~パレードとロン~
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『~さようならロン、またあう日まで~ (中学校編)』開始しました!
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月曜日からは来週にせまった横浜開港祭で披露する鼓笛隊の練習をした。
本当はゴールデンウィークの、よこはまパレードで行うはずだったのが雨で中止になり、いつもならこれで終わりになるはずだったのが横浜開港祭で行うことになった。
鼓笛隊の練習が終わってから、家でリードの練習を繰り返した。
演奏だけなら何ともないけれど、歩きながら演奏するのは疲れる。
4月におこなわれた桜パレードのときは、まだ少し寒かったから何とも思わなかったけれど、この5月のふりそそぐ太陽の日差しは真夏のように暑くて体力をうばう。
家に帰ったときは、もうくたくた。
それでもロンといっしょにリードの練習をすると、ロンがよろこんでくれるのがうれしくて疲れていたことなんて忘れてしまう。
いつの間にか夕方になり、兄とロンの散歩に行き、お風呂に入って夕食の時間。
私は急ぐように夕食を食べ終わると、またロンのところに行ってリードの練習をした。
ロンは昨日とおなじように、私のがんばりをその笑顔で応援してくれた。
大会の朝、日が出るよりも早くおきて兄といっしょにロンの散歩に行き、それからロンのお散歩後のケアを行い、朝食を食べて学校まで送ってもらった。
お母さんは朝から忙しいのだからロンのケアはしなくていいと言ってくれたけど、私は断った。
ロンはいつも私のことを応援してくれるのだから、私もロンのために何かをするのは当然のこと。
その当然のなかに、義務とか面倒とか忙しいから手を抜くとかの感情が入ってはいけない。
家を出るときにロンに「行ってくるね!」と挨拶をすると、ロンは「がんばれ!」とでも言うように元気よく「ワン!」と声を掛けてくれた。
集合場所の学校につくと、もう何人か来ていた。
楽器はもうバスに積んだらしく、てもちぶさたになったドラム担当の甲本くんがスティックでその辺にあるものを叩いていた。
いつも学校に来るときはよく遅刻してきて先生に怒られている甲本くんは、なぜか鼓笛の練習には遅れずに来るのをふしぎに感じて見ていると「おはよう!」と美緒ちゃんが来て私の肩を叩いた。
美緒ちゃんは同じリコーダーの担当。
「おはよう!がんばろうね!」
「うん。がんばろう!」
美緒ちゃんとエールを交わしているときに、突然「プー♯」と音程の外れたトランペットの音がした。
伊藤くんだ。
伊藤くんはトランペットの担当で、私と同じ6年生なのに、おせじにも上手いとは言えない。
そして伊藤くん本人に下手という自覚はなく、もともと自信家でお調子者だからトランペットを演奏するときも勢いだけは誰にも負けていない。
だから伊藤くんひとりがミスしただけで、すごく目立ってしまう。
「今日も今日とて、第一声から外しちゃったね」
美緒が私にそう言って笑った。
会場に着くともうたくさんの人たちがいた。
埠頭沿いに500m演奏して歩くだけ。
でもあいにくの雨で練習してきたことを見せられなくなった私たちにとっては、とてもうれしかった。
よこはまパレードでは沿道の両側に観客が大勢いるので応援するために見に来てくれた家族を見つけるのが難しいけど、今回は海側には人もいないし開催の告知も文字だけで、しかも有名人の特別参加もなかったので沿道はあまり混雑していなかった。
私たちの順番になり行進が始まる。
列はバトン隊ポンポン隊を先頭にトロンボーン、トランペット、ホルンの高学年による管楽器隊が続き、その後ろにドラム隊、低学年の鍵盤ハーモニカ隊、中高学年のソプラノリコーダーと高学年のアルトリコーダー隊が続き最後尾にフラグ隊がつく。
美緒ちゃんと私は楽器の最後尾で一番数の少ないアルトリコーダー隊。
前はほぼ低学年が占めるので最後尾といっても、見通しはいい。
ドラム隊の甲本くんがいいリズムを叩き、隊のメンバーをよく引っ張っていた。
勉強が苦手で素行もすこし悪い甲本くんは、ことこのドラムになるとガラッと人が変わったようにまじめ。
練習でも上手にみんなをまとめ、指導もうまい。
甲本くんと対照的なのが、伊藤くん。
成績はわりといいほうで性格も明るくて女子にも人気があるけれど、すこしお調子に乗りやすいくせは今も健在で、はりきっているのはわかるけど時々列の前のほうで甲高い外れた音を響かせていた。
美緒ちゃんと私は、そんな伊藤くんの音を聴いては、目でお互いに笑っていた。
沿道にいるはずの家族を探しながら列を進んでいると、背の低い茶色の人を見つけた。
ロンだ!
ロンが来てくれたことに驚いたし、とてもうれしかった。
ロンはもう私に気がついて、あの独特の笑顔を向けてくれている。
その大きくて真ん丸な目は、決してよそ見もしないで、たくさんいる鼓笛隊の中の私だけを見ていた。
ああ、なんという幸せだろう。
一週間前に出会ったばかりだというのに、こんなに好きになってくれるなんて。
「ワン!」
ちょうどロンの横を通り過ぎるとき、ロンが私にエールを送ってくれた。
そして私のほうに来ようとして少し暴れたが、兄はリードをしっかり持っていて微動だにしなかった。
もしお母さんがリードを持っていてくれたら、ロンは離れたかもしれない。
そしてロンは私のとなりに並んで、いっしょに行進する。
そんなことが起きたら、どんなにか素晴らしいのに。




