真心を込めてお料理を!!
こんばんは、いろいろ忙しかったため、投稿が遅れてしまいました!!
ひっそりと静かな屋内に、すぅ〜、すぅ〜。幼い寝息だけが鮮明に流れている。呑気に居眠りしている本人の幸せそうな寝顔は、窓から差し込む茜色に染まっていた。
穏やかに流れる時間に身を任せているユウタ。頭がこくり、こくり。左右に船を漕ぎながらヨダレを垂らしていた。レーテが見ていたらキュン死してしまいそうな光景だ。そんな呑気に寝ていたユウタだが、重そうな瞼をゆっくり開き、ようやく目を覚ました。
「う〜ん……。いつのまにか寝ちゃってたのか〜」
コシコシと、まだダルそうに開ききらない瞼をこする。少し休憩するつもりが、いつの間にか眠っていたらしい。空のてっぺんで燦然と輝く二つの太陽を眺めていたはずだが、外はすっかり日が暮れている。家事が全て終わっているとはいえ、寝過ぎなのは確実だろう。
僕って、こんなねぼすけだったかな?太陽の位置からして3時間ぐらい寝てたみたいだしね。
動くのを拒否している四肢に力を通わせ、無理やり動かしていく。仕事に行ったシーシェ達がいつ帰ってくるなどわからないが、夕飯を準備するならちょうどいい時間だろう。
ふかふかのソファーから跳ね起き、華麗に着地する。目指すは台所。シーシェ達に美味しいご飯を食べさせるため、おぼつかない足取りながらも勇ましく進んで行った。
♢
「さて、何を作ろうかなぁ」
冷蔵庫っぽい魔道具(この世界での家電)を開き、頭を突っ込む。温度調整がうまく行ってないのか、野菜や肉に霜が降りていた。
かってに材料を使っていいのか不安だけど、美味しいご飯を作れば許してくれるよね!!
ガサゴソと冷蔵庫の中を漁り、夕飯の献立を考えていく。野菜や肉、飲料なども全てお同じスペースで収納しているせいで、何がどれだけ入っているのかわかりにくい。しかし、ただわかることが一つあった。
「──ナスが圧倒的に多い」
そう。理由は分からないが、ナスが溢れかえっているのだ。
……誰かナスが好きな人がいるのかな?
頭が疑問符でいっぱいになるが、四角い形をしたナス?を見つめる。いくら冷蔵庫に入っているとしても、これだけの量を消費するのは大変だろう。今日はナスを中心とした献立にしよう。
「──さっそく作っていくかな〜」
角張った大量のナスを冷蔵庫から取り出していく。調理器具はどこにしまってあるか分からないので、ギフトカードから取り出していく。
──しゅぽん!
ギフトカードが光の粒子に変わり、調理台の上に見覚えのある器具が並んでいく。その横に細々とした食材を並べて行き、これで準備は完了だ。
「それじゃあ、はりきって行ってみよー!」
袖をまくり、腕を突き上げ気合いを入れる。気分は3分クッキングだ。
やる気に満ち溢れるユウタは、調理器具と一緒に出てきたエプロンを身につけ野菜を洗っていく。ちなみにどこで洗っているかというと、洗面台だ。当たり前と思うかもしれないけど、この世界の文化レベルだと、井戸から水を組んでくるのが一般的らしい。しかしシーシェ達の家には水道が完備されていて、青い水晶に手をかざすと蛇口位から水が出てくるのだ。そのおかげで重労働することなく調理を勧められている。
しかし、この世界は不思議なものがいっぱいだな〜。割と何でも魔力から作りました! という魔法の言葉で説明できちゃうし……。
目の前の超常現象を理解するのをやめて、野菜を洗っていく。今回使うのは、ナス・パプリカ(なぜか星型をしている)・ミョウガ・少量のネギである。こっちの世界でも名前が一緒なのかは不明だけど、ギフトカードから顕現したモノクルの解析によると、ナスやネギと表示されるのだ。
食べられることだけは確かな野菜を、ステンレス製の包丁で刻んでいく。
トントントン。
リズムよく音を奏で、山のように積まれていた野菜達を刻んでいく。ナスとパプリカもどきは、ヘタを取り乱切りしていく。ナスだけは二品目に使用するため、一部を半月切りにする。
「……しかくいナスだと、半月切りっていうのかな……」
ふと頭に疑問が浮かぶが、もちろん答えてくれる人はいない。ユウタの呟きは誰にも聞かれることなく、宙にかき消えて行った。
ところどころ気になる事があったけど、大方順調かな。野菜も切り終わったし、解凍していた豚バラ肉(みたいな物)を切っていこう!
