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『辺境領主の経済無双 ~増税と緊縮で滅びゆく国を、現代知識と積極財政で救う方法~』  作者: 盆ちゃん


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第4章・第26話:陥没する街道と、消えた安全保障基金

第4章・第26話:陥没する街道と、消えた安全保障基金

ガコンッ!!

「うおっ!? またかよ! 舌噛みそうになったじゃねぇか!」

王都シュトゥルムの中心部へ向かう豪奢な馬車の中で、アレンが大きく身を跳ねさせながら悪態をついた。

窓の外を見れば、王国の心臓部であるはずの主要街道は目を覆うような惨状だった。石畳はあちこちでひび割れ、雨水が溜まった巨大な陥没穴がいくつも口を開けている。車輪を取られて横転した荷馬車が道を塞ぎ、大渋滞が起きているのはもはや日常茶飯事であった。

「……王都のインフラの劣化は、いよいよ末期症状ですね」

ヴィクトルは揺れる車内でも表情一つ変えず、手元の書類に目を通していた。

「おいおい、景気が良くなったってのに、なんで道はボロボロのままなんだ? 確か王都に入る荷馬車からは、毎年高い『街道維持特別税』を取ってるはずだろ。その金はどこに消えてんだよ」

「アレン、良い着眼点だ。その答えは、この書類……王国のインフラと運輸を牛耳る『領土交通局』の予算書に記されている」

ヴィクトルは冷たい溜息をつき、書類をアレンに向けた。

「領土交通局もまた、先日の厚労派閥と同じく『官の横滑り(天下り)』の温床だ。彼らは集めた特別税を現場の石工ギルドに直接渡さず、『街道安全修繕機構』や『石畳品質検査財団』といった、自分たちの退職後のポストとなる外郭団体へ流し込んでいる。そこで予算の八割が『管理費』として中抜きされ、現場の職人には粗悪な土で穴を埋めるだけの金しか回らない。だから、雨が降るたびに道が陥没するのだ」

「また中抜きのダニ共かよ。税金払って道が穴だらけなんて、詐欺もいいとこだぜ」

「……だが、真の闇は道路の修繕費だけではない。これを見ろ」

ヴィクトルが指差した項目を見て、アレンは首を傾げた。

そこには『魔導馬車損害賠償基金』と書かれている。

「なんだこりゃ?」

「万が一、馬車や魔導車が事故を起こした際、被害者の治療費を補償するために、すべての所有者から強制的に徴収している『安全のための保険金』だ。これは税金ではなく、あくまで国が一時的に預かっているだけの『国民の財産』であるはずだが……」

ヴィクトルのモノクルの奥で、ゾッとするような怒りの光が閃いた。

「この基金に積み立てられていたはずの数百億金貨が、帳簿上から完全に消滅している。」

「はぁ!? 消えたって……どこにだよ!」

「かつて、国庫の赤字に苦しんでいたバルテルス侯爵ら『財務派閥』が、この基金から『一時的な貸し付け』という名目で莫大な資金を強奪し、緊縮財政の穴埋めに使ってしまったのだ。そして財務派閥が消滅した今、その金は有耶無耶にされ、国庫に返還される見込みは完全に絶たれた」

アレンは言葉を失った。国民から安全のために強制徴収した金を、政府が別の無駄遣いの穴埋めに使い込み、あまつさえ踏み倒したのだ。

「領土交通局のトップ……ダニエル・グロスマン卿は、この事実を隠蔽したまま、『基金が枯渇したため、来年から保険料を引き上げる』と発表しようとしている。自分たちの怠慢と癒着で国民の金を消し飛ばしておきながら、そのツケをさらに国民に払わせるつもりなのだ。……到底、生かしてはおけない国賊だ」

