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機械仕掛けの大精霊 オートマチック・エレメント  作者: ロングフイ
七章 力と技と術
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第72話 リベンジマッチ

「チッ、コイツら! 鬱陶しいな!」

「クリスタルバレット! リオ、耐えられなかったら下がって。無理しないでね」

「いや、それは大丈夫なんだけど……ああもう!」


 木々の中を進むにつれ、昆虫型の邪霊(イビル)は増えていった。マテリアルの盾を広く展開して後ろを守っているのだが、断続的に伝わる衝撃波による振動が不快な事この上ない。盾で殆ど緩和されているとはいえ、数秒に一回の頻度で腕を強く揺さぶられる感覚だ。頭と内臓が揺れてムカムカする。


「でもさっきに比べて凄い増えたね。また来たよ、左側から二、三……六体!」

「リオ、さっきみたいに一気にやるよ。精霊(スピリット)よ――アイスシールド!」

「いくよー! 風壁!」


 近づいた邪霊を精霊術で包囲し、俺が受け止める盾の前に集める。


「縛めよ、フロストプリズン! リオ、水と硬化をお願い!」

「任せろ。精霊よ――撃ち抜け、アクアショット! 『硬化』!」


 氷壁を補助し、邪霊を水に沈める。イレアの精霊術を使いやすくするための準備だ。


「葬れ、グレイシアコフィン!」


 最後に水を邪霊ごと氷漬けにしてお終い。本日四回目になるパターン化された連携攻撃だ。


「片付いたか。まったく、こんなに大量にいるのがなんで林の外に出て来ないんだ?」

「人を襲う意思……みたいなのはあるわね。何か理由があるのかも」

「でもさっきからずっと同じだよ? あ、また来た。今度は一体……一匹って言った方が合ってるね、これ」


 すぐにガサガサとやって来た邪霊をイレアが氷の弾丸で素早く倒し、再び休憩となった。火の弾ける音が度々聞こえたが、後方のソージア先生も一人で何体か相手していたようだ。


「ここに入って二時間弱。そろそろ一番奥かしら。林の周りから見て、川の流れで木が途切れている所ね」

「邪霊の増え方からしてそっちに何かありそうですね」

「ホムラ先生、どうして川の方からは行かなかったんですか?」

「向こう側は勾配があって入りにくいの。それに危険だからよ。邪霊の中には水を武器にする個体もいて、あの辺りは危険区域に指定されてるのよ。川の周りは言わば天然の武器庫ね」


 二人は来年あたりに授業で教わるかしらと言う先生だが、そんな話は聞いていない。討伐演習が始まる前にアナウンスがあっても良かったんじゃないか? そう聞くと、


「こんな所まで来るのは私達くらいよ。それに高等部の一年までしかいない班なんてごく少数だし、私が付いてるから問題無いわ」

「そんなもんですか」

「そんなもんよ。それに学園側も参加する生徒も、邪霊に対する認識が浅かったっていうんでしょうかね。知ってる? 大怪我した子がちょっと前に出て以来、最近参加者が減ってるのよ。残ってる班も遠くへ行かなくなってるし」

「この前学長が号令の時に言ってましたね。私達はホムラ先生が付いてるから大丈夫だけど……」

「成績とかに釣られて参加しちゃったんだろうねー。確かにある程度の邪霊だったら余裕で倒せるし、調子乗って油断したとか?」

「うっ」


 ヒナがそう言ってチラリとこっちを見る。責める気は毛頭無いだろうが、夏前の一件が頭を過った。


「うちも家柄がある所の生徒が多いから下手に死人が出ると困るのよね。ただ学長は、軍事化を進めるためには邪霊の脅威が認知されないと困るって考えだと思うんだけど……難儀なものね」

「先生がそういう事言っても良いんですか?」

「聞かれたって構わないわよ。私がウンディーノ家の立場なのは皆知ってるし」


 最年少なので年配の職員には可愛がられているようだが、立場が立場なだけにソージア先生は教師の間ではちょっと孤立しているらしい。可哀そうに。……まあ元々ぼっち気質なのかもしれないけどな。