大量の野菜を脇にどけ、金属製の箱に入った肉に手を伸ばす。シーシェ達は体を動かす職業についているせいか、ものすごく食べる。地球にいた頃のユウタの倍以上の量は、一回の食事で摂取するのだ。そのため、切り分けられていく肉の量も、一瞬相撲部屋かと見間違えるほどに多い。
「──自分でやったことだけど、この量は食べきれるのかな?」
う〜ん。調子に乗って切りすぎちゃったな。いくらシーシェさん達が健啖家といっても、この量はキツイかも。でも、足りないよりはいいかな?
少し悩みはしたが、調理を再開させていく。
ようやく下準備を終えた食材達をボールに分け並べる。そしてフライパンを温め、油を引いていった。
んふふ〜! 油の跳ねる音を聞くとテンションが上がるよね〜。
十分に熱せられたフライパンにお肉を並べて、中火で焼いていく。
──じゅわぁ〜!!
パチパチと軽やかな音と共に、香ばしい匂いが漂ってくる。口から溢れそうになる涎をすすりながら、焦げ付かないうちに肉を裏返していく。
その横でお鍋にお湯を沸かし、謎のだし汁を入れる。モノクルに食用と出たので、多分安全だろう。そしてフツフツと浮かぶ泡を横目で確認し、火を少し弱めておく。
なんかまともな料理になってきたな〜。特にお肉が焼いただけなのにすごく美味しそう!! 肉汁だけでも飲みたいよ!!
徐々に出来上がっていく品々に、興奮が隠せなくなってくる。台所に漂う食材が焼ける匂い。そこには様々な香りが混ざり合い、胃袋を直撃する。
いよいよ完成間近になってきたため、ユウタの動きにキレが増す。
フライパンに、乱切りしたナスとパプリカを投入!! 一気に彩りが豊かになり、視覚的なインパクトが増大する。
しゅわわ〜!と油の跳ねる音が軽やかに響き渡り、お鍋からはくつくつと穏やかな旋律が流れる。
「んみゅ〜!! ナスが美味しそうだよ〜!! さてさて、ここに秘密兵器を投入して、さらなる味覚を開拓しなければ!!!」
冷蔵庫の隅で発見した、日本人馴染みの調味料。まさか異世界で出会えるとは思っていなかったけど、存在するなら存分に使わせてもらいましょう!!
十分に煮込まれた鍋に、みそ(赤色)を溶き入れる。さらにミョウガも加え火を止めた。
ネギは……好みで入れてもらおう。
ひと段落ついた味噌汁は一旦置いておき、フライパンに特製の味噌ダレを投入する。特製のタレって言っても、味噌と酒とみりんを混ぜただけなんだけどねー。
「出来上がりかな?」
ホカホカと湯気を立ちのぼらせるナス料理達を、陶器のお皿に盛り付けていく。玄関の方から話し声が聞こえてくるし、そろそろシーシェさん達が帰ってきたのかもしれない。もしそうなら、ちょうどいいタイミングだ。
盛り付けたお皿をテーブルに並べる。作り終えた後に気づいたんだけど、主食が無いんだよね。日本の家ならお米があるんだけど、今世界だと一般的じゃ無いみたいだ。味噌や醤油はあるみたいなんだけどね!
結局、戸棚に保存してあったパンを軽く炙り、全員分用意した。パンとナスの炒め物ってあうのかな……。
「──ただいま〜〜!!!!」
ドタドタドタ。廊下をけたましい音を立てながらシーシェさんが爆走する。扉を吹き飛ばしかねない勢いの、ままリビングに転がり込んできた。
「お帰りなさい、シーシェさん。ちょうど夕飯ができたところですよ〜」
はぁはぁ。と肩で息をするシーシェさん。だいぶ急いで帰ってきたようで、額に髪が張り付いている。
他の3人を置いてきてしまったのか、廊下に顔を突っ込み、開け放たれた玄関の外を見る。すると薄暗くなった道を、ブルンブルンと胸についた豊満のボールを跳ねさせるレーテさんが見えた。後ろには呆れた様子のイルザさんとディアさんもいる。
よかった〜。みんな元気そうだよ。怪我でもしてたら大変だもんね!
台所で水を飲んで休憩しているシーシェさんに声をかけ、玄関まで3人を迎えにいく。一人暮らしをしている時に気づいたんだけど、家に帰ってきた時に誰もいないと寂しいんだ。一日を終えた疲労感と孤独感に苛まれ、自分の心が削れていくのを感じたんだよね。だからお仕事を頑張っていてであろうみんなを、留守番をしていた僕が迎えなきゃ!!
少し濡れていた手をエプロンで拭きながら、玄関に駆け寄っていく。やっぱり日本人なら、このシチュエーションで言うことは決まってるよね!
