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『辺境領主の経済無双 ~増税と緊縮で滅びゆく国を、現代知識と積極財政で救う方法~』  作者: 盆ちゃん


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第2話:馬車上の真実と、腐敗する王都の病理

第2話:馬車上の真実と、腐敗する王都の病理

王都シュトゥルムを離れ、辺境都市ヴォルフスブルクへと続く街道は、長雨の影響でひどくぬかるんでいた。

二人が有り金とわずかな装備をはたいて調達した、幌の破れた中古の馬車が、車輪を軋ませながら泥道をゆっくりと進んでいく。手綱を握るアレンの横で、ヴィクトルは御者台に揺られながら、相変わらず『現代マクロ経済学』のページをめくっていた。

「……なぁ、ヴィクトル」

退屈しのぎに馬の尻に鞭を当てながら、アレンがぽつりと口を開いた。

「お前がとんでもなく頭が切れて、あの王都の連中がバカばっかりだってのは、この数日でよく分かった。でもよ、気に食わない部下を左遷するならともかく、わざわざプロの暗殺者まで雇って殺そうとするか? 普通」

アレンの率直な疑問に、ヴィクトルは本から視線を外し、流れていく灰色の森の景色へと目を細めた。

「普通はしないだろうな。だが、奴らにとって私は『ただの生意気な部下』では済まされない、劇薬のような存在になっていたんだ」

「劇薬?」

「王国の国家予算を牛耳る財務派閥のトップ……バルテルス侯爵。彼が推し進めている『緊縮財政』と『燃料特別税』は、表向きは国の借金を減らすための美談として語られている。だが、裏の目的は別にある」

ヴィクトルは冷たい声で、王都の闇を解き明かし始めた。

「バルテルス侯爵は、魔石の産出国である隣国と裏で深く結びついている。我が国が国産の代替エネルギーを開発せず、隣国からの高価な魔石輸入に依存し続ける限り、彼の懐には莫大なリベートが転がり込む仕組みになっているんだ。国が貧しくなろうと、彼ら一部の特権階級だけは甘い汁を吸い続けられる」

「なるほどな。典型的な悪代官ってわけだ」

「私は財務局で過去十年の金脈の流れを洗い出し、その構造的な腐敗を完全に証明した。そして、御前会議の席で侯爵に直接進言したんだ」

ヴィクトルの手元が、怒りで微かに震えていた。

「『直ちに過度な増税を停止し、国債を発行して国内のインフラと新規エネルギー開発に投資すべきだ。そうしなければ、数年以内に我が国は隣国に経済を握られ、実質的な属国になる』……とね。数字と論理をもって、完璧に彼の政策の誤りと危険性を指摘してやった」

アレンは呆れたように息を吐き、頭を掻いた。

「お前……そりゃ殺されるぞ。相手のメンツを丸潰れにした上に、一番触れられたくない金の成る木に斧を振り下ろしたようなもんじゃねぇか」

「当時の私は、数字の正しさこそが正義だと信じている青二才だったからな」

ヴィクトルは自嘲気味に笑った。

「当然、私の提案は一笑に付された。そしてその三日後だ。私が管理していた国庫の一部が消失し、私の執務室から『隣国のスパイと内通し、金を横領していた』という偽造された証拠品が出てきたのは」

「……見事なまでの濡れ衣だな」

「バルテルス侯爵の力を使えば、証拠の捏造など容易い。私は弁明の機会すら与えられず、貴族位を剥奪され、辺境のヴォルフスブルクへの永久追放を言い渡された。だが、侯爵はそれで満足しなかった」

ヴィクトルは懐から、路地裏で暗殺者から奪い取った短剣を取り出し、その刃を指先でなぞった。

「私が辺境で何を企むか分からない。あるいは、どこかのタイミングで真実を暴露されるかもしれない。自分の利権を脅かす『論理』を持った私の頭脳が、生きて存在していること自体が、彼にとっては夜も眠れないほどの脅威だったのだろう。だから、追放に見せかけて王都の片隅で確実に始末しようとした」

そこまで語り終えると、ヴィクトルは短剣を外套の奥にしまい込み、再び強い光を宿した瞳でアレンを見た。

「だが、彼らは最大のミスを犯した。私を殺し損ね、あろうことか、お前という『現代の叡智』を持った規格外の男と引き合わせてしまったことだ」

「俺のクソスキルが、一国の財務卿をぶっ潰す武器になるってか」

「なる。必ずな」

ヴィクトルは手元の経済学書を力強く叩いた。

「辺境で圧倒的な富を築き、王都の経済を機能不全に追い込んでやる。バルテルス侯爵が築き上げた腐敗の塔を、根底から叩き折る。そのためには、お前の力が必要だ、アレン」

「……へっ、言ってくれるぜ」

アレンは手綱を握り直し、前方を真っ直ぐに見据えた。

泥だらけの街道の先、鬱蒼とした森を抜けた地平線の向こうに、彼らの新たな舞台となる辺境都市ヴォルフスブルクの粗末な石壁が、微かに姿を現し始めていた。

「せいぜいこき使ってやるよ、天才サマ。まずはその辺境とやらで、俺たちの『紙切れ』がどこまで通用するか、お手並み拝見といこうじゃねぇか」

冷たい風が二人の間を吹き抜け、馬車は荒野の彼方へと速度を上げていった。彼らの胸に燃える反逆の炎は、王都の冷たい雨雲など決して届かないほどの熱を帯びていた。

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