第四十四話
軍議は続く。
「ここまでの戦い方をまとめます。戦い方は序盤は籠城戦にて優位な立場を維持し、敵の裏切りを誘発させる。そして、きっかけを得たところで、大御所・将軍を倒す為に出陣する、といったところです」
「その、我等が攻勢に出るきっかけは何だと考えているのか?」
「関ヶ原でも使った様に徳川は必ず大砲を使って来るでしょう。特に城内への力づくでの侵入を試みた一次・二次攻撃の後は一層盛んに撃つでしょう。その対策として、敵の砲弾の一部をすり替えたいと思います」
「なんだ、着弾しても爆発しない様にでもするのか?」
「いえ、逆に暴発させようと思っております。そうすれば、徳川に多大な被害が発生しますし、二度と大砲を使えなくなります。攻防共に利のある策ですし、それを機に出陣すべきと考えております」
「暴発なんて事が出来るのか?」
「・・・出来ます。真田には爆発物に詳しい人材がおりますので、その者に任せようと思います。『絶対に暴発しない砲弾』を作るのは困難ですが、『暴発する砲弾』の精度を高める事は十分に可能です」
「それならば、敵の大砲は一発目で使用不能となるのか・・・」
「それについては、どうすべきなのか迷っております。初弾において暴発させれば、これが我々の策略である事が露呈し、全ての大砲を撃つのをやめるかもしれません。つまり、敵の損耗は少ないですが、こちらへの攻撃を最小に抑えられます。次に、何発目かは決めておりませんが、何発か撃った後で暴発させる、これならば敵は砲弾の品質の問題と考えて、他の大砲での砲撃を継続するかもしれません。つまり、敵の損耗をより大きく出来るかもしれません。・・・以上、二案ありますが、それぞれ一長一短あります。どちらがいいと思われますか?皆さんの意見を伺いたい、と思います」
「我等が籠城戦を選んだのは、あくまでも主君である秀頼公のお命を第一と考えた為。ならば、どちらがいいのかは、自ずと判断出来よう」
「そうですね。わかりました。・・・ならば砲弾は初弾で暴発させることに致しましょう」
僕の当初の考えでは、大砲は何発か撃たせてから、暴発させるつもりだった。暴発を契機に大御所・将軍の陣に雪崩れ込む事を考えていたが、初弾となるとそうも行かない。何を契機に出陣するかは新たに考えなければならない。同時にほっとしていた部分もある。相手の被害を大きくするには常に陣の中に大砲がある状態にする必要があり、しつこくちょっかいをかけなければならない、と考えていた。それをしなくてすむ、という事は真田兵の戦死者を減らせられるという事である。ちょっと心は軽くなった。
「それでは、次に我等が攻勢反転に出る時機についてですが、何か考えのある方はございませんか?」
「そなたに何等かの案は無いのか?」
「はい、実を申しますと、大砲の暴発により敵が混乱した時を狙っての出陣を考えておりました。籠城戦での我等の奮戦、外様大名の離反の動きといった徳川にとって想定外の流れの後の暴発事故で混乱した隙を狙おう、という考えです。しかし、初弾で暴発事故が起きるとなると、我等は迫って来る敵兵の銃撃に専念している頃です。銃撃を止めて出陣するにも時間がかかりますし、防御を手薄にする訳にもいきません。それに何回かは勝って見せないと各藩も裏切ったりはしないでしょう。ですから、新たな攻撃の起点となるものが欲しいのです」
英以江さんが突飛な事を言い出した。
「・・大砲だ、敵の大砲を奪って一発撃てばいいじゃないか?」
「しかし、使用可能な大砲を使おうとすると初弾で暴発しますよ。そんな事をすれば味方にも多くの犠牲が出ます」
「御前は暴発する砲弾にすり替える為に、全ての大砲について調べるんだろ?だったら持って行きゃいいんだよ。暴発しない砲弾を!」
正に盲点だった。確かに大砲の口径等の情報を得ているのなら、安全な砲弾を準備する事は容易だろう。
「感服致しました。確かに仰られる策が尤もだと思います。では、こういう事でいいでしょうか?狙うのは大御所ではなく幕府軍とします。まずは、父上、真田信繁が三千の兵を率いて将軍を挑発します。その行動で将軍を激昂させ、幕府軍の騎馬兵の多くを陣の外へとおびき出してもらいます。手薄になった幕府軍を別動隊が攻撃します。別動隊は将軍を目指すと見せかけて、大砲を奪取します。大砲を奪取したら、大砲の向き・角度を変更して大御所の陣に向けて発射します。発射を合図に大阪城より本隊が出撃します。なお、大砲につきましては、味方が到着するまで撃ち続けます。これにより、外様大名達が幕府に対して叛旗を翻すでしょう。相手は大御所ですから混乱しつつも体勢を整えようとしますので、それを押し潰し戦力を削って行って下さい。側背から別動隊が大御所の首を取ります。大御所を倒したら、とにかく『大御所を打ち取った』事を触れ回って下さい。混乱の極みになった幕府軍の戦力を削り、別動隊が将軍の首を取る。こういった流れになります。勿論、戦ですからこちらの思惑通りに推移するとは限りませんが、何か突発事態が発生してもこの流れに戻せる様に努めたいと思います。以上で説明は終わりたいのですが、何か物申したい事がありましたら、お聞き致しますが・・・」
誰も意見を言わなかったので、本日の軍議はこれにて修了となり、ぞろぞろと退室していった。
残ったのは、僕と秀頼夫妻と英以江さんの四人であった。
僕は英以江さんに礼を言った。実際、敵の大砲を奪うという意見がなかったら、本日の軍議がうまくおさまったかどうか、僕には自信は無い。
「英以江さん、先程は有難うございます」
「いや、別に御礼を言われる程の事では無い。どうせ、籠城戦に突っ込むんだ。それ迄はせいぜいいい夢を見せてやろう、と思ってな」
「やはり、無理がありますかね」
「無論、こんな風に上手く行くとは思っていない。それだったら誰でも百戦百勝だ。石田光成でも、太閤殿下でも間違える時には間違うんだ。徳川が今天下を取っているのは、大事な戦での間違いが少なかっただけだ」
「わかりました。僕も間違わない様に注意します」
「期待してるぜ、軍師殿」
あなたも僕と同じ軍師じゃないか、と言いたかったがやめておいた。
秀頼夫妻は何も言わなかった。
千姫は何を考えているのだろう?




