第七章 家族旅行 前編
そして次の日
「馬車の用意ができました。テネレッツァ様。」
メイドに言われ、読んでいたノートを片付け部屋を出る。みんな準備は出来ているようだった。
(ん?これ四神様とかみんな出て行って大丈夫なのかな。王都の守り。)
私は紙にペンを走らせ
【王都の守りは大丈夫なのですか?】
と書き、見せると
「大丈夫、この国には、王国直属近衛騎士団がいるからのう。」
クロノアが説明するとそれに続くようにエリカが
「もう!テネレッツァはそんなこと心配しなくてもいいの!あなたのための旅行なんだから。」
ちょっと怒り気味の顔で言ってきた。
(え?初耳なんですけど。)
「さあ出発するか。目指すはアラクト領だ!」
ベロニカ様の一言で、旅行が始まった。
旅の道中はとても和やかだった。魔物が出てくるわけでもなく、盗賊なんかにも襲われることがなかった。
旅行一日目は、ほぼ移動だった。
アラクト領と王都の間にある領、ランクス領の宿に泊まるらしい。
【なぜ、領主館にある、迎賓館に泊まらないのですか?】
紙に書いてそう聞くと
「確かに、テネレッツァは王城の授業でそう習ったものね。」
そう、私は王城で貴族や王族は各領に行く時には迎賓館に泊まりその領の貴族に挨拶をしたりしなければならない、と習ったのだ。
「今回はお忍びだからね。それにテネレッツァもいるし。」
(なんで、私がいるからダメなのだろう?)
思っていることを感じ取っていたのかエリカが付け加えて言う
「あなたが王族の子になったのは、まだ秘密なのよ。表向きはまだ平民なんだから。」
なるほど、と納得した。
今回はお忍びでもあるし、平民の子と王族が一緒にいたらおかしいからか。
そんなことを考えていると宿に着いた。
「チェックインは一応全員冒険者ってことにしてる。テネレッツァは私たちの子ってことにしておくわ。だからね。」
四神様が揃ってこちらを見てくる。
こんな時私はなぜ声が出ないのだろう、と思ってしまう。
「「「「この旅の道中テネレッツァは、私たちの妹ってことだから!」」」」
全員が口を揃えて言った。
そう、いつもは、一応母上の子ということでお風呂なんかもメイドに【一人でできます】と書いていつも一人で入っていた。けれど、この旅でそうはいかなそうだった。
宿に入ると中は落ち着いた雰囲気のいい店だった。おそらくエリカ様が選んだろうな、と思う。
「部屋は二階の奥の二つの部屋になります。ごゆっくりお寛ぎくださいませ。」
馬車を預け、部屋へと向かう。
そこで私は疑問に思った。
(ん?これ、私どっちで寝るんだ?)
「さあ、テネレッツァお主は妾と同じ部屋じゃぞ。」
【なんで?】
思わず紙に書いてそう聞き返す。
「そりゃ、王族の子がうちの四神どもと寝るわけにはいくまい。それにたまには親子水入らずもいいものじゃぞ。」
まあ、毎度のごとく拒否権はないので、従うことにした。もしかしたらこの前のような暗殺者が来るかもしれないから、僕を一人にさせないためにあえて二人部屋にしたのかもしれない。
「クロノア様、夕食ができているそうです。下で食べに行きましょう。」
サーニャが旅装からいつもの服装に着替えて入ってきた。
「わかった。今行く。ほらテネレッツァも行くぞ」
私は頷いた
一階に降りるともうすでにたくさんの冒険者がいた。みんな各々のテーブルでご飯を食べている。
席はすでにエリカ様達がとっているようだったので、そこに座る。
「さあ、ご飯を食べたら湯浴みをして寝るぞ。明日にはアラクト領に着くだろう。」
クロノア様がご飯を食べながら話をしていると
「あ、テネレッツァ、食べかすがついてる。」
サーニャが布巾で拭いてくれる。
自分で拭ける、と意思表示をするがサーニャはそのまま拭いていた。
(うう、正直13歳にもなって姉さんに拭いてもらうとか恥ずかしい。)
そんなやり取りを見ていたクロノア様は終始笑顔だった。
「きゃあああ!!」
一家みんなでご飯を食べていると、いきなり悲鳴が上がった
「や、やめてください!」
声のする方を向いてみると酔っぱらった冒険者が、食堂にいる女性に絡んでいるようだった。しかも見たことのある顔である。
「なあ、ねえちゃんいいだろ?そんな連中よりもこっちの方がいいぜ?」
