第2話 女頭領
アステリアは、古くから高い航海技術を持ち海運と傭兵を生業にしてきた。
島には独自の統治の仕方があり、七つの氏族と氏族を束ねる「頭領家」があった。
アルヴェイン家。
北部高地を治める、古い血筋を持つ氏族。
何よりも重んじるのが、血統・伝統・誓約。
「忠誠を誓う相手は頭領家であって、頭領個人ではない」が家風。
グレンモア家。
北部の山岳地帯を支配。鉱山と鍛冶場を持つ。
グレンモアが重要視するのは「アステリアにとって得かどうか」
ハイランド家。
西の断崖地帯を守り、アステリアの傭兵業を支えている。
現在の氏族長は女性だが、アステリアでは珍しいことではない。
ローウェン家。
東部の森と谷を治める。
森とともに暮らす。
ベルフォード家。
東部の農地を治める。
農業、食料、税、人口。とにかく数字で考える。
美しい理念より、今年の冬は何人食べられる?と現実的。
マーレン家。
南西部の海岸を治める。
造船と船団を握る。
カルディア家。
南部の主港周辺を支配する。
王都の貴族とも交流があり交易を担う。
そして、その七氏族を束ねる「頭領家-アステリア家」だ。
港を見下ろす丘の上に古い時代に建てられた石造りの砦。
砦に掲げられた旗印は群青の地に海鷲が描かれ、その下に三本の波が銀糸で刺繍されている。
代々の頭領が受け継いできたものの象徴だ。
深い群青の布地は、「アステリアの海」
海鷲は、「海を見渡し、島を守る存在」
三本の波は、「過去・現在・未来」
頭領とは海を見つめ、故郷を守り、過去から未来へ航る、島そのものだった。
―ダイアナ・アステリア。
先代である父親を海の事故で亡くしたため、18歳でアステリアの頭領になった。
アステリアの頭領とは単に血筋を継ぐことではない。
アステリアの海と島を知っていること、アステリアを守る意思があること。
そして最も重要なのが、島の人々から信頼されていること。
ダイアナは、父が亡くなり、18歳で頭領家を継いだが
若いダイアナを代々頭領家に仕える人々が支えてきた。
ロバートは、軍事と防衛面を。
エドガーは、政務と外交を。
トーマスは、海運と航海、港湾を。
マリーは縁戚でもあり、身の回りの世話を。
頭領となるものが受け継ぐ掟のなかに、婚姻について守られてきたものがあった。
『頭領は島の外から「迎え人」を迎えなければならない』
島の中から頭領家が伴侶を選べば、均衡を保っている氏族たちの関係が崩れる恐れがある。
また閉じられた島が外部から新しい血を受け入れることで、外の世界とのつながりを保つものでもあった。
「迎え人」は、
七氏族のいずれにも属していないこと。
アステリアの独立性を尊重すること。
頭領の政治的権限を奪わないこと。
頭領を個人として支えること。
必要に応じて外交、軍事、交易、海運など、自分の能力で島に貢献すること。
アステリアを自分の故郷として受け入れること。
が求められた。
ダイアナはすでに26という年齢に達していた。
「迎え人」の説明は頭領家を継いだ時にエドガーから説明があったが
先代を突然亡くしたこともあり、自分の力で島を守ることにすべてを費やしてきた。
まだ早い。
まだ仕事がある。
そうして過ごしているうちに、ダイアナ自身の意思とは無関係に
後継の問題が氏族間や近隣の国々でささやかれるようになってきた。
―ダイアナは、初春に開催されたギャザリングを思い返していた。
エドガーから議題の一つとして「後継問題」、ダイアナの迎え人の問題が上がった。
近隣の王国、付き合いのある商会からアステリアの後継問題が解決することを
求める書状がいくつか届いていることが報告された。
「私は、まだ元気だし、自分のことは自分で決めます」
と氏族長たち、ロバート、エドガー、トーマスの前で言ってはみたものの
その裏にある政治的な思惑が静かに動き出していることはダイアナにもわかっていた。
アステリアは小国ではあったが、独自の自治、文化、伝統を持ち
大国と言えど、決して支配できる国ではなかった。
ほかの国にとってもアステリアの頭領の「迎え人」はその後の外交にも影響を与える
大きな関心ごとだったのだ。




