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『辺境領主の経済無双 ~増税と緊縮で滅びゆく国を、現代知識と積極財政で救う方法~』  作者: 盆ちゃん


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第4章・第25話:暴かれた聖域と、寄生虫の掃討

第4章・第25話:暴かれた聖域と、寄生虫の掃討

王都シュトゥルムの中心部、王城にも引けを取らない一等地に、その豪奢な建物はそびえ立っていた。

全面を白亜の大理石で覆われ、無駄に巨大な噴水と黄金の彫刻で飾られたその施設の名は『王国医療統括ギルド』本部。国民から徴収された莫大な「健康保険税」を原資として建てられた、厚生治癒派閥の最大の天下り(官の横滑り)機関である。

その最上階にある豪華絢爛な役員会議室では、今日も国から甘い汁を吸う元・高級官僚たちが、極上の茶菓子を摘みながら優雅な「お茶会」を楽しんでいた。

「いやはや、今期の『労働者治癒促進センター』からの上納金も素晴らしい額でしたな。これで我々の特別手当もさらに弾むというものです」

「なにせ、街の治癒士たちから巻き上げるライセンス料を倍に引き上げましたからな。平民の治療費が上がろうと、我々の知ったことではありません。……しかし、最近は『社会保障費が足りない』と騒がれております。そろそろ、また健康保険税の引き上げを王城に提言せねばなりませんな」

分厚い脂肪に覆われた顎を揺らしながら下品に笑うのは、このギルドのトップであり、元・厚生治癒卿であるバルサザール伯爵だ。

彼らは週にたった一度、この部屋に集まって判子を押すだけで、現役時代を遥かに凌ぐ莫大な報酬を手に入れている。弱者を盾にし、自分たちは一切の労働をせずに国富を貪り尽くす、正真正銘の寄生虫たちであった。

「はっはっは! まったく、平民どもは『社会保障のため』と言えばいくらでも税を搾り取れるのだから、笑いが止まりませ——」

ドゴォォォォォンッ!!!

バルサザール伯爵の高笑いは、部屋の頑丈なマホガニー製の両開き扉が、爆発音と共に木っ端微塵に吹き飛んだことで掻き消された。

「ひぃぃッ!?」

「な、何事だ! テロか!?」

粉塵と木片が舞い散る中、悲鳴を上げて床に這いつくばる役員たち。

その土煙を悠然と踏み越えて現れたのは、磨き上げられた漆黒の靴音を響かせるヴィクトルと、まだ薄煙を上げる散弾銃ショットガンを片手で担いだアレンであった。

「……いやはや、素晴らしい会議室ですね。この無駄に豪華なシャンデリア一つで、いったい何人の病人が特効薬を買えたことやら」

ヴィクトルは冷徹なモノクルの奥で室内を一瞥し、ハンカチで口元を覆いながら軽蔑の眼差しを向けた。

「き、貴様らは……! ヴォルフスブルクのエルンストとクロムウェル!? なぜここにいる!」

「おい警備兵! 何をしている、このテロリストどもを早くつまみ出せ!」

バルサザール伯爵が喚き散らすと、廊下からギルド専属の屈強な護衛の魔法使いや剣士たちが十数名、武器を構えて雪崩れ込んできた。

「へっ、随分と高そうな給料もらってそうな連中だが……実戦経験ゼロのお坊ちゃん護衛じゃ、準備運動にもならねぇな」

アレンは散弾銃を背中に回し、首をポキポキと鳴らして前に出た。

「殺せ!」という伯爵の命令と共に護衛たちが一斉に魔法の詠唱を始めようとした、その瞬間。

「遅ぇよ」

ドンッ! という踏み込みの衝撃と共に、アレンの姿がブレた。

現代の『生体力学バイオ・メカニクス』を応用した無駄のない重心移動。アレンの拳が、先頭の剣士の鳩尾にメリ込み、男は一撃で白目を剥いて壁まで吹き飛んだ。

「なっ……詠唱が、見えな——がはッ!」

魔法使いが炎を放つ前に、アレンの回し蹴りが顔面に炸裂する。

魔法の杖がへし折れ、重装備の護衛たちが次々と宙を舞い、高級な調度品やティーテーブルを巻き込んで無様に転がっていく。アレンは一切の魔法を使わず、ただ純粋な「質量と速度の物理法則」だけで、ものの十数秒でギルドの精鋭護衛を全員沈黙させてしまった。