絡まれている方を見ると女の冒険者だった。私よりも少し年上だろうか。白と薄い青の混ざったような不思議な髪色をしている。
「彼女、嫌がっているでしょうが。やめなさいよ。みっともない。」
そのやり取りを見かねたのか、ルニア様が口をはさんだ。
「あ?なんだてめぇ文句あるってのか?それともお前が相手してくれんのか?」
そう言うと取りまきも、げらげらと、笑い始めた。ルニアは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
するとガンドラが私の存在に気付いた。
「てめえ、あんときのガキじゃねえか。はっはっは。こりゃ傑作だな。」
ガンドラが豪快に笑う。
「あのヴィゴーレのくそ野郎が死んだと思ったら、次はこの女共に引っ付いているとはな。お前は寄生虫か何かか?」
取り巻きの連中も同調するように笑い始めた。
思わず涙がこぼれる。自分が寄生虫と言われることよりも、みんなを守って死んでいったヴィゴーレ様を、馬鹿にしたことに対してなにも言い返せない自分が悔しかった。
この声が出ないのは自分のせいではない。あのバダゴーラの呪いのせいだと気づいていた。だけど治すことはできなかった。
こんな不甲斐ない自分に涙が出てしまったのだ。
それを面白く感じたのかガンドラが追い打ちをかける。
「なんで泣いてやがる?お前が殺したようなもんだろうが。っはははは。」
「貴様ら、いい加減にしろ!」
今まで、黙っていたクロノア様が口を開いた。
誰が見てもわかるレベルで怒っている。
「黙って聞いておれば、次から次へと罵詈雑言を幼い子に浴びせおって。その上我らの国を救ってくれた英雄にも等しい存在であるヴィゴーレを馬鹿にするとは。」
今までに見たことのないような怒り方をしている。
そして続けて言った。
「貴様らいったい何様のつもりじゃ!!!」
ガンドラもいきなり自分よりも年下のガキにキレられて逆切れをした。
「お前、誰に向かって口きいてんのか分かってんのか?Aランク冒険者のガンドラ様だぞ!」
取り巻きの連中も そうだ!そうだ!と続けて言う。
クロノアの正体を知る者はそうそういない。だがクロノアはもう我慢できないようだった。
「おぬしらこそ、誰に向かって口を聞いとるのか分かっておるのか?」
ガンドラは息巻くように言う。
「なんだぁ?貴族のご子息様とでも言うつもりか?」
その言葉を聞くと周りの四神たちはため息しか出なかった。
「はあ、ここまで世間知らずがいるとは。」
エリカはため息交じりに言う、
その傍らでサーニャはテネレッツァを慰めていた。
「う、うう、」
声にも出ない声で泣いていた。
「大丈夫、大丈夫だから」
サーニャとベロニカがテネレッツァと一緒にいた。
その様子を見ていたクロノアは、ついに堪忍袋の緒が切れた。
「お前ら、妾の名を知らんとはな!いいだろう名乗ってやる。妾の名はクロノア・ローズ・テンペンシア! テンペンシア連邦国の女王である!」
その一言にこの場にいる全員が驚きを隠せなかった。そして当の本人たちの顔は青ざめていた。
「はあ、言っちゃいましたか。」
エリカはまるで予想していたかのように言う。
「じゃあ、私も名乗っておこうかな。」
ルニアが、落胆しているガンドラに追い打ちをかけるように言う。
「私の名は、バルト・ルニア・ルーズ・テンペンシア。バルト伯爵家の長女ですわ。」
聞いていたガンドラは思った。もうどうしようもないと。
そして周りの人々はみな頭を下げている。
「エリカもう言っても良いな?我慢ならん。」
「もうよいころ合いかと、私ももう我慢の限界ですので。」
クロノアは一息ついて言う。
「お前がさっき罵詈雑言を浴びせていた子はな、私の子じゃ。言っとる意味が分かるかの?」
そう王族の子に暴言を浴びせて泣かせ、この国の王に対して無礼な行為をしまくったのだ。
その罪の重さは、死であがなうことなど到底できない。
ベロニカが不意に言った。
「ねえ、この宿の主人は居る?」
「は、はい。ただいま呼んでまいります!」
程なくしてこの宿の主人と思われる壮年の男性が出てきた。
「この宿の主人をしております。ヤドンと申します。」
「すまないが、私たちは部屋に戻る。私たちの分の食事を部屋にもってきてくれないか?
