第3話 レオン
レオン・ヴァレンティス。
王都の有力貴族の三男。
31歳。
目を引くのは、すらりとした長身と体つき。
肩幅は適度にあり、腰から足にかけて無駄のない細身の体型をしている。
ただし、近くで見ると意外にしっかりした体をしている。
髪は、夜の海を思わせる深い黒。
光の届かない場所では漆黒に見えるのに、陽の光を受けると、その一筋一筋に
かすかな青の艶が浮かぶ。
柔らかく、少し癖がある髪質で、完全に整えすぎることはない。
普段はきちんと後ろに流しているけれど、考えごとをしていると前髪が一筋落ちてくる。
気づかないうちに、その髪を指で払う癖がある。
灰色がかった青い瞳。
明るい場所では青みが強く、室内では灰色に見える。
切れ長ではあるけど、鋭すぎない。
その瞳には、慎重さと繊細さを宿している。
指が長く、きれいな手。
貴族らしく手入れされているけれど、完全に柔らかなだけではない。
ペンを持つ指、書類をめくる指、盃を持つ指が優雅だ。
顔の造形は、額は広く
眉は濃すぎず、きれいな弧を描いてる。
頬骨はそれほど高くはないが、輪郭はすっきりしていて、顎にかけて
繊細に線が落ちている。
隙がなく、育ちの良さとその端正な容姿により
近寄りがたい雰囲気を初めて会う人間には抱かせた。
笑うと口元が柔らかくなる。
完璧に見えた男の顔に、ほんの少しだけ無防備な柔らかさがのぞく。
人は知るのだった。
一見しただけでは知ることのできない、穏やかで細やかな人柄が
その端正な容貌の奥に隠されていることを。
―王宮の外交執務室。
レオンは、王都の主要港であるベルナ港からの陳情書に目を通していた。
同じくほかの陳情書に目を通していたルシアンが
「複数の商会がアステリアの港を使いたい、と言っていますね」と眉を寄せながらつぶやいた。
「アステリアというのは、あの島のことでしょうか?」
レオンがそのつぶやきに返す。
レオンも王都の外交交渉を担うものとして、アステリアの名前は耳にしたことがあった。
海運と傭兵を生業にした、地図にない島。
外に出た島の人間も、容易に島のことは話さない。
それが島の独立性を守ることだから。
南と北を結ぶ航路に、海賊船が頻繁に出るようになっていた。
アステリアに寄港し、護衛船をつけてほしいというのが陳情の内容だ。
―しばらくして。
レオンにアステリアとの交渉を任せたいと王室会議から打診があった。
「アステリア…へですか」
レオンは一瞬だけ言葉を止めた。
知らないものを誰かの判断だけで判断するのは好きではなかった。
自分の目で見て、自分で確かめたい。
どんな国なのか、何を大切にしているのか。
未知の土地への興味と、知らないものを自分の目で確かめたいという好奇心が
レオンに「お受けします」と答えさせていた。
侯爵家の三男。
長兄は家督を継ぎ、次兄は軍務に就いている。
三男であるレオンは家を継ぐ立場ではないからこそ、自分の道をその能力で切り開いてきた。
アステリア。
古くから続く島。
そこに何があるのか、そこで何ができるのか。




