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『辺境領主の経済無双 ~増税と緊縮で滅びゆく国を、現代知識と積極財政で救う方法~』  作者: 盆ちゃん


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第4章・第24話:聖域の解体と、寄生虫たちの天下り

第4章・第24話:聖域の解体と、寄生虫たちの天下り

「消費税ゼロ」と「内需主導の積極財政」へと舵を切ったヴァルデンシュタイン王国は、かつてない黄金時代を迎えていた。

街には活気が溢れ、大通りには新しい商店が次々と軒を連ねている。人々の顔からは明日のパンを憂う暗い影が消え去り、王都は真の意味での「供給能力の爆発」を体現していた。

だが、王城の執務室で書類の山と睨み合うヴィクトルの表情は、決して晴れやかではなかった。

「……なるほど。バルテルス侯爵ら『財務派閥』がいなくなり、国家予算の不透明な流れを完全に洗えるようになったことで、ようやくこの巨大な汚泥の底が見えてきたというわけか」

ヴィクトルは、一枚の巨大な羊皮紙を執務机の上に広げた。

そこには、王国政府の組織図から無数に枝分かれした、複雑怪奇な相関図が描かれている。

「おいおい、なんだその蜘蛛の巣みたいな図面は」

ソファで愛銃の手入れをしていたアレンが、顔をしかめて覗き込んだ。

「王国の『厚生治癒局』……民の健康と労働、そして老後の生活を保障するための『社会保障制度』を管轄する役所と、その関連団体の図だよ」

「ああ、病気になった平民に回復薬ポーションを安く支給したり、怪我で働けなくなった奴に手当を出すって制度だろ? それのどこが汚泥なんだ。国として真っ当な仕事じゃねぇか」

「制度の理念は真っ当だ。弱者を救済し、国民が安心して暮らせる土台を作ることは、マクロ経済においても極めて重要な『需要の下支え』になる」

ヴィクトルは手元の羽ペンで、相関図の末端にある『平民』の文字を叩いた。

「問題は、国庫からこの『平民』に金とサービスが届くまでの間にある、この異常な数の中間組織だ。……アレン、お前は回復薬の原価がいくらか知っているか?」

「俺が『化学』の知識でクズ草から錬成すりゃ、銅貨一枚でお釣りが来るな。ギルドの薬師が作っても銅貨五枚ってとこだろ」

「正解だ。だが、厚生治癒局の帳簿によれば、国は『回復薬安全推進機構』という団体から、回復薬一つにつき**銀貨三枚(原価の数十倍)**という暴利で買い上げている。そして、その高額な費用を賄うために『社会保障費が膨張している』と叫び、国民から重い『健康保険税』を搾り取ってきたのだ」

「はぁ!? なんでそんなぼったくり価格で国が買うんだよ!」

「それが**『官の横滑り(天下り)』**と呼ばれる、この国最大の寄生システムだからだ」

ヴィクトルのモノクルの奥で、冷酷な怒りの炎が揺らめいた。

「厚生治癒局の高級官僚たちは、退職後、この『回復薬安全推進機構』や『高齢者魔力補助財団』『労働者治癒促進センター』といった、国が税金で作った無数の外郭団体ダミーギルドに、最高責任者として再就職(天下り)する。彼らは週に一度、数時間の会議に出るだけで、現役時代を遥かに超える莫大な報酬と退職金を受け取っているのだ」

「……はっ。なるほどな」

アレンの顔に、底知れぬ嫌悪感が浮かんだ。

「つまり、平民のために使われるはずの『社会保障費』の大部分は、怪我人や老人のところへ行く前に、何もしない天下りジジイどもの懐にチューチュー吸い取られてるってことか」

「その通りだ。かつての財務派閥は、自分たちもこの利権の甘い汁を吸っていたため、この異常な『中抜き構造』を黙認していた。そして『老人が増えて社会保障費が足りない! だから消費税を上げろ!』と国民を騙し続けてきたのだ。……厚顔無恥にも程がある」

弱者を盾にして予算を分捕り、その予算で無駄な団体を乱造して己の老後を肥え太らせる。

現役世代からは重税を搾り取り、末端の老人や病人には粗悪なサービスしか行き渡らない。これこそが、王国の経済を内側から食い破っていた真の『癌細胞』、厚生治癒派閥の正体であった。

「……だが、あの口うるさい財務派閥が消し飛んだ今、国家予算の監査権限は完全に私の手にある。もはや奴らを守る防壁は何もない」

ヴィクトルは羊皮紙の蜘蛛の巣を、羽ペンの先で力強く真っ二つに引き裂いた。

「アレン。我々の次なる仕事は、この『社会保障』という名の聖域の完全解体だ。無駄な外郭団体はすべて統廃合し、寄生虫(天下り官僚)どものクビを物理的かつ経済的に刎ね飛ばす。浮いた莫大な予算はすべて、真に支援を必要としている末端の国民と、医療技術を支える現場の治癒士たちへ直接再分配する」

「最高だぜ、ヴィクトル。そういう大掃除なら大歓迎だ」

アレンは立ち上がり、ライフルを肩に担いで獰猛な笑みを浮かべた。

「法を盾にして安全圏から弱者の金をすするダニ共には、俺たちの『現代の流儀』で引導を渡してやるのが一番だ。……で、まずはどの『推進機構』からドアをぶち破りに行く?」

「まずは元凶からだ。厚生治癒卿であるベネディクト伯爵の屋敷と、彼が退職後の玉座として用意している最大の天下り先……『王国医療統括ギルド』の本部を同時制圧する」

王都の真ん中で長年肥え太ってきた、最大にして最悪の利権組織。

彼らが「弱者救済」という美しい仮面を剥ぎ取られ、圧倒的な論理と暴力の前に絶望の悲鳴を上げるまで、あとわずかであった。

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