第十七章 大精霊祭
「よろしいのですか?あのような者に精霊石を与えてしまって」
次の日、ラードは私たちに申し訳なさそうに聞いてきた。
「大丈夫です。精霊石なんてすぐに作れますし。」
すると、エルが手のひらに魔力をこめ、精霊石を生成した。
「はい、あげます。」
「ありがとうございます。これで大精霊祭も成功するはずです。」
「いいなぁ」
その様子を見ていたテネレッツァは羨ましそうに石を眺めている。
「どうしたのですか?もしかして、欲しいのですか?」
テネレッツァには図星だったようで、少し恥ずかしそうに、上目遣いでおねだりしてきた。
「わ、私も欲しいなぁ。」
「はあ、まあいいですけど。そんなに珍しいですか?」
「ううん。きれいだから!」
年相応らしい答えが返ってきた、と笑いながら、もう一つ作って渡してくれた。
そんな和やかな雰囲気の中、エル一行はベラリア王国に着々と近づいていた。
「そろそろですね。」
窓から見える城壁が、だんだんと近づいているのが分かる。
「さあ、私共は外におりますので、お召替えをお願いします。」
ラードは馬車から出て御者台に乗り、その間にエルは正装に着替えていた。
着替え終わったエルはいつもの雰囲気とは違い、いかにも、精霊である、というのが感じ取れる。
「きれい」
思わず、声に出してしまった。
その一言を聞いたエルは少し恥ずかしそうに
「テネレッツァ様だって、こんな服を着れば可愛く見えますよ。」
「ほんとに?」
するとエルは、自身の体を魔力で包み、新しい服を作り出した。
淡い桃色と白を主役とし、金の刺繍が入った、可愛らしくも、美しい服だった。
「テネレッツァ様もこれに着替えてください。私の愛しいたった一人の主なのですから。」
気恥ずかしそうに受け取り、テネレッツァは着替えた。
城壁はもうすぐそこまで迫っている。
ここで、なにか母の情報が手に入るといいな、と思いながら、外を眺めるのであった。
「ガンドラ様、例の石手に入りましたぜ。」
「分かった。それを持って直ちに本国に帰還しろ。変装は解いて構わん。」
三人の冒険者は、魔法を解き、真の姿を現した。
頭から角が生え、尖った耳をしている、「獄」の一派、魔族である。
「さあ、深淵峡谷へ出発するとしよう。」
密偵からの報告を受けたガンドラは侵攻と復活の準備を始めていた。
「フラエントが領主、ラードただいま到着いたしました。」
入り口で、門番に告げ、入国準備を進める。
面倒事は嫌なので、窓には仕切りを付けて見えないようにした。
「確認しました。王城で国王陛下がお待ちでございます。」
「分かった。ありがとう。」
ラードは門番に礼をいい、城へと馬車を進める。
馬車の中から音を聞くだけでも、活気ある王国であることがわかる。
店の売り子の声、行きかう人々の話声、兵士の訓練の音、どれもテンペンシア連邦国で聞いたことのあ
る、心地の良い音だった。
城に着くと、騎士団長らしい鎧を着た兵士が出迎えてくれた。
「お待ちしておりました。ラード様、精霊様はどちらに?」
「こちらにおります。」
ラードは馬車の扉を開け、エルとテネレッツァに出てくるように促した。
そして、二人の姿を見た騎士団長は絶句した。
「お初にお目にかかります。風邪の精霊、エルバフィーアでございます。」
威厳を示すためなのか、公式の場で使うような改まった挨拶である。
「そちらの方も精霊様でしょうか?」
「いえ、こちらの方は、私の主である、テネレッツァ様でございます。」
何も言わず軽く礼をしておいた。
「猫族が主とは…」
また誤解されそうだったので、即座に弁明した。
「いえいえ、私は猫族ではありません。あと、このフードと仮面はこちらの事情で外すことが出来ないの
で、悪しからずご了承くださいませ。」
精霊の主だからなのか、すんなり許してもらえた。
そして、私たちは王に挨拶をするために王間に足を運んだ。
「こちらで、少々お待ちください。今、我が王が準備をしておりますので。」
案内された部屋は、少しきらびやかに見えるが、調和のとれたいい部屋だった。
すると、旅の疲れが出たのか、エルが私の膝枕で寝始めてしまった。
ちなみにラードは先に行っておきます、といったので二人きりである。
すーすーと寝息を立てている姿が可愛らしく、猫のように撫でること10分、扉がノックされた。
「準備が出来ましたので、こちらへお願いします。」
「テネレッツァ様、起きてください。時間ですよ。」
「うーん、あれ寝てた?」
「ほら、早く身だしなみを整えて。」
