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朱も赤に交われば赤になる

こんにちは、こたつ猫です!! 昨日ふとなろうを開いて見ると、感想が届いていました!! 嬉し過ぎて走り出してしまいましたよ!!!

 





 朝の通勤ラッシュの様な怒濤の人の波を処理し終え、今はコゼットさんとまったりしている。周りにいる他の職員さんも、やりきった顔をして一息ついていた。



「ユウタ君、さっきは本当に助かったよ! おかげで作業効率も上がって、こうして休憩できてるんだからね」


「いえいえ。お役に立てたなら幸いです!!」


「ふふ。本当に不思議な子ね〜。姿は子供だけど、本当は大人だって言われても信じちゃいそう」


 ……コゼットさんもそれが事実だとは思うまい。そして、僕も真実を口にできないだろう。縮んで許されるのはコ〇ン君だけなのだ。



「さて。時間もできたことだから、少しギルド内を案内しよっか! ちょうど二階の酒場に用事があったし、気晴らしに行ってみない?」


「え! ぜひ行って見たいです!」


 まだ受付しか見ていないし、普段シーシェさん達の働くギルドを見て回リたいと思っていたんだ。まさに渡りに船って感じだよ!!


「うふふ。善は急げと言うし、早速行きましょうか」


「はい!」



 他の職員さんに声をかけてからコゼットさんが立ち上がり、僕もそれについて行く。

 その際に改めて受付を見てみると、やっぱりごちゃごちゃしているなぁ。色々な仕事をするせいか、多種多様な魔道具が置かれている。コンビニ店員も真っ青な仕事量だよ! え? なんでコンビニ店員かだって? そりゃあ、普通の商品のレジうちから宅配便の受け取り、各種申込みまでやらされるんだよ!? 超ブラックじゃん!!(ユウタの偏見です)。


 まぁ、そんなハロワと役所を混ぜたみたいな窓口だからね。超絶ブラック──もはや血の色企業みたいなこの職場。僕なら絶対に就職したく無いわ……。



「ユウタ君どうしたの? 急に立ち止まるんだもん、びっくりしたじゃ無い」



 やべ! アホなことを考えていたせいで、コゼットさんに心配されてしまった。

 そんな慈愛に満ちた瞳で見られると、血の色企業とか考えていた自分が恥ずかしいよ!! 反省して、真面目に働こう。



「なんでも無いですよ。早く二階に行って見ましょう!」


「そう? じゃあついて来てね」



 ツヤツヤと光る金髪のツインテールを揺らして、コゼットさんが幅広の階段を登って行く。その後を僕がついて行くんだけど、この階段。建物内にあるにしては、ものすごく大きいと思う。しかも一段一段の広さも、僕が余裕で寝返りが打てそうだ。

 そのせいであまり高低差がつかないから、コゼットさんのスカートの中が見えそうで見えないじゃ無いか……! 僕はチラリズムを好む紳士じゃ無いんだよ!!


 ダメだ……! 思考回路がエロに固定されてる!! 知らないうちに溜まっていた疲れによって、僕のうちに眠るリビドーが爆発しそうだ!!?


 ひらひらと揺れるスカートから目を逸らしつつ、ひたすら素数を数える。



「あ! 二階に着く前に言っておくけど──上位ランクの冒険者に絡んじゃダメよ」



 ……2、3、5…………



「アケディア支部の冒険者は世界屈指の実力を持つ代わりに、ランク高のさに比例して変人度が上昇するのよ。気をつけないと絡まれちゃうからね。かってにどこか行かない様に注意するのよ」



 …………23、29、31、37……あれ? コゼットさんが何か話していたみたいだけど、素数を数えるのに必死で聞いてなかったよ。何か重要な話をしてたのかな?


 頭の中に引っかかりを覚えながら歩を進めると、階段が終わり踊り場に到着する。まだ見ぬ扉の奥からは喧騒が漏れ、かなりきついアルコールの香りが漂う。

 ……いくら酒場とはいえ、まだお昼前なんだけどなぁ。なんでこんなに酒くさいんだろ?


 溢れる疑問と不安を押さえつけ、そっと酒場へ続く扉を開いた。



「──ちちっ、しりっ、ふとももぉぉぉぉおおおおお!!!!」

「俺は信じる!! 世の中の女性全てがニーソックスを履くとぉぉぉぉぉ!!!!」



 バタン。何事もなかったかの様に扉を閉める。

 ……何これ? 僕はとうとうイッちゃたのかなぁ……。


 あまりにも受け入れがたい光景を見たせいで脳の処理が追いつかない。ここは僕の心のオアシス、コゼットさんを見て落ち着こう──



「あ、あはは……。やっぱり刺激が強かったかな……。いつもよりはマシなんだけど(ボソ)」



 ダメだ。コゼットさんが遠い目をしている。もはや僕に逃げ場はないのかもしれない。きっと僕は幻を見たんだ。でなければバンダナを巻いた男の人が、血の涙を流しながら叫んでいるはずがない。ニーソックスに頬ずりして泣いていたりしないんだ!! しないったらしないんだ!!!



