お泊まり会は突然に
……あれ、僕は何をしていたんだっけ……。
ふわふわと自分が目覚めているかも曖昧な感覚。泡の様に思考が浮かんでは消えていき、結局は心地よい睡魔に身を任せてしまう。そうした夢の狭間を漂っていると、自分が温かいものに包まれていることを自覚した。
この心地よくて、プニプニしたものは何だろう? 触れていると、すごく安心するよ……。
体は疲れからか痺れて動かないが、心は羽が生えたように軽い。そんな不思議な状態を楽観的に受け止めていると、ようやく頭に血が回り思考が加速する。
……まてよ。昨日僕はどこで寝たんだ?
確かギルドの酒場で働いて、ギフトを全力で使ったことまでは覚えている。でも、それ以降の記憶がスッポリ抜けていた。一体僕はどうなったんだろう? そもそも家まで帰れたのかなぁ。
意識がはっきりしてくるにつれて、不安がムクムクと膨れ上がる。このまま呑気に寝ている場合じゃないし、速やかに起きなきゃ!
「──んん〜? ユウちゃん? 起きたんですか〜?」
体を起こそうとモゾモゾ動いていたら、眠そうに瞳を擦るレーテさんと目があった。どうやらあの心地よい感触は、レーテさんに抱きしめられていたおかげみたいだ。朝からご馳走様です。
「はい。おはようございます。昨日僕はどうしちゃったんですか?」
「うん? ユウちゃんはギルドで働き過ぎて、疲れて寝ちゃったのよ。それでシーシェが運んできたの」
「なるほど……また迷惑かけちゃったみたいですね、ごめんなさい……」
調子に乗って動き回り、挙げ句の果てには寝落ち。僕って、何てダメなやつなんだ……!
「そんな事はないですよ。エルネスタやコゼットも感謝していましたし、ユウちゃんは誇って良いんです」
「れ、レーテさん……! ありがとうございます!!」
こんな僕を慰めてくれるなんて、なんて天使なんだ! 後ろに純白の翼が見えるよ!!
穏やかな印象を与えるタレ目は優しく細められ、ただ僕を見つめている。
この笑顔を見たら疲れなんて吹っ飛ぶよ!! まさにプライスレス!!
今なら少しぐらい調子に乗って良いよね? 良いですよね!?
ふかふかのベッドに両足を沈めこみ、力を溜めていく。レーテさんが不思議そうな顔をしているけど、臨戦態勢に入った僕には関係ないのさ!
「──とうっ!」
「え! ──きゃぁ!」
胸の奥から湧き上がってくる衝動のままに跳躍する。そして可愛らしい悲鳴を零した、豊満なレーテさんの胸に向かってダイブする。
ぽふっ! 直後に衝撃的に柔らかいものに全身が包まれた。特に顔の辺りにある2つの膨らみがやばい!! どこまでも沈んでいく様だ!!!
「うみゅ〜〜っ!! レーテさん!!」
「うぇ!? いきなりどうしたんですか!!? 確かに私としてはいつでもウェルカムですけど!!!」
顔をレーテさんの顔に擦り付けるたびに、極上の癒しとミルクの様な香りが僕の肺を満たす。
僕が小柄なせいか、体全体をスッポリとレーテさんが抱きしめてくれて、さらに幸福感が増す。
「レーテさんを見ていたら我慢できなくなっちゃて……ダメでしたか……?」
「いえ! ダメなんて事はないですよ!! むしろもっと甘えて良いんです!!!」
「本当ですか! それなら遠慮無く甘えさせてもらいます!!」
その言葉通り胸の形が変わるほど、むぎゅ〜っと抱きつく。なんだかんだ言っても、僕も一日一回誰かに甘えないと不安なのかもしれない。こっちの世界に来てから頼れるのは皆しかいないし、自分でも知らないうちにかなり依存していたみたいだ。
「本当にユウちゃんは可愛いんだから! ──だからこそ、2日も会えないなんて我慢できません!!」
「ふぇっ! それってどういう事ですか!!」
レーテさんの胸に溺れていると、無視できない発言を耳が捉える。
2日も会えないってどういう事!! まさか僕は置いてかれるの!?
