時としてインターネットには誤りがある
お久しぶりです!! 最近忙しかったせいで、投稿が随分遅くなってしまいました……。あと4日で高校生活最後の授業を迎えるわけですが、受験がなかなか終わら無い。そろそろ執筆に集中したいです……
涼やかな朝。磨りガラスからは真珠色の光線が室内を貫き、ユウタを目覚めへといざなう。
誰もが抗えない二度寝への誘惑を振り払いながら、ぼんやりとした思考を覚醒させていく。このまま睡魔に任せて瞼を閉じれば、たちまち夢の世界絵と逆戻りしてしまうだろう。コシコシと瞳をこすりながら無理やり体を起こし、まだ冷えている朝の空気に身を晒した。
「ふあ〜……よく寝たよ〜」
く〜っと関節を伸ばし、寝起きで下がっている体温を戻す。
昨日は寝坊しちゃったからね。今日こそ早起きして、清々しい一日を始めるんだ!
「よし! まずは着替えなくちゃ!」
横で寝ているシーシェさんを起こさないように小さな声で気合いを入れて、まだ温もりが残っている布団から抜け出す。そしてシーシェさんが用意していてくれた制服に袖を通し、身なりを整えていく。
「あれ……? ユウタ君もう起きてたの?」
もぞもぞとシーシェさんが起き上がった。僕がうるさくしちゃったせいかな? 次からはもっとひっそりと行動しよう……。
「はい。起こしちゃいましたか?」
「ううん。ちょうど起きようと思ってたところだから大丈夫だよ」
「そうなんですか。じゃあ、僕は先に下に行ってますね!」
「あ、私も着替えてからすぐ行くね〜!」
ハタハタとしっぽを振るシーシェさんに見送られ、階段を下りリビングに向かう。この世界には時計が普及しておらず、一定間隔でなる鐘を基準にしているそうだ。なので今何時なのかはわからないけど、お日様の傾きから6時ぐらいだろう。昨日だったらシーシェさん達が出発する時間だ。
今日は急がなくてもいいのかな? シーシェさんの様子を見ても、寝坊ってわけでもなさそうだし……
「……ユウタ、おはよう……」
「ん? ユウタか。おはよう」
「あ! イルザさん、ディアさん、おはようございます!」
考え事をしながらリビングに入ると、イルザさんとディアさんが声をかけてくれた。どうやら2人は起きているようだけど、鎧姿じゃなくて私服みたいだ。
「今朝はゆっくりしていますけど、お仕事に行かなくても大丈夫なんですか?」
「ああ。今日は休日なんだ。あまり根を詰めすぎても、怪我につながるだけだしな」
「……休むことは大事……そして二度寝はジャスティス……」
「ディアは相変わらずだな。寝てもいいけど、せめて朝食くらい食べてからにしろ」
「……ういうい……私は三大欲求を蔑ろにしない……満腹で気持ちよく寝る……」
やっぱり今日は休日みたいだ。僕は一週間が何日かも知らないからよくわからないけど、シーシェさん達と一日一緒に居られるなら儲けものだろう。
「まぁ、ディアは一日だらけているだろうし、ユウタはどうするんだ?」
テーブルに顎を乗せてまどろんでいるディアさんから視線を外し、イルザさんが僕に問いかける。
どうするって言われても、僕は何をしたらいいのか全然わからないよ。するべき事なら山程あるけど……。
「ええ〜っと、僕はまだまだ知らないことが多いので、勉強でもしようかと……」
「お前は本当にまじめだなぁ。子供なんだからもっと遊んでいいんだぞ」
「……でも勉強をしないと、イルザみたいに野蛮になる……」
「────なんだと!! 誰が野蛮だ!!」
「……今私の目の前で、鬼の形相をしている人……文明人には見えないよ……っぷ」
口元だけ歪めて、小馬鹿にしたようにディアさんが笑う。煽ることにかけては、この人の右に出る人はいないのかもしれない。
「……ほう。朝っぱらから随分と舐めたこと抜かすなぁ。そんなに殺されたいのか!!」
「……ほら、すぐ暴力で解決しようとするところがダメなんだよ……学習しないとね……いい歳なんだし(ぼそ)」
ブチ──────ドゴンっ!