「すぅーはぁ〜……すぅーはぁ〜……」



 よし! 酸素を取り込んで思考がクリアになったことだし、もう一度真実を確かめよう! こんなところで逃げちゃダメだし、コゼットさんを守るためにも僕が進まなければ!!



「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……!! ええい、ままよ!!」



 蹴破る様に扉を開けはなつ。



「おね〜さ〜ん!! 僕と楽しいことしな〜〜い!! ぼかぁ、もうがまんできないんですぅぅぅ!!!」


「なにぃ!! 貴様はニーソックスを邪道だというのか!!」


「当たり前ですぞ!! パンティーストッキングこそジャスティス!! それ以外はあり得ない!!」


「……くっ! パンティーストッキングをパンストと略さない拘り、キサマ! 真性の変態だな!!」


「あなたこそ!! ニーソと略さないなんて、フェミニストにもほどがあるでしょう!!」



 ……この人たちは真昼間から何をしているんだろう。仕事しろよ……。

 いや、コレはごく一部の変態だ。他の人はまともなはず。その証拠に辺りを見渡せば──



「いやぁ〜ん! あなた達相変わらずいい筋肉しているわねぇ〜〜。今夜私達と気持ちいいことしなぁい?」


「はぁ!」


「あぁ!!」


「あぁあん!!」


「「「する訳ないだろう!!!! 俺たちは未成熟な青い果実にしか興味ないんっだよ!!!1」」」



 まともなはずなんだよぉ!!! そういう事にしてくれぇぇぇえ!!!!



「……ユウタくん。これでわかったかしら。これがこのギルドの日常なのよ……」


「マジですか……。アキバももっとおとなしいですよ……」


「アキバはわからないけど、彼らはまともな方なのよ。機会があったら教えるけど、一部の【超越者】と呼ばれる冒険者なんて、もっとすごいんだから」



 達観し切った様子のコゼットさん。こんなのを毎日見てたら、そりゃあ慣れるよね。全くもって慣れたくないけど。



「──大変だ! 広場でうちの連中と、騎士団がヤリあっているらしい!! 面白そうだから加勢するぞ!!!」


「よっしゃあ!! 久々の出入りだ!! 派手に行くぞ野郎どもぉぉぉぉおお!!!」


「「「おおおおぉぉぉぉおおお!!!!」」」



 ──ずどどど。訳も分からないうちに、酒場にいた人全員が完全武装で僕たちの横を通り抜けていった。本当になんなんだろうか、このギルドは……。

 嵐が通り過ぎた後の様に、グチャグチャになったテーブルや椅子。それを片付けている職員の姿が、妙に感慨深く見えた──




 ♢




「ちょうどみんないなくなったみたいだし、さっさと用事を済ましちゃいましょう。あの人たちは勢いで生きているから、行動を予測するなんてできないからね」


「そうですね。僕もあの人たちをどうにかできる気がしません……」



 さっきの発言からすると、ギルドは異常性癖保持者の会なんじゃないかなぁ。ロリ! ホモ! フェミニスト! 特殊性癖のトリプル役満だよ。これ以上役が増えて、点数が青天井にならない事を切に願います。



「ふぅ……少し疲れちゃったし、何か食べて行く? ここの酒場はギルドが運営してるだけあって、その辺の高級店より味は良いのよ」


「そうなんですか。それは楽しみです! でも、今はあまりお腹が空いていないので、別の機会にお願いします」



 あの濃い集団を見たせいか、変な満腹感に満たされている。とても食事なんかできないよ。というかここの料理が美味しいことが、あの人達がたむろっている原因なんじゃないかな?


 お酒や料理が散らばった床を、ステップを踏む様に進んで行く。改めて見ると二階のこのフロアは、結構なスペースがある。小さい体育館くらいはあるんじゃないかな? それに散乱するものに目を奪われて気づかなかったけど、階段の反対側には商店があった。天井から吊り下げられている看板には、『ギルドショップ』と書いてある。なんて安直なネーミングなんだろう……。何が売っているのかすごく気になる。


 う〜ん……、飲んだ訳じゃないのに、お酒の匂いで酔ってきちゃった。そんなに弱い訳じゃないんだけどな〜? この体になったせいで、下戸にでも変わったの?