「レーテさん、お帰りなさい。まずはご飯にしますか、お風呂にしますか? それとも──僕にしま「ユウちゃんでお願いします!!」 ふにゃ!」
どたーん!
三つ指をついてお出迎えをしようとしたら、レーテさんにそのまま押し倒される。ぞろっとした法衣越しに、水枕のように柔らかい感触が伝わってくる。分厚い布越しなのに、確かに伝わるプニプニとした幸福感。それは、昨日風呂場で味わった桃源郷を記憶から呼び起こし──
「──あわわわわわ!! れ、レーテさんさんおちついてください!!」
一瞬んでユウタの脳みそを処理落ちさせる。
頭が湯沸かし器のように沸騰し、言語能力が怪しくなっているユウタ。そんなの御構い無しに、レーテはユウタをもふもふし続ける。
「もう! ユウちゃんが誘惑するのがいけないのよ。疲れて性欲が増しているのに、我慢できるはずないじゃ無い!!」
むにむに。ぽよぽよ。
髪に顔を埋め、ほっぺたを引っ張る。トロンと情欲の火を灯した瞳をしたレーテは、状況に追いつけなくなったユウタを弄ぶ。そのまま18禁展開になるかと思われたが、追いついてきたイルザ達によって終焉を迎えた。
「──この色情魔が!! 玄関先で何盛ってるんだ!!」
「んん〜〜!! ユウちゃんが可愛すぎるわ!!! なんでこんなに肌がモチモチなの!!」
「人の話を聞いてくれ! 普段あんなに常識人なのに、ユウタが絡むとおかしくなるんだ!?」
「…………ユウタ中毒? ……天然の麻薬? ……」
「ディアも観察してないで、こいつを抑えるのに協力しろ! 私1人じゃ手に余る!!」
ゴロゴロと転がり回るユウタとレーテ。イルザが必死に引き離そうとするが、トリップしているレーテの抵抗が激しく、返り討ちにあっていた。
床が抜けてしまうんじゃ無いかと心配になる程暴れる3人。あまりにも激しく動いたせいで、壁に立てかけてあったレーテの槌が轟音を立てて倒れた。
──レーテの脇腹に向かって
「ぐふぅ!! 」
深々と脇腹に突き刺さったハンマー。かなりの威力があったようで、レーテが正気へと戻る。
「イタタタ……。アザになってそうね……」
「100キロある大槌を喰らって、アザで済むのか。相変わらずタフなやつだ」
「……レーテは外面が良いだけ、中身は残念……」
「よいしょっ! 言いたい放題言われた気がするけど、ユウちゃんに免じて許しましょう」
自分より大きなハンマーを片手でどかし、何事もなかったかのように立ち上がるレーテ。その下からは目を回したユウタが姿を現わす。
「……ユウタを押しつぶして置いて、よく平然としていれるな」
「…………レーテは重いんだから自重しないと……ぷぷっ……」
「うふ、うふふふふ……。おかしなことを言いますね〜。誰が重いんですか〜〜?????」
間延びした口調が恐怖を掻き立てる。意識のないユウタはうなされ苦しそうだが、イルザとディアは不敵な笑みを浮かべる。
「それは言わなくてもわかっているんじゃないか? 自分の体を鏡で見てみると良い」
「…………余計な脂肪が胸だけじゃなく、下の方にも溜まってる……」
「あらあら〜〜????? 随分と上から目線じゃありませんか〜〜〜〜??????」
笑っているはずなのに、震えが止まらなくなる微笑み。普段の表情が天使のようなら、今は悪魔の化身となっている。
「──っぴ!!」
レーテの胸の中で窒息し、意識を失っていたユウタが目覚めた。
い、いったいどんな状況なの!? レーテさんの顔が、地上波で見せられなくなってるよ!!
一触即発の状況になった玄関。ユウタは知らないが、今街でもトップクラスの実力を持つレーテ達。そのとんでもない戦闘力を狭い室内で開放すれば、言わなくても結末は見えているだろう。
「貧乳絶壁つるぺたイルザ。あまり僻むのは良くないですよ〜〜〜????? 」
「 (ビキィっ)そうかそうか。私がひがんでいるように見えていたのか。それは勘違いもいいところだなぁ」
「そんなことはないと思いますよ〜〜???? あなたのまな板では、男性は振り向いてくれないでしょう????」
「──殺るきなら相手になるぞ」
「それはこっちのセリフですよ????── 肉塊に変えてあげます」
殺気が渦巻き、空間が歪んでいく。まるで大気までもが、2人に怯えているようだ。
ひぃぃぃ! 普段は仲良しなのに、一回喧嘩するとどうしてこんなにこじれるの!? 明らかに殺し合いを始める雰囲気でしょう!!!
