第44話:彼岸花の記録と、白狐の百年の約束
泥まみれの戦犯事件の後、水力発電ダムを後にしたハルトの一行が、町の裏手にある手付かずの山頂へと続く山道に足を踏み入れると、空気は突然重く沈んだ。
漂う霧が小道全体を覆っていた。彼らの足元には、血のように真っ赤な彼岸花(曼珠沙華)が咲き乱れ、往生の彼岸へと導く赤い絨毯のように広がっていた。
いつもは軽口を叩いてつまみ食いをねだる太った猫のジビーも、今は大人しくハルトの肩に寄り添い、微かに鼻をすすっていた:
— 「ここの霊気の匂い……清らかだけど、すごく悲しいよ、オリン」
— 「ええ。雑念や邪悪な気配は微塵も感じられないわ」 — 木剣のアエリアの声も、土地神の神社にいた時のような荒々しさはなく、穏やかなものになっていた。
濃い霧を抜けると、赤い花の谷間にひっそりと佇む古い神社が現れた。木製の鳥居は朽ち果てて苔に覆われ、ひび割れた石灯籠が散乱していた。この場所は、人間と歳月によって一世紀近くも忘れ去られていたかのようだった。
荒れ果てた本殿の真ん中で、純白の着物を着た少女の姿をした者が、朽ちた木の床にひざまずいていた。彼女には雪のように白い狐の耳と、微かに揺れる3本のフサフサした尻尾があった。彼女の体は半透明になっており、後ろの彼岸花の花びらが透けて見えるほどだった。
震える細い腕の中には、小さな光の魂――安らかに眠る人間の子供の魂――がしっかりと抱きしめられていた。
サクッ!
見知らぬ足音に気づき、白狐の少女はビクッとして顔を上げた。琥珀色の瞳はパニックと警戒心に満ちていた。彼女は無理やり立ち上がり、3本の尻尾を広げて背後の光の魂を庇おうとし、弱々しくかすれた声で言った:
— 「陰陽師様……どうか……この子を連れて行かないでください……。この子は悪霊ではありません……どうか傷つけないで……」
ハルトは階段の5歩手前で足を止めた。彼は軽く手を挙げて、チームに軽率な行動を取らないよう合図した。
オルロの札ノートが自動的に宙に浮き、時の埃に覆われた記憶のページをめくった:
— 「報告:白狐 ―― 三尾の神獣。記録ファイル:100年前の戦乱の時代、彼女は猟師に重傷を負わされ瀕死の状態にあった。村の貧しい少年が唯一の焼き芋を彼女に与え、この神社で傷の手当てをした。その後まもなく、村は戦火で焼失し、少年は7歳の誕生日を迎える前に急病で命を落とした。その子供の魂はあまりにも純粋で弱々しく、戦時の荒れ狂う魂の嵐の中で、自力で三途の川を渡ることができなかったのだ」
オルロの声は一拍詰まり、そして続けた:
— 「この100年間、神社は忘れ去られ、村人からの線香一本、祈りの一つすら捧げられず、彼女の神力が補給されることはなかった。白狐は自らの『真の魂(真魂)』と『修練の力(修為)』を使って結界を張り、子供の魂が悪霊に食い殺されたり、虚無に消え去ったりしないよう養い守り続けた……。現在の状態:霊力の99%が枯渇。彼女は今夜、魂が砕け散り消滅(魂飛魄散)しようとしている」
空間全体が絶対的な静寂に包まれた。
白狐の体から、溶ける雪の結晶のように、微小な白い光の粒が空中に分離して漂い始めた。彼女は肉体を維持することさえできないほど疲弊しきっていたが、それでも両腕は小さな光の魂をしっかりと抱きしめ、透明な2筋の涙が頬を伝い落ちていた:
— 「私……約束したんです……。平和が戻り、彼岸花が咲いたら、この子を温かい家族の元へ、着るものも食べるものもある場所へ、転生(頭胎)させてあげると……。あともう少しなんです……お願いです、皆様方……この子を連れて行かないでください……」
木剣のアエリアはかすかに振動し、鉄の足枷のコールは黙り込み、猫のジビーはそっと顔を背けて目尻を拭った。
ハルトは長い間、静かに立っていた。彼は消えゆこうとしている狐の少女を見つめ、自分の守護者がこの世から永遠に消え去ろうとしていることを全く知らずに眠る子供を見つめていた。
ランクFのインターン生の、いつもの金にがめつく、ふざけた性格は、この瞬間完全に吹き飛んでいた。
ハルトはゆっくりと階段を上り、白狐の前に片膝をついた。彼は剣を抜くことも、封印の呪文を唱えることもなく、ただ優しく自分の白い羽織を脱ぎ、震える彼女の肩にそっと掛けた。
— 「よくやったよ。この100年間……本当に辛かったな」
白狐は目の前の若い陰陽師を呆然と見つめ、涙ぐんだ目を大きく見開いた。
ハルトは懐から偉大なる稲荷神の【封印の玉石】を取り出した。彼はためらうことなく自分の指先を噛み切り、燃え盛る血の護符を玉石の表面に描き、天界へ直通する階級を越えた緊急回線を起動した:
— 「オルロ!個人アカウントのシステムを開け!」
— 「ハルト……何をするつもりだ?」 — オルロが驚いて尋ねた。
— 「俺のポケットの3万カルマを全額引き出して、『純粋な霊気』に変換し、稲荷様の封印に直接注ぎ込む!俺が彼女の保証人になる!」
— 「狂ったの、オリン?!それはあんたが最初から死に物狂いで稼いだ全財産よ!」 — アエリアがショックを受けて叫んだ。
— 「金がなくなったら、また稼げばいい!」 — ハルトは咆哮し、その決意に満ちた瞳は炎のように燃えていた: — 「だが、自らの命を懸けて100年もの間、他者を守り抜いた魂は……生き延びて、『正神』として称えられるべきなんだ!」
ドカーーーン!
玉石から目が眩むほどの黄金の光が爆発し、荒れ果てた神社全体を包み込んだ! 3万カルマのエネルギーがハルトの血の護符と融合し、暗闇の夜を引き裂く天を突く光の柱へと変わった!
九天の雲の上で、深紅の神職の衣を纏った威厳ある姿――偉大なる稲荷神――が優しく微笑み、幻影を通して降臨した:
【調査官・土御門晴斗からの特別報告を受理】
対象:三尾の白狐。
累積の功徳:純粋な魂を100年間庇護した → 無量の功徳。
現場での勅命: 消滅のペナルティを解除し、真の魂を完全な状態に回復させる!4本目の真霊の尻尾を授け、四尾の狐神へと昇格させる!
調査官ハルトに100%のカルマを返還し、功徳のボーナスを付与:+20,000 カルマ!
(現在の総資産:79,500 カルマ)
優しく穏やかな光の雨が降り注いだ。白狐の体は稲荷の神力を吸収し、3本の尻尾が眩しく輝いて4本目の光り輝く尻尾が生え、傷は完全に癒えた。
彼女の手の中にある子供の光の魂は宙に浮き上がり、温かい光を放ちながら、平和な新しい転生の準備を整えた。彼女は胸を押さえて光の魂を見上げ、そしてハルトの前に平伏し、幸福の涙を赤い花の絨毯の上にこぼした:
— 「感謝いたします、大人様……私たちの命を救っていただき、本当にありがとうございます……」
夜風が彼岸花の森を吹き抜け、赤い花びらを星空いっぱいに舞い上がらせ、信じられないほど幻想的で平和な景色を描き出していた……