 妙な引っかかりを覚えて、コゼットさんの視線が外れたのを確認して、手頃な酒瓶を拾って見る。モノクルで確認すれば、アルコール度数もわかるはずだ。


 どれどれ……匂いだけじゃ原材料もわからないし、異世界の酒って物を拝見してやろうじゃありませんか!


 ──ピコン! 軽快な音と共に検索結果がレンズに表示される。昨日使った時は変な表示方法だったけど、今回はどうかな……。



 ・グラザークの蒸留酒。酒竜グラザークの血液を濾して作った酒。そのアルコール度数は高く、なんと98%!! 簡単に燃え上がる驚愕の酒なのだ。しかし潤沢な香りと中毒性のある後味が、数多くの飲兵衛を掴んで離さない。まさに火を吹くうまさ!!!



 ……ダメだ。この酒、スピリタス並みに強いぞ。こんなの子供の体とか関係なく酔っ払うわ!!



「ユウタくん! そんなところにしゃがんでないで、早くこっちにきなさい〜」


「あ! すみません! 今行きます!!」



 掴んでいた酒瓶を放り捨て、手を振るコゼットさんの元に行く。僕がお酒に夢中になっている間にコゼットさんは厨房にいて、エプロンをした女の人と楽しそうに話していた。

 しっかし、みんな動じてないなぁ。僕の周りで掃除している人もそうだけど、この光景が慣れきった目をしている。本当に冒険者ギルドってハンパないわ。



「ん? そっちの子供がコゼットの言ってた子か! なんか、女の子っぽい奴だな」


「確かに中性的ではあるね。そこが可愛いけど……」



 んん〜……。可愛いと言われた事を喜ぶのか、はたまた悲しむのか。男として悩みどころだよね。僕の矜持は置いておくとして、この豪快な人は誰だろう。エプロンをしているから、厨房の人だと思うんだけど……。



「あの〜、初めまして。僕は 桐生 裕太といいます。よろしくお願いします」



 どう接して良いかわからないし、とりあえず自己紹介する。昔学校の授業で、出会ってから最初の4分間で、人は相手との今後の関係を決めるそうだ。さらに言えば、最初の8秒間で印象は固まってしまう。つまり今後のことを考えると、掴みが大切なのだ! ……けど、初対面で女の子っぽいと言われる僕に、頼られる日は来るのだろうか……。


「礼儀正しい子だなぁ。その辺のガキにも見習わせたいぜ」


「そうですよね。教養もありますし、本当に優秀な子です」


「そんなことはないですよ。まだまだ至らないところもありますし、皆さんには迷惑をかけてしまいそうで……」



 異世界初日から、ほぼ毎日何かやらかしている僕。冗談抜きにコゼットさん達に手間を取らせてしまいそうな気がする。

 その証拠か、僕の言葉で2人が固まってしまった。


 そして、ハッと意識を取り戻し微妙な顔でお互いを向き合う。



「やっぱり大人びているよな……」


「ええ。さっきもすぐに仕事を覚えて手伝ってくれましたし、計算なんて私より早いんですよ」



 若干呆れを含んだ顔で僕を見つめ、ため息をつく2人。そこまで露骨に反応されると、どうしたら良いのか困るよ……。僕は完全ヘタレのコミュ障なんだ。美女2人との会話なんて、キャパを完全に超えています。


 そんなショートしている僕をよそに、コゼットさん達は何やら話を進めて行く。



「……この子なら、代打で厨房のスタッフもできるか?」


「……多分大丈夫です。この前レーテが、ユウタくんの手料理が最高だったって、うっとおしいくらい自慢してきましたから」


「そうか。ならこの子にたのもう」



 1人蚊帳の外の僕は手元無沙汰に周りを眺める。お昼が近くなってきたせいか、また冒険者達が鎧をガシャガシャ鳴らしながら階段を登ってきていた。

 またさっきみたいな騒ぎになるのかな? ようやく片付けが終わったウェイトレスの人達も、泡を食ったように動き出している。


 ……これはもうひと荒れきそうだぞ。


 コゼットさん達も気づいたみたいで、疲れた様子でその様子を見ている。さっきの光景を思い出しているのか、見る者を魅了する微笑みが憂いを帯びている。



「時間もないし単刀直入に言うけど、ユウタくん。料理ってできる?」


「──へ!? 料理ですか? 一応人並みにはできますけど……」


「本当! なら酒場の厨房に助っ人として入ってほしんだけど、ダメかな?」



 こてん。と可愛らく首をかしげるコゼットさん。そんな風に頼まれたら、断れる男なんていませんよ!! 元から断るつもりなんてないけどね!!!



「任せてください!! 微力ですが、きっと役に立ってみせます!!」



 どん! と胸を叩き宣言する。家事に関するギフトを持つ身としては、この見せ場を逃す手は無い!! 今こそメイドの本領を見せる時だ!!