「……い、いたい……暴力反対……年増はキレやすくて困る……!」
イルザさんの姿がかき消え、ディアさんの頭に鉄拳が突き刺さった。凄まじい音が証明しているように、この一撃にはかなりの威力が込められていたようだ。頭頂部からは煙が上がり、打ち付けた顎は真っ赤になっている。
僕なら頭蓋骨が割れていそうな一撃だ。無意識に頭をかばってしまう。
「────私はババアじゃない!! お前と年が五つしか変わらないだろう!!!」
「……五歳しかじゃない、五歳もだよ……20を超えたらもう女の子とは言えない……」
懲りずにイルザさんを煽るディアさん。ただでさえ真っ赤だったイルザさんの顔が、熟したリンゴのようにさらに紅に染まる。
「ほうほう。どうやらディアは死にたいらしいな。────待っていろ、今すぐあの世に送ってやる」
「……ピチピチ美少女の私は、嫉妬に狂うおばはんには負けない……真っ向から受けて立つ……!!」
「「【福音顕現】────!!」」
力ある言葉とともに、暴力的な魔力の奔流が2人から溢れ出す。
「ちょ、ちょっと待ってください!? 室内でギフトなんて使ったら、家が吹き飛んでしまいますよ!!」
僕の言葉も耳に入らない様子の2人は、淡い燐光とともに【神々の祝福】を握りしめる。
ま、まずい……! 本気で戦うつもりだよこの人達!? 僕には止められない!!!
僕とは違い、戦闘に特化した【神々の祝福】。その威力は桁違いで、カードの状態でも圧倒的な威圧感を感じる。
本気になったイルザさん達って、こんなに強そうなの!? 2人の後ろに守護霊みたいな幻覚が見えるんだけど!! 魔力ってこんな禍々しいものなの!!?
「いつもは見逃していたが、今日は我慢できん! ここで一回シメてやる!!」
「……むだむだむだむだ……! ……またイルザの年増伝説に、新たな一ページを刻んであげる……!」
臨戦態勢に入った2人。お互いに距離をとって、隙をうかがっている。爽やかな朝の雰囲気は吹き飛び、底冷えする殺気が渦巻く。
「────いい加減にしなさい!! あなた達が邪魔で配膳ができないじゃない!!!!」
一触即発の雰囲気は、エプロン姿のレーテさんの一括により霧散する。
毒気を抜かれた様子のイルザさんとディアさんは、お互いの顔を見て嘆息した。
「……あ〜、レーテには言われたくないというか、申し訳ないというか……」
「……ブーメランということに気づいて欲しい……しかし、正論すぎて言い返せない……」
「ブツブツ言っていないで、早く働きなさい!! せっかく作ったのに、冷めちゃいますよ!!」
釈然としない様子の2人。
昨日帰ってきた早々喧嘩していたレーテさんに怒られるのが納得できないみたいだ。僕にはどっちもどっちに見えるけど……
「「う〜い」」
「返事は‘‘はい’’でしょ!!」
「「へ〜い」」
「まったく……。いつまでたっても子供なんですから……」
意地でも‘‘はい’’と言わない2人。どれだけ悔しかったの……。
少し微妙な空気になちゃったけど、ひとまず喧嘩が終わったしよかったのかな? 朝から流血沙汰は勘弁してほしいからね。
「朝から騒がしくてごめんなさいね。ユウちゃんは座って待っててね」
「あ、はい! わかりました!!」
艶っぽく頰に手を当てたレーテさんに声をかけられ、少しどもってしまった。
無理に手伝おうとしても邪魔なだけだし、おとなしく椅子に座っていよう。
ディアさんとイルザさんがせわしなく動くのを横目に、僕の定位置となった席に腰を下ろす。レーテさん達の身長に合わせた椅子は、僕には大きくて足が宙に浮いてしまう。この地につかない感じを味わうのは久しぶりだよ。
ぶらぶらと足を動かしていると、身支度を終えたシーシェさんが二階から降りてきた。
「おはよう、ユウタ君! なんか楽しそうだね!」
ニコニコと陽だまりのような笑みを浮かべるシーシェさん。その表情からは、生暖かいものを見てる様子がうかがえる。
……今の僕って、子供っぽいかな?
