第54話:銀河専用機『星屑の泥龍(スターダスト・マッド・ドラゴン)』
1994年11月。賞金王決定戦を目前に控え、乾健児は住之江の試走ではなく、翼の秘密ガレージに籠もっていた。
常滑での激闘により、これまでの機体『銀鱗・泥龍』は銀河マブイの超高熱と骸の重力攻撃によって、フレームが飴細工のように歪み、修復不能な状態に陥っていた。
「……健児、覚悟はいい? 今度の機体は、あんたの銀河を『流す』ためのもんじゃない。あんたの銀河を『加速』させるための凶器よ」
翼の目の前には、これまでの競艇の常識を覆す、白銀の液体金属のような光沢を放つ新機体が鎮座していた。
翼が黒崎家の全財産と、支倉創の遺した極秘データを注ぎ込んで完成させた最終兵器。
その名は、『銀河・星屑の泥龍』。
超伝導マブイ・カウル:銀河マブイの熱を100%推進力に変換する。
ハル・コア・リンク:アンドロイドとなったハルの神経系を直接ボルトオンし、ハルの「感情」をモーターの回転数に同期させる。
属性特性:『超越』:17,000の制限を一時的に解除し、宇宙の膨張エネルギーを模倣した爆発的な加速を生む。
「……健児、この機体はあんたの命を吸うわ。ハルの心臓(マブイ石)と、あんたの右腕が一つにならない限り、住之江の第1マークでバラバラになる」
アンドロイドとしての肉体を得たハルは、自らの背中にあるインターフェースを見つめた。
「……おじさん。僕、怖くないよ。この機体の一部になれば、僕は本当の意味で、おじさんの『翼』になれるんだから」
ハルがコクピットに深く沈み込み、機体と神経を接続する。
「……リンク、開始。……血管に海が流れてるみたいだ。……おじさん、僕を感じて!」
機体が白銀から淡い琥珀色へと発光し、ガレージ全体が銀河のような重力場に包まれた。乾は震える右腕をステアリングに添えた。その瞬間、ハルの体温と、宇宙の鼓動がダイレクトに脳に流れ込んできた。
深夜のテスト走行。
乾がスロットルを開いた瞬間、機体は「加速」というプロセスを飛び越し、一点から次の点へと「転移」したかのような挙動を見せた。
新形態――『銀河・泥龍超越』!!
「……っ、速え! 速すぎて景色が白銀に塗りつぶされやがる!」
「おじさん、もっと! もっと僕を燃やして! 12月の住之江で、太陽を追い越すんだ!!」
翼が見守る中、機体は住之江のコンクリートの壁を「光の残像」で削りながら、あり得ない速度で旋回を繰り返した。それはもはやボートではない。銀河を駆ける一筋の流星だった。
5. 終章:黄金の1億へのカウントダウン
「……完成ね。これが、からくり競艇の終着駅」
翼は油まみれの顔で微笑んだ。
だが、その様子をモニター越しに眺める影があった。
マブイ議会の本拠地、住之江。そこには、乾の『銀河』を迎え撃つために、議会が総力を挙げて建造した「もう一つの最終兵器」が完成しつつあった。
「……乾健児。その光、住之江の闇ですべて飲み込んでやろう」
1994年12月。賞金王決定戦。
黄金の1億円と、からくり競艇の未来を懸けた、史上最大の「星の衝突」まで、あと7日。