「そうかそうか。それは助かる。早速で悪いが手伝ってもらうぞ」



 さっきまで黙って聞いていた女の人が一歩進み出て、グリグリと僕の頭を撫でる。快活に笑う姿は褐色の肌も相まって、南国の日差しのように気分を高揚させる。燻んだ銀髪は肌の色とコントラストを生み出し、彼女の魅力を際立たせている。そして少し屈んだだけで変形する溢れんばかりの胸。文句なしの美女だ。


 ……というか、こっちの世界に来てから綺麗な女の人にしか出会ってない気がするよ。これは童貞を憐れんだ神様が起こした奇跡なのか、異世界は顔面偏差値が高いだけなのか……うん。多分後者だろうなぁ。男の人でも、ブサイクな人を見かけてないし。僕たち陰キャラには優しく無い世界だよ、まったく。



「──ん? そういえば自己紹介をしていなかったな。私は酒場の厨房を預かっているエルネスタだ。よろしくな、少年!!」



 何も反応のない僕を見て、思い出したように自己紹介をしてくれるエルネスタさん。

 彼女に見惚れるあまり、固まってただけなんだけどな……。恥ずかしいから絶対言わないし、何事も無かったように振る舞おう!!


「よろしくお願いします! それで、僕は何を手伝えば良いんですか?」


「基本的には下処理かな。皿洗いでもいいんだが、調理の心得があるんならこっちを手伝って欲しい」


「わかりました! それなら任せてください!!」



 今の僕にとって下処理なんて朝飯前だ。肉でも野菜でもどんと来い!

 むん! と胸を張り気合を入れていると、エルネスタさんが楽しそうに笑う。



「気合は十分みたいだな。なら、そっちのカゴに入っている野菜の皮を剥いてくれ。皮を剥いた野菜はボウルに、皮はそっちの皮袋に入れておいてくれ」


「了解です!!」



 ビシっと敬礼をして厨房に足を踏み入れる。トントントン。グツグツ。リズミカルな音と共に、コックスーツを着た三人の男性が忙しなく動き回る。厨房の広さは六畳間ほどあり、決して三人で回せる仕事量ではないだろう。


 ……この忙しさなら僕を助っ人にする理由がわかるよ。まさに猫の手も借りたいって感じだ。


 それに僕の担当の野菜も、僕の身長の二倍以上の高さの山を築いている。これは忙しくなりそうだぞ。



「──野郎ども!! そろそろ腹を空かせた冒険者どもがわんさか来るよ!! 今のペースの三倍で働きな!!!」


『『『イエス・マム!!!』』』



 エルネスタさんの号令に、厨房にいた全ての人が一部のズレもなく返事をする。さながら鍛え上げられた軍隊だ。



「そして、この子が助っ人に来てくれユウタだ! 怖がらせたりするんじゃないぞ! ──もし泣かせるような事があれば……捥ぐぞ」


『『『天地神明に誓って丁重に扱います』』』


「よし! んじゃ、ユウタ、頑張れよ。何かされたら言うんだぞ」



 従業員の人の声で、厨房全体が震える。重ねてあった鍋なんて盛大に崩れた。どんだけ調教されているんだろう? まさに姉御って感じだな。

 そんな勇ましいエルネスタさんは僕に一言残して、厨房と言う名の戦場へと繰り出していった。


 これは僕も負けてられないな。死ぬ気で働くぞ!!



「よっしゃぁ! ギフトによって磨かれたこの絶技、刮目して見よ!!」



 ギフトカードから調理器具を顕現させる。空中に燐光と共に現れた包丁とまな板を流れるような動作で掴み、そのまま滑るように野菜の山に向き直る。

 さあ、始めようか!!


 手始めに無駄に長い人参を手に取り、淀みない手つきで皮を剥いていく。ピーラーなんて甘えだよ!!



『おい! あのガキを見てみろよ!! 凄まじい速さだ!!!』



 ──シュルシュル、ポイ。シュルシュル、ポイ。



『ああ。こうしている間にも、あの大量にあった野菜たちが消えていく! 俺たちもぼやぼやしていると、姉さんにどやされる!!』


『ひぃぃぃ!!! 姉さんに子供に負けたなんてバレたら、犬の餌にされちまう!! なんとしてでも仕事を片付けるんだ!!』


『おう! 俺はこっちのシチューを担当するから、お前はそっちのパスタを──』



 ん? 他の人達もすごい頑張っているなぁ。さすがはプロってところか。これは僕も負けていられない! もっとペースを上げなければ!!


