第二十六章 王の頼みと新たな仲間
次の日も同じように王国へとテネレッツァ達は向かっていた。
テネレッツァは外を眺めていると、段々と壁のようなものが見えてくることに気づいた。
「あれが、フォリウム王国ですか?」
「ああ、そうだよ」
さらに10分ほど進むと、見上げても見きることもできないほどに大きな城壁が目の前に現れた。
「おお…、すごいでかい」
テネレッツァはあまりの大きさに声を失っていた。
「アサガオ様一行ですね。国王がお待ちです。どうぞこちらへ」
テネレッツァ達は、兵士に案内され、王城に向かって進んでいく。
街を行き来する人々はみな同じような髪と肌をしていた。
程なくして、テネレッツァは王城に着き、そのまま玉座の間に案内されることになった。
(やっぱり、緊張する)
テネレッツァは緊張しつつも、扉の前に立った。
目の前に立つ扉は大きく、荘厳でこの王城の王間に相応しいと言えるものだった。
「アサガオ様御一行及び、テネレッツァ様のご入場です」
扉が開けられ、ゆっくりと進んでいく。周りには屈強な兵士がきれいに整列して並んでいた。
「ふむ、面を上げよ、アサガオ。此度の件、まことにご苦労であった」
アサガオは国王に褒められたことにより、少しほおが緩んでいる。
「して、そこに居るのが…」
テネレッツァは慌てて顔を上げ、国王の方を向いた。
「申し遅れました。テネレッツァと申します。この度はこのような場に招待していただきありがとうござ
います」
定型的な挨拶をし、また顔を下げる。
「余はこの大地と王国の王、ドラクラ・シミアである」
ドラクラと名乗ったその男はこの国では初めてみた黒色の髪に緑色の目をし、豪華な服を着ているのに、服が筋肉ではち切れそうな肉体をしており、見た目からは想像も出来ぬ魔力量をしていた。
その堂々たる佇まいにテネレッツァは少し委縮してしまう。
「して、我がそなたをここに呼んだ理由、分かるか?」
いきなりそんな質問を投げられ、テネレッツァはおずおずとしながら顔を上げた。
(冷静に、冷静に。多分理由は…)
「はい、私が鬼竜族だから、でしょう?」
ドラクラとその横にいた付きの兵士が、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
そして、吹き出すように笑った。
「ふははは!よく分かったな。その通りだよ!」
(何がその通りだ。絶対、私の事馬鹿にしてるでしょ)
分かり切った質問をされ、バカにされたことに対する怒りがこみ上げてくるが、言いつけ通り冷静さを保
ち、顔には出さないようにした。
「それで、本題なのだが、そなたに頼みがあるのだ」
「頼み、とは?」
一国の王が頼んでくることなど、ろくなことがないのはテネレッツァとて分かっていたが断ることもでき
ないので話だけ聞くことにした。
「ああ、神世の樹と本大陸を救ってくれないか?」
テネレッツァは落胆した。何を言うのかと思えば、一度敵軍にボコボコにされた人にもう一度行って勝っ
てきてくれというのだ。
「それは、無理な話です。私は一度負けたのですよ。しかも、エルがいて」
ドラクラも予想外の返答に頭を抱えている。
「そこを何とかお願いできないだろうか」
国王の横にいた、スリムながらも隙のない双剣の兵士が私に頭を下げてお願いしてきた。
「しかし、無理なものは無理なのです」
もはや、テネレッツァはあいつらに勝ち目がないと分かっていた。
(せめて、もう一人エルのような仲間がいれば…)
そのやり取りを見ていた兵士たちは不満の声を上げる。
テネレッツァは、段々と罵声も聞こえてるような気がした。
「そんなに子供に詰め寄るもんじゃないよ」
その場を遮るような透き通った声がテネレッツァ達の後ろからした。
その人物はフードを深く被っており、顔が分からない。
ただ、体格から女性だろう、とテネレッツァは推測した。
「また、変なこと考えていない?」
気が付くと、その女性はテネレッツァの後ろに立っていた。
(この感じ、前にも覚えが…)
もしかして、と思いテネレッツァは声を出そうとするが、想像通り出なかった。
体を動かそうとしても動かない。
「あんたの目的はなんだい?何がしたいの?あんたは、自分とは何者かを探し当てんでしょ」
あの場には私を含め4人しかいなかったはずなのに麒麟様からの話がばれている。
「声は出せるようにしてあげよう」
えっ、と思いつつ声を出そうすると
「あ、あー。出る。声が出せる」
テネレッツァは感動している。
「あんたは何をしたいの?」
謎の女性にそう問いかけられた。
テネレッツァは考え込んだ。
(私がしたいこと…)
「私は、私は救いたいの。私に優しくしてくれた人、私の友達、国の人たちを」
その言葉の裏には、揺ぎ無い決意と少しの不安が混じっていた。
「あんたは昔から変わらないね。なら、ひとつプレゼントをあげよう」
そういうと女性は一枚の紙をテネレッツァの足元にそっと置いた。
「ここに行ってみな。そうすれば、おまえの願いをかなえる力が手に入るかもしれない」
体が動くようになったと思ったら、すでに女性は姿を消していた。
「なんで、姿を見せてくれないの?」
テネレッツァは疑問に思いつつも足元に置かれた紙を取って見る。
「あやつは何者じゃ?」
「わかりません。ですがこの場にいる者全員が反応できていませんでした」
国王とお付きの兵士、青色の髪に緑色の目、きれいな顔つきの男ジニアはさっきの現象のことがまだ理解
できていないようだった。
テネレッツァはため息をつき、紙を見て覚悟を決めた。
「国王陛下、その話お受けいたしましょう」
