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『辺境領主の経済無双 ~増税と緊縮で滅びゆく国を、現代知識と積極財政で救う方法~』  作者: 盆ちゃん


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第12話:凱旋の玉座と、新時代の幕開け

第12話:凱旋の玉座と、新時代の幕開け

ヴァルデンシュタイン王国の中心、王城シュトゥルムの最奥に位置する『謁見の間』。

大理石の柱が並び、豪奢なシャンデリアが照らし出すその広大な空間は、数え切れないほどの近衛騎士と、王国の重鎮たる文武の百官たちによって埋め尽くされていた。しかし、そこにいる誰一人として言葉を発する者はなく、張り詰めた沈黙が空間を支配している。

その重苦しい空気の中を、二人の青年が悠然と歩みを進めていた。

一人は、洗練された漆黒の執務服に身を包み、冷徹なモノクルの奥に知的な光を宿したヴィクトル・フォン・エルンスト。もう一人は、王城にはおよそ似つかわしくない無造作な出で立ちで、退屈そうにあくびを噛み殺しているアレン・クロムウェル。

かつて「罪人」と「無能」の烙印を押され、この王都から追放された二人の帰還であった。

「……面を上げよ、エルンスト元卿。並びに、クロムウェル」

玉座の傍らに立つ、白髪の王国丞相オズワルドが静かに声を発した。

「東の国境における事態の報告は受けている。隣国ゼムリャの軍勢およそ三千が、我が国への侵攻を企てたこと。そして、お前たちがヴォルフスブルクにてそれを足止めしている隙に、私が侯爵と子爵を国家反逆の容疑で捕縛したこと……。で、あるが」

オズワルド丞相は、鋭い眼光でヴィクトルを射抜いた。

「我々が近衛騎士団を出撃させる前に、お前たちは早馬で『もはや援軍は不要である』と伝えてきた。それは一体、どういう意味だ? 敵はゼムリャの精鋭『鉄の爪』三千だぞ。辺境の貧弱な戦力で、いつまで持ち堪えられると思っている」

丞相の問いかけに対し、ヴィクトルは不敵な笑みを浮かべ、はっきりと通る声で答えた。

「言葉通りの意味です、丞相閣下。我がヴォルフスブルクの防衛部隊五十名は、一人の犠牲者も出すことなく、ゼムリャ国軍三千をすでに『殲滅』いたしました。敵将ボリスは捕縛し、残存兵はすべて武装解除のうえ捕虜としています。故に、王都の援軍は不要なのです」

「…………は?」

謁見の間が、水を打ったように静まり返った。

文武の百官たちの頭が、ヴィクトルの言葉の処理に追いつかない。五十で、三千を、無傷で殲滅? 魔法の使えない平民上がりの部隊が?

「ば、馬鹿なことを申すな! たった五十人で三千の精鋭を打ち破るなど、神話の英雄でも不可能だ!」

「虚偽の報告は重罪だぞ、エルンスト!」

周囲の貴族たちから一斉に野次と怒号が飛ぶ。しかし、その喧騒を黙らせたのは、ヴィクトルの隣に立つアレンだった。

「うるせぇな、外野は。王都で温々してた連中に、俺たちの『科学の力』が理解できるわけねぇだろ」

アレンは無作法に頭を掻きながら、懐から一枚の焼け焦げた羊皮紙を取り出した。

「英雄なんていらねぇんだよ。十分な資金と、ちょっとばかり進んだ物理と化学の知識……『ライフル』と『火薬』ってやつがあれば、旧時代の鎧騎士なんてただの的だ。……それより丞相の爺さん、こっちが本命の土産だぜ」

