まる
校門を出て右へ曲がった。この道は有梨香の通学路だ。駅に向かう道でもあり、商店街にもつながっている。マンガの話をしながら歩いていたから、私は有梨香が本屋に行きたいんだと思ったけど、コンビニだった。
牛乳を買った。カルシウムが骨に効くって聞いたことがある。でも、なぜか有梨香は買ったばかりの牛乳を私に渡す。
「わ、私が飲むの!?」
「冷たすぎると体によくないんだってさ。手のひらに包んで人肌にあっためて」
温め係として呼ばれたのか。それなら私より電子レンジの方が優秀だと思うけど。言われたとおり、私は冷たい牛乳パックをギュッとつかんで、体温を移すように温める。生あたたかい牛乳って飲みにくいと思っていたけど、体にいいなら賛成。有梨香の左腕が早く治りますようにって、祈りを込めて温めた。
コンビニを出ると、住宅街を通って緑色の壁のマンションにやってきた。マンションの脇にある小さな公園が目的地のようだ。公園といっても砂場とベンチしかない。マンションの住人が使うんだろうけど、子供は一人も遊んでない。砂場に『犬のフンは持ち帰りましょう』って看板が立てられていて、清潔じゃない雰囲気がなおのこと近寄り難い。
有梨香は看板なんて見向きもしないで砂場に踏み込み、ベンチへ最短距離でたどりつく。ベンチの上にバッグを置くと同時にしゃがみ込むと、ベンチの下に手を伸ばす。トマトのイラストが描かれているダンボールを引っぱり出した。
私は横からのぞきこむ。
「あ、子猫……」
「あ~、よかった!今日もいた!」
ダンボールの中に敷かれたタオルの上で、子猫がちょこんと伏せていた。灰色の耳と尻尾以外は白い毛並みの小さな野良猫だ。頭のてっぺんだけ10円玉サイズの肌が露出している。かわいそう、人間にイタズラされたのかな?それとも猫にもそういう病気ってあるのかな?痛くはないようで、有梨香の指が直接そこを撫でてもじっとしている。
「かわいいでしょ~?」
「うん、かわいいね」
「でしょ、でしょ!チャームポイントは頭だよ」
「頭?……毛がないところ?」
「そう!ハゲてる猫なの!丸くハゲてるから『まる』って名前よ」
ハゲってチャームポイントなの?楽しそうな有梨香がつけた名前に、まるは小さく鳴いて反応した。
「沙弓もまるを撫でてみて」
「え、いいの?」
「大丈夫、人間に慣れてるから」
おそるおそる手を伸ばす。私の指が頭に触れる寸前、まるは飛びあがって猫パンチをくり出した。痛くないけど、まるを怒らせてしまったようだ。有梨香の手はよくても、私の手はダメみたい。そうだよね、イヤな人間には触れられたくないよね。まるにもわかるんだね、私がヒドイ人間だってこと。
私は手を引っ込めた。ごめんね、まる。怖がらせたね、もう触れないよ。まるにまで迷惑かけちゃうなんて、私って本当にダメ人間だなぁ。
「沙弓の手、牛乳持ってたから冷たいのかも。体温上がったら撫でられるよ。大きな犬を連れたおじさんでも平気な猫だから」
違うよ、有梨香。何をしても私じゃダメなんだよ。犬がいたとしても、そのおじさんが優しくていい人だから、まるは安心できるんだよ。
つづく