2人が自分の武器を構え、戦闘態勢をとる。レーテさんの大槌は、シンプルな作りだからこそ堅実で、破壊力がありそうだ。対照的にイルザさんは細身のレイピアを構え、態勢を低くしている。細身の刃に濃密な魔力が込められ、見るだけで背筋が凍る。
家ごと吹っ飛ばしてしまいそうな2人。睨み合いながら、徐々に間合いを詰めていく。高まった暴力的な魔力が荒れ狂い、家全体をガタガタと揺らす。
「──2人とも何をやってるの!!! 喧嘩はダメでしょ!!!」
異変に気付いたのか、リビングでくつろいでいたシーシェさんが飛び込んでくる。この家の中で一番の常識人である彼女がきたのなら、もう安心だろう。これでようやく気が抜けるよ。
「む! シーシェか……。悪いが今回は引けないんだ。見逃してくれ!」
「そうよ〜〜???? 女には逃げてはいけない時があるのよ〜〜????」
シーシェさんが来たことで、少し冷静になった2人。しかし闘争心は衰えないのか、武器は構えたままだ。
その様子にため息を零しながらも、子供に言い聞かせるように、シーシェさんが2人を諭していく。
「そんなこと言ってないで、早く家の中何入りなさい。せっかくユウタくんの用意してくれた夕飯が冷めちゃうよ!」
「ユウタが!」
「晩御飯を!」
「「作った、んですの!!??」」
殺し合いを始めそうだった人たちとは思えない息がぴったりな2人。そんなに僕が料理したことが意外なのかな?
なんとなく微妙な気持ちがするけど、それで二人の喧嘩を止められそうなら本望だよ。
武器を下ろし、シーシェさんに詰め寄る2人を見ながら、人心地つく。なんだかんだ言っても仲の良い人たちだ。
「だからそう言っているでしょ! 早く手を洗ってきなさい!」
「むむ……。それならレーテの相手をしている暇はないな。早く手を洗って来なければ!」
「言い方が気に入らないけど、その意見には賛成します。ユウちゃんの手料理をないがしろにするわけにはいきませんからね!!」
風のように洗面所に消えていく2人。険悪になるのが一瞬なら、仲直りするのも一瞬みたいだ。
「まったく。一度熱くなると手がつけられないんだから……。ごめんね、ユウタ君。怪我はない?」
「はい。大丈夫ですよ」
「よかった〜。ディアが止めてくれたら、こんなことにはならなかったんだけど……はぁ」
「……あんな面白いこと、止めるわけがない……」
疲れた様子のシーシェさんにジト目を向けられても、表情を変えないディアさん。途中いきなり話さなくなったと思ったら、面白がっていたのか。この人もなかなか不思議な人だ。
「まったく。いつもの事だから諦めてるけど、できれば止めてほしいよ」
「…………私を動かしたかったら肉を用意しな……」
「はいはい。ディアも手を洗ってきなさい。私はユウタ君とリビングで待っているから」
「……りょーかい……うさぎ並のスピードで行ってくる……」
「それは早いのかわからないよ……」
いつも繰り返しているであろう会話。2人の間には互いを信頼しあったような、気安さがあった。多分これが彼女たちのペースなんだろう。少し責めている口調なのに、表情はすごく楽しそうだ。
「ユウタ君、さっきから話さないけど大丈夫? やっぱりレーテが重かった?」
ぼーっと考え事をしていたら、ディアさんを見送ったシーシェさんが僕の顔を覗き込んでいた。
「そんな事はないですよ。少し驚いていただけですから」
「そう? 怪我がないならいいんだけど……」
そっと僕を抱き起こし、シーシェさんがダイニングに向かう。幸いなことに、僕が作った料理は冷めていないみたいだ。
「シーシェさんは席に座っていてください。僕はお水を用意してくるので」
仕事で疲れているだろうシーシェさんを椅子に座らせ、人数分のコップを持ってくる。廊下から話し声が聞こえてくるし、そろそろレーテさんたちも戻ってくるだろう。すぐ食べ始められるように準備しなきゃ!