「うう〜、そんな悲しい顔をしないでください。私も寂しいんですから! でも、流石にこの依頼を断るわけにはいきませんし、苦渋の決断なのです!!」
「それって、昨日頼まれたっていう調査依頼が関係あるんですか?」
「そうなんです。いろいろ面倒くさい事になってしまって、少し遠出しなくちゃいけないんです」
やっぱりか〜。レーテさん達は優秀な冒険者だ。昨日見た限りギルドには優秀だけど癖のある人が多かった。だからこそ常識的であり、なおかつ実力のあるレーテさん達が依頼をされるのはしょうがないんだけど……。寂しいものは寂しいよね……。
「うう〜っ、せめてギルドに行くまではユウちゃんを離しません!! 思う存分甘えてください!!」
僕が黙り込んでしまったのを心配したのか、レーテさんが抱きしめる力を強める。寝間着の薄い布地に包まれた瑞々しい肌。そしてレーテさんの温もりとともに届く心臓の音が、僕の心を溶かして行く。
ちょっぴり恥ずかしいけど、まだまだ甘えさせてもらおう。やましい気持ちがないといえば嘘になるけど、それ以上に安心感の方が大きい。変に恥ずかしがらない様にしよう!
「はい! レーテさんと一緒にいます!!」
「はぅ! 萌えます! これは萌えます!! 気を抜いたらキュン死にしちゃいそうです!!!」
いやんいやんと悶えるレーテさん。それに僕が萌える。その延々ループに突入した僕らは、『朝ごはんだよぉ!』と、シーシェさんが呼びにくるまでイチャイチャしていたのであった。
♢
「もう! いつまでくっついてるの! ギルドに着いちゃったじゃない!!」
「そうカッカしないでください。私は限界までユウちゃん成分を摂取しておかないと、禁断症状が出てしまいますからね。これは仕方がない事なんです」
「それなら私も補給する!! 少しで良いからユウタ君を渡して〜!」
あの後、結局離れることのできなかった僕らは、ギルドに向かい歩いている今もくっついている。それがシーシェさんにはお気に召さなかった様で、レーテさんとじゃれ合っていた。
『僕んために争わないで!』とかギャグで言おうかと思ったんだけど、シャレにならなさそうだし辞めておく。2人とも表面上は笑っている様に見えるけど、目に光が灯っていないんだもん。下手なことを言うと面倒くさい事になりそうだ。
「お前達、いい加減にしとけ。もうギルドに着いたぞ」
心底呆れた様にイルザさんが嗜める。その言葉通りギルドに到着していて、周りの冒険者から視線を集めていた。それに気づいたのか2人もバツが悪そうに目を逸らす。
ふぅ、丸く収まって良かったよ。僕もかなり恥ずかしかったからね。ようやく一息つけるよ。
「全く……。私は馬車と荷物の確認をしてくるから、お前達はコゼットの所に行け」
「了解! そっちは任せたよ!!」
「ああ。ディア、こいつらだけだと不安だから見張っといてくれ」
「……うい……お守りは任せろ……」
颯爽と去るイルザさんに敬礼してから、ディアさんが先頭になってギルドに入って行く。やはり朝は混んでいるのか、大勢の冒険者が列を作っていた。
昨日コゼットさんに聞いたんだけど、普通冒険者の人は朝のうちに依頼を探す。またはギルドが出している素材のレートを見て、何を狙うかを決めているらしい。
でもシーシェさん達は最初から受ける依頼が決まっているので、まっすぐに受付に歩いて行く。本当なら並ばないといけないんだけど、今回は特別扱いで直ぐにコゼットさんが対応してくれた。
「おはよう。手続きは全て終わっているわ。必要な物も馬車に積んであるから確認してちょうだい」
「ありがとう! さすがはコゼットちゃんだね。仕事が早いよ!!」
