~卒部会と卒業式2(卒業ソングとキャッチコピー)~
卒業式の入場曲はエルガーの「威風堂々」に加え、三年生が二年生のときの大会で自由曲として演奏した「マーチ・シャイニング・ロード」を追加した。
また退場時の曲には「蛍の光」「仰げば尊し」の他に「旅立ちの日に」と「手紙」を追加した。
各々のキャッチコピーは、本人の承諾と、持田先生たちの確認のうえで決められた。
伊藤くんは「陽気なムードメーカー、トランペットの技術師」
甲本くんは「寡黙なドラムクラッシャー、パーカッション職人」
美緒は「小鳥のような目覚ましクラリネット」
桃子は「桃源郷をわたるフルートの音色、春の妖精」
そして私は「情景の魔女、オーボエの感動屋」と、すこしだけ抵抗があったが、伊藤くんがどうしてもこれで了承してくれ!って頼むものだから了承してあげた。
彼的にはどうしても「感動屋」の三文字を離したくなかったらしいが、それもそうだけど「魔女」もすこしは言い方を考えてほしかった。
どうせ持田先生が却下するだろうと思っていたら、そのまま通ってしまった。
二月最後の金曜日に卒部会が行われた。
私たちはお昼休憩の時間を練習ではなく、調理に使った。
もちろん男子も。
とはいっても男子は洗いものやゴミの係をしてもらっただけだったけど、一、二年生総出で行った甲斐があって短時間で調理は終わり、会が始まるまで職員室の冷蔵庫などであずかってもらった。
サンドイッチを運んでいる私に、伊藤くんが近づいてきて「鮎沢が作ったのは、どれ?」と聞いてきたので緑色のピックが刺してあるものだと素直に答えたあと、どうしたのかと聞くと伊藤くんは「俺はお腹が弱いからだ」と答えた。
私が心配して、保健室に行ってお腹の薬をもらってこようかと聞いたとき、早苗が「伊藤!失礼だぞ!」と怒り、伊藤くんはあわてて逃げて行った。
そこでようやく私も、伊藤くんにからかわれたのだと気がついた。
六時間目が終わると女子は職員室へ、男子は音楽室へと向かい準備に取りかかった。
クッキーなどのお菓子やジュースは登校時に先生に預かってもらっていて、それと一緒にお昼に作ったサンドイッチを運んだ。
音楽室に到着すると、もう会場はできていて、理科室で待機してもらっていた三年生を二年の陽子先輩が呼びに行った。
まず在校生が三年生に曲とメッセージと先輩たちに記念のキャッチフレーズを送り、それに対して三年生も曲とメッセージを送り、あとはいっしょに食事をした。
ジュースを配っていると、伊藤くんと甲本くんと江角くんが同じテーブルにいて、そこにあるサンドイッチを見ると緑色のピックが刺してあることに気がついた。
“あれっ!?”と思った私の表情に気づいた伊藤くんが「だから俺は、おなかが弱いって言ったじゃねえか」と、すこし不貞腐れて言った。
“あー、なるほど!”
悪い意味ではなくて、いい意味で私の作ったサンドイッチを選んでくれたのだと思ってうれしかった。
夕焼けの帰り道、美緒と二人で三年生がいなくなってしまうことが寂しいと話しているとき、なぜか伊藤くんと甲本くんはいつもよりうれしそうにしているのが不思議だった。
そして私たちは卒業式までの二週間余り、休みなしで曲の練習をして本番でミスなく演奏をして無事に三年生を送り出すことができた。
「あっという間だったよね、一年」
「そうだよね。なんだか小学生のときよりも短く感じるね」
「なに言ってるんだ、まだあと二週間もあるんだぜ」
「あと二週間か……」
残りの二週間が過ぎて四月になれば私たちも二年生になり、先輩と呼ばれる。
「ちゃんと先輩として頼られる人にならなくちゃね」
「ああ、千春たちなら出来るさ。それに俺たちも。なっ」
伊藤くんが甲本くんに話を振ると、甲本くんも「ああ」と、うなづいた。
私はぜんぜん気がつかなかったけれど、二人のかばんには、糸で結ばれたプラスチック製の緑色のピックがゆらゆらと揺れていた。
そのとき私はぜんぜん気がつかなかったけれど、二人のかばんには糸で結ばれた緑色の爪楊枝がゆらゆらと揺れていた。




