第4章・第27話:腐敗の夜会と、特権階級の終焉
第4章・第27話:腐敗の夜会と、特権階級の終焉
王都シュトゥルムにそびえ立つ白亜の『貴族院議事堂』。
その大広間では今宵も、王国の法と予算を決定する権力者たち——貴族院議員による豪奢な「夜会」が開かれていた。
「いやはや、今宵も大盛況ですな。大商会の連中が我々に配慮して、一枚で金貨百枚もする『夜会参加券』を束で買っていく。これだけで数万金貨の裏金(活動資金)が転がり込むというものです」
「まったくです。財務派閥や厚労派閥の連中が捕まった時は肝を冷やしましたが、我々『立法府』の議員は別格ですからな。法律を作る我々自身が、自分たちを縛る法律を作るはずがありません」
高笑いと共に高級ワインのグラスを合わせるのは、貴族院の重鎮であるドノバン公爵とその取り巻きたちだ。彼らの首には大粒の宝石が輝き、国民の生活などどこ吹く風といった様子である。
「それにしても、議員という職業は本当に美味しい。我々には毎月『伝令・通信補助金』と称して莫大な手当が支給されますが、領収書の提出すら不要ですからな。適当に飲み食いに使っても誰にもバレない」
「おまけに『領地視察機密費』と称して、使途を明かさなくていい金まで国庫から引き出せる。万が一、不正がバレそうになっても、秘書官や使用人に『勝手にやった』と罪を被せて切り捨てれば、我々当主はお咎めなしだ」
彼らは「連座制(部下の罪を主人が負う制度)」がないことをいいことに、長年トカゲの尻尾切りで生き延びてきた。
「何より素晴らしいのは、我々特権階級には『税金がかからない』ことですよ。平民から絞り上げた税で生きていながら、我々自身は所得税も免除。爵位を息子に譲る際も、莫大な資産を『政治団体(派閥)の引き継ぎ』という名目にすれば、相続税を丸ごと逃れられる。まさにやりたい放題だ!」
「「「はっはっはっは!!」」」
議員たちの下劣な笑い声がホールに響き渡った、その時。
「——ずいぶんと景気のいい話ですね。自分たちで自分たちを優遇する『泥棒のルール』を自慢し合うとは」
冷ややかで、しかしホール全体を凍りつかせるような鋭い声が響いた。
重厚な扉から足音も立てずに歩み入ってきたのは、黒いコートを羽織り、冷徹なモノクルを光らせるヴィクトルと、大剣の代わりに最新式のライフルを肩に担いだアレンだった。
「ヴィ、ヴィクトル・フォン・エルンスト!? な、なぜお前がここに!」
ドノバン公爵がワイングラスを落とし、顔を青ざめさせた。
「オズワルド丞相の特命ですよ、ドノバン公爵。厚労派閥も領土交通派閥も解体され、残るはこの国の『最大の聖域』……貴方たち国会議員が貪り食う、底なしの特権だけですからね」
ヴィクトルは歩みを進めながら、持っていた分厚い書類を大広間のテーブルに次々と叩きつけた。
「領収書不要の伝令・通信補助金。使途不明の視察機密費。大商会からの癒着の温床である献上金(企業献金)と、この夜会という名の『政治資金のロンダリング』。……そして何より、国民に増税を強いておきながら、自分たちは免税特権と相続税逃れを享受するその厚顔無恥さ。マクロ経済の観点から言っても、これほど有害な『富の滞留』はありません」
「き、貴様! 立法府たる我々に、一介の領主が口出しするなど許されると思っているのか! 警備兵! この不敬な輩をつまみ出せ!」
公爵がわめき散らすと、議事堂の警備兵たちが槍を構えて駆けつけてきた。
しかし、アレンがライフルを構え、銃口を天井に向けて一発放っただけで、その轟音に警備兵たちは腰を抜かしてへたり込んだ。
ダァァァンッ!!
「さて、静かになったところで本題だ」
アレンが銃身の煙を吹き飛ばしながら、獰猛に笑う。
「お前ら、平民には『財源が足りないから痛みを分かち合え』って説教垂れといて、自分たちは特権の甘い汁を吸い続けてたんだってな。スジが通らねぇだろうが」
「黙れ平民! 我々は国の舵取りをする崇高な義務を負っているのだ! そのための特権だ!」
「崇高な義務を負う者が、部下に罪をなすりつけて逃げるのですか?」
ヴィクトルが、氷の刃のような声で公爵の言葉を切り裂いた。
「いいですか、特権階級の皆さん。本日この瞬間をもって、貴方たちの『七つの大罪』はすべて終わります」
ヴィクトルは、オズワルド丞相の国璽が押された法案改正の布告書を高く掲げた。
「第一に、領収書不要の通信費および使途不明の機密費は**『完全廃止』。一銅貨たりとも使途を公開できない金は国庫に返納していただきます」
「第二に、大商会からの企業献金と、このような夜会による『資金集めの全面禁止』。政治を金で買う時代は終わりです」
「第三に、『連座制の徹底』。秘書官や使用人が不正を行えば、当主である議員も同罪として即刻爵位剥奪および投獄とします。もうトカゲの尻尾切りは通用しません」
「そして最後に……議員の『非課税特権の廃止』および『相続税逃れの厳罰化』**。貴方たちも平民と同じように、正当な税を国に納めていただきます」
「な……ななな……ば、馬鹿なァァァァッ!!」
ドノバン公爵をはじめとする議員たちが、頭を抱えて絶叫した。
自分たちの富と権力を永久に保証するはずだった「抜け道」が、ヴィクトルの圧倒的な論理と丞相の権力によって、たった今、すべてコンクリートで塞がれたのだ。
「そんな法案が通るはずがない! 我々が承認しないぞ!」
「ええ、ですから『貴族院の解散』もセットで丞相にお願いしてあります。特権を剥奪されただの平民と同等の条件になった貴方たちが、次の選挙で国民から選ばれるといいですね」
ヴィクトルは冷酷に微笑んだ。
国民を苦しめ、インフラを放置し、自分たちの懐だけを温め続けてきた政治家たち。彼らが選挙でどのような裁きを受けるかなど、火を見るより明らかだった。
「ひぃぃっ……! 嫌だ! 私の財産が! ぜ、税金で持っていかれるゥゥッ!」
「裏金がないと次の選挙に勝てない! 誰か助けてくれェェ!」
かつて、王国の頂点でふんぞり返っていた特権階級の亡者たちは、金と特権という鎧を剥ぎ取られ、最も恐れていた「法の下の平等」という名の現実の前に泣き喚き、崩れ落ちた。
「……さて、アレン。これで王都を蝕んでいた大ぶりの寄生虫は、すべて駆除し終えました。国庫から漏れ出していた莫大な富が、ついに国民のために100パーセント使われるようになります」
「おう。大掃除は気持ちいいが、連中の情けねぇ泣き顔を見てると胸糞悪くなるな。さっさと帰って、リュウキアの綺麗な海でも見ようぜ」
王国の歴史上、最も腐敗し、最も国民を苦しめた「政治家特権」の時代は終わった。
自ら痛みを伴わない者に、国を導く資格はない。ヴィクトルとアレンがもたらした冷徹な「ざまぁ」の鉄槌は、この国に真の民主主義と経済成長の土台を、決定的に打ち立てたのである。