「あら? シーシェも降りてきたのね。これで全員揃ったことですし、そろそろ朝食にしましょう」
「あちゃ〜、待たせちゃったか〜……」
「そんな事はないですよ。イルザとディアが朝からはしゃいだせいで、準備に時間がかかってしまいましたからね。ナイスタイミングでした」
「もうその事は言うな。朝から無駄な体力を使って疲れているんだ……」
「……同じく……早く二度寝したい……」
軽口を叩きながら、みんなが席に着く。今日は仕事に行かないせいか、リラックスした空気が流れる。
「はいはい。食べ終わったらいくらでも寝ていいからね」
「……光よりも速く食べきる……」
ガツガツと山盛りのステーキにディアさんがかぶりつく。みんな体を動かす職業についているせいか、胸やけするような量のステーキを涼しい顔で食べている。
……僕が元の体だった時より食べてるよ。
「そういえば、ユウタ君は今日何をするの?」
「ふえ? 僕ですか?」
目の前のステーキと格闘していると、あっさりと食べ終わったシーシェさんに問いかけられる。
う〜ん、イルザさんにも聞かれたけど、これと言ってやることがないんだよな〜。
「そうそう。もしよかったらなんだけど、一緒に買い物に行かない? ついでに街の案内もするし、きっと楽しいと思うよ!!」
街の案内か〜……。僕はこの世界について知らないことが多すぎるし、そう考えるとありがたい提案だ。何よりシーシェさんと一緒に居られる機会を逃す手はないよね。
「シーシェさん、喜んでお伴しますよ!!」
「ほんとう!? やった〜!! じゃあ、食べ終わって一息ついたら出発しよ!!」
「わかりました! すぐに残りのご飯も食べちゃいますね!!」
「ちょっと待ってくださ〜いっ!! 私も一緒に行きます!!!」
台所でお皿を洗っていたレーテさんが、ひょい。ドアから顔を出し、ものすごい勢いでアピールしている。
「よし! それじゃあ三人で行こっか!!」
「おお〜! 賑やかで楽しそうですね〜」
「うふふふ! 着ていくものを選ばなくちゃ!!」
三者三様にワクワクした様子。それぞれが出発の準備をすべく、忙しなく動いていくのだった─
♢
「それじゃあ行こっか!」
「はい!」
「うふふ、楽しみですね〜!」
うららかな日差しが照らす中、お揃いの帽子をかぶった僕たちは、買い物カゴを持って出発した。
「今日は何を買いに行くんですか?」
「う〜んとねっ、とりあえずは今日の夕飯の食材かな〜。あとはぶらぶらして、欲しいものがあったら買う感じだよ!」
「確か調味料がほとんど切れていました。ついでに買っちゃいましょう」
「あ! 忘れてたよ!レーテ、 ありがとね〜」
なるほど。主に食材を買うんだね! 異世界特有の食べ物とかありそうでワクワクするよ!
「それじゃあ、いつものお肉屋さん行こっか! やっぱりお肉は食べたいもんね〜」
「うんうん。野菜だけでは力が出ませんもの!」
「……ふたりともパワフルですね〜。僕は野菜だけでいいかもしれません」
「ダメだよユウタ君! 育ち盛りなんだからお肉を食べないと!!」
「そうですよ、たくさん食べないと大きくなれませんよ」
「え〜……でも、僕は皆さんと同じ量は食べれませんよ……」
たった二日間しか生活していないけど、みんなの食べる量は異常だと思うんだ。軽めだと言っている朝食ですら、お相撲さん並みの量を平らげているし……。とても僕は食べ切れないよ。
「う〜ん、ユウタ君は小食なのかな〜?」
「でも、ユウちゃんと同年代の女の子は、私たちと同じくらい食べますしね〜」
──え! ウソでしょ!? この世界の女の子って、みんなギャル〇根なの!??