 そんな話をしているうちに休憩時間は終わった。誰ともなく支度を始め、俺達は再び歩き始めた。




 今日、この林を探索する事にした理由はもう一つある。それは林間での戦闘に慣れる事だ。


「『加速』! クソっ、やりづらいな……!」

「リオ、危ない! アイスシールド! クリスタルバレット!」

「すまんイレア!」


 下手に動き回ると危ないが、かと言って立ち止まってはいられない。


「精霊よ――ブリーズスクリーン! お兄ぃ、一匹そっち行ったよ!」

「任せろ! もういっちょ、『加速』!!」


 木々の間を縫って邪霊を翻弄し、引き付け、二人が援護する。昆虫型邪霊は動くものを積極的に狙うと分かってからは、この戦法になったのだ。


「この程度でやられてたら、母さんには勝てないな……っと、ふんっ!」


 次々に目の前に現れては衝撃波を放ってくる邪霊を真正面から盾で受け止める。それと同時に、俺はこの林の中で母さんをどう相手取るか考えていた。

 ティフォ先輩が言うに、母さんの『縮地』は生物のある場所には転移できない。いくら小柄な母さんでも、木々に囲まれた中では自由に動けないだろう。そしてあの太刀は取り回しが悪い。つまり、だだっ広い草原で戦うよりは分があるはずだ。もし次に母さんが来たら何とか有利な状況に持ち込もうという案の一環で、トレーニングも兼ねてこの場所を選んだのである。


「イレア、集まってきたぞ! 頼む!」

「分かった。アイスシールド! フロストプリズン!」

「『硬化』、アクアショット!」

「行くよ――葬れ、グレイシアコフィン!」


 淀みない連携で邪霊を氷漬けにして、猛攻はようやく終わった。


「ふう……何とかなったな」

「うん。私達慣れてきてるね」


 イレアの言う通り、狭い空間での立ち回りにかなり慣れてきた。だが、頭でイメージする母さんの動きには全く追い付かない。武器と『縮地』を封じた程度で敵う相手ではないのだ。例えば今みたいに俺が前衛で防御に徹し、ヒナとイレアが精霊術で援護すると考えるが……駄目だ。母さんの精霊術は俺を易々と跳び越え、二人の攻撃も何一つ届かない。

 すると、ヒナが俯いた俺の顔を横から覗き込んだ。


「お兄ぃ、お母さんの事考えてるでしょ」

「……よく分かるな」

「そりゃ、今日ここに来たのだってそのためだし。でも一番の目的じゃないからね?」

「分かってるよ。ただ、なんていうか……勝てるイメージが全く湧かなくてさ」


 集まって立ち止まった俺達を見て、向こうでまた邪霊を何体か倒していたソージア先生もやってきた。そんな彼女は不思議そうに尋ねる。


「リオ君。もしかしてさ、お母さんの相手は自分がしなきゃとか思ってない?」

「いや、だって」

「あのね。言いたい事は分かるけど、ミヅカ・シオンは言ってしまえば敵の総大将なのよ? そんなのを貴方一人に任せる訳ないじゃない」

「……そっか。そうですよね」


 目から鱗だった。何となく、母さんの事は自分が責任を持たなければならないと考えていた。無意識にだ。


「というか、今考えてたって事は貴方達三人で戦うつもりだったの?」

「は、はい。確かにそう考えてました……」

「やっぱお兄ぃ、そういう所は抜けてるよねー」

「ごめん、そこは私も同意」


 二人とも言いたい放題だ。しかし俺が戦うと考えて、その隣には二人がいると当たり前のように考えていたな。よく考えればおかしな事だ。その場に他の人がいないはずがない。


「イメージトレーニングは結構だけど、それで落ち込んでたら世話ないわね。だったら今は目の前の事に集中なさい」

「分かりました、すみません」

「いいのよ。そんな事考えてられる程度には慣れてきたって事だし」


 さて、と先生はポンと手を打った。


「川の音が聞こえるわ。ここが目的地よ。やっぱり周りがちょっとした崖になってるわね」


 見渡すと、(そび)え立つ一本の大木以外には草木が少ない、開けた場所になっている。ここは木に覆われた小高い丘になっていたようで、先生の言う通り林の外側から直接ここに来るのは難しそうだ。大した距離は無いが、足場の悪い急な坂を昆虫型邪霊を相手しながら、木々を掻い潜って進むのは大変だろう。しかも背後の川には別の邪霊もいるという。