「ふふ、ありがとう。今回はかなり危険だと思うから気をつけて行くのよ。あなた達にはユウタくんがいるんだからね」
「もちろんだよ!! ユウタくんを路頭に迷わせたりしないもん!!」
「……そうそう……まだまだユウタをいじり足りない……だから1人にしたりしない……」
「うふふ! 全てをなぎ倒して、直ぐに帰ってきますよ!!」
「その様子なら大丈夫そうね。──絶対に無事に帰ってきなさい」
いい笑顔で頷きあう4人。なんか僕がヒロインポジションみたいになっているんだけど、普通は立場が逆だよね! ピ〇チ姫の気分ってこうなのかなぁ……。
ともあれみんなが危険な依頼に行くのには違いない。残された僕はしっかり家を守らなければ!! それにギフトの訓練もして見たいと思っていたし、秘密の特訓でもやってみるかな。今のままじゃ、ただのお荷物だからね。
「コゼットちゃん。私達がいない間はユウタくんをお願いね」
「ええ。責任を持って預かるわ。──と言っても、ユウタくんは1人でも大丈夫そうだけどね」
「そうでしょうけど、やはり1人で家に残すのは心配です。最近は物騒ですからね」
「……ユウタはギフトのせいで戦えない……近くに頼れる人がいなきゃダメ……」
ん? 話が変な方向に進んでいるぞ。僕はシーシェさんの家に1人で残るんじゃないの? でないと家の管理ができないし、何より住む場所がない。流石にこの歳でホームレスはキツイよ。
当事者であろう僕を除いて、4人の会話は進んで行く。
……むむ〜。ここは一回確認したほうがいいかな。かなり考えている事に違いがありそうだしね。
「──あの〜! 僕はシーシェさん達がクエストに行っている間、家に1人で残るんですよね?」
「「「「………………」」」」
僕の言葉になにやら打ち合わせをしていた4人が一斉に振り向く。そして瞳は大きく開かれ、その驚愕が伝わってきた。
そんなにおかしいことを言ったかな? 至極まともなことを言ったはずだよね……。うん、そのはずだ。今はいきなり言ったから反応がないだけで、もう一度確認したら大丈夫なはず!
「僕が皆さんの留守の間、家の管理をするんですよね。──え? あれ!? 違うんですか!!?」
「「「「違うに決まっているじゃない!!!!」」」」
違うの!? そんなに綺麗にハモるほど違うの!!?
今度は僕が驚きのあまり固まってしまう。しかし、そんな僕をよそに、皆んながありえないといった様子で次々に否定していく。
「大切なユウタ君を1人で残すわけないじゃない!!!」
「そうですよ!! ユウちゃんは可愛い上に、【神々の寵愛】を持っているんです。いつ狙われたっておかしくないんですよ!!!」
「……幼い子を何日も1人にするはずがない……これ常識……」
「ユウタくんはしっかりしているけど、意外と抜けているところもあるのね。ちょっと予想外だったわ」
……そんなに全力で否定されるとは思わなかったよ……。それにシーシェさんの必死な顔、初めて見た。それほど僕の発言はおかしかったのか……。
「ごほん。シーシェ達が伝えていなかったようだから私が言うけど、彼女達が留守にしている間はユウタくんを私が預かります。正確には受付嬢のみんなで、お金を出し合っているシェアハウスでだけどね」
「え!? いつの間にそんな話になってたんですか!!」
「ユウタくんが寝ていた時よ。知らないのも無理はないわね」
悪戯っぽく微笑むコゼットさん。その表情を見た周りの冒険者から、ほぅ。と熱が篭ったため息をしている。
確かにそれも衝撃的なんだけど、僕が驚いているのはそこじゃないんだよ!! つまり、この状況は
──お泊まり会って事じゃないですか!!!