「まあ、ユウタ君は小柄な方だししょうがないんじゃないかな?」
「そうね〜、無理して食べさせるのもかわいそうですし……」
……ホッ。どうやら大食いしなくても大丈夫な流れになってきたね。いくらシーシェさん達の料理が美味しいと言っても、毎食あの量は拷問すぎるもん。あの地獄のようだった部活ですらこんなに食べさせられないよ……。
なんとか身の安全を確保したあと、石畳の大通りをのんびりと進んで行く。よくよく考えてみると、落ち着いて街の様子を見るのは初めてかもしれない。初日は混乱しているうちに襲われたし、それ以来まともに外に出ていなかったからね。しょうがないよ。
「ユウタ君、何か欲しいものがあった?」
物珍しさからキョロキョロと辺りを見回していると、ご機嫌なシーシェさんが顔を覗き込んできた。
「いえ、特にないですけど……アレが気になります」
「ほえ? 【鏡英水晶】のこと? もしかして知らないの!?」
僕が指で示したものを見たシーシェさんが怪訝そうな顔をする。この世界では一般的なものなのだろうか?
街の至る場所に立てられた長方形の水晶。大きさはコンビニの入り口くらいで、陽光を反射して煌めいている。鏡に見えなくもないけど、それならもっと小さくてもいいはずだ。第一に、街中に作る意味もないしね。僕にはアレが何なのか、皆目見当がつかないよ。
「──シーシェ。【鏡英水晶】は大きな街にしかないのですよ。ユウちゃんが知ら無くてもしょうがないです」
「あ〜、そっか! 見慣れているから忘れてたよ! ユウタ君、ごめんね……」
「シーシェさん、謝らないでください。僕は気にしていませんから」
「うう〜、ならお詫びに【鏡英水晶】について説明するよ!」
陰っていた笑顔が光を取り戻し、身振り手振り楽しそうにシーシェさんが説明してくれる。表情がコロコロ変わって、本当に可愛らしい人だ。
「えっとね、【鏡英水晶】は特殊な魔道具なの。領主様の屋敷にある本体が映した映像を、街中にある子機に投影することができるの! だから大切なお知らせをする時や、お祭りの実況に使ったりするんだよ!!」
「あと、領主様の屋敷にある本体は遠隔操作ができて、いろんな場所の映像を撮ることもできるんですよ」
レーテさんの補足説明を聞きながら、僕の頭に浮かんだものは一つ。
────これ、テレビじゃん!!?
つまり領主様の屋敷にあるカメラで撮った映像を、街の中にある水晶の画面で映す。まさにテレビじゃん! ファンタジーを舐めてたよ!!
「スゴイですね!! こんなものがあるなんて知りませんでした!!!」
「そんなに驚いてくれると、なんか嬉しくなっちゃうな〜」
「無邪気に喜ぶユウちゃん……萌えますね!」
う……また子供っぽい行動をしてしまった。中身大学生なんだから、もう少ししっかりしないとな〜。まあ、今は目の前の不思議探求に集中するけどね!
「実際に【鏡英水晶】に映像が映っているところは見れませんか?」
やっぱりどんな感じに映るのか、確認しなきゃダメだよね! 最近液晶テレビとか出ているけど、これは本当の水晶の画面なんだ。気になってしょうがないよ!!
