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第四章:紗希に蘇る甘い痛み

目の前の悠斗。相変わらず、少し照れたような話し方をする。彼の存在は、私の人生において、もう触れることのない「聖域」か「タブー」のようなものだと思っていたのに、彼の優しい目が、私をあの頃の無邪気な女の子に戻してしまうようで、胸の奥がキュンと鳴った。私が振ったはずなのに、この感覚は何なんだろう。


(私と別れてから、本当にずっと一人だったの? 私のせいで、彼の時間が止まってしまったんだ。モテない方じゃないと思うんだけど)


彼の三年間の空白を知ったことが、私の罪悪感を増幅させる。悠斗は私を見つめているが、きっとその目に映るのは、別れた日の私だ。時間が止まっている。それが痛い。今の私は、和馬と付き合っていて、彼の不確実で熱烈な情熱に満足しているはずなのに、悠斗の純粋な眼差しを見ると、自分が薄情で、残酷な人間のように思えてくる。


「うん、まぁね。そこそこ。でも、悠斗こそ、すごいね。出張で飛び回ってるなんて。本当に立派になったんだね」


私は曖昧に答える。和馬のことを話すべきか迷う。話せば、悠斗に残った最後の希望を完全に断ち切ることになる。彼の悲劇の責任を負いたくないという自己保身と、彼を深く傷つけたくないという優しさから、私はその一線を踏み越えられないでいた。


「ところで、紗希は、最近、誰かいい人できたの?」


ついに、来たか。来ると思ってた。悠斗は不安そうに、まるで尋問するみたいに、そう聞いた。彼の声は張り詰めており、少し震えていた。私は顔には出さないように努めたが、胸が締め付けられる。ここで正直に話せば、彼はどれほど傷つくだろう。


(嘘をつこうか。いや、嘘は彼にも自分にも失礼だ。でも、和馬という名前は出すことに意味はない)


「えっとね…その…、今は、いるよ」


私は震える声で、その事実だけを告げた。カフェの喧騒が、急に遠ざかったように感じた。

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