第8話 絶望の水位
水の音が聞こえる。
ポツリ……ポツリと不規則に落ちる雨音、流れゆく川の不安なざわめき、力無く跳ねる水溜りの足音、そして首まで沈んだ私の体。
絶望という深い、深い水の中に、私の体は溺れていた。
最初は浅瀬だったのに、生きているだけで、段々と水面が上がってくる。
小さい頃は『死にたい』なんて考えたこともなかった。
ただ幼稚園が嫌だったり、小学校が嫌になったりはしたかもしれない。でもそれが成長して小学五、六年生になると、校舎から飛び降りたら死ねるかなとか考えはじめた。
勉強が上手くいかなかったり、親に叱られたりして、落ち込むと死にたくなる。
そうして絶望が湧きはじめて、足元から浸っていく。
中学になると、勉強がさらに難しくなって小学校と環境も大きく変わる。
自由が減って勉強と部活に追われる日々が始まる。
好きな人が出来たり、告白する前から上手くいかなかったり、運動が上手く出来なかったり、授業の発表で失敗したり……そうして嫌なことが重なり続くと、いつのまにか絶望は腰まで上がって、私の体を冷たく動かないものへ変えていく。
高校生になって知識がつくと流行り病や、戦争、年金など、将来の不安を知ってしまい、生きるのが嫌になった。
自分の学力、運動能力、お金のなさ、顔の悪さなどが、周りと比べられて、クラスを超えて、ネットの人たちと比較して、どうして私だけこんな人生なのかと、死にたくなる。
こうなると絶望は首上まで迫ってくる。
水面ギリギリに顔を上げて、苦しくても、なんとか酸素を吸って生きていた。
常に死にたいと思い続けて、けど死ぬのは怖いから、心が生きる方法を探して、裏垢作って愚痴ったり、目立たない程度に腕を切ったり、自分を雑に扱ったり、たまに息抜きして絶望の水位を下げようとする。ただそれでも何か一歩間違えたら死ぬ、そんな毎日だった。
冷え切った体は、まともに動かせず、考えようにも思考は働かず、現状から逃げることも出来ない。
そうして何もしなくても、水面が上がって私は溺れて────
(……か………ずか…………静香‼)
誰かの声が聞こえた。
私の名前を呼ぶ……お母さんの声。