「んー、これで終わり? 何か変な感じするんだけど……」

「でも邪霊はいないんだろ?」


 ヒナが見上げながら唸る。視線の先には、校舎ほどの高さはあろう巨大な木。俺も釣られて見上げるが……なんだろう、確かに違和感がある。


「待って、そう、それ。邪霊がいないんだよ。さっきまでいっぱいいたのに」

「確かに。この木の周りだけ一匹もいないわね」


 そうだ。今は何故か邪霊に全く襲われない。この大木の下を境に、昆虫型の邪霊が現れないのだ。


「ヒナちゃん、ホムラ先生。邪霊の気配は?」

「……反応は無いわね」

「わたしも。でも何か――」


 ヒナがそう呟いた時。


 ――ィィィィィィィイインンンン……


「っ!」


 奇妙な()――金属音のような、耳朶を揺さぶる……そして、記憶を想起させる音!


「精霊よ――吹き散らせ、ミストパルス!」


 思い出した。そして同時に理解する。()()は大木ではない。


「一番! 逃げろぉっ!!」


 無音を撒き散らす、巨大な邪霊だった。




 俺の号令で全力で林の中に駆け込む。道理で他の邪霊が居ない訳だ。あそこは大木の邪霊のテリトリーだったのだ。


「ヒナ、邪霊は?」

「バリバリ反応あるよ。なんでさっきは分かんなかったんだろ?」

「休眠状態のようなものだったって事かしらね。私も今は感知してるわ」

「先生、どうしますか? 私達だけで倒すか、一旦逃げて応援を頼むか……」


 イレアはソージア先生の方を見た。そして先生は俺に目を向ける。この場の判断は俺に委ねられた。進むか引くか――少しだけ考え、決断する。


「俺達で、倒しましょう」


 理由はいくつかある。まず、そう簡単に人を呼んで来れないという事だ。この林を抜けて来た道を戻り、人を連れてまた戻って来る必要がある。今から行ったのでは時間がかかり過ぎるのだ。それに戻ってきたらもう日は落ちているだろう。そんな中で戦える自信は無い。そして、目覚めた邪霊がその間に何をしでかすか分からないからだ。明日以降を待つのも同じ理由でできない。


「勝算はあるのかしら?」

「前に戦ったのと同じなら、一応。もし無理だったらすぐに号令出して逃げましょう」

「お兄ぃ、気負い過ぎないでね」

「……ああ、大丈夫だ」


 勿論、感情的な理由もある。以前敗北した邪霊へのリベンジであり、領域に踏み込んで自分達が目覚めさせた邪霊の後始末をしなければという考えもある。そしてそれ以上に……今の力を試したいという想いが強い。


「作戦を立てましょう」


 精霊術で身を守りながら、俺達は大木の邪霊から隠れて作戦会議をした。


「あの大きさなら中途半端な攻撃は意味がありません。一撃で決めます。イレア、あの精霊術で頼めるか?」

氷獄の楔コキュートス・スフィーナね……分かった、やってみる。止まってる相手ならできるわ。でもあの大きさだとかなり時間はかかるけど、いい?」

「ああ。時間は稼ぐよ。それで、前の邪霊と同じなら攻撃は木の枝みたいな触腕でしてくると思います。先生にはできるだけ邪霊の枝を削いでもらいたいです」

「下手に焼き払うと、落ちて来て私達が危険よ? それに他の木に燃え移ったら山火事になってしまうわ」

「はい。なのでヒナにサポートを任せます。風の壁で防いで燃え広がらないように頼む」

「分かった。でもちょっとずつしかできないと思うよ」

「大丈夫、イレアの準備も時間が要るから。枝葉を燃やしながら少しずつ邪霊の全体の大きさを削ぐイメージでお願いします。そうすればイレアも楽にできると思うので」

「リオ君は?」

「俺は三人を守ります。俺の攻撃じゃあ全く届かないし、今日は剣も使わない予定なので。余裕があればサポートに回ります」

「場所はどうする? 私は集中したらあんまり動けないんだけど……」

「基本的には一箇所に陣取って戦おう。万が一の退路も確保したいから、林を抜けてすぐそこの広場の入り口で。いいですか?」


 三人はそれぞれ頷く。即席の単純な作戦だが、今はこれ以上のものはできない。


「行きましょう」


 立ち上がる。昆虫型の邪霊に察知されるが、それを振り切って俺達は大木の元へ駆けた。




 ィィィィィィィイイイイイイイインンンン――!!!