 気合を入れ直して野菜の山に手を伸ばそうとして、空振りしてしまう。

 ……あれ? 集中していたから気づかなかったけど、いつの間にか全部終わっている!?すごいな、僕。



「──もう終わったのか。ありえない早さだな。まぁ、こちらとしては優秀な人材がいるのは喜ばしい。次はこっちのモモ肉を一口大に、胸肉に下味をつけておいてくれ」


「イエッサー!」


「……それは真似しなくていいからな……」



 野菜を回収しに来たエルネスタさんに、次のお仕事を貰う。ホールの方も騒がしくなって来たし、これはウカウカしてられないなぁ。



『姉さん!! 今日は牛の煮込みの出が早い!! このままじゃ全然追いつきません!!』


『アーリア貝のパスタと、B定食も注文が殺到してます!! 人出が全然足り無いっす!!』



 半泣きになりながらも手を止めない料理人たち。エルネスタさんも、二つのフライパンを同時に動かしながら指示を飛ばす。



「煮込みは出来上がるまで時間がかかる! 優先的に作れ! 他の物は意地でも間に合わせろ!! これ以上割ける人員なんていない!!!」



 20台以上あるコンロはフル稼働し、大小様々な鍋が食材を煮込んでいる。実質1人5つの鍋を同時に動かしていた。それでも注文の嵐の前には追いつかず、出来上がったばかりの料理をウェイトレスさん達が慌ただしく運んでいく。


 このままじゃジリ貧だよね。どうにか打開策を見つけないと……。


 ひたすら手を動かしながら、思考をフルスロットルでぶん回す。このままずっと下ごしらえをしているだけじゃ、この状況を打破することは出来ない。なにか、何か見つけないと……!



『姉さん!! まずいですぜ!! 皿が全く足りません!!!』


「皿ぁ!? 皿なら棚の中に唸るほどあるだろ!! どうして足りなくなる!!?」


『違うんでさぁ!! 皿を洗うのが追いつかないんです!! !』


「なにぃ!! 人手不足がここまで来たかぁぁ!!」



 エルネスタさんの絶叫につられて洗い場を見ると、ウェイトレスの少女が半泣きで皿を洗っている。その横には途切れることなく皿が積まれ続け、洗う量より追加される量の方が圧倒的に多い。そもそも1人で捌き切れるキャパをゆうに超えているよ。


 そんな事を考えている間にも注文は増えていく。もう誰1人他の仕事を手伝う余裕など無く、必死の形相で手を動かす。



『姉さん!! 酔った冒険者達が暴れてテーブルをひっくり返しやがった!!』


「そんなもん無視しときな!! 構っていられる余裕なんて微塵もないよ!!!」


『エルネスタさん!! シズエがしつこく口説かれています!! 助けてください!!』


「あーもうっ! シズエのところには私がいく!! ユウタ、火の番を頼むよ!!」


「了解です!! 任せてください!!」



 エルネスタさんが荒々しい足取りでホールに出る。程なくして冒険者と思われる男の断末魔が聞こえて来た。……一体何をしたんだろう?



『聞こえたか? 姉さん、確実にアレをやったぞ』


『だな。多分この声はシキだし、確実にアレをやられたはずだ』



 ……さっきから話しているアレってなんだろう。あの豚が首を絞められて放り出した声が出るような事だよね。想像できないし、したくもないや。



「──お前ら! 無駄話している暇があったら手を動かしな!! もうすぐ客入りのピークを迎える。気張りなよ!!!」


『『『ガッテン承知!!!』』』



 うげ……。今以上にお客さんが増えるのか……! このままじゃ本当にまずい。恥ずかしがっていないで奥の手を出すしかないのか……!



「ん? ユウタ、疲れたか? 子供のお前をこんなに働かして申し訳ないんだが、あと少しで客足が落ち着くからもう少し頑──「エルネスタさん。提案があります」」


「なんだ? 今は忙しいから手短に頼む」



 その言葉通り厨房の忙しさは佳境を迎えており、全員の顔には疲労の色が濃い。だからこそ、僕は恥を捨てて全力を出す!!


 すぅーはぁ〜……すぅーはぁ〜…。よし! 覚悟は決まった。あとは実行するのみ!!