「……なるほどな。そいつは、厚労派閥のジジイ共よりもタチが悪いぜ」

アレンはライフルを手に取り、獰猛な笑みを浮かべた。

「道に穴を空けるだけじゃ飽き足らず、国民の財布にもデカい穴を空けようって魂胆か。なら、その穴をどうやって埋めるか、俺たちが直々に教えてやろうじゃねぇか」

 * * *

その日の午後、領土交通局の長官室。

ダニエル・グロスマン卿は、ふかふかの絨毯の上で高級なワインを傾けながら、傘下の外郭団体の理事たちと談笑していた。

「いやはや、財務派閥がいなくなったおかげで、我々への監査が緩んで助かりましたな。消えた保険金の件も、適当に『馬車の事故が増えたため』とでも理由をつけて、来期から保険料を1.5倍に引き上げれば丸く収まります」

「グロスマン卿、見事な采配です。これで我々の『街道安全修繕機構』の役員報酬も安泰ですな。外の街道がどれだけ陥没しようと、我々の懐さえ平らなら問題ありません」

下劣な笑い声が長官室に響き渡った、その時。

バァァァンッ!!

部屋の重厚な扉が、蹴り破られるように大きく開かれた。

「——ずいぶんと楽しそうだな。俺もその『平らな懐』の話に混ぜてくれよ」

ズカズカと踏み込んできたアレンと、背後に続くヴィクトルの姿を見て、グロスマン卿はワイングラスを落として立ち上がった。

「え、エルンスト元卿!? 貴様ら、なんの権限があって私の執務室に……! 近衛兵! 近衛兵を呼べ!」

「無駄ですよ、グロスマン卿」

ヴィクトルは、グロスマンの執務机の上に、分厚い帳簿と『消えた基金』の証拠書類を叩きつけた。

「オズワルド丞相からの全権委任状を持参しています。貴方たちが『一時貸し付け』と称して財務派閥に売り渡した国民の保険金……そして、その事実を隠蔽してさらなる増税を目論んだ国家への背任行為。すべて裏は取れている」

「なっ……! そ、それは前財務卿が勝手にやったことで、私にはどうすることも……!」

「言い訳など聞きたくありませんね。貴方たちは財務派閥に金を貸す見返りとして、自分たちの『天下り団体』への予算削減を免除してもらっていた。共犯以外の何物でもない」

ヴィクトルの氷のような冷酷な声が、役員たちの反論を完全に封じ込める。

「貴方たちの作った無駄な中抜き団体は、本日をもってすべて解体します。街道の修繕は国が直接、現場の石工ギルドに適正価格で発注する。そして……消えた数百億金貨の保険金は、貴方たち領土交通派閥の全幹部の個人資産を没収し、一シリング残らず補填していただきます」

「ひぃぃッ! ば、馬鹿な! 私の全財産を奪う気か! 私は国の交通を支える重鎮だぞ!」

グロスマン卿が錯乱して掴みかかろうとした瞬間、アレンが彼の胸倉を乱暴に掴み上げ、窓際へと引きずっていった。

「交通を支えてるだと? 外を見てみろよ、このクズ野郎」

アレンは長官室の窓を叩き割り、グロスマン卿の顔を外の景色——陥没した道路で横転し、途方に暮れる平民たちの姿へと向けさせた。

「お前らが中抜きして、安全のための金を着服したせいで、毎日あそこで誰かが怪我をしてるんだ。お前らの仕事は交通を支えることじゃねぇ。道を壊して、平民から血をすすることだろうが」

「ひっ、ひぃぃ……! た、助け……!」

「安心しろ。お前らの残りの人生は、そのボロボロになった街道を、つるはし一本で直すっていう素晴らしい『公共事業』に充ててやるよ。給料はなし、完全なボランティアだ。立派な天下り先だろ?」

アレンが彼を床に放り投げると同時に、待機していた近衛兵たちが雪崩れ込み、泣き叫ぶグロスマン卿と天下り役員たちを次々と拘束していった。

インフラを食い物にしていた巨大な闇は、こうして完全に暴かれ、裁きを下された。

中抜きのダニ共が消え去ったことで、予算はついに現場の職人たちの手に直接渡ることになる。穴だらけだった王都の街道が、本当の意味で整備され、真の血流を取り戻す日は、もう目前まで迫っていた。

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