全国の男子諸君。よく考えてみてくれ。ギルドの受付嬢は一般人へのアピールと、気性の荒い冒険者を抑えるために美人しかいない。その選りすぐりの美少女達がいる秘密の花園に泊まれるなんて──
「マーベラスっ!!!!」
「「「「「ユウタくん!!!?」」」」
おっと! 興奮しすぎて声が出ちゃったよ。危ない危ない、このままじゃ僕のエロイ欲望を抑えられない!! 精神統一をしよう!! ……え〜っと、お風呂上がりの濡れた髪。そして透ける肌。普段見せない隙だらけの姿。
……ダメだ。思考がエロに染まっている。違うことを考えて気を逸らさなきゃ!!
「な、なんかユウタ君が黙り込んじゃったよ……」
「そうね、やっぱりよく知らない人の家に止まるのは不安なのかしら?」
「……しっかり者に見えてもまだ子供……しょうがない……」
「ユウちゃん〜! 大丈夫ですからね!! 心配しないで下さい!!!」
む? 般若心経を唱えていたら、すごい心配されてる。そんなに危ない人に見えたかな?
「? 僕は大丈夫ですよ。ちゃんとコゼットさんに迷惑をかけないように気をつけますし、二日間いい子にしてまっています」
「そう。なら良いんだけど……」
不服そうだが、なんとか納得してくれる。これから危険な仕事に行く人に不安材料を残したくないからね。軽率な行動は控えよう。
「──お前ら遅いぞ! とっくに準備は終わっているんだ。早く来い!!」
突然の怒声に気づいて振り返ると、そこには苛立ちを隠さないイルザさんがいた。
「ごめ〜ん! つい話し込んじゃったよ。今から行くよ〜」
「まったく。女というものは話が長くていけない……」
あなたも女性だと思うんですけど……。
「あはは……。これ以上別れを引き伸ばしても辛いだけですし、振り返らずに行きましょうか」
「そうだね〜! その方がいいかも! ──ユウタ君、行ってくるね!!」
「……コゼットに食べられないように気をつけるんだよ…………」
「ユウちゃん!! お元気で!! うわぁ〜ん!!!!」
「はぁ……。ユウタ、お前なら大丈夫だと思うが体に気をつけろよ」
順番に僕の頭を撫でながら別れの言葉を口にして行く。今回のことも突然聞かされたけど、出発する時まで嵐のような人達だ。
でも、この騒がしさがとても愛しく感じる。この人達が無事に帰ってくることを心から願うよ。そしてこの日常をずっと続けられたら幸せなのに……。
──おっと! しんみりしちゃったなあ。旅立ちは笑顔で送らなきゃ! みんなに負けないくらい元気な声で、
「ありがとうございます!! 皆さんも体に気をつけて、無事に帰ってきて下さい!!!!」
馬車に乗り込みながら手を振ることで答えてくれる。そしてガタゴトと土埃を立てながら、4人を乗せた馬車が雑踏の中に消えて行く。それを僕は見えなくなるまで手を振り続けた──
♢
「あう〜……行っちゃいました……」
街の喧騒の中に消えてしまった4人の、見えない姿を思い浮かべ気のない声がこぼれてしまう。
案外寂しいものなんだな……。
「寂しがらなくても大丈夫よ。ギルドには私もエルネスタさんもいるからね」
慰めるようにコゼットさんが僕の頭を撫でてくれる。
今日からこの人のお世話になるんだし、心配をかけないようにしなくちゃ!! とりあえずは、昨日みたいに仕事を手伝おう!
