
なんで服を脱がすのがこんなに上手いの!? 抵抗してもスルスル剥ぎ取られちゃう!!
「良いではないか〜良いではないか〜!」
「あうぅ〜……恥ずかしいです!! これはセクハラですよっ!!!」
「むふふ……。固いこと言わないの! お姉さんと裸で語り合いましょう!!」
自分の服も脱ぎながら、なおも僕の服を剥ぎ取ろうとするベティさん。すでに上半身は裸で、僕の顔よりも大きい胸が外気に晒されている。
組み敷かれるような格好になった僕は、瞳をトロンと蕩けさせたベティさんと見つめ合う。その時に、桜色の突起が目に入って、思わず目をそらしてしまった。
「──隙あり!!」
その僅かな隙を見逃さず、僕の社会の窓をベティさんが突破する。その際に前かがみになったせいで、ベティさんのはち切れそうなおっぱいが僕の顔を押し潰す。
や、やばい……! このままでは僕の貞操が危ない!! けど、ベティさんのおっぱいが気持ちよすぎるよぉ!!! 抵抗できないぃぃぃぃ!!!
フヨフヨと僕の顔を覆い尽くす魅惑の感触。これに抗える男はいない!! なんかこのまま流されてもいいかな……。
「あらら〜? ユウ君もその気になって来たかな〜? 抵抗が弱くなって来たぞ〜??」
イタズラっぽく僕のお腹を、ベティさんが撫でる。触られたところからゾクゾクと快感が駆け抜け、ふみゃ〜……! っと、熱っぽい吐息が零れてしまう。
そしてこの世界に来てから、全く反応の無かった息子が遂に目覚めの時を迎える。
「お、おお〜? なかなか立派なものをお持ちのようですね〜? 本当に子供なのかなぁ?」
「ううっ……ぐしゅ! 恥ずかしいです……見ないで下さい……」
「はうっ……! よく男の子が無理やりするのは興奮するって言ってたけど、その気持ちが今わかったわ! ユウ君が可愛すぎて、私の中に眠る情欲が爆発する!!」
ギュ〜ッと僕を抱きしめ、はぁ、はぁ。と浅い呼吸を繰り返すベティさんは、遂にパンツ一枚になってしまう。そして僕の顔から体をあげ、お腹の上に馬乗りになる。
「んふふ〜! たまには美少年もいいわね〜! 初々しくて高まっちゃうわ!!!!」
妖艶に微笑んだベティさんは、ちゅっ。唇が触れるだけのキスをした。
あ、あわわわわ……! い、今何が起こったの!!!! ふぇ!? 僕は大人の階段を上っちゃうの!!?
「さあ、ユウタ君の大切な場所を見せてもらおうか──あいたぁ! 何をするの!!」
スパァン! 爽快な音が響きベティさんが張り倒される。その背後には、顔を真っ赤にしたヒルダさんが肩を怒らせ仁王立ちをしていた。
「貴方は何をしているんですか!! 恥を知りなさい!!!」
ふぅ……ふぅ……、と呼吸を整えるように短く息を吐き出す。そして豊満な乳房を隠そうともしないベティさんを、修羅のごとき形相で睨みつけるヒルダさん。常人ならその視線を向けられただけで失神しそうだが、ベティさんはビクともしない。そして詫びれることもなく、
「ただユウ君の初めてを貰おうとしただけなのに〜。ヒルダが過剰に反応しすぎなんだけだよ〜!」
「そんな事はありません! 幼い子を手篭めにするなんて犯罪です!! それくらいわかるでしょう!?」
「ええ〜。ヒルダもユウ君を見たらムラムラしない? めっちゃ可愛いと思うんだけど」
「うっ! それは同意しますが、それとこれは話が違います。私は道徳や倫理について説いているのです!!」
「そんなものユウ君の可愛さの前には無意味だよ! ──それに、ヒルダも興奮しているんじゃない? その証拠に足元が湿ってるよ!」
「ち、違います!! これは汗です!! 断じていやらしい理由などないのです!!!」
ワタワタと手を振り回し、必死に足元のシミを誤魔化そうとするヒルダさん。ようやく落ち着いて来た僕は、服装を直しながらそれを観察する。
……なるほど。確かにベティさんの言う通りだな。
「ふっふっふ〜! 反応が初々しいねぇ〜、さすがは処女だね!!」
「〜〜〜っっっ!!!!」
ぼん! 頭から煙を出し、もはや喋ることもできないヒルダさん。可哀想に、このままじゃベティさんのオモチャにされちゃうな。同じ被害者として、フォローしておこう。今回の事は僕の一人勝ちな気がするし、少しぐらい還元しなきゃね!