その言葉に二人と、周りにいた兵士は目を丸くした。
「なぜ、いきなり受けようと思ったのだ?」
国王が思わずそんな質問をする。
「もう、誰も失いたくないから」
その一言で察したのか、国王はそれ以上追及することはなかった。
「それと、この地図の場所、分かりますか?」
地図を見せると、国王は何かを思い出したようで
「その話はあとでするとしよう。とりあえずアサガオ達は下がってよい。テネレッツァ様はメイドに案内
させる部屋にいておいてくれないか?」
「分かりました」
テネレッツァとアサガオ達は玉座の間を後にし、それぞれ向かうべき場所へと移動した。
「私たちは、村に戻る。もしかしたら、本大陸の連中が攻めてくるかもしれないからね」
手を振りながら、アサガオ達は馬車へと乗り行ってしまった。
その後ろ姿を眺めているとメイドに声をかけられた。
「テネレッツァ様用意が出来ましたので、どうぞこちらへ」
テネレッツァは頷き、案内された応接室へと入った。
応接室は、装飾品というよりも植物が多く置いてありしかもどれも高級そうなものばかりだった。
少しすると、さっきの二人が入ってきた。
テネレッツァは軽く会釈をして再度座る。
「さっきの地図だが…あれは多分古代遺跡の場所であろう」
「古代遺跡?」
テネレッツァは聞きなれない言葉に首を傾げる。
「この大地にある建物でな。長年調査してきたのだが、入ることはおろか近づくことさえできんのだ」
テネレッツァはまぜ、そんな場所に行かせるのか、と疑問に思いながらも質問を続ける。
「そこにはどうやったらいけますか?」
「ここから、西の方へ、三日ほどかの?」
「はい、そのぐらいかと」
兵士も行ったことがあるようで、自信満々に答えた。
「じゃが、そこまでの道には屈強な魔物が大量におる。我々も大部隊を編成していくほどの場所じゃが…
本当に行くつもりなのか?」
「神世の樹と本大陸を救ってくれと言ったのはそっちでしょうが」
テネレッツァは思わずため口で返す。
「むぐ、それはそうじゃったな。分かったこちらから何か用意しておくものはあるか?部隊の準備はして
おくが…」
国王は心配そうに見つめながら言ってきたがテネレッツァはすぐに断った。
「言ったでしょう。もう誰も失いたくないと。目の前で誰かが死んでいくのは見たくないのです」
国王はテネレッツァの押しに、ついに折れた。
「分かった。食料と移動用のリーフホースは準備しておこう。じゃが気を付けていくのじゃぞ?お主が死
ねば、お前を生んだ母親、育ててくれた者が悲しむぞ」
テネレッツァは、この国の者達はどこまで知っているのか不思議でならなかった。
「なぜ、そんなことまで知っておられるのですか?」
「いかなるところにも草木は生える。私は王家に代々伝わる魔法で草木を通してその場を見ることが出来
るのだ」
「へえ。なるほど。では、私は少し休むのでこれで失礼します」
「部屋は、メイドに案内させよう」
テネレッツァは納得した様子で部屋を出ていった。
「言ってよかったのですか?」
「構わん。あやつの子じゃし。それにしても古代遺跡か…」
国王は机に残された地図を眺めながら、微かな期待をしていた。
(テネレッツァなら、本当に救ってくれるかもしれん。樹も大陸も、彼女も)
「はー、疲れた」
テネレッツァは部屋に入るなり、布団にダイブした。
「いつもなら、ここでエルが労ってくれるけど」
テネレッツァはエルがいなくなってしまったことを改めて痛感した。
「これからは一人で頑張らないと」
夕食まで時間があったテネレッツァは部屋で整理をすることにした。
この部屋は大きなベッドと机と椅子が1セットあるだけのシンプルな部屋だが、すべて高級品である。
収納魔法の中を整理していた時、テネレッツァは懐かしいノートを見つけた。
「そういえば、これに書いてあったんだよね」
久しぶりに開くノートはテネレッツァにとってとも懐かしく感じられた。
武器の手入れをしていると、「世界の理」に何か巻き付けられているのを見つけた。
「あれ?こんなのついてたっけ」
不思議に思い、外してみると、それはエルがいつも身に着けていたリボンだった。
「そういえば、これは姉さんの形見だ、ってエルが言ってたっけ」
テネレッツァはその薄い青色のリボンを頭に巻いた。
「自分で言うのもなんだけど、意外と似合ってる」
そのまま、他の武器も手入れをしていくテネレッツァであった。
次の日、
テネレッツァは準備をし、王城の前で待っていた。
「お待たせしました。こちらがそのリーフホースになります」
ジニアに連れられてきた馬は、淡い緑の毛にしっかりとした体でどう考えても、軍馬だった。
「テネレッツァ様、こちらが食料になります。馬には乗られたことは?」
「乗ったことはないけど、やり方は知ってる」
テネレッツァは優雅に馬にまたがり手綱を持つ。
「この子の名前は?」
「名はありません。なのでつけてやってください」
「じゃあ、ヘルバ。よろしくね、ヘルバ」
ヘルバもその名前が気に入ったようで、嬉しそうに鳴いている。
「では、行ってきます」
「はい、ご武運を。無事にこの世に平和をもたらしてくれることを祈っております」
ジニアと周りの兵士たちは両拳を突き合わせ、頭を下げた。
「はは、頑張ってくるよ」
テネレッツァは馬をゆっくりと歩かせ、西の城門まで来た。
「さあいこうか。本当の私を探す旅は終わった。次は、みんなを救うための旅だ」
馬を走らせ、テネレッツァは古代遺跡へと駆けていった。
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