第十六章 獣人族の大地 ベラリア 前編
船旅は実に優雅だった。誰にも追われることなくゆっくりできる。
移動は、風魔法の力を込めた魔石を埋め込み
「歯車」とそこに繋がっている「ぷろぺら」に風を送り込むだけである。
「また便利なものを作りましたね。どこでこの知識を?」
「母さんに小さい頃教えてもらった!」
エルはテネレッツァと話しながら、彼女の話し方が少し年相応に戻っている気がした。
「あと何日かな?」
「もう一日ほどでしょうか。あっちでは私たちのことも指名手配されていないので、外していいですよ。」
エルは仮面を外し、私に返してきた。
「え、いいよ、持ってて。お守りみたいなものだから。」
荷物にもならないので貰っておくことにした。
さらに一日、だんだん大地が見えてきた。
「スピードを落としてどこかに止めましょうか。」
ゆっくりと浜辺に近づいてく。
その時、エルはなにか違和感を覚えた。
(ん?なにかに当たったような…)
岸に着くと近くにあった木に紐を括り付けて、流れないようにした。
「さて、まずは獣人族の方を探さないとね。
エル、どこにいるか知らない?」
「さあ、私も始めて来ましたので。まあ観光のつもりでゆっくり探しましょう。」
そんな緩い感じで、ベラリアの旅が始まった。
「母上!」
「アクアよ!」
アクアはもう二度と会えないと思っていた母と会うことが出来た喜びで大粒の涙を流している。
「よかったねぇ~。」
そんな光景を邪魔すまいと、フラウム達は暖かい目で後ろから見守っていた。
「こっちも泣きそうです。」
「なんで姉さんが泣きそうなの。」
「だって~」
なぜか、イリスももらい泣きをしている。
そんな場面をとても気まずそうに見ている者が一人だけいた。
「はあ、あんなことがあった後にこういうことが起きるとは。何か悪いことが起きなければよいのですが。」
バグナは曇りゆく空を見上げ、心配そうにつぶやいていた。
(あの時、ちゃんと話を聞いていれば、まだ未来は変わっていたのかもしれない。)
海辺からすぐ見える林の中を抜けていくと、ちょっとした道が見えてきた。
その道を二人で歩いていくこと半日、村らしきものが遠くに見えてきた。
「あれって、獣人族の村?」
「じゃないでしょうか。」
さらに歩いていくと、塀というか柵と門、それにそこを守る人が見えた。
どっちも、犬の耳である。
すーっと近づいていくが全く気にしている様子がない。
「あのお、ここって獣人族の方の村であってますか。」
「ああ、そうだが…って貴様ら何者だ!」
え、今気づくの、と心の中で突っ込みながら続けて言う。
「私達、人を探してここまで来たんですけど。」
「ちょっと待て。」
門番の二人にそう言われ、言われるがままに、待っていると、長老らしき人物が私たちの方へ歩いてきた。
「こんにちは」
挨拶をすると、長老は穏やかにそしてはっきりと答えた。
「まずは、その仮面とフードを取ってくれんか。」
エルがまずそうな顔をしている。
「私は構いませんが、この子はある事情により、人前で素顔を見せられないのです。なにとぞご容赦ください。」
エルは頭を下げ、そしてフードを取った。
そして、その顔を見た獣人族はみな一様に驚いた。
「ま、まさか上級精霊様…?」
「よく分かりましたね。確かに風の上級精霊 エルバフィーアです。」
「おお、」
「本当に精霊様だぞ。」
なぜ、そんなに驚くのか私には分からなかった。
中には崇めるような行動をとる者がいたり、土下座をして、称える者もいた。
「精霊様、折り入ってお願いがあるのです。」
さっきまでの態度が嘘のように長老らしき人物はエルを敬うような口調で、頭を下げてきた。
「ここではなんですので、場所を変えましょう。」
私達は、長老に連れられ、この村では一番大きな家に案内された。
そして、その家の中の椅子に腰かけ、エルは少しいつもとは違った雰囲気で長老たちに言った。
「まずは、お互いに自己紹介からいきましょうか。私は風の上級精霊 エルバフィーア。こちらは私の主である、テネレッツァ様です。」
いきなり紹介され、驚きつつも自分も自己紹介をした。
「只今ご紹介にあずかりました。エルの主?のテネレッツァです。」
仮面をしているので、表情は見えないが敵意がないことは分かってくれたようだ。
しかし、獣人族の長老の息子らしき人が思いがけない質問をしてきた。
「その、テネレッツァさんは何族なのですか。」
ああ、そういうことか、私は今、手以外のすべての部分が服と仮面で覆われている。
だから、どんな種族か、手だけでは分からないのだ。
「人族です。」
別に隠す理由もないので、正直に答えてみたのだが、獣人族の反応は想像と違っていた。
「ひ、人族ですと!」
「な、なんで人族がこの大地にいるのだ!」
よほど私がいることがおかしいのだろうか。
そう思って聞こうとしたら、エルが先にキレた。
「おい、我が主を侮辱するというのか?」
エルがキレたことにより、長老たちは慌てて弁明した。
「いえ、そんなつもりはございません。ただ…」
「ただ?」
「この大地には人族は入ることが出来ない結界が張られているのです。」
(え、どういうこと)
