第28話 生きている、それだけで充分
泣いて、泣いて、自分の中に貯まった罪の意識が流されていく。
抱きしめてくれた母の手が、私の頭にのせて優しく撫でてくれた。
恥も外聞もなく、盛大に泣き叫んで、息が詰まりそうになるくらい嗚咽を漏らして、それが次第に落ち着いてくると、抱きしめた手が、ゆっくりと離れていった。
椅子に座り直した母と目が合う。
小学生ぶりに大泣きした姿を見せてしまい、ちょっとばかり恥ずかしくて、布団の片寄ったシワに視線を逸らした。
「ごめんさない」
もう一度、謝って言葉を漏らすと、母は柔らかく笑った。
「もう謝らなくていいの。静香が生きている、それだけで充分なんだから」
生きている、それだけでいい。
須藤さんの言葉と重なって、零れそうになった涙を、ぎゅっと瞑って堪える。
ゲフン、とわざとらしい咳を一つ吐いて、なんとか誤魔化した。
「……ありがとう、お母さん」
「はい、どういたしまして」
もう一度、私の頭を撫でて、お母さんは立ち上がった。
「それじゃあ、着替えとか色々持ってくるけど、なにか欲しいはある?」
お母さんは、ほとんど手ぶらで来ていた。
スマホと財布しか持っておらず、それに関連して一つ、思い出す。
「あ、そういえばスマホ、どこかに落としたかもしれなくて……探してほしいです……」
完全に私の過失で無くしてしまい、申し訳無さに後ろ頭をつつかれていた。
「あんたスマホ無くしたの!?」
張り上げた大声が、火山が噴火したと思うほど鼓膜に響いてくる。
「ハイ……スミマセン……」
しおしおと萎んだ体が縮こまって、布団の中に体を潜らせる。
「…………はぁ……仕方ないわね」
病み上がり……もとい病み中の私を見て、火山もすぐに冷えて勢いが静まっていく。
「とりあえず警察には行ってくるけど、期待しないことね。あと他に欲しい物はある?」
「あ、そしたらノートとかペンがほしいかも」
「ノートとペン? 勉……あ、えと、別に今はゆっくりしてもいいんじゃない」
受験に落ちた私を気遣って、言葉を選んでくれるが、私も勉強は当分したくない。
ノートとペンがほしいのは勉強のためではなかった。
「勉強はしないよ。夢の内容を書きたくて」
「夢の内容……?」
きょとんと首を傾けて、私を見た。
「うん、夢ってすぐに忘れちゃうから、忘れないうちに書き留めたいの」
あの人を忘れないように。
真っ直ぐに見つめた母の瞳と目が合う。私の目を観察するようにじっくり見て、頷いた。
「……分かったわ、1階の売店にあると思うからちょっと買ってくるね」
「お願いします」
お母さんに頼ってばかりで気が引ける。
当の本人は何も気にしていない様子で、服のポケットに手を当てて、スマホとサイフがあることを確認してからベッドを離れた。病室の扉前に立つと振り返って、私を見る。
「じゃあすぐに戻ってくるけど、少しでも休んでいなさい」
「うん、ありがとう」
お母さんは病室を出ていった。
スリッパの音が段々と小さくなって、病室がまた静かになる。
私は夢の内容を忘れないように、最初にいた学校から須藤さんに救われるまで、何度も思い返していた。
何度も、何度も、思い返していた。