「楽しみにしているところ申し訳ないけど、今は【鏡英水晶】つかないんだよ」
「え〜と、どうしてでしょうか……」
「実は【鏡英水晶】って、動かすのにすごくお金がかかるんんですよ。だから大きなお祭りの時ぐらいしかつかないんです」
「あ〜……なるほど。そう言われると納得です!」
この異世界版テレビが何を動力源にしているかわからないけど、これだけの数を動かすんだ。それなりのコストはかかるよね。残念だけど諦めるか〜。
「そんなにがっかりしなくても大丈夫だよ! もうすぐ大きなイベントがあるし、すぐに見る機会があるよ!!」
「本当ですか!? やったー!!」
「ああ。もう、あの季節ですもんね。一年は早いものです」
「うんうん。去年は負けちゃったけど、今年こそはリベンジしたいよね!!」
「────ええ。前回は不意をつかれましたが、今回は確実にあいつの息の根を止めます……!」
穏やかな笑みの奥に、仄暗い殺意の炎が揺らめく。温和なレーテさんにここまで言わせるなんて、いったいどんな人物なんだろう。
「あ〜……あの人か〜。確かにやりたい放題やられちゃったからね。どうにか、借りを返したいよ」
シーシェさんまで、目つきを鋭くし、記憶の中に潜む敵を睨みつける。冒険者としてかなりの実力を持った2人を圧倒した人物。ますます気になるよ。
「2人がそこまで執着するなんて、いったいどんな人なんですか?」
「「………………」」
先ほどまで街の活気のある声が、堪え難い幸福の吐息のように、穏やかに頭上を流れていた。しかし、僕の不用意な発言で、周りの雰囲気が氷点下まで冷え込む。
「ユウタ君。世の中には知らなくていいこともいっぱいあるんだよ。────特に、あいつの事とかね」
「そうですよ、ユウちゃん。あのような汚物のことなんて、知る必要はありません」
感情のこもっていない声で、淡々と語る2人。そこに内包されている狂気に、僕の脳内警報が最大級の警鐘を鳴らしている。
──しまった! 地雷を踏んじゃった!?
「────あ! ユウタ君! 目的のお店が見えてきたよ!! 早く行こう!!」
「うふふ、話し込んでいたからあっという間に着きましたね」
大勢の人で賑わう煉瓦造りの店を示し、態とらしく話題を変える2人。これ以上は聞くなってことだよね……。ここは大人しく従っとこう。これ以上藪をつついて蛇を出す必要はないしね。
気を取り直して、目的の店に目を向ける。3階建ての赤い屋根で、可愛らしい印象の建物。その1階を開け放って、色とりどりの食材を所狭しと並べていた。
シーシェさんとレーテさんが店内を物色するのを横目に、僕も目の前に広がる不思議食材を眺めていった。一応、欲しいものがあったら遠慮なく言えとは言われているけど、そんな厚かましい真似できないよね。とりあえず、見るだけ見てみよう。
う〜ん、既視感を覚える物も多いけど、見たこともないようなものの方が多いな〜。このツートンカラーの野菜なんか、日本なら廃棄されてそうだし……。
「知らないものばかりだね。当たり前といえば当たり前なんだけど……そうだ!!」
わからないんだったら、調べればいいんだよね! 僕にはスマホの代わりに、翻訳メガネ(モノクル)があるんだし!!
「ほんじゃま、おいでなすって下さいな……そい!!」
ぽん! 軽快な音と共に、ギフトカードからモノクルが顕現する。街の隅の骨董屋さんがかけるような、渋い銀縁のモノクル。この機能美、僕は好きだなぁ。
「さて、異世界不思議発見と行きますかな〜」
この毒々しい色の果実や、とぐろを巻いているキノコなんて味は想像できないからね。じっくり吟味して行こう! もし美味しそうなものがあれば、お金を稼いで買いにくるのも面白いかもしれない。
トコトコと店内を歩きながら物色していると、わかってきたことがある。まず多少の形の違いはあれど、地球にあった食材は大体存在していること。小説だとお米がないことが多いけど、このお店には普通に置いてあった。しかも、ものすごく安いんだよ!! だって、小麦の半分の値段なんだもん。衝撃的だよね!! これは爆買い決定です!!!
「いや〜、日本人としては嬉しい限りだよ。一日一善ぐらいはお米が食べたいもの!」
心のふるさと、お米があるのは本当に喜ばしい。けど、調味料が高いのが残念だよね。地球でも昔、香辛料は同等の価値だったらしい。いくら魔法で文化が発展しているからといって、食糧事情が改善されているわけじゃないみたいだ。
できればシーシェさん達に美味しいスイーツを食べさせてあげたいんだけど、砂糖が高いんじゃ考えものだよね。代わりに、日本食でも作りますか!!