「ああ、だからここに来た時違和感があったのですね。」
気づいていたかのように、エルは納得しこちらを見てきた。
「大丈夫です。私がこの子にかかるすべての魔法を打ち消す魔法を出発前にかけましたので。」
「なんと、そういうことでしたか。」
長老たちは結構あっさり納得した。
この村というか、この大地では精霊は、あっちの大陸で言うところのラ・ノマリア様みたいなものらしい。
だから、エルの言うことを一切疑わないのか、と自分の中で納得した。
(うん?いつその魔法をかけたんだろう。)
少し考えたらすぐに分かった。あの時である。
「では、我々も自己紹介を。私はこのカニアの村の長老である、ドラン・カニア。こっちはわしの一人息子のエルド・カニア。」
長老の斜め後ろに控えていた、エルドは軽くこちらに会釈してきた。
私も一応返しておく。
「それで、お願いとは?」
エルは自己紹介を済ませるとすぐに本題に入った。
「最近、この辺りに妙な魔獣がでるのです。
魔法も物理も効かず、出てきては村総出で追い返すのが精一杯でして。」
みんな、暗い顔をしている。それほどまでに強いのだろうか。それとも何かほかの理由があるのだろうか。
「ですので、上級精霊であるエルバフィーア様に倒していただきたいのです。」
エルは考え込んでいる。まあ、断ったとしても私が倒しに行くのだけど。
「はあ、分かりました。次出てきたら、教えてください。恐らく倒せると思います。」
仕方なさそーに答え、エルは出ていった。私もついて出ていく。
「あの方なら、倒してくれるだろう。」
「そうでしょうか。」
「なに?精霊様を馬鹿にするというのか!」
エルドの一言にドランが食って掛かる。
だんだんと口論が激しくなっていき、エルドが手を出しそうになった時、何者かに止められた。
「止めてください。親子で殴り合いなんて。ひどいですよ。」
止めに入っていたのは、テネレッツァである。
「いつの間に…」
エルドはいきなりテネレッツァが出てきたことに驚きを隠せていない。
しかし、人族の子に止められたことで、我に返った二人は、なんとか仲直り?をしたようだ。
それを見て安心したテネレッツァは、外でまっているエルのところへ走っていった。
「あの子何者だ?」
「私達でも見えなかったぞ。」
走り去っていくテネレッツァの姿を見ながら二人は呟いてた。
「もうよろしいですか?」
「うん。ありがと」
二人は村をでてその魔獣の目撃地点に足を運んだ。
辺りを見渡すと、戦った後のような穴がいろんな所にできている。
「いつもこの辺りにでるのでしょうか」
他を見ても穴がないのでこの辺りにしか出ないとうかがえる。
「なにもいないねぇ。帰ろうか。」
今日は居なさそうだったので帰ろうと村に体を向けた瞬間、なにかが飛んできた。
「い、岩?」
思わず振り返ると、二足歩行の魔獣がこちらに向かって突進してくる。
試しに、エルが「フィード」を打ってみたが全く効果が無い。
「あれで間違いないようですね。」
魔獣の突進攻撃を避けた後、二人は戦闘態勢に入る。
「さて、どう倒す?」
エルに聞いてみると、もう勝ったかのような顔をしている。
「え、もう勝つ手段見つけたの?」
「はい、青の人たちが精霊を頼るのも納得。
あれは「精霊魔法」でしか倒すことが出来ません。」
エルの方を見てみると、なにか不思議そうに魔獣を見つめている。
「あれは、その昔、エリカ様がバダゴーラと、ともに封印した一体のはずなのですが。」
ふと、私はあのバダゴーラの一言を思い出した。
「くくく、簡単な話だ。我々は馬鹿な冒険者のおかげで、封印が解けたのだよ。」
バダゴーラはあの時、「我々は」と言っていた。ということは?
「まだ、封印されている魔人がいるのですか?」
「たしか、バダゴーラ、ニヒル、デュラエス、スイゼ。この四体だった気がします。」
そんな話をしている隙に、あの魔獣「ニヒル」はもう一度、突進をしていた。
すっと両脇に避けていればいいのだがキリがない。
エルに早々に倒してもらうことにした。
「コンジェラーレ(瞬間凍結魔法)」
ニヒルの体が固まった。
それに合わせるようにエルが魔法を放つ。
「フルニート・ラーフ(精霊の波動)」
魔法は効かずとも精霊魔法は別、ニヒルはエルの一撃で粉々にされた。
ニヒルがいた場所を見てみると魔石とニヒルのツノが落ちていた。
「これを証拠にしましょうか。」
「うん、そうだね。じゃあ戻ろうか。」
村の入り口まで戻ると、村人たちがおどおどした様子で門のあたりに固まっていた。
「おお、帰ってきたぞ。」
群衆の中をかきわけ、長老が出てきて言った。
「倒したのですか?」
「はい。」
その一言で村は歓喜に包まれた。
「やったー!」
「これでもうあの魔物に脅かされることはない!」
随分と長い間脅かされていたのか、村人の喜びようといったら、すごい。
「今宵は宴をいたしましょう。エルバフィーア様と、テネレッツァさんも一緒にどうでしょうか?」
長老が、私たちの様子を伺いながら聞いてきた。
私達は顔を見合わせそして笑顔で答えた。
「ぜひ!」
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