「――さっきより、反応が強いよ!」

「吹き散らせ、ミストパルス! 時間が経って活性化したか……!」


 広間に戻った俺達を迎えたのは、もはや枝とは言えない蠢く触腕と耳障りな金属音だった。すぐに霧を生み出し、声が通るようにする。


「じゃあ作戦通りお願いします――マテリアル・オーダー!!」


 グヲォオオオン!!!


 俺が漆黒の盾を生み出すや否や、巨大な枝が襲い掛かる!


「っ! 先生、まずは目の前のを!」

「任せなさい! 焼き尽くせ、龍爪花(リコリス)!」


 陽が遮られた薄暗い世界に、真っ赤な華が咲く。それは迫り来る枝葉を包み、


 ボォッ!!


 キィイイイインン!!!


 邪霊の声――金属音は、呻くような色を含んだ。効いているらしい。


「精霊よ――風壁! お兄ぃ、大丈夫!?」

「ああ、問題無い! 後は頼みます!」


 ヒナが風を操って炎を邪霊の方に押し戻し、他の枝に燃え移らせる。予想以上の効果だ。


「今のうちに……精霊よ――水壁、アイシクルランス……『硬化』! イレア、どうだ?」

「……」


 硬化した氷の壁を張り、追撃に備える。先生の炎もある程度防げるのでうってつけだ。イレアの方を振り向くと、額に汗を垂らしながら無言で小さく頷いた。大丈夫そうだ。


 キィィイイインン――――


「チッ、またか……ミストパルス!」


 時間が経つと霧が晴れ、また騒音が響く。声が聞こえなくなるだけならまだしも、イレアの集中を切らす訳にはいかない。俺の仕事は全てを防ぐ事だ。


「焼き尽くせ、龍爪花(リコリス)! ヒナさん、そっち側を!」

「うん! 吹き荒べ、突風(ブラスト)!」


 二人の連携も上手くいっているようだ。その証拠にさっきから枝による攻撃が来ない。この分なら楽に行けるか……?

 そう思った時。


 ジュワァァアアッッッ!!!


「なっ!」


 煙。いや、水蒸気だ。視界が白く染まる。雨? どこから水が?


「……! 葉っぱから水が出てる!」


 ヒナがそう叫んだのと同時に。


 バリィインッッ!!!!


「氷壁が! ぐっ!!」


 そして衝撃が襲い掛かる。枝による攻撃だ。不味い!


「先生、炎が消えてます! とりあえず正面の枝を!」

「分かってるわ! なら、消えないくらいのを――燃え上れ、紅睡蓮スカーレット・ロータス!!」


 業火が白い視界を紅く染め上げる。一拍遅れて迫る熱気。だがそれが届く前に、


「精霊よ――風壁! ホムラ先生、やり過ぎ!」

「これくらいで、いいのよっ! はああっ!!」


 ヒナのサポートがあってこその無茶苦茶な火力だ。風に押し返された炎は枝葉を焦がし、本体にまで届こうとしていた。行ける。俺達は確信した。


「ヒナさん、押し切るわよ! 龍爪花(リコリス)!」

「ちょっとくらい火事になってもいいよね! 『鎌鼬』!」


 炎は風に乗り、勢いを増し、枝葉に燃え移る。そして攻撃に意識を割いていた二人は――気付かなかった。


 ミシ……メキ……


 先程の水。邪霊はどこからそれを持ってきたのか? どこから()()()()()のか? その答えが、形を以て現れる事に。


「……? ……っ!」


 そしてそれにいち早く気付いたイレアに、俺は気が付かなかった。そして。


 ゴゴゴゴゴゴゴ…………ドゴッ、ドガガガッガガガガッッ!!!!


 大木の()が、地面を割ってその姿を現した。敵意と共に鎌首を(もた)げた根は、蛇のように真っ直ぐこちらを見据える。第二ラウンドだ。

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