「僕がホールと皿洗いを担当するので、余った人員を厨房に回してください」


「はぁっ!? 皿洗いはともかく、ホールまでこなすのは無理だ!! 今やってくれている分だけで助かっているし、気を使って無理しなくていい!!」


「エルネスタさんの心配もわかります。けど、僕に限ってはその必要はありません。なぜなら僕のギフトは──【神々の寵愛】(ベネディクション)ですから」


「な!! 【神々の寵愛】だと!! それは本当か!!」



 驚きのあまりフライパンを落としそうになるエルネスタさん。それもそのはずだろう。【神々の寵愛】を持つものは極て少ないし、その全てが他のギフトを圧倒する力を持っているのだから。


 僕の発言のせいで厨房だけが外界から隔絶され、時間が止まったように静まり返る。けど周りの反応など気にせず、畳み掛けるように言葉を紡ぐ。



「はい。しかも僕のギフトは家事に特化しています。──なので、僕を信じて任せてくれませんか?」


「──分かった。ここはお前を信じて見るとしよう」



 一瞬の躊躇いもなく僕に任せてくれる。この判断の速さこそが、彼女が慕われている理由なのかもしれない。

 そして、僕に柔らかい笑みを向けてから、



「お前達!! 部外者のユウタがここまで頑張ってくれているんだ!! テメェらも根性出せやぁ!!!」



 体の芯まで響くような激励。心の奥からフツフツと気力がみなぎってきそうだ。他の人もそう感じたのか、未だ疲労の残る表情の中、瞳だけはギラギラと熱を放っている。そして──



『『『おおお!! やったらんかぁぁいっ!!』』』



 自らを奮い立たせるように、雄叫びをあげる。

 これは僕も負けていられない!! 自分から言いだした以上、しっかりとやり遂げてやる!!!



「──【福音顕現】(リセプション)!! 来い!!! |【メイドの中のメイド】《ドレスアップ》!!!」



 力ある言葉に呼応し、僕のうちに眠るギフトが顕現する。未だにこのメイド服には慣れないけど、贅沢を言っている余裕はないんだ!! 任務を遂行する!!!



「ユ、ユウタ……その格好は……」


「ええい!! 突っ込まないでください!! あるがままを受け止めて、そっと見なかったことにしておいてくださいっ!!!」



 度肝を抜かれたような表情のエルネスタさん。他の人も同じ気持ちなのか、呆然と僕を眺めている。

 今は恥ずかしがってリアクションを取る余裕すらないんだ!! 視線なんか全部無視して仕事してやるぅぅぅ!!


 逃げるように背を向け、洗い場に直行する。そしてアルプス山脈とかしたお皿の山に向かって、ギフトカードから呼び出した箒を全力で振り下ろす。この箒の能力は、僕が汚れやゴミ(・・・・・)と判断したモノを消しとばすというもの。つまり食器についた油汚れとかを、認識次第では一掃できるということなんだよ!


 ブワァァァァあああ!!!!


 光の粒子とともに食器についた汚れを吹き飛ばす。周りからは『おおぉぉお!!』と歓声が上がり、ボルテージが急上昇する。いろいろ試していて気づいたんだけど、この箒を含めた僕のギフトは規格外だ。なぜなら僕の捉え方次第でモノを消し飛ばすことができる。考え方を変えてみれば、人であってもゴミや汚れという事にして仕舞えば能力を発揮することができるのだ。そりゃあ、制限もつく事に納得だよ。


 少し思考が脱線しちゃったけど、気を取り直してホールに向かう。こっちの飲食店の常識としては、フードコート形式だったりする。つまりカウンターで料理を受け取って、そこから席に移動するのだ。だからウェイトレスの仕事って言っても、会計と料理の受け渡し、食べ終えた食器を洗う、テーブルを拭いたりするくらいなんだって。

 こういう言い方をすると楽そうだけど、実際はそうでも無い。ただでさえ気性が荒く、変人度が高い冒険者。酔っ払うと何をしでかすかわからないし、その対応をするのがウェイトレスなのだ。楽なわけがない。油断していると痛い目にあいそうだ。



「お前ら!! ユウタのおかげで食器は確保できた!! 意地でも品を間に合わせろぉ!!」


『『『アイアイサー!!!』』』



 テーブルの間を縫うように駆け回り、空いた皿を回収していく。厨房から聞こえてくる雄叫びに鼓舞されながら、両手と頭に大量の食器を乗せて厨房に駆け込む。ギフトのおかげで身体能力は跳ね上がり、メイドの力なのか食器をいくら持ってもバランスが崩れないのだ!



「よっしゃああ!! もう一発かますぜぇっ!!」



 ──どぱぁぁああん!!!



 運び込んだ食器達に渾身の一撃を振り下ろし、また汚れを消しとばす。そして瞬転。ホールへと飛び込んでいく。休んでいる暇などないのだ。

 そして熱気とアルコールに満たされた店内には、怒号、歓声、破砕音が響き渡る。酔っ払った者同士の喧嘩なんか当たり前で、テーブルの上で踊る者までいる。そういった人のせいで、床には溢された料理やお酒が泉を形成している。



「せっかく作ったのをもったいない!! というか汚しすぎだよ!! 全く掃除が追いつかない!!」


 仕事の合間に放棄で掃除してはいるが、全然追いついていないのが現状だ。

 これ以上僕の手を増やすことはできないし、残った手といえば──



「メイド力全開!! ──行け! ファンネル達!!!」



 縦横無尽に動き回る雑巾達を召喚することだ。



「うお! なんだアレ!! 新手の魔物か!!?」


「違う! あれは雑巾だ!! 雑巾がひとりでに掃除をしているぞ!!!」



 食事をしている冒険者達が驚いているが、どうせ昼間っから酒を飲むような人達だ。明日には忘れているさ!! 思う存分やらせてもらうよ!!