そのやり取りを見ていた、猫族のメイドが、くすくすと笑っていた。
「いや、申し訳ございません。その御姿があまりにも親子のようでしたので、つい。」
エルは唇に指を当て、一言
「このことは秘密ですよ。」
その顔は女性ですら惚れさせるほど美しかった。
「は、はい。」
部屋をでて、廊下を歩き、ひと際大きな扉の前に着いた。
「国王陛下、精霊様がお見えになりました。」
メイドが扉越しにそう伝えると、扉が開かれた。
中は広く、中央には赤いカーペットがしかれている。両脇には屈強な兵士が並んでおり、まさに王間と言
えるだろう。
そして、中央一段上の玉座に座っているのが王だろうか。
「おお、精霊様、ようこそいらっしゃいました。」
私が挨拶するよりも先に、国王らしき人物が挨拶をした。
「私は、このべラリア王国の国王である、虎族のティグリス・アニマ―リア・ベラリアです。」
やさしい雰囲気を醸し出しているが、その奥に隠れている強者の念が隠しきれていない。
「私は、風の精霊エルバフィーア。こちらは私の主のテネレッツァ様です。」
こちらも自己紹介をしたが、横にテネレッツァがいない。周りを見渡そうとしたら、後ろの方に感触があ
った。
「何やってるんですか。堂々としてください。私の主なのですから。」
テネレッツァ様を横に引っ張り出し、会釈させる。このところ、テネレッツァ様が人前に出るとき少し恥
ずかしそうにしている気がする。
というか、私を独り占めしようとしている気がしてならない。
「精霊様は、この大精霊祭を知っておられますか?」
そんなことを考えていると、ティグニスが質問してきた。
「いえ、全く。私は他の土地の者ですので。」
そう言うと、王の横にいた、宰相らしき人物が説明をしてくれた。
大精霊祭
自分たちの信仰する精霊に日頃の感謝を伝え、国の繁栄を祈り、様々な種族との親交を深めることが出来
る、大事な祭りである。
1週間で行われ、精霊は初日の挨拶と、最後の祈りの儀を行う。
精霊は基本的に人前に姿を現さないので、精霊の姿を一目見ようと、この大地のいたるところから獣人が
集まってくるらしい。
「では、私はその初日の挨拶と、祈りの儀を行えばよいのですか。」
「そうです。儀の内容は後でゆっくりお話ししましょう。」
その後も、この国のことについて少し説明を受け解散となり、私たちは王の応接室へと移動した。
「ふう、ここなら気兼ねなく話すことが出来るな。」
椅子に座るなり、ものすごい楽そうにするティグニス
「精霊様の前ですよ。しっかりしてください。
あなたはそれで一回、精霊様に「みっともない」と言われたでしょうが。」
宰相に注意され仕方なくティグニスは姿勢を正し、こちらを見てきた。
「それで、なぜ、人族の子がこの大地に入ってこれたのだ?」
私の膝枕で寝ているテネレッツァを気にすることなく、とんでもない質問を投げてきた。
「なぜ、この子が人族であるとお思いなのですか?ほら、尻尾も耳も生えていますよ。」
エルは、テネレッツァの、フードで隠れた顔を撫でながら言った。
「わしをだまそうとしたってそうはいかんぞ。その者からは獣人族の気配が一切しない。感じるのはあの忌々しい人族の気配だけだ。」
エルはしまった、といった顔をしている。
(気配まで変えておくのでしたね。)
「我が主を侮辱するのはやめていただきたい。」
「では、その者が人族であると認めるのだな?」
「確かに、この子は人族です。けれども、あなた達が思っているような悪い人族ではありません。」
そこまで言うと、カップに入れられた茶を飲みほした。
「それでも、私の主を侮辱するのですか?」
エルが言い放ったその一言は獣人族には効果てきめんだったようで、ティグニスは一歩引き下がり、自分
の心を落ち着かせていた。
「申し訳ございませんでした。精霊様、決して、あなた様の主を侮辱しようと思ったわけではありません。」
だが、その言葉はエルの地雷を踏んだ。
「はあ、あなたの目は節穴ですか?」
「な、なんですと?」
「あなたの目の前にいるのは、精霊ではない、エルフの国より遣わされし上級精霊、エルバフィーアであ
る!」
エルが高らかに叫んだ。
その時、国王と宰相が同時に頭を地にこすりつけた。
「も、申し訳ございませんでした!上級精霊様と知らず。どうか、どうかご無礼をお許しください。」
「まあ、この子のことを見逃してくれるなら、いいですけど。」
私の提案に国王は快く了承し、その後は「儀」の打ち合わせをして、帰ろうとした。けど、
「今日はお疲れでしょう。どうぞ、王城で休んでいってください。」
