~ロンの病気1~
体育祭も過ぎて十月になり、ようやく秋らしく涼しさを感じられるようになってきたある日、いつものように散歩していたときロンが空き地に入ろうとした。
空き地には、私の膝くらいある草がぼうぼうに生えていた。
「危ないから、戻ろうよ」
私が引き止めるのも聞こえない素振りで空き地の奥にぐんぐん入っていくロン。
実は私もロンが何に興味をひかれているのか気になって、言葉とは裏腹にさほど力強く引き止めてはいない。
奥まで行くとロンは止まってクンクンと臭いをかいでいた。
見るとそこには女性用のスキー板が捨てられてあった。
捨てられてまだ新しそうな板だった。
なんでスキー板に興味をひかれたのかと不思議に思ったけど、すぐに何となく分かった気がした。
今、目の前に捨てられているものではないけれど、女性用のスキー板で連想できるのは美樹さんだ。
きっと美樹さんの使っていた板と同じワックスの臭いがするのだろう。
それにしても美樹さんがいなくなってもう半年もたつのに忘れていないなんて賢いし、情がふかい。
私はロンの気の済むまで、そこで付き添ってあげた。
次の日散歩に出るとロンは下痢をした。
ロンをわが家で飼い始めて四年になるけれど、下痢をするのは初めてだった。
一応ウェットティッシュで何回も拭き取って、ペットボトルに入れた水をながしてから消臭スプレーをかけたけど、きっと誰かが見ていたなら嫌な気をされるんだろうなと恐縮しながらもテキパキと処理をして帰った。
散歩のあとは、いつも通り体を拭いてやりブラッシングして、それからご飯。
いつも大喜びで食べるのに今日はお腹を壊しているからか食べようとしない。
頭を下げたまま伏せをする、いわゆる“つまんないポーズ”をしているロン。
体調の悪いときはゆっくり食べればいいと思っていたら、夜の10時ごろにようやく食べてくれた。
でもそのあと、しばらくすると吐いてしまった。
下痢をしたのも初めてなのに、それとあわせて吐いてしまうなんて、ただの体調不良では済ませられないと思った。
兄に頼んで獣医さんのところに電話してもらうとすぐに連れて来るように言ってもらえたので、兄の車にロンを乗せて急いで向かった。
車の中で膝に乗せたロンの頭をさすりながら、美樹さんのことを考えていた。
何が原因かまだ分からないけれど、ロンにもしも何かあったら私たちを見て留学を決意した美樹さんに申し訳が立たない。
ロンまで遠くにいかすわけにはいかない。
病院に着くと、高校生らしい男子が出てきて診察室の扉を開けてくれた。
この男の子の勉強を兄がみていることは分かったけど、挨拶をする心の余裕などあるはずもなかった。
先生とお父さんの手で抱えられたロンは診察台に乗せられると、女の先生がすぐに血液を採取していった。
先生はロンの目や歯ぐきを診たあとおなかを押さえて触診をしながら、私たち家族に問診をした。
「何か変わったものを食べましたか?たとえばネギ類や球根類、ココアやチョコレート製品など」
お父さんとお母さんと私はおたがいに顔を見合わせたあと「いいえ」と答える。
それらは、ロンが我が家に来たときに兄が作った”あたえてはいけない食べもの”リストに載っていたものだから間違いなく与えてはいない。
「家で殺虫剤や除草剤など使いましたか?」
これも私たちは使っていなかったので「いいえ」と答える。
「散歩のときに何か口に入れましたか?」
「いいえ」新聞やニュースで農薬つきの竹輪を食べた犬や猫の話が出るたびに、家族でロンが拾い食いしないように注意しないといけないことは話し合っていた。
「散歩で変な場所に行ったりしましたか?」
私が夕方の散歩に出てすぐ下痢をしたことを言うと、朝は?と聞かれ、朝の散歩に連れて行った兄がいつものコースを普通に散歩していたと伝えた。
「昨日は?」
昨日も普通に散歩して帰って、ふだんどおり晩ごはんを食べていたと話した。
先生は首をひねって考えていた。