「なんだ。パンツじゃなくて雑巾か〜。ぬか喜びしちまったぜ!」


「ああ。でも考えてみろよ。あのひらひら舞う布切れが、シズエちゃん達のパンツだとしたら……。萌えるだろう?」


「!! お前は天才か!!? その発想はなかったぜ!!!」



 ……人のギフトを見て妄想しないでほしい。というか雑巾をパンツに見立てるなんて、どういう発想力しているんだよ……。



「んんん……きた!! 見えるぞ!! ムチムチの足、わずかに食い込む布地、そして薄っすらと汗ばむワレメ!!! 俺たちは桃源郷に来たんだぁぁあっ!!!」


「ウッヒョー!! 我慢出来ねぇ!! 娼館に行くぞぉぉぉぉおおおおお!!!」



 あの人達は頭大丈夫なんだろうか? 大麻とアヘンを大量に摂取しないと、あの思考回路はできないんじゃないかな!?


 もはや狂った人達は見なかった事にして、ひたすら食器を回収する。厨房はウェイトレスさん達がヘルプに入ったことで余裕が生まれ、今は注文にい対応できている。この調子なら乗り切れるぞ!!



「頑張れ僕!! ここで役に立つことこそメイドの本懐。妥協など無い!!!」



 疲労により休みたいと訴える手足を無理やり動かし、ひたすら仕事に励むのだった──




 ♢




「もっと早く走って下さい!! ユウちゃんが私たちの帰りを待っているんですよ!!!」


「分かったから落ち着け。さっきからそれしか言っていないぞ」


「だまらっしゃい!!! 私の愛しのユウちゃんがすぐそこに居るんですよ!! チンタラ歩いてられるわけないじゃ無いですか!!」


「まぁまぁ、レーテの気持ちもわかるけど、ギルドはもう見えてるじゃない。そんなに焦っちゃダメだよ。それにそんなみっともない姿をユウタ君に見せるの?」


「うっ……! それを言われると言い返せません。あともう少しの辛抱ですし、我慢する事にします」


「うんうん。分かってくれたなら良かったよ!!」



 今日はとある人から調査依頼を受けて、オケアノス樹林まで行って来たんだ。最近ゴブリン達の動きが活発になって来たことを懸念してのことだったんだけど、実際は予想よりも状況が悪かったんだよね。そのせいか、レーテがユウタ君に会いたがって大変だったよ……。



「……ユウタはギルドにいて無事かな? ……面白い事に巻き込まれているといいんだけど……」


「巻き込まれたらダメだろうに。相変わらずぶっ飛んだ思考回路をしているな」


「……個性的と言って欲しい……私はそこら辺の有象無象とは違うんだから……」


「──ああ!! やっぱり心配です!! 私は先に行っています!!!」



 ディアの言葉を聞いて不安になったレーテが、大通りをギルドに向かって爆走する。さすがは兎人族と行ったところか、ものすごい脚力で人ごみに消えて行く。何か問題を起こさないといいんだけど……。



「シーシェ。レーテの奴が何かしでかしそうで怖い。追いかけるぞ」


「……本当に世話がやける……ユウタの方がしっかりしてるかも……」


「あはは……それについてはコメントを控えておくよ。でもやっぱり心配だし、追いかけよっか!」



 ユウタ君に夢中になっているレーテは正常な判断ができないだろう。このまま暴走させているとマズイ。

 一日中動いたせいで疲労の溜まった足に鞭を入れ、石畳の道を小走りで向かって行く。ちょうど食事時のせいで人通りが多くて、思うように進めない。レーテの様な超人的な反射神経がないと、この人混みでは全力疾走できない。


 ……無駄なところで力を発揮しないで欲しいな。


 心の中で苦笑して、長年共に過ごして来た仲間の顔を思い浮かべる。一緒に何度も死地をくぐり抜けてきた仲だからこそ、レーテの事はよく分かっているつもりだ。それでも、あそこまでユウタ君に入れ込むとは思わなかった。


 私達獣人や亜人は迫害されることがある。それは国や地域によって差があるとはいえ、割とどこにでもあるものだ。実際ディア以外はそれで苦労してきたし、辛い経験もした。逆にディアは貴族の家のことで、色々悲しい出来事も経験している。そんな私達だからこそ、お互いを大切にして仲良くやってこれたんだ。


