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黄金のアウレリア ーセルディア王国記ー  作者: 北峰
第二部 黄金の雛鳥

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第六章 沈黙の叡智⑤

 焼け跡の調査を終えて戻ってきたミリアは疲れきった表情をしていた。

 体の疲労だけではない。故郷も同胞も焼け落ちて(すす)と灰になってしまった残骸を見続けていては、精神を削られて当然であった。


 一通り調査が終わったことで、それまで待機していた兵たちが一斉に埋葬作業を開始した。

 彼らにとって、穴を掘り、遺体を運び、土を盛るという行為は、普段から慣れきった日常的な作業の一つに過ぎない。そこには特別な感傷も忌避感もなく、統制の取れた動きで片づけていく。


 ただ、いつもと違うのは、その遺体が戦傷ではなく完全に炭化しているということだった。

 瓦礫をどかし、黒焦げになった遺体を運び出す際、杜撰(ずさん)な扱いをすると体がばらばらに崩れてしまう。何度か手足をぼろぼろとこぼす若い兵に、年長者から叱咤(しった)の声が上がった。


「おい、そこ散らかすなよ」

「ばらけやすいから気をつけて運べ」


 口だけでなく手足も動かしながら、人が物のように運ばれていく。

 ミリアはそれを無情とは思わない。兵士にとって死とはそういうものなのだ。


「さすがに慣れてるわね」


 彼らの作業を見ながら、半ば呆れたようにミリアは息をつく。


「ユリウスがいっぱいいる……」


 一方のアウレリアは、兵たちの動きのあまりの素早さに圧倒されていた。

 彼らの動きは一人一人がまるでユリウスのようだったのだ。軍の統制された行動を初めて間近で見て、彼女はただ茫然とするしかできなかった。


 日差しを遮る天幕の下、アウレリアたちはその作業を見守っていた。

 彼女たちは手伝えない。(いた)む気持ちはあっても、慣れない非力な少女が混じったところで邪魔になるだけなのだ。それに、ここへ来たのは埋葬を実行するためではなく、見届けるためである。王子と結んだ同盟の条件が正しく履行されたかを確認するため、再び痛ましい焼け跡に戻ってきたのだから。


 そんな中、アウレリアの後ろで立ったまま所在なさそうにしていたテオが、再び口を開いた。


「あの、ユリウスさん! お願いがあるんすけど!」

「何だ?」


 護衛中にいきなり何だとユリウスは不審に思ったが、次の台詞はさすがに想像していなかった。


「俺と手合わせしてもらえますか!?」

「はあ!?」


 彼には珍しく、主の前でつい声が裏返ってしまった。それほどテオの発言は常軌を逸していたのだ。


「いや、何言ってんだよ……今は任務中だろ?」

「そうっすけど! でも俺たち立ったまま何もすることなくて暇じゃないっすか! みんな作業してるのに見てるだけだし! なんで、その間にユリウスさんの剣が見てみたいんすよ!」

「暇って……」


 ユリウスは声を失った。

 彼にはテオの言っている意味がわからない。


 要人警護の任務中に?

 死者を弔う埋葬作業中に?

 暇だから?

 剣の手合わせを?


 何もかもが彼の脳で理解することを拒否していた。

 そもそも護衛に「暇」などという概念は存在しない。安全な状態が続かないという前提で常に周囲に気を配るのが仕事なのだ。その任務中に、主から目を離して暇つぶしの手合わせをしようなどという発想が出てくること自体が狂気の沙汰にしか見えなかった。

 あまりのことに目眩(めまい)を起こして倒れかけていると、


「あ、でも私もユリウスの剣見てみたい」


(――アウレリア様!?)


 主の無邪気な発言が、さらに追い打ちをかけた。テオは援軍を得て嬉しげに喜び、イアスは完全に気配を消している。背中を冷や汗で濡らしていると、ついに制止の声が上がった。


「あんたたち何言ってんの! せめて休憩時間にやんなさい!」


 ミリアに一喝され、テオは首をすくめた。


「すいません! ミリア姐さん!」

「私はあんたの姐さんじゃない!」


 さらに叱られ、テオはぺこぺこ頭を下げ、アウレリアは少々しょんぼりする。

 だが、ユリウスは今の叱責で事態が好転したわけではないことを察した。


(――え……? 結局あとでやるのか……?)


 ぐらぐら視界の揺れるユリウスの頭上で無情にも太陽は高くなり、休憩時間が迫っていた。

護衛騎士でありながら一度も作中で剣を抜いていなかったユリウス、ついにその腕前を見せる時が!?

別に彼は剣が嫌いなわけではありません。

逃亡中も夜中に素振りしたり、実は鍛錬欠かしていませんでした。(寝ろ)

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