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~さようならロン、またあう日まで~ (中学校編)  作者: 湖灯


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   ~ガブリエルのオーボエ1~

 体育祭が終わってから三年生は引退した。

 色々あったけど、二年間ともに過ごした日々は、どれも済んでみれば楽しくて思い出深い日々だったので寂しかった。


 ところが三年生が引退した思い出にふける余裕もなく、私には吹奏楽部副部長というたいへんな役が回ってきてしまった。

 たいへんなのは副部長という役だけではなく、そのうえにいる部長が完全主義者のあの江角くんだということ。

 過去に彼は一年生で二人だけが大会メンバーに選ばれたうちの一人で、もう一人の福田さんが早朝練習に参加していないことをとがめて泣かせただけでなく、同じように早朝練習に参加していなかった当時の二年生にも苦言を呈していた。


 さらに、これは毎度のことなのだけど、気の抜けた演奏や繰り返し同じ失敗が出るたびに舌打ちをしたり、トロンボーンでわざと変な音を出したりするという悪行も。

 私に対しては伊藤くんと仲が良いこともあって肯定的な立場をとってくれているとは思うけど、入学式後に行われた先輩たちの部活紹介で当時の春日部長が相模原支部大会で二年連続銀賞だと言ったときに私が「銀メダル」だと勘違いして感動した横で「金賞が三校選ばれて県大会に行くから銀賞は二位ではない」と言ったあと「そんなことも知らないのか」と言った。


 部活見学のときに、さっそく私が入部届を書いて希望楽器の欄にオーボエと書いたのをわざわざ覗き見た。

 そのとき江角くんから「経験者なのか?」と聞かれたので、私が「未経験です」と答えると「なんだ、話にならねえな」って言われたことは今でも覚えている。


 たしかに江角くんはトロンボーンの演奏は一年生として入部したときから部内でいちばん上手だったし、音楽に関する知識も豊富なのはよくわかる。

 しかも容姿もいいし、成績は常にトップスリー以内という秀才で江角くんの性格を知らない女子からはとても人気が高い。


 でも私にとって江角くんの容姿とか成績とかはまったく興味がない。

 好みのタイプが違うとかという問題ではなく、それ以前に私は私自身のことで手いっぱいで、人のことをどうのこうのと言える余裕なんてないのが本音。

 なのに、副部長だなんて、務まるのか心配だった。


 さっそくやってきた仕事は、十一月下旬に行われる『さがみっ子文化祭』で何を演奏するのかというお題。

 顧問の持田先生の意向と、部長・副部長として部員の状況を踏まえて、まずは今の私たちにとっていちばんふさわしいと思える曲の候補を探す。


 去年はバレエ音楽『白鳥の湖』から4曲を抜粋して演奏したけど、今年は違う曲を二曲か三曲やることにした。 ラファエル・エルナンデスの『エル・クンバンチェロ』

 部員の中からは映画『スターウォーズ』のメインテーマをやりたいという意見も出たが、三年生が抜けたこの小編成で今の我々の技量であのダイナミックな演奏はできない。


 結局決まったのは

 一曲目に、ハチャトウリアンの組曲「ガイーヌ」剣の舞。

 二曲目には、アメリカン・グラフィティXXⅡ「遥かなる西部によせて」の二曲を演奏することに決めた。


 そしてもし今年もアンコールがもらえるようなことがあったなら、そのときはモリコーネの「ガブリエルのオーボエ」を演奏する。

 この曲であればパーカッションなしの、ごく小編成でも演奏できるので手間のかかる大きな機材を片付けながら、ひとりひとり退席しつつ最後はひとりで終わらせる演出もできる。

 と、これは、江角くんのアイディア。

 なるほど、音楽に詳しいだけあって、さすがの演出。


 ガブリエルのオーボエは、その名の通りオーボエのための曲ではあるけれど、さまざまな楽団や個人によってクラリネット、フルート、トランペットにトロンボーンといったバージョンも試されている。

 私が聴いた中では、音量のあるトランペットやトロンボーン、サックスのソロは魅力的だったので賛成した。


 おそらく曲の締めは伊藤くんのトランペットか、江角くんのトロンボーン。

 個人的に伊藤くんが平常心で演奏できればトランペットのほうが会場の隅々まで音を届けるのに長けているし、伊藤くんは特に高音域が上手なのでラストには向いていると思った。

 でも伊藤くんのソロは、やっぱり少し不安だから、江角くんのトロンボーンになるのだろうと思っていた。


 ところがいざ練習が始まる前に譜面を渡されたときに、譜面を見て驚いた。

 オープニングは曲のタイトル通り私のオーボエで始まり、そこから他のソロと次々にリレーしていきソロを終えたメンバーが退席していく演出だったのだが、私の譜面にはその間ずっと休符が並んでいた。

 楽譜をめくると、なんと最後には私一人が舞台に残されて、フィナーレを飾ることになっていた。


 私がそのことに気がついて慌てている様子を見た吹奏楽の仲間たちが、急に一斉に「副部長!ガンバ!!」と声援を送ってくれた。


 “えーっ! みんな知っていたの~~~!?”

 そう、知らなかったのは、どうやら私だけだったみたい……。

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