「まったく。疲れているっていうのに、レーテが暴走するから……無駄な労力を使ったじゃないか」
「貴方が喧嘩を売って来なければ、疲れることもなかったでしょうに。私のせいにしないでください」
「…………どっちもどっち……両方アホ……」
「「なんですって!!」」
漫才のようなやり取りをしながら戻ってきた3人は、普段自分が座る席に腰を下ろしていく。ちょうど僕も配膳が終わったところだし、ようやく食事が始められるよ。
「はいはい。不毛な争いはやめて、ユウタ君の手料理を食べよ!」
パンパン。と両手を叩き、場の雰囲気を仕切り直す。む〜っとにらみ合っていた2人だが、空腹に気付いたのか視線が料理に釘付けになる。
「そうだな。ユウタがせっかく作ってくれたんだし、冷めないうちに食べるか」
「ええ。ユウちゃんの手料理を無駄にするわけにはいきませんからね」
「……もぐもぐ……美味しい……」
「相変わらず食べるのが早いね……」
皆んなが並べてあるフォークを手に、僕が作ったナス料理を食べ始める。ディアさんだけはもう食べ始めてたけど、満足そうでホッとしたよ。
「──美味しい!! びっくりしちゃったよ!!」
「そうだな。肉汁をたっぷり吸ったナスの味は格別だ。疲れている体に染み渡る」
「私はこのタレが気に入りました〜! ナスとお肉と絡んで、より一層旨味を引き出しています! 何を使ったらこんな甘辛い味付けになるんでしょうか?」
「…………美味……食べる手が止まらない……」
どうやら口にあったようで、一安心だよ。一応自信はあったけど、実際に食べてもらえるまで美味しいかどうかなんてわからないもんね。
皆んなが幸せそうに頬張る姿を見て、自然と頰が緩んでくる。昨日からお世話になりっぱなしの僕だけど、これで少しでも恩返しできたなら本望だよ。
「──ユウタ君。すっごく美味しかったよ!! 」
「ああ。お前がこんなに料理が上手だったとは。かなり驚いたぞ」
「……ぷふぅ〜……大満足……」
「ユウちゃんの手料理、大変甘露でした〜!! 私、イっちゃいそうです!!」
レーテさんがまた暴走気味だけど、やっぱり喜んでもらえると僕も嬉しいや!また頑張ろうって思えるよね!!
「お口にあったようで何よりです!! お風呂も洗ってあるので、入りたい方はすぐに沸かしてくるので言って下さい」
「ユウタ君は本当に気遣い屋さんなんだね! でもあとは私たちがやっておくから、少し休憩しててね!」
「それなら私は、ユウタとのんびりしてよう。さっき無駄な体力を使ってしまったからな」
「……うふふふ。私にはやる事があるから問い質さないけど、あとで覚えていてくださいね」
カップを片手に、優雅にお茶を飲むイルザさん。レーテさんに睨まれてもどこ吹く風だ。
その反応にため息をつき、レーテさんはお風呂場に向かって行く。今回はイルザさんに軍配が上がったようだ。
「やっと行ったか。一度怒るとしつこいからなぁ。明日までは絶対に不機嫌だろう」
「そう思うならからかわなければいいと思うんですけど……」
「別にからかってないさ。ただレーテが過剰反応するだけだ」
なんでもない風に呟くイルザさん。目元が笑っているし、確信犯だと思うんだけど……
「…………レーテとイルザは素直じゃない……ケンカが一つのコミュニケーション……」
ぬっと背後からディアさんが現れた。未だにこの人の行動原理だけはわからない気がする。本当に不思議な人だ。
「別にそんなつもりはないさ。私だって、レーテと普通に会話することぐらいあるぞ」
「……照れなくていいのに……イルザのツンデレ……」
「お前は一体どこから知識を得ているんだ。貴族の娘が知っている言葉じゃないだろう?」
「……この世には不思議がいっぱい、耳をすませばどこからでも学べる……」
「ああ! ギルドの奴らに吹き込まれたか……。それなら納得だ」
僕の頭を撫でながら、うんうんと頷いている。僕もディアさんが日本のオタクが使っていそうな言葉を知っている事が不思議だったんだよね。どうやらギルドには、面白そうな人がいそうだ。
「ギルドの人って、どんな人がいるんですか?」
よくよく考えてみれば、僕は冒険者のことをよく知らない。シーシェさん達が冒険者にもかかわらずだ。自分のお世話になっている人たちがどんな仕事をしているのか知るいい機会だし、ギルドのことも含めて教えてもらおう。
「あ〜……ギルドの奴らか……。言葉では言い難いな」
「……あそこは個性の嵐……無理やり例えるなら──ケイオス」
「け、ケイオス!? つまり──混沌って言うことですか!!」
今まで穏やかに会話していたのに雰囲気が一変し、神妙な顔つきになり言葉を選びながら話し始めた2人。例えるとしたら混沌って、いったいどんなところなの!? 想像もつかないよ!!