 そして冒険者として力をつけてくると認めてくれる人も増え、随分と生きやすくなった。それにこの国の人は比較的差別意識を持っていないし、私達にも住みやすいところだと思う。


 ──でも、初対面で私達を受け入れてくれる人間は殆どいなかった。


 大昔に戦争していたからしょうがないと思うけど、悲しいものは悲しい。この町の人や冒険者は、すんなりと仲良くなれたけど、それでも時間がかかった。どうしようもなく当たり前のことだと思っていたんだけど、ある日その常識を壊す出来事が起こったんだ。そう、


 ──ユウタ君との出会いだ。


 きっかけは攫われそうな子供がいて、衝動的に助けた事だった。私も経験があったし、獣人の子は割と攫われて売られてしまう。だからユウタ君のことも、最初は獣人の子供だと思っていたんだ。けど、実際は人間の子で、とっても可愛い子だった。

 その上自分の身が危ないのに私の心配までしてくれて、こんなにいい子は他にいないと確信できるほどだったんだよ。


 実際その通りで、意識が戻って初めてあった時も、ユウタ君は偏見なく私を見て──信用してくれた。普通は助けられたからといって、その人に家についていかない。だって、騙されている可能性があるもの。

 でもユウタ君は、私達を心から信頼してくれて、甘えてくれる。こんなに嬉しいことはなかったんだ! だからこそレーテも、他のみんなも、ユウタ君を大切にする。家に疲れて帰った時、玄関で笑顔で迎えてもらえる様に、今日も頑張れる気がするんだ!!



「──きゃぁぁぁぁああああ!!!! ユウちゃんが、ユウちゃんがぁぁぁああ!!!!」



 ギルドの方から鼓膜を突き刺すレーテの悲鳴が響く。

 ……ゆっくり感傷に浸っている余裕はなさそうだね。早く行かなくちゃ!!


 開け放たれたドアに飛び込み、ギルド内を見渡す。すると受付の前で崩れる落ちるレーテがいた。本当に何があったの!?



「レーテ、どうしたの!! ユウタ君に何かあったの!?」



 今にも塵となって消えそうなレーテを支える。うわ言の様にユウタくんの名前を呟いているんだけど、状況が全くわからないよ!! 結局ユウタくんに何があったの!!?



「あ〜、シーシェ。事情を説明するから落ち着いてちょうだい」



 上から声をかけられ、反射的に顔を上げる。そこには困った顔をしたコゼットがいた。



「コゼットちゃん!! ユウタくんは無事なの!!?」



 焦ってコゼットちゃんに詰め寄ってしまう。落ち着けって言われても無理だよ!!



「はぁ……丁度イルザ達も来たみたいだし、一息に説明するわね」



 息を切らせて追いついて来た2人を見てから、疲れを吐き出す様にため息をつく。そして大きく呼吸をして、少しまくしたてる様に口を開いた。



「ユウタくんにはギルドの仕事を手伝ってもらったんだけど、あまりにも優秀だったから頼り過ぎちゃったの。それで疲れて寝ちゃったんだけど、それを伝える前にレーテが発狂しちゃったの。分かってくれた?」


「あ〜……なるほど……ものすごく納得したよ」



 ユウタ君のギフトなら、ギルドの仕事を手伝にはもってこいだもん。そりゃあ、頼っちゃうよね〜。イルザ達も同じことを思ったのか、納得した様に頷ている。



「何というか、あいつらしいなぁ」


「……そうだね……さすがはユウタだ……」


「まぁ、そういう事だからよろしくね。一応ミラベルさんから給料も預かっているし、ユウタくんにはよろしく言っておいてね」



 そう言って、小袋に入った硬貨を手渡される。試しに持って見ると、結構な重さがあった。

 ……ユウタ君はどれだけ働いたんだろうね。真面目すぎるのも問題だなぁ。



「了解! それでユウタ君はどこにいるの?」


「治療室にいるわよ。依頼の報告は明日でいいから、今日はユウタくんを連れて早く帰りなさい」


「ありがとう! そうさせて貰うよ!!」



 コゼットちゃんの言葉に甘えて、ユウタ君を回収して家に帰る。最後までレーテが騒いでいたけど、イルザが気絶させて運んでいる。これ以上時間をかけるのも嫌だからね。しょうがない措置だったんだよ。



「はぁ〜、今日は早く寝ちゃおう。明日も忙しくなりそうだし、頑張らなくちゃ!!」



 幸せそうに眠るユウタ君の頭を撫でながら、これから来るであろう面倒ごとを思い出して、見慣れた道を5人で進んで行った──











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