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第十八章  エルバフィーアの過去

「次はあれにします?」


エルが指さしたのは、たくさんの棒が立ててある出店だった。


「姉さん。これってなあに?」


私は、エルに手を繋がれながら犬族の姉さんに聞いた。


「これはねー。この「わっか」を棒に投げ入れる遊びだよ。入った数で景品がもらえるの。やって見

る?」


せっかくなので、やってみることにした。


「せえーい」


狙って投げるが、意外と入らない。


こういうのは、ムキになっても入らないと分かっているので、自分で自分を落ち着かせる。


狙い定めて一発、


「あ、入った」


10個投げた中で一個だけ入った。


「お、よかったねぇ。はいじゃあこれ。景品だよ~」


渡されたのは、小さなぬいぐるみだった。


なんとなく、エルに似ている気がする


「それはね、毎年、担当の精霊様を模して作っているの」


へえ、だからか、と自分で納得しぬいぐるみ抱きしめる。


「じゃあ、祭りを楽しんでね」


出店を離れ、街が一望できる場所まで歩いてきた。


流石にここまでくると人がほとんどいない。


ふたりで柵から賑やかな城下を眺めていると、エルが口を開いた。


「テネレッツァ様、お話したいことがございます。」


「どうしたの。急に」


「今日の、皆様への挨拶を通して決心がつきました。あなたに私の過去を話すべきだと」


私は不思議でならない。普段は自分のことを全く喋らないエルが、いきなり自分の過去について語る、と言い出すのだから。


「あれは今から30年前のこと。私がヴィゴーレ様と初めて出会った日、そして姉を亡くした日のことです」




~エルの過去 30年前~


「姉さま、待ってください~」


「ほらほら―、ついておいで―」


エルとその姉、ミリアフィーアは、今日も今日とて神世の樹の麓 エルフの村の近くで遊んでいた。


ふたりはエルフの里の精霊。エルフ族からも慕われ、楽しく幸せな日々を過ごしていた。


「よお、元気にしてるか?」


そんな二人の前に現れたのは、当時13歳のヴィゴーレだった。


「ヴィゴーレ、久しぶりー!」


ミリアはヴィゴーレに突撃して抱き着いていく。


「おいおい、そんなに寂しかったのか?」


なぜ、ヴィゴーレがここにいるのか。それは彼女が由緒正しき「精霊守」の一族だからである。


1週間に一度、この地に来て、精霊と言葉を交わし、親交を深める。そうやって、精霊とエルフ族は精霊

守に守られ、精霊守はエルフ族と精霊から、加護を貰っていた。


「さあ、何して遊ぶ?」


「ちょっと待って、私はエルフ族の長のところに挨拶に行かないといけないから」


ヴィゴーレはそう言って、エルフ族の里に走っていった。


「エルバ、じゃあ、もうちょっと遊んでようか」


「はーい、分かったー」


その時であった。魔物の叫び声が辺り一帯に響き渡る。


「な、なに?」


「何かがこちらにやって来てる。」


ミリアは即座に探査魔法を発動し、周囲を調べた。


「なんなの、あの化物は」


だんだんと近づいてくる魔物を見たエルバは思わず腰を抜かしてしまう。


「お前たち!早く逃げろ!」


ヴィゴーレがこちらに走ってくるのが見える。


「エルバ、逃げるよ!早く!」


ミリアに揺さぶられて我に返ったエルバは走ろうと体を起こした。が、ミリアが倒れこんできた。


「姉さま?どうしたの、早く逃げよう」


ふと、自分の手をみると、青い血がついていた。


「姉さま?ねえ、姉さまってば!」


必死に声をかけるが反応がない。その時初めてエルバは悟った。


「私が、私がもっと早く逃げていれば…」


さっきのでかい鉈を持ったオークっぽい魔物が、鉈を振り下ろしてくる。


(まずい、助けなくては。だけど、足が…)


ヴィゴーレはあの魔物に完全に委縮し、足がすくんでいた。


「精霊魔法 フルニート・シール(精霊の壁)!」


エルバは間一髪で防いだつもりだったが、強烈なダメージが入った。



(動け、動けよ。この足!)