「そうだなぁ。あそこは変態の巣窟だからな、あながち間違ってないかもしれない」
「……この国屈指の実力を誇る代わりに、世界で類を見ないほどの荒れ模様……強くなればなるほど常識を打ち壊していく……」
「確かに。あそこまでいくと、ただの人外魔境だからな。まともな奴なんて1人もいないさ」
「……冒険者ってすごい職業なんですね……」
しみじみと語ってくれる2人だが、僕には全く想像がつかない。人外魔境ってどんなところなんだろうか。一度足を踏み入れたら、生きて帰ってこれない気がする。
「そんなに怖がらなくていいぞ。上位陣は人間を辞めている強さだが、そんなのは一握りしかいない。他はただのゴロツキさ」
人間やめました人間とゴロツキしかいないんじゃ、安心なんてできません!! 僕の感覚がおかしいの!?
「……みんな愉快だよ? ……あの空間にいるだけでS〇N値が削れるほどに……」
いるだけで正気度が削られる場所で、とても楽しめるようには思えません! というより、なんでディアさんがS〇N値を知っているんだろう……。
「 ──みんな〜!! お風呂が沸きましたよ〜」
まだ見ぬ冒険者ギルドに戦々恐々としていると、聞くだけで心が癒されるようなレーテさんの声が廊下から響く。
「やっとか……。今日も疲れたし、さっさと風呂に入って寝るか」
「……賛成……心の洗濯をしないと、心地よい睡眠は得られない……」
やっぱり女性はお風呂が好きなのか、レーテさんの声に反応して意識がそっちに向いた。正直冒険者の話はお腹いっぱいだったし、ちょうどいいタイミングだ。これで僕の心に平穏が訪れるよ。
嬉しそうにソファーから立ち上がる2人を横目に、ホッと胸をなでおろす。どうやら今日はイルザさん達が先に入るみたいだし、その間シーシェさんの手伝いをしようとしたら、
「──よし。今日はユウタも一緒に入るか」
満面の笑みを浮かべたイルザさんに捕まった。
「……ユウタと一緒……面白いことになりそう……」
どうやらディアさんも乗り気みたいで、僕の意思に関係なく連行されるみたいだ。
「もう!! 2人ともユウちゃんを丁重に扱ってくださいね。とてもデリケートな子なんですから」
「……昨日ユウタを気絶させたやつの言葉とは思えないな」
「……自分のことを棚上げにしてる……まじわろた……」
「ブツブツ言っていないで、早くお風呂に入りなさい! 燃料代もただじゃないんですからね!」
「そうガミガミ言わなくてもわかってるさ。ディア、行くぞ」
「……おけおけ……ユウタをイジる準備は万端……!」
「あう〜……。僕はお風呂で何をされるんですか……」
昨日は不覚にも、お風呂でのぼせてしまった。理由は……思い出しただけで体温が上がっちゃうし、記憶の中に大切にしまっておく。問題はディアさんの手に持っているものなんだよね。さすがに二日連続鼻血を出して、気絶するのは恥ずかしい。どうやって無事に生還するかを考えなければ!
『──それなら我らの出番だな』(閣下)
『──ですね。すでにシュミレーションを始めています』(メガネ)
『久々の出番さ! はりきっていくさー!』(チャラ)
ズルズルと引きずられていると、昨日と同じメンツの脳内会議が始まった。
『今回はつるぺたイルザと、ロリ巨乳のディアか。どう対処す──ぐばぁ!』
『か、閣下! 一体何が──おびゃぁっ!!』
『さ、さーーーー!!!!』
バキ! ドゴ! ゴシャ! 性懲りも無く姿を現した自分の分身達を蹴り飛ばす。前回騙された恨み、僕は忘れていないぞ……!!
「ん? ユウタ、どうかしたのか?」
僕を引きずっているイルザさんが振り返って、不思議そうな顔を向けてくる。
「──別に何でもないですよ。気にしないで下さい」
「そうか、ならいいんだが……」
「……2人とも遅い……時間は有限、光より速く動くべし……!」
脱衣所から顔だけ出したディアさんが催促してくる。無表情なのは変わらないのに、瞳は期待に満ち溢れていた。どれだけ楽しみにしているの!
「悪い悪い。今行くから、そんなに催促するな」
「……もう我慢できないから先に入ってる……また会おう……」
しゅぱっ! と残像を残して扉の向こうに消える。何気にディアさんが、4人の中で一番濃いかもしれない……
「まったく……。長い付き合いだがディアの行動原理だけは理解できんよ」
「何というか、自由な人なんですね〜」
「そうだなぁ。一応伯爵家の生まれなんだが、全然そんな風に見えないし、枠にとらわれない生き方をしているんじゃないか? 真似したいとは思わないけどな」
「ああ……野放図な生き方をしているんですね……。僕は少し羨ましいです」
「お前まであんな自由人になられると困るんだが……おっと、脱いだ服はそこに入れといてくれ」
湯船の中から扉越しなのに、ディアさんの早くしろ! オーラがすごく伝わってくる。そのせいなのか申し訳ない気持ちがふつふつと湧き上がってくるな〜。早く脱がないと!