「ありがとうございます! それで、僕は何を手伝えばいいですか?」
「うん? そうね、今日は仕事の前にギルドについて説明しましょうか」
そう言ったコゼットさんに連れられ受付の奥の休憩室にはいる。こじんまりとしているが、キッチンも付いていて居心地は良さそうだ。
「今お茶を入れるから、好きなところに座って待っててね」
促されるままに目についた椅子に座る。おっ! 予想以上にフカフカだ。なんか校長室とかにありそうな椅子だなぁ。
「お待たせ。まだ熱いからゆっくり飲んでね」
「ありがとうございます。いただきます!」
ホカホカと湯気を立てる紅茶。いや、多分ハーブティーかな? をカップを傾けゆっくりと口に含む。丁寧に蒸らして入れられているせいかすごく繊細な味がする。お茶も上手く入れられるなんて、僕の中のお嫁さんにしたいランキングで上位入選だよ!! ちなみに1位はシーシェさんです。
「飲みながらでいいからリラックスして聞いてね。ユウタくんはシーシェ達が普段どんな仕事をしているか知らないでしょう? いい機会だし、ギルドのことも纏めて説明しようと思うの」
……なるほど。その気遣いはすごくありがたい。昨日ギルドの仕事を手伝ったとはいえ、僕はこの施設のことをほとんど知らない。知っているのは書類の位置ぐらいだ。
きっとこれから関わっていくんだろうし、ギルドのことを知っていた方がいいだろう。
「よろしくお願いします。僕も知りたいと思っていたんです」
「そう? なら丁度良かったわ。少し長くなるけど、質問は最後にまとめて聞いてね」
そう前置きしたコゼットさんは一度深呼吸してから、何度も繰り返したように淀みなく説明を始めた。
「まずは冒険者ギルドについてよね。ユウタ君も昨日窓口にいてなんとなくわかっているだろうけど、冒険者ギルドは何でも屋みたいなもの。お金次第で違法なことを除いてどんなことでもこなす集団。それこそお掃除から魔物退治までなんでもござれ! そんな感じかなぁ」
これは大体予想通りだな。小説でもあるあるだし、僕の目から見てもそんな感じだったしね。昨日なんて『一日だけ恋人になって下さい! (イケメン限定)』 とかあったし。
「次はランクについてね。冒険者って一括りにしても実力はピンキリ。それだと依頼を出す方も困るでしょ? だから実力に合わせてランクがつけられるの。ランクは大体F〜AAAに分けられていて、滅多にいないんだけどSランクまであるの。目安としてはCランクから一人前。Aランク以上は人間を辞めているわね。人間やめました人間みたいなものかしら?」
どんな人だよ!! それってもはや人間かどうか怪しいよね!!?
「身近な人でいうなら、シーシェ達はAAランクよ。あの子達を見ていて普通の範囲内に収まると思う?」
「……なるほど。すごく納得しました」
だってあの人達、置くだけで地面が陥没するような大鎚を片手で振り回すし、ありえない量の肉をペロッとたいらげてるもん!! 確かに一般人ではないよ!!
……みんなあんなに可愛いのにすごいよね……まさに人は見かけによらないだ……。
「理解してくれたなら良かったわ。最後に商業ギルドについて少し触れておくわね。実は冒険者ギルドと商業ギルドは繋がっていて、扉を開ければ簡単に行き来できちゃうの。それは何のためかっていうと、素材の売買を始め物資の調達・護衛以来の打ち合わせをスムーズに行うためなの。だって離れていて得することもないし、めんどくさいだけだからいっそのことくっ付けちゃえ! って事で隣り合わせに造ったみたいよ」
アバウト過ぎるよ!! 確かに効率はいいけどアバウト過ぎるよ!!!
「はぁ……いろいろ豪快な人達だってことはよくわかりましたよ……」
「そうそう。そんな感じに考えていいのよ。ユウタくんは物分りが良くて助かるわ」
「えへへ〜!」
よしよしと撫でられ、思わず頰が緩む。コゼットさんは頭を撫でる時に、的確にツボを捉えている。そのおかげかめっちゃ気持ち良いのだ!!!
──っは! 危うく意識が吹っ飛ぶところだった!! コゼットさん、恐るべし……!
