~ロンと千春のはじまり1~
みなさま、おはようございます(^▽^)/
本日より『~さようならロン、またあう日まで~ (中学校編)』開始いたします。
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新緑の木々の葉が勢いを増してきた日の光にいきいきと輝き、まだ寒かったころの色をのこした爽やかな風に揺れ、鳥たちが思い思いのメロディーを奏でる五月の晴れた休日。
この日に生まれてきて、ほんとうによかったと窓の外をながめながら私は鼓笛隊で吹くリコーダーの練習をしていた。
私の名前は鮎沢千春。
来週で12歳になる小学六年生。
「千春~」
1階にいるお母さんに呼ばれて、リコーダーを吹きながら階段を降りて台所に向かった。
「まあっ。リコーダーを吹きながら階段を降りたりしてはだめよ」
「鼓笛隊は、ずうっと歩きながら演奏するから、階段なんてなんでもないわ」
「でも、まんがいち階段から落ちてけがをしたらどうするの? そうなったら千春が出られなくなって先生やお友だちにも迷惑をかけてしまうのよ」
「はーい」
お母さんに言われて私が悪かったと思った。
けがをするのは痛いからいやだし、それよりもみんなに迷惑をかけてしまうのはもっといやだった。
ふとダイニングテーブルの上に、小さいけれど品のいい、かばんが置いてあることに気がついた。
大きさは習字の道具入れほどだけど、厚みがあった。
きっと私の誕生日プレゼントだと思ったけれど、習字の道具入れだったらいやだなと思った。
習字は苦手。
それに品はいいけれど、そのかばんには新品のもつ輝きはなかった。
おさがりの習字道具?
でもお母さんは、私のいやがるようなことはしないから違うはず。
水彩の道具かな?
だったら嬉しいけれど、そのかばんには絵を描くという華やかさはなく、どちらかというとやはり習字のようなどこか落ち着きのある古典的なものを感じた。
「お母さん、これなに? 私への誕生日プレゼントでしょう?」
お母さんはにこにこと笑いながら「そうよ」と答えて、お誕生日会までのお楽しみだと答えて私にイチゴをふたつぶくれた。
きっとケーキのデコレーションで、あまったイチゴだ。
そしてケーキはあの冷蔵庫の中に、かくされている。
ぱくっとイチゴを食べたあと、お母さんは私に「どう?」と聞いた。
私は両手をほっぺに当てて「あまぁ~い♬」と言った。
けっきょく、お母さんが私を呼んだのは、このイチゴをくれるということだった。
私のお誕生日の料理を作るのに忙しいお母さんは、たった2つぶのあまったイチゴを私にくれるためだけに私を呼んでくれたのだ。
「ありがとう、お母さん」
「どういたしまして」
ちょうどイチゴを食べおわり、2階に戻ろうとしたときにお父さんの車が帰ってきた。
いつも家庭教師をしている生徒さんの家まで自転車で行く兄は、なぜか今日だけお父さんに送り迎えをしてもらって帰ってきたのだ。
自転車、壊れたのかな?
いそいで玄関に駆けて行き、ドアを開けて外に出ると、兄が車の後部座席から降りてくるところだった。
ほかに誰かいるのかな?
ひょっとして兄の彼女さん!?
そう思って近づくと、兄のあとから降りてきたのは大きな耳がピンとたった犬だった。
コリー?
いや、コリーは耳の先がすこし折れている。
シェルティー?
しかしシェルティーにしては、ずいぶん大きいし、この犬はもっとスマートだった。
降りてきた犬は、まっすぐに私を見つめて、その長い尻尾をパタパタと振り回してよろこんでくれていた。
私も嬉しい!
兄の家庭教師先が獣医さんの家だと知ったときに、兄に犬をもらってきて欲しいと言ったことがある。
そして犬を飼うことは、私の夢だった。
まさか誕生日に私の家にこんなに可愛くて立派な犬が来てくれるなんて思ってもいなかった。
うれしさで、涙でかすむ目を大きく見開いてその犬に近付くと、兄が手に持ったリードはなして犬も私に近付いて来てくれた。
あらんかぎりの勢いで尻尾を振るものだから、腰も大きく左右にゆれていた。
あなたがよろこんでくれて、私もとってもうれしいわ。
私は顔を同じ高さになるように腰を下ろし、その犬の頬を両手で支えて「私は千春よ、ようこそ鮎沢家に!」と、あいさつをすると犬は私の顔をペロペロ舐めだした。
「可愛い!」
おもいきり犬に抱き着くと、犬の方も私の肩に前足を掛けて体重をあずけてくれた。
12年生きてきて、いちばん幸せかも。
私の気持ちが通じたのか、犬の舐め方も激しくなりもっと私に近付こうとしてくる。
あんまり激しく舐められて、息をするひまもない。
犬がよろこんで、ぴょんぴょんと跳ねるものだから、腰を下ろしていた私はバランスを崩してそのまま仰向けに転ぶと、犬のくせに私の上に馬乗りになってきた。
足をバタバタさせている私に、お父さんもお母さんも兄も最初は笑っていたが、声も出せないでいる私に気がついて犬を引きはがしてくれた。
あ~……窒息するかと思ったぁ~。