少しブカブカのシャツを脱いで、イルザさんに指示されたカゴに入れて行く。その隣でイルザさんは堂々と服を脱いで行くんだけど……僕より男らしく見えるのはなぜなんだろうか?
「ユウタ。タオルはこれを使ってくれ」
自分の体を一切隠すことなく、イルザさんがゴワゴワしたタオルを僕に渡す。イルザさんがあまりにも堂々としているから、僕の方が恥ずかしくなっちゃうよ!
「あ、ありがとうございます! 僕は先に入っていますね!」
このまま裸でいるなんて、恥ずかしくて耐えられない! 早く湯船の中に入りたい!
イルザさんから受け取ったタオルで体を隠し、駆け足でお風呂場に飛び込んで行く。するとモワッとした湯気が顔に張り付き、視界を白く潰してしまう。これだけ視界が悪ければ、お互いの姿をはっきり見ることは難しいはずだ。僕には好都合と言える。
喜び勇んで浴槽に向かって進むと、不意に体を持ち上げられてしまった。
「……ユウタ……待ってたよ……」
「ディ、ディアさん!? 一体どこにいたんですか!!」
「……もちろんお風呂の中……驚かそうと思ってずっとスタンバイしてた……」
そのを言葉証明するように、ディアさんの髪から雫がこぼれ落ちている。わざわざ僕らを驚かすために、ずっとお湯の中に潜っていたようだ。その茶目っ気がどこから湧いてくるのか一度じっくり聞いてみたいよ……。
「十分に驚きましたし、そろそろ下ろしてくれませんか? 僕も早くお風呂に入りたいです」
「……だめ……まずは汗を流してからじゃないと入れてあげない……」
「──あ! そうですよね、すぐに洗ってきます!!」
「……よしよし……聞き分けの良い子は好きだよ……」
満足そうに頷いて、ディアさんが僕を下ろしてくれる。
「……じゃあ、そのままじっとしててね……」
浴槽の前に立った僕に、ディアさんがお湯をかけてくれる。そのあと【浄化】っていう、体の汚れを取り除いてくれる魔法までかけてくれた。本当は石鹸で体を洗いたいんだけど、毎日使うには高すぎるんだって。だから三日に一度だけ石鹸を使って、それ以外の日は魔法で済ませるそうだ。
僕はこの体がしゅわしゅわする感じが好きで、この魔法が結構好きだったりする。でもシーシェさん達がいうには、石鹸で洗わないと綺麗になった気がしないんだって。そこは男女の感覚の差なのかな?
「……お待たせ……もう入って良いよ……」
「ありがとうございます! それでは失礼して──うみゃ!」
僕には少し高めな浴槽のヘリに足をかけていると、ディアさんに腕を引っ張られ、そのまま湯船の中に引き込まれる。
不意打ちだったせいかバランスを崩しちゃったけど、ディアさんに受け止めてもらったおかけで、何とか無事に入水できたよ……。
「……油断したね……お風呂は憩いの場であり、戦場でもあるんだよ……」
「そんなこと初めて聞きましたよ……。僕はディアさんに勝てる気がしません」
「……ふふふ……まだまだ修行が足りないからだよ……ユウタもいつかお風呂マスターになれる日がきっとくるはず……」
「お風呂マスターって何ですか……。そんな称号が存在しているとは知りませんでした」
「……それは坊やだからさ……ユウタにもわかる日がくるよ……多分……」
「そこだけ疑問系なんんですね……」
こてん。と首をかしげるディアさんを見て、力が抜ける。何となくだけど、僕は一生この人に勝てない気がする……。
「……ユウタは真面目すぎ……もっと堕落しなくちゃだめだよ……」
「そこは力を抜くとかじゃないんですか! 堕落しちゃだめですよ!?」
「……だいじょうぶ……ユウタがニートになっても、レーテが一生面倒見てくれるから……」
「その突拍子もない発想はどこから出てくるんですか!? さすがにニートになったら捨てられると思いますよ!!」
「……ん〜……もしレーテが養ってくれなかったら、私がお世話してあげる……メイド服着用を条件としてね……」
「お断りします!!」
「…………残念、また見たかったんだけどな……」
いつも通りの棒読みだからわかりにくいけど、かすかに声のトーンが下がった気がする。そんなに僕の女装姿を見たいのかな? 面白いことなんて何もないはずなんだけど……。
でも、頭ごなしに否定しすぎたかな? ディアさんに悲しい顔をさせるわけにはいかないし、喜んでくれるなら、ごく稀に着ても良いかもしれない。
「あの〜……毎日は嫌ですけど、たまになら、本当にたまにならメイド服を着ますよ」
「…………………言質、とったよ……………」
「にゃわぁぁぁああ!! しまったぁっぁぁぁあああ!!!」
悲しそうな雰囲気は霧散し、ニヤニヤと勝ち誇った笑みを浮かべるディアさん。どうやら僕の言動を先読みして、まんまと誘導されたみたいだ。全く気づかなかったよちくしょう!!