「ひっ……! 悪魔、悪魔だ……!」

圧倒的な暴力を前に、腰を抜かして震え上がる役員たち。

アレンは無傷のまま、バルサザール伯爵の首根っこを掴んで軽々と持ち上げ、ヴィクトルの足元にゴミのように投げ捨てた。

「さて、物理的なお掃除は終わりました。ここからは『経済』のお時間です」

ヴィクトルは、伯爵の顔の前に分厚い帳簿の束をバサリと叩き落とした。

「バ、バルサザール伯爵。これは貴方たちがこのギルドを通じて行っていた、回復薬の『不当な買い上げ』と『ピンハネ』の全記録です。原価が銅貨一枚の薬を、国から銀貨三枚で買い上げさせ、差額を自分たちの役員報酬としてプールする。さらには、実体のない『安全推進機構』なるダミー団体を無数に乱造し、国の予算をたらい回しにして中抜きを繰り返す……見事な手口ですね」

「ふ、ふざけるな! 我々が厳格な審査を行っているからこそ、回復薬の安全が守られているのだ! 我々は国と民の健康のために、身を粉にして働いている!」

「身を粉にして、だと?」

ヴィクトルの声の温度が、一気に絶対零度まで下がった。

「貴様らが週に一度、この部屋で高い茶をすすりながらハンコを押すだけの仕事のどこが『身を粉にしている』というのだ! 貴様らが中抜きしたせいで、現場の治癒士たちは薄給で過労に倒れ、平民たちは高額な健康保険税に首を絞められている! 貴様らは社会保障の守護者などではない。国庫に群がる醜悪な『ダニ』だ!」

「ひっ……!」

「『社会保障費が足りない』のではない。貴様らのような『無駄な中間搾取組織』が多すぎるから、金が現場に届かないのだ! これ以上、弱者を盾にして自分たちの肥え太った老後を守ろうなどと思うな!」

ヴィクトルの痛烈な正論の刃が、元官僚たちのちっぽけなプライドと嘘を完膚なきまでに切り裂いた。

もはや反論の言葉すら出ず、ガタガタと震えるだけのバルサザール伯爵の耳に、廊下から無数の重い足音が響いてきた。

「……オズワルド丞相からの勅命である!」

踏み込んできたのは、銀色の甲冑に身を包んだ王国の近衛騎士団だった。

「王国医療統括ギルド、ならびにその傘下にあるすべての外郭団体を、本日をもって解体・差し押さえる! バルサザール伯爵以下、全役員を業務上横領および国家背任の容疑で直ちに捕縛せよ!」

「な……ば、馬鹿な! 私は元厚生治癒卿だぞ! 私を逮捕すれば、この国の医療行政が止まってしまうぞォォォッ!」

喚き散らすバルサザール伯爵だったが、近衛兵たちは容赦なく彼らを縛り上げ、冷たい石床に引きずり倒した。

「心配は無用だ、ダニの親玉さんよ」

アレンが、伯爵の顔の前でしゃがみ込み、ニヤリと笑った。

「お前らみたいな中抜きのプロがいなくなれば、国の金は直接現場の医者と患者に届くようになる。お前らが消えた方が、この国の医療は百倍上手く回るんだよ。せいぜい地下牢の冷たい飯を食って、本当の『健康的な生活』ってやつを味わうんだな」

「いやだ! 離せ! 私の金が! 私の特権がァァァァッ!!」

かつて王都で権勢を振るい、平民の血税をすすって優雅な老後を貪っていた者たちは、最も惨めな形で完全に引きずり降ろされた。

「……見事な手際ですね、アレン」

「おう。これでまた一つ、王国の空気が美味くなったな」

崩壊した豪華なギルド本部の窓から、王都の青空を見下ろす二人。

彼らが解体したこの無駄な外郭団体群から浮いた莫大な予算は、即座に「真に支援が必要な弱者」と「医療の最前線」へと再分配されることになる。

ヴィクトルとアレンによる、既得権益という名の「聖域」への容赦なき大掃除は、まだ始まったばかりであった。

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