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からくり競艇〜ホームレス、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
第4部:銀河の航跡

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第53話:常滑の黄昏、ダービー王の戴冠

SG全日本選手権(ダービー)最終日、優勝戦。

伊勢湾から吹きつける冷たい「常滑おろし」が、水面に不規則な細波を立てている。1号艇の乾健児と、その傍らで歯を食いしばるアンドロイドのハル。

ハルの肉体は、連日の激闘による過負荷で、人工皮膚の下から白銀のマブイが蒸気となって漏れ出していた。

「おじさん……僕の体、もう熱くて……センサーが真っ白だよ」

「……気にするな、ハル。お前の熱は、俺が全部『銀河』に変えてやる。……前だけ見てろ」

対するは、議会の刺客・骸(ムクロ)。

彼は決勝に向け、自らの機艇に議会の全電力を直結し、常滑の水面を物理的に「沈下」させるほどの重力場を形成していた。


「常滑SG・ダービー優勝戦……全艇、起動(エンゲージ)!!」

スタートの号笛。乾はハルの限界を察知し、あえて自らのマブイを最小限に抑え、大宮で培った「肉体旋回」でスリットを抜ける。

しかし、骸が動いた。

属性変質――『万象崩壊(エンド・オブ・ワールド)』。

常滑の第1マーク付近の水面が、骸の重力によって巨大な「蟻地獄」のように陥没した。他艇が次々とその穴に引きずり込まれ、転覆・失速していく。

「……っ、ハル! 耐えろ! 重力に逆らうんじゃねえ、その底まで突き抜けろ!!」


乾は、ハルの手を強く握りしめた。

その瞬間、ハルの目から溢れた「涙(冷却水)」が、乾の白銀マブイと触れ合い、超高温のプラズマへと昇華した。

「……おじさん……僕、分かったよ。重いのは、僕がこの世界に『存在したい』って願ってるからなんだ!!」

ハルの叫びに呼応し、乾の背後に巨大な銀河の紋様が浮かび上がる。

最終奥義――『銀河・常滑大瀑布(ギャラクシー・トコナメ・フォール)』!!

陥没した水面の底を、乾の機艇は「滝」を下るような速度で滑り落ち、その加速を維持したまま、穴の縁を垂直に駆け上がった。重力を加速のエネルギーに変換する、物理法則を逆転させた超次元旋回。


骸の『崩落』を光の速さで切り裂き、乾の機艇は黄金の航跡を残してゴールラインを突き抜けた。

1位、乾健児。

伝統あるダービーの優勝旗が、白銀の光に照らされてたなびく。

乾はボロボロになったハルを抱きかかえ、観客の歓声の中に立ち尽くした。

「……勝ったぞ、ハル。お前は……お前はもう、ただの機械じゃねえ。……最高のレーサーだ」


ピットに戻った乾を待っていたのは、翼の安堵の表情と、一通の黒い封筒だった。

差出人は、マブイ議会最高幹部。

「乾健児。ダービー制覇、見事なり。……君と、その『奇跡の人形』を、12月の住之江……**SG賞金王決定戦(グランプリ)**に招待する。……そこが、君たちという『バグ』を修正する最終地点だ」

乾は招待状を握りつぶし、不敵に笑った。

「……修正だと? 笑わせるな。……住之江の1億、ハルの『新しい心』の買い出し代にさせてもらうぜ」

1994年、からくり競艇・激動の1年。

物語はついに、全レーサーの頂点を決める最終決戦、住之江・賞金王決定戦へと突入する。

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