「……ユウタは優しい子だね……優しすぎて心配なくらいだよ……」
いたずらが成功した子供みたいに笑っていたディアさんが、優しく僕を抱きしめた。突然の行動に僕の思考回路がショートしてしまう。
「ど、ど、どうしたんですか!? 僕が何かしましたか!!?」
小柄な体に似合わない、豊満な胸が僕の胸に当たって形を変える。レーテさんの胸はマシュマロのように柔らかかったが、ディアさんの胸は水枕のように張りがあり、また違った幸福感を僕にもたらした。
「…………ユウタは不思議な魅力がある……いっしょにいると心がポカポカするんだよ……それをもう少し自覚したほうがいい……」
ディアさんに褒められているような気がするけど、僕の体を包むディアさんの体温に緊張して何も入ってこないよ!! それに、ふわふわとした紫紺の髪からミントのような香りが漂ってきて、僕の脳髄を痺れさせる。
これは昨日と同じで、気絶しかねないぞ……!! 男を見せろよ僕ぅぅぅぅう!!!!
「……ん? ……ユウタ、緊張してるの……意外とウブだね……」
僕の反応を見て、おもちゃを見つけたとばかりに瞳が猫のように鋭くなる。
ヤバイぞ! このままだと何をされても抵抗できない!!
湯船の温度とディアさんから伝わる温もりで、僕の体温が温度計を火で炙ったように上昇していく。このままだと僕のうちに眠る、熱き欲望の血潮が吹き出してしまう……!!
限界が近くなったせいで、頭の中が真っ白になっていく。もう桃源郷に旅立ってしまうかと思われた時、ようやくイルザさんが姿を現した。
「人が忘れた着替えを取りに行っている間に、お前たちは何をやっているんだ。ディア、ユウタが限界みたいだし、いっしょに上がれ。二日連続で湯あたりするのは体に悪いからな」
ああ!! イルザさんが女神のように見えるよ!!! これで僕も助かるかも!!!!
脳内で喝采をあげ、飛びかけていた意識が現世に戻ってくる。そのおかげで思考が回り、気付けたんだけど……イルザさん、裸で脱衣所を出ていかなかったっけ?? さすがに女性としてどうなんだろう……。
「……そうだね……充分ユウタで遊べたし、もう出るよ……」
「ユウタとじゃなくて、ユウタでか……。澄ました顔して恐ろしいやつだな」
「……ぶい……私の圧勝だったよ……」
ディアさんが僕を解放して、無表情のままVサインを作る。それを見てイルザさんが、脱力したように湯船に体を沈めて行った。
♢
「それじゃあユウタ君、今日も一緒に寝ようか!」
風呂場でディアさんに弄ばれた後、少し湯あたりしていた僕はソファーでくつろいでいた。結構な時間そうしていたんだけど、シーシェさんとレーテさんがお風呂から上がったことで、みんな寝るために部屋に戻って行って今に至ります。
「あい……。お隣失礼します……」
ポンポン。とシーシェさんが自分の隣を叩き、僕を誘導する。二回目とはいえ、やっぱりいっしょに寝るのは緊張するな〜。
「むふふ〜! ユウタ君は抱き心地がいいから、いい夢が見られそうだよ!!」
布団に入るや否や、シーシェさんに抱きしめられる。お風呂上がりで肌が湿っていて、いつもより色っぽい。しかも押し付けられた胸からする甘い香りを、肺いっぱいに吸い込んだせいで心拍数が上がってしまう。
しかし、シーシェさんに抱きしめられると、全身の力が抜けて、無防備に甘えてしまう。そのせいでたまっていた疲れが吹き出して、一気に睡魔が襲いかかってきた。
「あれ、寝ちゃったのかなぁ? 今日もいろんなことを頑張ってたし、しょうがないかな?」
実はユウタが湯あたりでダウンしている頃、4人は家中綺麗になっていることに気づき驚いていた。ユウタのギフトを知っているためショックは少なかったが、それでも小さな子供が一日にこなせる仕事量を逸脱している。それを知っていたためシーシェは、自分の胸の中で眠るユウタの頰にキスを落とし、自らも明日に備え眠るのであった
いよいよ明日はセンター試験!! これで受かれば落ち着いて執筆できるんですが、一体どうなることやら……。