「ふふ。説明はこれで終わりよ。本当はもっとあるんだけど、これだけ分かっていれば問題は無いわ。お疲れ様、何か質問とかある?」
「あ! 大丈夫ですよ! コゼットさんの説明がわかりやすくて、質問することは無いです」
「ありがとう。せっかくだし、ユウタくんもギルドに登録しない? 身分証の代わりになるし、簡単な依頼だったらユウタくんにもできるはずよ」
「え〜っと、できるなら登録したいです……」
確かにギルドに登録するなんて面白そうだけど、なんか嫌な予感がするんだよなぁ。テンプレだったら絶対に絡まれるイベントだし、戦闘力もやしの僕にはハードルが高くないか?
「なら、今から登録しちゃいましょう。登録料も経費から落としちゃうし気にしなくても大丈夫よ」
「いや、大丈夫じゃないでしょう! 横領ですよ!!」
「あら、難しい言葉を知っているのね。でも安心して。ユウタくんが手伝ってくれたお礼って事にしとくから!」
「それなら大丈夫なのかな……?」
確かに働きはするけど、登録料っていくらだろう? そもそも僕の時給ってどのくらいなんだ?
頭に疑問符が嵐のように吹き荒れるけど、コゼットさんは御構い無しにグイグイと僕を引っ張っていく。そしてそのままの勢いで、窓口で手続きを済ましてしまった。
相変わらず仕事の早い人だなぁ。覚える暇もなく終わっちゃたよ。
「はい! これがユウタくんのギルドカードよ。もう手続きは全て終わっているから今すぐにでも使えるわ」
「おお〜! ありがとうございます!! これ、大事にしますね!!!」
「うんうん。喜んでくれて嬉しいわ。でも、本当に大事にしなくちゃダメよ。再発行するのに結構お金がかかるんだから」
あ、やっぱり。そんな気はしてたわ〜。
「わかりました。気をつけます!!」
「いい返事ね! まぁ、ユウタくんなら大丈夫だと思うけど一応ね」
ぱち! っと、コゼットさんがウィンクする。
……危ない危ない。危うく惚れるところだったぜ!
予想外のコゼットさんの奇襲(?)に動揺しつつ、真新しい僕のギルドカードを見つめる。外見はクレジットカードのようで、僕の名前や年齢・所属している支部などが書いてあった。ちなみに僕のランクはEで、下から二番目みたいだ。シーシェさん達には遠く及ばないな……。
しげしげとカードを見つめていると、周りから視線を集めている事に気づく。
何だろう? どこか変なところがあるのかな……?
助けを求めてコゼットさんに駆け寄る。今僕が頼れるのはこの人だけだ。ヘルプミーですよ、コゼットさん!!
「どうしたのユウタくん? そんなにソワソワして?」
ニマニマと楽しそうに僕を見ながら、コゼットさんがおどけた調子で訪ねてくる。
……む! この人も僕の変なところを見抜いているな!! お願いだから焦らさないで教えて!!!
「こ、コゼットさん! 気のせいだと思うんですけで、周りから見られていませんか?」
「気のせいじゃないわよ。みんなユウタくんを見ているもの」
「──え!!」
肯定しちゃうの!! 僕は違うって言って欲しかったのに!!!
マズイぞ。なんかすごくアウェーにいる気分だ。このままでは僕のS〇N値が無くなってしまう!! 早急に対処しなければ!!!
どこだ!? 僕が他の人と違うのはどんなところだ!? 考えろ、答えは自然と見えてくるはずだ……!
「もう。そんなに深く考えなくて良いのよ。ただギルドカードを眺めるユウタくんが初々しくて、みんなが微笑ましく見てただけなんだから」
「うぇっ! そうだったんですか……」
なんだ〜! 笑われているわけじゃなかったのか〜。良かった良かっ──って、良くないよ!! むっちゃ恥ずかしい!!! 良い歳して浮かれているなんて、人様に見せられる絵面じゃ無いよ!
「恥ずかしがらなくても良いじゃ無い。可愛かったわよ」
「ぐぬぬ……」
男としては微妙なところなんです!! そっとしておいて下さい!!