ここでは、ゆっくり食えそうにないんでね。」
そう言ってベロニカが頭を下げると、ヤドンは慌てたように
「い、いえ。四神様が我らに頭を下げるなど。
すぐにお持ちします。おい」
厨房から宿の従業員と思われる人が出てきた。
「すぐにお食事の準備を。後だれか詰所にいって衛兵を呼んで来い。こいつらを牢にぶち込んでおくように言っておいてくれ。」
その間にクロノア達は2階へと上がっていった。
その場にいた人たちからは、
「な、なぜ女王陛下がここにおるのだ?」
「俺に聞くなよ。」
「しかし、大変な事になったぞ。ガンドラの奴ら終わったな。」
そんな声が聞こえている。騒がしい一階とは対照的に二階ではサーニャがテネレッツァを宥める声とクロノアとエリカが話している声だけが聞こえていた。
「よしよし大丈夫だから。もう泣かないの。ご飯が食べれなくなるよ」
テネレッツァはそう言って慰めてくれるサーニャの膝枕でうずくまっていた。
一方、クロノア達は、
「明日は、アラクト領に言って1日ゆっくりした後、帰りましょう。それなら、テネレッツァ様に負担もかかりませんし、入園式にも間に合います。」
「そうじゃの。まあ今日は散々だったわい。
あんなのが冒険者にいたとはな。」
「それは私も驚きでした。みんながみんなヴィゴーレのような性格ではないことは分かっていましたが。」
そんな話をしていると、部屋がノックされた。
「女王陛下。お食事をお持ちいたしました。」
エリカが扉を開けて言う
「では、6人分の食事を隣の部屋へ。そこで私たちは食べますので。食べ終わったらまたお呼びいたします。」
そう言うと、食事を届けに来た人は一階へと降りて行った。
部屋にある机に食事を並べ、みんなが座る。
「ではいただきましょう。テネレッツァは無理して食べなくてもいいからね。」
そう言うとみんな食べ始めた。和やかとまでは言わないが落ち着いて食べることができた。
「さあ、食べ終わったことだし、ちょっと休憩したら風呂に入りに行こう。ここにはあるんじゃろ?」
クロノアの問にエリカが答える。
「はいはい、言われた通りちゃんとした風呂がある宿にしてますよ。では入りに行きますか。」
そう言うと少し休憩した後、6人で浴場に向かった。少し遅い時間ということもありほとんど人は居なかった。
「おー。貸し切りじゃない。」
ベロニカがそう言いながら浴場に飛び込む。
「こらっ。ベロニカ。いきなり飛び込んだら危ないでしょう。」
みんなが体を洗って風呂に入っていく中なぜか私は母上と一緒に取り残された。
「そうじゃ。この機会じゃし、テネレッツァ、
お前の体を洗ってやろう。いつも一人で入っておるのは聞いておる。たまには他人に洗ってもらわんとな。」
石鹸を片手に母上が近づいてくる。私は気恥ずかしいので、逃げようとしたけど湯船からサーニャ様の声がした。
「まあまあ、たまに洗ってもらいな。親に甘えるのもいいもんだぞ。私たちは見ないから。」
「そうそう、私だって姉上に洗ってもらってるんだから。」
サーニャ様とベロニカ様もそう言ってくるので仕方なく洗ってもらうことにした。
(うう。こしょわゆい)
声が出せないのでもう全部任せることにした。
「さあ、入ろうか。」
母上が珍しく頭までつかりそうなぐらいまで入ってだらけている。
「ふ~。気持ちがええのう。」
湯船に六人で入っていると不意に浴場の戸が開かれた。
「あ、さ、先ほどはありがとうございました。女王陛下。」
そう言って入ってきたのは、さっきガンドラに絡まれていた女の冒険者だった。
「そう、無事なら良かったわ、、、ん?」
クロノアはその女性の額に生えている二本のツノに気が付いた。まだ少し小さいが6㎝はあるだろうか。