そういって、王城の一室に案内された。
「メイドさん、私はこの通り手が塞がっておりますので、扉を開けてくれませんか?」
さっきも案内してくれたメイドに頼み、扉を開けてもらい、部屋に入った。
「しかし、よく寝ますね。テネレッツァ様。」
気持ちよさそうに寝ているので、そっとしておこうと、ある魔法をかけた。
「精霊魔法 フルニート・ドーラ(精霊の変体) 応用せよ、服を変えよ。」
テネレッツァの体が魔力に包まれ、聖装から寝間着へと変わった。
そして、エルの手にはその聖装があった。
みんなが寝静まった後、私は一人、ベランダから見える月を眺めていた。
「エルフ族の人たちはみな元気にしているでしょうか。」
ふと、ある人の言葉を思い出した。
「いいよねぇ、月って。美しく、誰にでも平等に足元を照らしてくれる。まるで、下を向くな。上を見て
歩け。と言っているかのようにね。」
「ルーナ… 月は平等なれど、人の道は平等にあらず。私の今の使命はただ一つ、テネレッツァ様の母を見つけるまで、守り抜くこと」
エルは、ベッドに戻り、そのまま眠りについた。
大精霊祭 初日
「これより、大精霊祭を開始いたします!」
「「「わああぁぁ!!!!」」」
「初めに、国王陛下及び精霊様からの挨拶です。」
国王が挨拶をしている中、私たちは裏で待機していた。
「予定通り、私が挨拶をするので、テネレッツァ様は横で立っていてください。」
テネレッツァは軽くうなずき、服装をただした。
「おっと、そろそろですね。準備はよろしいですか?」
「うん!」
国王の挨拶が終わった後、いよいよエルの番になった。
「続きまして、精霊様のご挨拶です!」
王城の前の舞台に集まっていた人たちから歓声が巻き起こる。
(ふう、信仰への感謝と種族の繁栄を祈る言葉、初めてですが意外と緊張しないものですね)
「皆様はじめましてですね、風の精霊、エルバフィーアです。」
エルはそこから形式的な挨拶と祈りを獣人族に捧げる。
(エル、かっこいいなあ)
テネレッツァは大勢の人の前で堂々と話をしているエルを横で眺めていた。
「最後に、日々私たちを信仰してくださる獣人族に改めて感謝を。そして種族の繁栄があらんことを」
そして、エルは空に向けて「フィードバーニア」を放った。
「「「わあああああ!!!」」」
司会が初日の式をしめる
「これにて初日の式を終了します。さあ、精霊様に感謝し、祭りを最大限に楽しみましょう!」
会場から今日一番の歓声が沸き起こり、式は幕を閉じた。
「お疲れ様でした。上級精霊様。」
式が終わり私たちは王城の一室で休憩をしていた。
「なぜ、国王陛下がここに?あなたも大精霊祭を楽しんできてはいかがですか?」
「王がいってはみな委縮してしまうであろう?私はここから眺めることにするよ。それこそ、君たちが言
ってきたらどうだね?」
まあ、テネレッツァ様も気になっているようですので。行くとしましょうか。
「では、お言葉に甘えて」
エルはテネレッツァを連れて自分たちの客室へ戻り、聖装から、いつもの服に着替えた。
「では街にくりだすとしましょう」
街に降りると、普段よりも賑やかそうに見える。
王国の人々はさっきの印象が強いのか、私服を着ていると、精霊であると全く気付かない。
「テネレッツァ様、まず、どこに行きますか?」
「んー。何か食べたい!」
辺りを見渡してみると、いろいろな食べ物の出店がある。
その中の「ビースターの串」を食べてみることにした。
「おじさん、ビースターってなんですか?」
「ああ、ビースターは体長3mくらいの体が丸く太ってて、鋭い爪で攻撃してくる獣だよ。だけど、こい
つからとれる肉がたいそううまいんだよ」
説明しながら、私たちに串を焼き、渡してくれた。
「ほい、二本で銅貨6枚ね」
「ありがとうございます」
串を受け取り、近くにあった椅子に腰かけて頬張る。
外はカリっとしていながらも中はとろけるように柔らかい。たしかに絶品である。
(エルがこの大地に来てから、ものすごく元気になったような気がする。)
テネレッツァは、夢中で食べるエルの顔をみながら、そんなことを思っていた。
「食べたら、次はなにか遊びたい!」
私もまだまだ子供である。
たまには甘えたっていい、と自分で思った。
「では、なにか探しましょうか」
「うん!」
エルの提案に私は笑顔で頷き、また街の中を歩いていくのであった。
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