第二十五章 大地を守護せし者達
周りが温かい。誰かが優しくなでてくれているような…
「うーん…」
テネレッツァが目を覚ますと目の前には見たことのない顔の人たちが心配そうにテネレッツァのことを眺めていた。
「あ!よかった~。目覚めたんだね。君、もう三日も寝ていたんだよ?」
優しそうな顔をした、一人の女性が優しく声をかけてくれる。
よく見ると、みんな肌の色が緑色だったり、黄緑だったりと、植物に関係していそうな色だった。
「え!三日も寝ていたんですか?」
テネレッツァは驚きを隠せず、思わずそんな質問をする。
「うん。そうだよ。三日、君は全く目覚めなかった。あんなところで猫族の君が何をしていたんだい?」
テネレッツァは顔を落とし、自分の記憶をたどるように説明を始めた。
「なるほど、今本大陸ではそんなことに…」
「今さらなんですが、あなた達は誰ですか?そしてここはどこですか?」
「うん?ああ、ここは植族の大地 フォリウム王国の一端の村だよ。そして私たちは植物族さ」
植物族の一人がどや顔で答えた。
「私は、これからどうすればいいのでしょう」
テネレッツァが気を落とし、顔を暗くしていると、周りの植物族の人たちが励ましてくれる。
「とりあえず、その傷を治さないことには始まらないよ」
「そうだね、しばらくは絶対安静かな?」
植物族のひとり、髪を後ろで結び、気品ある顔をした、アサガオと呼ばれた女性がテネレッツァの頭を優
しく撫でている。
「しばらくはその腕も足も動かないだろうから、私たちを頼ってね。遠慮することはないよ」
テネレッツァは、少しずつ涙がこぼれていく。
「ど、どうして、どうしてみんなそんなに優しくしてくれるの?」
テネレッツァは、頬を濡らしながら聞いた。
「私たちには今こんなに小さくて可愛い猫族なんて見たことが無いからね」
テネレッツァは、自分の体が見えず触ることが出来ないので、鏡を持ってきてもらうことにした。
「ほら、これが今の君の姿だよ。傷でボロボロだけどね」
アサガオは、他の人に持ってこさせた鏡を私に見せ、頬をかきながら言ってきた。
(あ、そういうこと。エルの変身魔法、まだ生きてたんだ)
テネレッツァは言いにくそうに手をもじもじしながら、アサガオたちを見つめていた。
「どうしたんだい?言いたいことがあるならいいなよ?」
「えっと、その…私、猫族じゃないん、です…」
その場にいた全員の時が止まった。
「じゃあ、その猫耳と尻尾は?」
「魔法です」
テネレッツァは自分の呼吸がだんだん浅くなっていくのを感じる。
(どうしよう、これで出ていけとか言われたら)
言ってしまったことに後悔しながら、アサガオを上目遣いで見つめる。
「ふーん。だったら君は何族だい?」
「それは、見てもらった方が早いと思います」
その場にいた人に手伝ってもらい、よろよろと立ち、魔法を解いた。
「こりゃあ、おったまげたねえ」
魔法を解いたテネレッツァの今の姿は、小さなツノに竜の尻尾、といろんな意味でスリムな女の子の姿に
なっており、どっからどう見ても竜族か鬼族である。
「ええと、君はどっちだい?」
今まで一言もしゃべらなかった短髪の目つきが鋭い男がいきなりそんなことを聞いてきた。
「おっと、先に自己紹介をしておこうか。俺はガーベラ。この村の村長をしている」
テネレッツァはガーベラの鋭い目つきに少し委縮してしまった。
「怖がらなくていいさ。こいつが何かしようものなら私がぶっ飛ばすから」
アサガオが豪快に笑いながらテネレッツァを励ましてくれていた。
「わ、わたしは竜族でも鬼族でもない、鬼竜族の子です」
全員、絶句した。
ただ一人、アサガオを除いて。
「ほえー。あんた、朱夏様の子だったの?」
「え?朱夏様を知っているのですか?」
「知ってるも何も、この大地は鬼竜国エクセドラと唯一国交を結んでいるからね。って、まあそんなこと
より、あんたは寝てな。猫族の姿で。その姿だとみんな委縮してしまうからね」
えっ、と思いながら、テネレッツァは周りを見ると、みんな心なしか、下がっているような気がしてい
た。
「そういえば、名前聞いてなかったね」
「…、テネレッツァ…」
「おい、それは最初に聞くことだろうが」
ガーベラにツッコミを入れられ、アサガオはすまんすまん、といいながら、部屋を出ていった。
去り際に
「体、大事にするんだよ」
と言い残して。
鬼竜国エクセドラにて
「皆様ご無事でなりよりです。イリア様も」
フラウムが避難所でみんなを迎えていた。
その横には、アルノマリアが涙目になりながら、イリアのことを見つめている。
「アルノマリア…」
「姉さん…」
その様子に気づいたのか、フィオレが
「さ、みんなこっちへどうぞー。ご飯の準備をしてありますので」
「おお!」
「やったね!お母さん!」
「ええ、この人たちに感謝しないとね」
感激の声が上がる。
その声を聞いて、フィオレ達も思わずほおを緩める。
「イリアとアルノマリアはこっち」
二人は、ウチェロに手招きされ、違う天幕へと入っていった。
朱夏はその様子を眺めながら
「急いで準備したかいがあった。久しぶりだよ。あんなにたくさんの人に感謝してもらえるなんてね」
一人、ひっそりと呟いていた。
(アイリアよ。お主はまだ生きておるのか?)