アレンは無造作に歩み寄り、その羊皮紙を丞相の側近に手渡した。

「敵の大将が後生大事に持ってた公式書類だ。うちの部隊の火力の前にチビって、命乞いと一緒に差し出しやがった」

オズワルド丞相が羊皮紙を受け取り、そこに記された内容に目を通す。

次の瞬間、丞相の顔からサッと血の気が引き、その手がわなわなと震え始めた。

「こ、これは……っ!!」

普段は泰然自若としている丞相の取り乱した姿に、謁見の間が再びざわつく。

「『ゼムリャ国軍の武力行使を要請し、これを許可する』……だと? しかも、王国財務卿たるバルテルス侯爵の正式な署名と公印まで……ッ!!」

「なっ!?」

「自ら他国の軍隊を引き入れたというのか! あの愚か者は!」

動かぬ『売国文書』の登場に、貴族たちは顔面蒼白となり、悲鳴のような声が飛び交った。

ヴィクトルが冷徹な声で追い打ちをかける。

「おわかりでしょう、丞相閣下。我々がゼムリャ軍を粉砕していなければ、今頃この書類を大義名分として、王都は隣国の軍靴に踏みにじられていた。侯爵は己の保身と利権のために、王国そのものを売り飛ばそうとしたのです」

オズワルド丞相は深く目を閉じ、そして、重々しい溜息と共に羊皮紙を握り潰した。

「……申し開きのできない、完全な大罪だ。地下牢のバルテルスとラングナーは、即刻、国家反逆ならびに外患誘致の罪で極刑とする。一族郎党、財産の全没収だ」

丞相の決定により、かつて国を牛耳った財務派閥の完全な死が、公に確定した。

「エルンスト元卿。そして、クロムウェル」

丞相は静かに目を開き、ヴィクトルとアレンを見据えた。

その目には、もはや追放者を見る見下した光はなく、国を救った英雄に対する純粋な畏敬の念が込められていた。

「お前たちの成し遂げたことは、まさに奇跡だ。王都が間違った経済政策で自滅していく中、辺境で独自の経済圏を構築し、さらには未知の軍事技術で国難を退けた。私の目は節穴であったと認めよう。……ヴィクトルよ」

丞相は玉座の前から一歩踏み出し、手を差し伸べた。

「お前の無実は完全に証明された。バルテルスが消えた今、財務卿の座は空席だ。王都へ戻り、私の右腕として、この疲弊した王国の経済を立て直してはくれないか?」

それは、異例中の異例の大出世の打診だった。

周囲の貴族たちも息を呑んでヴィクトルの返答を待つ。誰もが、彼が喜んでその手を取ると思っていた。

しかし、ヴィクトルは恭しく一礼すると、モノクルの奥で鋭く笑った。

「身に余る光栄ですが、お断りいたします、丞相閣下」

「……何?」

「私はもはや、王都の狭い枠組みの中で帳簿の数字を弄るつもりはありません。私はアレンと共にヴォルフスブルクへ戻ります。あそこには、無限の可能性を秘めた『現代の叡智』がある」

ヴィクトルは振り返り、呆れた顔で欠伸をしているアレンの肩を叩いた。

「王都が緊縮と増税で縮小均衡に陥るなら、我々は辺境から圧倒的な積極財政と科学技術で、国全体を飲み込むほどの巨大な経済圏を創り上げます。いずれ、王都の皆さんも我々の『領地債』と『青樽』なしでは生活できなくなるでしょう。……国を救うのは、中央の権威ではなく、我々の生み出す『供給能力』そのものなのですから」

それは、古い常識にしがみつく王都に対する、堂々たる決別と反逆の宣言だった。

「……ふっ、ふはははっ! そうか、そうであったな! もはやお前たちの器は、この王城には収まりきらぬか!」

オズワルド丞相は怒るどころか、痛快そうに高笑いをした。

「よかろう! ヴォルフスブルクの完全な自治と、お前たちの独自の経済活動を特例として認めよう! せいぜい、この老いぼれた国を外側からひっくり返してみせるがいい!」

かくして、理不尽な追放劇から始まったどん底のバディは、王国の歴史上誰も成し得なかった圧倒的な大逆転劇を完遂した。

現代知識と積極財政。異界の叡智を手にした辺境領主たちの本当の戦いは、ここから世界そのものを巻き込んで、さらに激しく、熱く加速していくのである。

(第一部・完)

さて、急遽思いつき作った短い連載です。(* ˊ꒳ˋ*)

また、何か風刺出来ることあれば書くかもです┏○ペコッ

一旦完結にしときます(* ˊ꒳ˋ*)

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