「あ、これはその、、、、」
何か言いにくそうにしているのを察したクロノアは
「まあ、後でゆっくり話すとしよう。そういえば、まだ名を聞いておらんかったな。」
それを聞いた女性は慌てたように答えた。
「申し遅れました。私はアクアと申します。」
それを聞いたクロノアは
「そうかそうか、まあ一緒に入ろうではないか。」
7人でゆっくり体を温めたのだった。
「では、少し話をしようかのう。」
今、部屋には母上と私とエリカ様とアクア様の四人がいる
「では、改めて自己紹介を、妾はクロノア・ローズ・テンペンシア。この国の女王である。」
続けて、
「私の名前は、エリカ・テンペンシア。この国の四神を務めておりますわ。」
私も自己紹介をしないといけないとは思ったけど
「私は、アクア・サーナ・エクセドラ。鬼竜国エクセドラの第一王女です。」
その言葉にクロノアはやっぱりかと顔を緩ませる。
「それで、その子は?」
アクアが私に気が付き話しかけてくる。
だが
「この子は、テネレッツァ・ローズ・テンペンシア。妾の子じゃ。今は訳あって声を出すことができんのじゃよ。」
クロノアが代わりに答え、続けて言う。
「まさか、鬼竜国エクセドラの王女がここにいるとはな。」
私はなんのことかさっぱりなので、エリカ様に聞くことにした。
【鬼竜国エクセドラってなんですか。】
それを見たエリカ様が説明を始めた。
鬼竜国エクセドラ
大昔から存在している国。
その国を治めているのは竜と鬼の両方の血を受け継ぐ「朱夏」と呼ばれる者
民は人族もいるが鬼族と竜族もいるそう。
エクセドラがほかの国とほとんど外交を行わないため存在を知る者が少ない。ゆえに外の世界で額にツノが生えていれば珍しい種族である鬼族だとすぐに分かってしまうので、絡まれやすい。
だが現在は国としては、敵対はしていないが朱夏様は外の人間を滅茶苦茶嫌っているらしい。
「まあ、こんなところかな。分かった?テネレッツァ。」
こくこくと、頷いておく。
「さて、なんであの国の王女様がこんなところにいるのじゃ?」
そう聞くと、アクアは言いにくそうにしていた。
「そ、それはですね、、、」
それを察したのか
「まあ、この話はまた王城でしようではないか。いまは、我々も旅行中じゃしの。どうじゃ、一緒にこんか?」
いきなり母上は他国の王女を旅行に誘った。
流石に断られるのでは?と思っていると意外な返事が返ってきた。
「いいですよ。ほとんど当てのない人探しの旅ですから。」
にっこり笑顔で返事をした。
「ではまた明日お会いしましょう。私たちは明日アラクト領へ行き、一晩泊って王都へと帰ります。詳しい話はその時しましょう。クロノア様もお話したいことがあるそうですので。
エリカ様がそう言うと
「では、おやすみなさいませ。」
一礼して部屋を出ていった。
アクアが部屋を出ていった後、
「では我々も寝るとしましょう。クロノア様、テネレッツァ様、おやすみなさいませ。」
エリカも続けて部屋を出て自分のところへと戻っていった。
「もう寝間着にも着替えていることだし。我々も寝るとしようかのう。」
そう言うと一足先にベッドに行き手招きをする。
(へ?どういうことでしょう?)
そう思っていると
「ほれほれ、どうした?早く枕を持ってこっちにこんか。一緒に寝るぞ。」
さっきもサーニャ様に言われたように、今日は母上に甘えることにした。
ベッドに入るとクロノア様が布団をかけてくれる。
ベッドに入るといろいろなことがあったせいか早々に意識を手放した。
クロノアがその寝顔を見て言う
「ふふっ。やっぱり可愛いのう、テネレッツァは。おやすみ、妾の可愛い娘よ。」
その顔はいつになく穏やかで優しい顔だった。
次の日の朝