「ベティさん。そのくらいにしてあげて下さい。ヒルダが可哀想ですよ」
「ええ〜! ユウ君はノリが悪いな〜。もっと弄ろうぜ!」
「ダメです。僕はヒルダさんと、ベティさん被害者同盟を結成しますから」
涙目になって座り込んでしまったヒルダさんに抱きつく。ふえっ!? とクールなヒルダさんからは考えられないような可愛い声が漏れ、さらに愛おしさがこみ上げてくる。
僕も高校生の時、先輩に弄られて同じような思いをしたからね。ヒルダさんの気持ちが痛いほどわかるよ。こういうのは耐性がないと、夢に出るくらい黒歴史になるからね〜。僕も何度思い出し悶えをしたことか……昔が懐かしいよ……。
追憶にふけっていたら、ヒルダさんのことを忘れてた。そのせいで強く抱きしめすぎて、腕の中のヒルダさんが茹ってしまっている。
「むふふ。ユウ君も隅に置けないね〜! あの堅物ヒルダを籠絡するなんてビックリだよ!! 今週のベティちゃん大賞をあげよう!!!」
「ものすごく不本意なので遠慮しておきます。というか、そろそろ服を着ないと風邪をひいてしまいますよ」
「ほいほい。振られちゃったことだし、大人しくいうことを聞きますか〜」
軽い調子で脱ぎ捨ててあった服を取り、わざと僕に見せるように、一枚一枚ゆっくりと着ていく。その扇情的な光景に、反射的に前かがみになってしまう。美少女の生着替えを見て反応しなかったら、それは男として終わっていると思うんだ。だから僕の視線が、ベティさんに釘付けになってもおかしくは無いんだ!!!
一度リミッターが外れたせいか、エロに対する遠慮がなくなってきた。そのせいで見事に手玉に取られてしまっているユウタだが、ヒルダが自分の胸でユウタの視界をふさぐことで対抗する。
「──ベティ。これ以上ユウタを誘惑しないで下さい。ユウタは私と一緒に、お風呂に入ってから寝るんですから」
「ああん。釣れないわねぇ〜。お姉さんも混ぜてよ〜」
「ダメです。貴方はユウタの教育に悪すぎます。自粛して下さい、この歩く18禁が!!」
珍しく語気を荒げ、ユウタを抱きしめたまま風呂場に消えていくヒルダ。それを温かい眼差しで見送ったヒルダに、入れ違いでリビングに来たコゼットが胡乱な視線を投げかける。
「……いったい何をしたのかしら。ユウタくんもヒルダも、随分とおかしくなっていたけど」
わかりきっているだろうに、この友人は確認するように問いかけてくる。それに、いつもと同じように、
「べっつに〜! ただ美味しそうな美少年を味見しようとしただけだよ!!」
おちゃらけて返す。普段ならこれで怒られて終わるのだが、今日のコゼットは真剣な表情をしたまま反応しない。こういう時の彼女は、こちらも真剣に接しないと返事も返してくれないのだ。
「はぁ……。わかったわよ。真面目にあの子について感じたことを話すわ」
多分コゼットは、あの少年──ユウタを私に見極めて欲しかったんだと思う。でなければシーシェ達の頼みでも、見知らぬ子供を預かるわけがない。それに、コゼット自身にも感じるところがあったんでしょうね。
さっきはふざけていたけど、コッソリギフトを使ってユウ君の魂を探っていた。私のギフトは、対象と心が近いほど効果を発揮するから、色仕掛けが手っ取り早いのよね〜。趣味が入っていた事は否定しないけど!
あら、話が脱線してしまったわ。そのせいかコゼットの視線が冷たいし、ここからはシリアスで行きましょう。
「ユウ君はとても不思議な魂の色をしているわ。具体的には年相応の純粋さと、長い年月を生きて来た経験による思考が混ざり合っている。こんな魂の形をしている人は見たことが無い。正直に言って、危険だわ」
「………………そう。貴方が言うなら間違いは無いわ……」
本当は認めたく無いだろうに、私の言葉だからって無理やり納得しようとしている。はぁ、時々この友人の信頼が重いわ。けど、それに応えるためにも、最後まで話さなければいけない。
「もう。素直に受け止めすぎよ。少しは自分の直感を信じなさい! ユウ君の力は危険だけど、あの子本人はいい子よ。私が思わず手を出したくなるほどにね!!」
「…………はぁ〜……。貴方にはいつも振り回されえてばかりね。──でも、その言葉が聞けてよかった。いつもありがとうね」
「っ! まったく……私の方こそ貴方には敵わないわよ……。ふぅ、少ししんみりしちゃったし、一杯やらない? ヒルダはユウタ君と寝ちゃうだろうし、サランを入れて三人でさ!」
「いいわよ。今夜は思いっきり飲むからね! 覚悟しなさい!!」
「おお! やる気ですなぁ。それならとっておきのワインを開けちゃうぞー!!」
珍しくコゼットが付き合ってくれるんだ。今夜は思いっきり飲まなきゃ! 私たちの新たな友人と、変わりなき友情のために──
今回は調子乗り過ぎましたかね? 少し欲望に忠実になり過ぎたかも……