テネレッツァがフォリウム王国の大地に飛ばされてから六日後。
テネレッツァは、少し歩けようになっていた。
それでもまだ、ふらふらとしている。
「あれだけ回復してもらってこれって、相当すごい戦いだったんだね」
アサガオの妹、肌は薄い緑に、淡い緑のショート髪でクリっとした目の可愛げのある少女、マルバはテネ
レッツァの傷を珍しそうに眺めながら看病をしていた。
「ごめんね、マルバちゃん。私の看病で時間をつかわせちゃって」
「いいのだ!お姉ちゃんに頼まれてるし、テネレッツァ姉ちゃんを見ているとなんだか幸せな気分になれ
るのだ」
「なにそれ。よくわかんないね」
テネレッツァは微笑みながら、強くなる日差しを眺めていた。
「もうこんな時間。たまには外に出てみようかな」
「なら、あれ用意するのだ!」
マルバはそれだけ言うと、勢いよく飛び出していった、
「一体、なに?」
空きっぱなしの扉を眺めていると、見覚えのある人物が目に入った。
「おや、扉を開けっぱなしにして、どうしたんだい?空気の入れかえ?」
「いえ、私が外に行きたいって言ったら、何かを取りにってしまって…」
「ん?それて、葉椅子かな?」
「テネレッツァ姉ちゃんあったのだ!」
マルバが人ひとり座れそうな椅子を抱えて入ってきた。
「やっぱり、葉椅子か」
「葉椅子ってなんですか?」
テネレッツァはこの大地の文化が全く分からず、きょとんとしていた。
「葉椅子っていうのは、人を座らせて、植物魔法の力で、この「葉輪」っていうのを回して運ぶ道具さ」
テネレッツァは、ほえー、と納得しながら、その椅子に座ってみることにした。
意外と乗り心地はよく、体への負担も少ない。確実にけが人や病人のために作られた道具である。
「じゃあ、いこうか」
アサガオは葉椅子に魔力をこめ、前へ押した。
「おお…」
テネレッツァは思わず感嘆の声をもらす。
アサガオに押してもらいながら、テネレッツァは村の中を見て回っていた。
村は、周りを木々に囲まれ、葉っぱの屋根に硬そうな木で作られた家がたくさん建っていた。
「結構人いるんですね」
「そうなのだ、大体150人くらいいるのだ!」
胸を張りながらマルバがテネレッツァに教えてくれてる。
「マルバ、213人だろう」
ところが、アサガオにすぐに訂正されてしまった。
テネレッツァはそんなアサガオ達と村の様子を眺めながら
「…もう昔の事みたい」
少し寂しそうにしていた。
「そんなに暗い顔をしない!傷が回復したらフォリウム王国の王城に連れていくから、覚悟しておけ!」
葉椅子を押しながら、アサガオはテネレッツァにとんでもないことを言ってきた。
「…え?」
テネレッツァは言葉もでず、ただただ呆然としていた。
さらに一週間、テネレッツァの傷はついに全快した。
テネレッツァは背伸びをしながらアサガオ達に会いに行った
「アサガオさん、マルバちゃん、そして村の皆さん、ありがとうございました!」
「いいっていいって。それよりも、竜族の方の姿になれる?」
テネレッツァは不思議に思いながらも姿を変えた。
「よおーし。お前たち、いけ!」
「へ?」
ぞろぞろと植物族の女性が現れ、あっというまに囲まれた。
「さあ、そんなボロボロの服じゃ、王に会いに行けないからね。目いっぱい綺麗になっておいで!」
そのまま、テネレッツァは別室に連れていかれた。
2時間後、見違えた姿のテネレッツァがさっきの部屋に戻ってきた。
「おお、見違えたよ。何というか、どっかの国の王女様みたいだな」
今のテネレッツァは、翆色と呼ばれる服を生地とし、少しフリルのついた、可愛らしさと優雅さを兼ね
備えた美しい服だった。
「なんだか、久しぶりです。こんな服を着るの」
その一言に、アサガオが真っ先に反応した。
「ちょっとその話、移動しながら聞こうか」
両肩を掴まれ、逃げられないと悟ったテネレッツァはそうそうに断るのをあきらめた。
「さあいこう、馬車の用意はできている」
テネレッツァはこの大地にも馬っているのかなと思いながら、アサガオの屋敷をでると、目の前には葉っ
ぱのような耳をした、馬っぽい魔物が二匹、馬車に繋がれていた。
「あれはリーフホース。この大地に住む、そっちで言うところの馬さ」
なるほど~、とテネレッツァは思いながら馬車に乗り込む。
中は3人座れる椅子が二つ。
アサガオとマルバの向かい側にテネレッツァは座った。
御者の男性が、私たちが乗ったのを確認し馬を走らせる。
心なしかいつものよりも馬が早い気がする、とテネレッツァは窓の外を眺めながら考えていた。
「じゃあ、さっきの話聞かせてくれるかい?」
テネレッツァは早々に諦め、ぽつりぽつりと昔のことを話し始めた。
「あれは、もうかれこれ4年くらい前の事。私がまだ、テネレッツァ・ローズ・テンペンシアという名前
だった頃の話です」
「そうだったんだね」
話を聞き終わった後のアサガオは何ともいえない表情していた。
そのまま沈黙が続いていると、御者が声をかけてきた。
「アサガオさん、着きましたぜ。王国の前の一番大きな町、ハスに」
「さあ、今日はここで一泊して、明日王国に着くようにしよう」
アサガオの言葉に御者は頷き、そのまま宿屋へとリーフホースを走らせた。
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