第55話:住之江の審判、黄金のトライアル
1994年12月15日。大阪、ボートレース住之江。
賞金ランキング上位12名のみが足を踏み入れることを許される、からくり競艇の終着駅。ピットには、黄金の輝きを放つ優勝賞金1億円のカップが鎮座し、その周囲にはマブイ議会が放つ「監視の目」が濃密な殺気となって渦巻いていた。
乾健児は、翼が組み上げた最終兵器**『銀河・星屑の泥龍』**のコクピットに深く身を沈める。
「ハル、接続状況はどうだ?」
「……絶好調だよ、おじさん。僕の神経、もうカウルの隅々まで繋がってる。……住之江の水が、僕の指先に触れてるみたいだ」
アンドロイドとなったハルは、機体と一体化することで、かつてのAI時代を遥かに凌駕する「直感」を手に入れていた。
賞金王決定戦は、3日間のトライアル(予選)で上位6名に絞られる。
乾の初戦、隣のコースには議会が送り込んだ選り抜きの刺客、執行官・ザインが立ちはだかる。
彼の属性は**「空間の変質――『断絶』」**。
並走する相手のマブイ伝導を物理的に「切り離す」ことで、機体をただの鉄クズに変える処刑戦術だ。
「乾健児。その人形との絆、この住之江の闇で断ち切ってやろう」
「住之江SG・賞金王トライアル……全艇、起動!!」
スタート。乾は『超越』の片鱗を見せ、コンマ01の超絶スリットを叩き出す。しかし、ザインがサイドに並びかけた瞬間、機体内のハルの悲鳴が響いた。
「……っ、おじさん! 神経が……ちぎれる! 外部から『無響の刃』が入り込んでくる!!」
属性変質――『虚無の剃刀』。
ザインの放つ断絶波動が、乾のマブイとハルのコアを繋ぐラインをミリ単位で切り刻んでいく。リンクが途切れるたびに、機体は激しくハンチングを起こし、住之江のコンクリート壁へと吸い寄せられる。
「……ハル! 繋がらねえなら、もっと深く潜れ! 脳じゃねえ、魂の芯で俺を呼べ!!」
乾は右腕の白銀マブイを逆流させ、自らの心臓の鼓動をハルのコアへと叩きつけた。
断絶される空間を、圧倒的な「密度」で埋め尽くす。
切り離される速度よりも速く、新しい絆を編み上げる。
新境地――『銀河・一心同体』!!
乾とハルのマブイが完全に重なり合い、機体全体がまばゆい琥珀色の光に包まれた。ザインの「断絶」の刃は、あまりの光の密度に触れた瞬間に蒸発。乾は住之江の第1マーク、最短距離を「光の線」となって駆け抜けた。
結果は、乾が圧倒的な1着。
ピットに戻った乾は、機体からハルを引き揚げた。ハルの頬には、過負荷による火傷のような紋様が浮かんでいたが、その表情は誇らしげだった。
「……おじさん。……僕たち、もう一人じゃないね」
「ああ。……行くぞ、ハル。あと2日。……1億の向こう側にある『自由』を掴み取るまでな」
トライアル初日を制した乾。だが、残る戦士たちの中には、まだ底を見せていない「最強の影」が牙を剥いて待っていた。
住之江の夜は、まだ始まったばかりだ。