「ユウタ君〜!! お待たせ〜!!」
「ごめんなさいね、ついつい買い過ぎて時間がかかっちゃいました」
明るい声と共に、シーシェさん達が店の奥から現れる。その手にはカゴいっぱいのブロック肉が積まれている。どんだけ肉を食べるんですか……。
「いえ、別に待ってはいませんけど、お肉が多過ぎませんか? もう少し野菜を買いましょうよ!!」
「え〜! 野菜じゃ力が出ないよ!! やっぱりお肉を食べなきゃ!!」
「シーシェの言う通りですよ。日々戦いの中に生きる私たちは、お肉を食べないと体が持ちません」
言っていることもわかるんだけど、それにしても量が多過ぎでしょ……。こっちの世界じゃ、食育とかしないのかなぁ。
「ユウタ君が心配してくれるのは嬉しいけど、私たちはもう大人だもん! 自分の体の管理くらいバッチリできるからね〜」
「ええ。淑女たるもの、自己管理は怠りませんよ!」
自信満々に言い切る2人。普段の生活を見ていてしっかりしているのはわかるんだけど、あの冷蔵庫中身を見た者としては、この発言だけは見逃せないな! 一応モノクルで、買った物を確認しておこう!!
「一気に鑑定する方法は……あった! 頼むよグー〇ル先生!!」
ピコン! 僕の指が銀色のフレーム触れると、こぎみよい音がした。そして『OKグー〇ル』と言うアナウンスと共に、レンズの内側に検索結果が表示される。
・驚愕! 買い込み過ぎたカロリー!!
・明かされた真実。異世界の女子は肉食系だった。
・咲き乱れるブロック肉。〜合計12kgの衝撃〜
……どうしよう。まともなテロップが一つもない……!
「落ち着け、落ち着くんだ僕。まだ詳細は見ていないじゃないか! 希望を捨てるんじゃない!!」
週刊誌の見出しの様な検索結果を、恐る恐る確認していく。僕のギフトは茶目っ気があるから、これも誇張した結果なのだろう。実際はこれよりまともなはず──
・クロウウンの霜降り肉。怪牛クロウウンからわずかしか取れない高級な部位。穢れのない雪原を思わせる大量のサシが、極楽へと導くと言われている。しかし、余りのカロリーにと脂質に、生活習慣病になる貴族が続出! あまり食べることをオススメしないぞ!!
・たぷたぷ牛の内臓。全身が脂ギッシュな牛。特にその内臓は摂取された食物の旨味を脂として貯蔵しており、焼いて食べるととろける様な肉汁が泉の様に湧き出る。あまりの満足感と旨味の爆発に、中毒になる人が続出! さらに食べ過ぎて命を落とす者が社会現象になり、どの国でも特別指定食材として管理されている。食べるなよ! 絶対に食べるなよ!?
──も無かったね。
「なんなの! この狂気的なラインナップはなんなの!? 2人は餓鬼道にでも落ちるの!!?」
モノクルが示した解析結果もあれだけど、2人が買い込んでいる物の方が信じられないよ!? 今の二つのお肉なんて序の口で、他にもっとやばいのもあるし……。肉汁が麻薬の様な豚肉ってなによ……。
これは止めなくちゃダメだ! 2人の健康を守るためにも、ここは退けないよ!!
「──シーシェさん、レーテさん。真剣に僕の話を聞いて下さい」
「ん? 改まってどうしたの?」
「──ユウちゃん! そのモノクル、最高に似合っているわ!! ああ、両手がふさがっていなかったら、抱きしめて頬ずりしましたのに……」
やはり子供だからだろうか。全然真面目に取り合ってもらえない。しかし、ここで諦めるわけにはいかない! 2人の健康は僕が守るんだ!!