心を落ち着けるためコゼットさんから視線を外し、受付の外に目を向ける。休憩室で話していたせいか、朝のピークは終わっていて今はのどかな時間が流れていた。職員さん達も鬼の居ぬ間に洗濯とばかりに、書類整理をしていたりもする。
あまりほのぼのしてないかも……。
失礼な感想を心の中で呟いていると、書類を持ってきた男の人と目が合った。鎧を着ているから冒険者かと思ったけど、その考えはコゼットさんの言葉で否定される。
「──ボルドーさん! 新人研修は終わったんですか?」
「ああ。最近のガキどもは覇気がなくてつまらん。男なら腕がもげても向かって来やがれっつうの」
「……相変わらず無茶苦茶ですね。そんなことばかり言っていると、教官をクビになっちゃいますよ」
「大丈夫だ! マスターも同じこと言ってたからな!!!」
ガハハハ! と豪快に笑うボルドーと呼ばれた男。見るからに体育会系っといった感じだ。絶対に仲良くなれないよ。
大体あの盛り上がった筋肉は何!! どんな鍛え方をしたらああなるんだよ!! 怖すぎる!!!
心の中で関わらないと決め、そっと目を離そうとしたら、ガシっ。思いっきり頭を掴まれ持ち上げられた!!
「むぎゃ! 痛いです!!!」
「んん〜?何だこのちんまいのは? 新人か?」
不思議そうに僕を眺め回すボルドーさん。何で片手で持ち上げられるんだよ!! このハゲダルマ!!
浅黒く焼け隆起した筋肉に勝てるわけもなく、いくらもがいても抜け出せない。握力が100超えてんじゃ無いの!? って叫びたくなるぐらいに強かった。
そして僕の顔を見て、何かを思い出したように不敵に笑う。
「──何しているんですか!! ユウタくんを離してください!!!」
「まあまあ、そんなに怒鳴るなって。こいつが使い物になるか試すだけだから」
そう言って抗議するコゼットさんを無視して、ギルドの奥へと大股で進んでいく。その間僕はどうしていたかだって? 簡単さ! あまりの痛みに動けなくて、ずっと掴みあげられたままだよ!!!
「あの! 離してください!! というかどこに向かっているんですか!!!」
精一杯の抗議の声。しかしそんなものは届かず、ボルドーさんは階段の横にあった通路を抜け、グラウンドのような場所に出た。
「──到着だ。おい、ボウズ。今からお前を鍛えてやるからギフトを顕現させな。でないと死ぬぞ?」
突然散歩に行くような口調でのたまうボルドーさん。態度は軽いが、目は本気だ。マジで殺しにきそう!! 頭が沸いているんじゃないの!!!
「何だ? 怖くて声も出せないのか。シーシェ達が連れてきたって言うから期待してたのに、とんだ腰抜け野郎だぜ。シーシェ達も落ちたもんだ」
──ピクっ!
「……今なんて言いましたか」
「ああん。なんだぁ、ガキのくせしていっちょまえに怒ってんのかぁ! なら言ってやるよ!! お前みたいな腰抜を連れてきたあいつらも無能なんだよ!!!」
──ブチ。
静かに僕の中の何かが切れる音がした。
「はは……面白いことを言いますね。シーシェさん達が無能? ブチ殺しますよ?????」
「ふんっ! 少しはまともなツラするじゃねぇか!! ならそれを証明するためにかかって来いや!!!」
未だ調子に乗ったガン黒ハゲがほざいている。本当にナニヲイッテイルンダロウカ……。
僕の内から湧いてくる激情に身を任せる。僕の恩人を侮辱した罪。その身をもって償わせてやる!!!
「──シーシェさん達をバカにしたこと、万死に値する!!!! その罪、貴様の全身を粉々にした後ミキサーにかけて犬のエサにして家族の前で喰わせてやる!!!!!!」
「はっ! やってみろやぁぁぁぁぁあああ!!!!!」
ボルドーさんの雄叫びとともに、僕の譲れない戦いが始まった──
長くなりそうだったので一旦区切りました!




