第4章・第28話(閑話):暁の帰還と、反逆者たちの遺言
第4章・第28話(閑話):暁の帰還と、反逆者たちの遺言
王都シュトゥルムは、かつてないほどの静寂と、同時に熱気に包まれていた。
特権に胡坐をかいていた貴族院議員たちが一斉に捕縛され、議事堂が実質的な「空き家」となってから数日。街では消費税廃止とインフラ整備の恩恵が爆発的に広がり、民衆は新時代の到来を肌で感じていた。
その王都の中枢、オズワルド丞相の執務室。
分厚い書類の山と格闘し、文字通り不眠不休で事後処理に当たっていた丞相の前に、旅装束に身を包んだヴィクトルとアレンが立っていた。
「……行くのか、ヴィクトル、アレン」
オズワルド丞相は、疲労の色が濃い顔にふっと笑みを浮かべ、羽ペンを置いた。
「ええ。厚労派閥も領土交通派閥も、そして腐敗した立法府もすべて解体しました。大掃除は終わりです。あとは、残されたまともな実務官僚たちと丞相の腕次第でしょう。我々はヴォルフスブルクへ帰り、自分たちの領地経営に戻ります」
ヴィクトルはそう言うと、最後の置き土産と言わんばかりに、一冊の分厚い革表紙のファイルを丞相の机の上に置いた。
「これは?」
「解散後の新しい議会、ならびに国家運営における『基本原則』の設計図です。貴族院の連中から剥ぎ取った『七つの大罪(特権)』の永久廃止を明文化するだけでなく、今後の政治の腐敗を防ぐためのシステムを組み込んでおきました」
ヴィクトルはモノクルの位置を直し、淡々と、しかし絶対的な自信を持って語り始めた。
「第一に、**『議員定数の大幅削減』です。無駄に数を増やして派閥を作り、互いに責任を押し付け合うだけの烏合の衆など国費の無駄遣い。意思決定を迅速化し、真に能力のある少数の者だけが国政を担うべきです」
「第二に、これが最も重要ですが……『議員報酬の平民所得連動制』**の導入です」
「……平民所得連動制、だと?」
オズワルド丞相が目を見開いた。
「ええ。今後の国会議員および高級官僚の給与は、王国の平民の『平均所得(中央値)』と完全にリンクさせます。つまり、平民が貧しくなれば議員の給与も自動的に下がり、平民が豊かになれば議員の給与も上がる。……こうすればどうなるか、わかりますね?」
その言葉に、アレンがニヤリと笑って口を挟んだ。
「簡単な話だ。上に立つ連中が自分の給料を上げたきゃ、必死に頭を絞って平民の給料を上げるしかないってことさ。今までみたいに『自分たちだけ安全圏にいて、平民から税金を搾り取る』なんて真似をすれば、自分たちの首も一緒に締まる。最高のシステムだろ?」
「……なるほど。政治家と国民を、文字通りの『一蓮托生』にするというわけか」
オズワルド丞相は、感嘆の息を漏らした。
これまでの政治家は、国民経済がどれほど冷え込もうが、自分たちの無痛の報酬と特権でぬくぬくと生き延びていた。だからこそ増税や緊縮といった狂った政策を平気で推進できたのだ。
だが、このシステムが導入されれば、政治家は国民の供給能力を高め、経済を回すことに死に物狂いになる。これほど合理的で、これほど為政者に厳しい法律はない。
「まったく……お前たちの頭脳は悪魔のようだな。だが、今のこの国には、その悪魔の契約こそが必要だ」
丞相はファイルをしっかりと両手で受け取り、深く頷いた。
「すべて引き受けよう。このオズワルドの命に代えても、お前たちが切り拓いたこの『法の下の平等』と『経済の真理』を、王国の新たな礎として定着させてみせる」
「期待していますよ、丞相閣下。……では、我々はこれで」
ヴィクトルは恭しく一礼し、踵を返した。アレンも軽く手を上げて後に続く。
権力の頂点に立つ絶好の機会であったにもかかわらず、彼らは王城の玉座には一切の未練を見せなかった。彼らにとっての真の玉座は、無限の可能性を秘めた辺境にこそあるのだ。
* * *
王都の城門を抜け、ヴォルフスブルクへと続く街道を走る馬車。
御者台ではアレンが手綱を握り、心地よい春の風を全身に受けていた。道路はすでに領土交通局の解体によって適正な予算が下り、見事な平坦さを取り戻しつつある。
「終わったな、ヴィクトル。これで当分は、あのカビ臭い王都の連中の顔を見なくて済む」
「ええ。我々の領地には、まだまだアレンの現代知識で作り上げるべき新産業が山積みですからね。王都の尻拭いなどしている暇はありません」
窓から顔を出したヴィクトルは、遥か後方に遠ざかっていく王城の尖塔を見つめた。
どん底の追放から始まり、現代の「マクロ経済学」と「科学知識」を武器に、腐敗した大国を根底からひっくり返した数ヶ月。それは、異世界の常識を蹂躙する痛快な反逆の軌跡であった。
「……だが」
ヴィクトルのモノクルの奥で、冷徹で底知れぬ光が鋭く閃いた。
「権力というものは、放置すれば必ずまた澱み、腐敗するものです。連座制や給与連動制を敷いたとはいえ、数十年後にはまた、法の抜け穴を見つけて民から富を搾取しようとする『新たなダニ』が湧いてくるかもしれない」
「その時はどうする?」
アレンが前を向いたまま、面白そうに問いかける。
ヴィクトルは風にコートをなびかせながら、不敵な、そして圧倒的な自信に満ちた笑みを浮かべた。
「決まっているでしょう。もし再びこの国の政治と経済が腐敗し、無能な権力者が民を苦しめるようなことがあれば……我々は何度でも辺境から舞い戻る。そして、この『異界の叡智』と『圧倒的な力』をもって、奴らの常識ごと完膚なきまでに叩き潰す。我々は、この国の永遠の『劇薬』なのですから」
「はっ、違いない。そん時ゃまた、俺の『物理と化学』でド派手にぶっ壊してやるよ」
馬車は朝日に照らされた街道を、力強く駆け抜けていく。
彼らが向かう先には、世界で最も豊かで、最も自由な黄金の辺境都市が待っている。
増税と緊縮で滅びゆく国を救った、最強の頭脳と無双の武力。
二人の反逆者による伝説は、この広大な世界のどこかで理不尽が蔓延る限り、決して終わることはないのだ。
――『辺境領主の経済無双 ~増税と緊縮で滅びゆく国を、現代知識と積極財政で救う方法~』 (一旦の完結)
いかがでしょうか?本当に全てはできなくても小説の中のことが出来れば買われる気もするんですけどね_| ̄|○ il||li
さて、一旦の完結にしましたが、本当は少子化なんちゃらとかも描きたい気もしたけどあとはおんなじになるのでここら辺で(* ˊ꒳ˋ*)でも、まだまだ書くことでてきたら舞い戻りますよ2人がね(*´艸`)
アディオス!!( -`ω-)b