「────ごほん。お二人にはコレと、コレ。あっちの野菜も買ってもらいましょう」
「ちょ、ユウタ君!? どうしたそんなに買うの!! あ、待って! 私ピーマンは嫌いなの!!」
「ユウちゃん落ち着いて!! そんなに野菜を買っても、誰も食べないですよ!!」
「静かにしていて下さい。これは必要なことなんです。────店員さん、これ全部ください!!」
騒ぐ2人を無失して、店の奥に呼びかける。
「にゃぁぁあ!! ユウタ君がご乱心だ〜っっ!!」
「ユウちゃん戻ってきて〜〜!!!」
「ええいっ!! 諦めてください!! 年貢の納め時タイムですよ!!!」
今は両手がふさがっているせいで叫ぶだけだけど、2人が自由になったら僕はすぐに捕まってしまうだろう。その前になんとしてでも野菜を手に入れなくちゃ!!
「はいは〜い。いらっしゃいませ〜!」
柔らかな声と共に、中性的な顔の店員さんが駆け寄ってくる。ふわふわと揺れる肩口で揃えられた金髪は、宝石の様に煌めいている。
今はこの店員さんに見とれている場合じゃなあぁいっ! 早く会計を済ませなきゃ!!
「すいません。これ全部ください。会計はあちらの女性がします」
「はいは〜い。今計算するから少し待っててね」
籠に山盛りになった野菜を、ニコニコと微笑みを浮かべながら店員さんが数えていく。これでミッションコンプリートだ!
「──待って! お願いだから待って〜!!」
「──ユウちゃん、は止まらないから、ジルくん! 貴方ならわかってくれますよね!?」
僕の背丈くらいに積まれた肉を置き、シーシェさんとレーテさんが追いついてきた。
ふっ、一足遅かったね。もう賽は投げられたのだ!(意味不明)
「ん〜? シーシェちゃん達か〜。今日はいっぱい買ってくれてありがとね〜。少しおまけしといたよ」
「本当ですか? ありがとうございます──じゃなくて! その野菜は買いません!!」
「──よし! 捕まえたよ、ユウタ君!! もう逃がさないんだからね!!」
「うみゃ〜……、一生の不覚です……」
っく……! 油断した! 金髪の店員さん──ジルさんに野菜を渡したからって、全てが終わったわけじゃ無かったんだ。シーシェさん達がお金を出さなきゃ、買えるわけないじゃないか! 僕のアホ!!
「え〜っ、買わないの〜? 君たちの会話を聞いていた限り、こっちの少年が正しいと思うよ!」
「いいんです!! 私たちは冒険者なんですから、あのくらいのお肉なんてペロリと食べちゃいます!」
「そうだよ! あのくらいおやつと変わらないよ!!」
「……それは女性としてどうかと思うよ。それに、話の趣旨がずれているしね」
「「ぐぬぬぬ」」
あの2人を軽くあしらうジルさんって、何者なんだろうか? そもそも性別がわからないんだけど……。
「まったく。君たちはしっかりしている様で、案外抜けているからね。この子のいうことを聞いたほうがいいと思うよ」
はぁ〜。と深いため息をついてから、ジルさんが僕の頭を撫でる。
この人が味方をしてくれる限り、口論で負ける気がしないよ。すごい安心感! さすがは商人だ。
「──んじゃ、おまけして銀貨4枚だ。おとなしく野菜を買って帰りなさい」
「うう〜……ジルくんには敵わないよ……」
「はは! 商人は言葉が武器だからね。君たちを言いくるめられない様なら、僕は店をたたむよ」
「そこまで言われるのは心外ですけど、事実なのが悔しいです……! これはユウちゃんに慰めてもらうしかありません!!」
「あう〜! レーテさん、少し苦しいです〜!」
「君たちは仲がいいんんだね〜。見てるこっちが楽しい気分になるよ。サービスするから、また来てね〜」
スーパーにあるカートの様な籠に買った物を詰め直して、ジルさんがお釣りと共にシーシェさんに手渡す。男として荷物を持とうとしたけど、みんなに窘められてしまった……。そんなに頼りないかな〜……。
大量の戦利品(野菜)と共に、三人で帰宅する。今日の夕食は張り切って作るつもりだったけど、シーシェさんとレーテさんに台所から追い出されてしまった……。ちなみに夕飯は、特大のステーキでした。
次回はギルドに行きたいと思います! 奇人変人が大量に出てくるかもしれません……!




