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激闘

 野良犬はダンボールに気づき、鼻でつつく。

 ダメ、ダメ、ダメッ!やめて!そこにまるがいるの!いるのにッ!私は改めて無様な自分の無力さを嘆いた。どうして私はこうもダメなんだろ。人に迷惑をかけ続け、これっぽっちも誰かの役に立つことができない。

 おい、私!まるがピンチなのに何もしないなんてバカじゃないの!この役立たず!見殺しにするつもりなの!?幸せになっちゃいけない人間のくせに、自分だけ助かろうとするな!動けっ!


 「……」


 私の体はいよいよ固まってしまった。なんで?どうして?

 ……もう、ダメだ。私にはやっぱり無理なんだ。誰か、助けて……。

 不意に、一緒に帰ろうって誘ってくれた有梨香がよぎる。

 どうして自分を傷つけた相手に声をかけてくれたんだろう?嫌われたと思ったのに。また傷つくって考えなかったの?

 どうして大切なまるに会わせてくれたんだろう?信頼なんて壊してしまったのに。まだ、信じてくれるの?こんな私なのに。

 ねぇ、有梨香。知ってた?有梨香がしてくれたことは、私の力になるみたい。

 目の奥から熱いものがこみ上げる。指先が牛乳パックをへこませた。

 視界の中で、野良犬の牙がダンボールにかみついた。


 「ダメェェェッ!!」


 隠れていた植え込みから飛び出した私は、野良犬に向かって駆け出した。野良犬はダンボールを放すと、私に向かって吠え立てる。私も叫び返した。

 手に持っていた牛乳パックを投げつける。それはベンチの角に激突して破裂した。白い液体が空へ打ちあがる。

 飛び散る牛乳を軽やかにすり抜け、野良犬は私にとびかかる。私はバッグを楯にして防ぐ。さらに振り回した。

 冷静な判断ですばやく伏せた野良犬の頭上をバッグが空振りする。勢いの失われたバッグの動きを見逃さず、野良犬はバッグにかみつく。

 私の武器を取り上げるつもりなのか、バッグを引っぱって私をゆさぶった。私も負けじと引っぱり返した。

 引き合いの最中、野良犬は前足を投げ込み、私の右足をひっかいた。


 「痛っ……痛くないッ!有梨香はもっと痛かったんだ!」


 大声で叫ぶと、全身に残っていた力が両腕に集結する。かみついた野良犬ごとバッグを持ちあげる怪力を発揮した私は、自分の右足を軸にして回転し、遠心力の力も借りて野良犬をふっとばす。

 バッグからはがれた野良犬は、砂場に転がり落ちたけど、すぐに立ち上がって唸り声をあげた。私も唸り返して、一歩、前へ出る。

 すると突然、野良犬は私に興味を無くした。プイッとそっぽ向いて、トタトタと背を向け歩き去る。野良犬は公園から出ていってくれた。尻尾の先まで見えなくなると、全身から力が抜けていった。


 「……まる……まるはっ!?」


 あわててまるの元へ駆けつける。お願い、無事でいて。ふるえる手でトマトのダンボールを引き寄せる。




つづく

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