ヴィゴーレは必死に助けようとした。けれど、頭ではわかっていても体が動いてくれない。


「覚悟を決めろ!私は何のためにここにいる! 大精霊魔法 フルニート・バースト(精霊の一撃)!」


鉈がエルバに当たりそうになった時、ヴィゴーレの大魔法がオークに直撃し、オークはその場に倒れこんだ。


「はあ、はあ、倒せた、のか?」


「おーい!大丈夫か、お前たち!」


さっきの爆発でエルフの里の人たちが集まってきた。


「私は大丈夫ですが、ミリアが、ミリアが。」


仰向けに倒れているミリアを見て、ヴィゴーレの顔は絶望に染まっていく。


「長!治癒魔法を!」


エルフの一人が長に治癒魔法をかけるように言うが、長は首を横に振った。


「もう無理じゃ、ミリアはすでに死んでおる」


言いにくそうにしながらも、周りの人にはっきりと伝えた。


「そ、そんな…」


ヴィゴーレは膝から崩れ落ち、涙を流す。


(私の、私のせいだ。私があの時、あそこでおびえていたから…)


エルバも死にかけで、みんなに必死に治療してもらっていた。



「今、ここに尽きし命よ、またこの世に蘇りて幸福のあらんことを」


その日の夜、ミリアを弔う儀式が行われた。そこにはもちろんエルバの姿があった。


「あれ、ヴィゴーレ様がいない」


エルバの疑問に、長が優しく答えてくれる。


「あの子は自分を責めておるのじゃ。エルバよ、慰めにいっておくれ。今のあの子の心は我々にも想像がつかないほど苦しんでおる」


「ミリアフィーア、すまない。私が弱く、おびえているばかりに…」


エルフの里から少し離れた、小さな木の下でヴィゴーレは一人泣いていた。


「あなたは悪くありません」


振り向くと輝く月を背に、エルバフィーアが立っていた。


月の明かりに照らされるその顔は、悲しみを隠しているように見える。


「守れなかった自分を責めるのは分かります。ですが一人で抱え込まないでください。私がミリア姉さまの代わりとなってヴィゴーレ様をお支え致します」


「だけど、また失ってしまったら、私は私でいられなくなる気がする…」


ヴィゴーレはまた伏してしまった。


エルバはそんな姿のヴィゴーレを、後ろから優しく抱きしめた。


「それでも、私は貴方と一緒にいたいのです。これは姉さまの願いでもあります」


その言葉を聞いたときヴィゴーレは、頭をあげ、エルバを真っすぐ見つめて聞いた。


「私より先に死なないと、約束して」


「もちろんでございます。ヴィゴーレ様」


エルバはぎゅっとヴィゴーレを抱きしめた。





「これが、30年前私とヴィゴーレ様が一緒に旅立つきっかけとなった出来事です」


エルは自分の過去を打ち明けることが出来てすっきりした様子である。


対する私も一つの疑問が晴れた。


(あの時の友って、ミリアフィーアのことだったんだ)


「テネレッツァ様、ひとつお願いがございます」


さっきとは打って変わって、真剣な表情になったエルは、こちらをじっと見つめながら言ってきた。


「なーに?」


「私より先に死なない、と約束してください。あなたのその優しさは素晴らしい、けれでも、その優しさで自分の命を落とすことがないように、いま、ここで約束してくれませんか?」


「なんか、前にも同じことを言われたような気がする」


テネレッツァは、笑いながら答えた。


「いいよ。あなたがいなくなるその時まで私は死なない。約束するよ」


そして二人は、輝く夕日の前で指切りをした。


「明日も祭りです。今日は早く帰ってゆっくり休みましょう」


「そうだね」


王城に帰り、客室でゆっくり休むすることにした。



今回の章はいかがでしたか?

面白かったり改善点等があればぜひ感想欄で教えてください。

今後ともよろしくお願いします。

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