町の女神
115話 町の女神
オレは像だったエスタのように彼女抱いて寝た。彼女は女としての本能というか欲望みたいなモノもなくオレに抱かれたままスヤスヤと小さな寝息をたて寝てしまった。
こんな幼児のようなエスタにナニが出来る。
なんだか眠れないでいるうちに朝になった。
部屋を出たらドアの横でグッピーが寝ていた。
気をつかわしてしまった。
裏庭に行くと、ティアーナがアニタと朝練。
早いな、こいつら夜明けと同時にでも、してるのか?
「あ、ロラン。オハヨー! エスタ、見なかった? 朝起きたらベッドに居なかった」
「散歩でも行ったんじゃないか」
オレのベッドに寝てるなんてアニタには言えん。それ以上にルルにも。
「あら、ロラン。おはよう。今日は早いのね」
「お、おまえもなルル」
「あら、あたしはいつもこのくらいよ。エスタは? 一緒じやないのアニタ」
「散歩じゃないかってロランが」
「散歩ねぇ。そんなコトする子だったかしら……」
「ロランのとこじゃないの」
「違う! なら、今ココにべったりついてる」
「そうね。昼間はいつも……。ドコへ行ったのかしら」
「カスタがいないから一緒じゃない?」
「そうね、なんだかエスタに、なついてるわよねぇあのメガネザル」
宿の食事場。
「メラルダ、女神の神殿までどれくらいあるんだ」
「あたしもね、こっちに居たのは子供の頃だから、そんなに詳しくは」
「それよりメラルダのお母さんのとこに。そっちが優先よロラン」
「メラルダの母親は今ドコに?」
「多分、カーマ様のお屋敷に。トリス・カーマという富豪のお屋敷で仕事をしてると思うわ」
「子供の頃に西方の伯母を頼ったって……なんだかいろいろあったようだな」
「母、お屋敷でメイドをしてる時にあたしを産んだ。誰の子だかわからないあたしを……」
「そのお屋敷はドコに?」
「ここからまる一日ほど行った。子供の足でだから、もっと近いわ。ターツローという町よ」
「お客さんたち、ターツローへ行くのかね」
「ああ、そのつもりだ」
「良い時に来た。反対側の辺境から来た女神信教の一団が建てた神殿の祭りがあるんだよ。明日からだにぎやかになるぞ。わしも行きたいが宿があるからの」
「反対側の辺境に女神」
「ああ、あそこには大きな女神像が有って山から町を見下ろしてると聞いた。わしは見たことないがな」
「山の上からか、港の女神とはまた違うのか。おもしろいな。が、先に行くかメラルダの母親の居るターツローへ」
ターツローへ続く街道。
「子供の足でまる一日か、俺らなら早ければ半日。俺が本気出せば一時だ」
「なら、先に行って宿を。祭りがあるなら泊まるとこなくなるかもしれない」
「なるほど、大勢だからな街角でごろ寝は出来ねーしな。いいよ、気をつけてな!」
「あ、グッピー。ドコヘ?」
「先に町へ行って宿を」
「お祭りがあるんだものね」
「祭りと言ってもいろいろある。私が見たのはサルの頭を生け贄にするのがあった」
「リンダ、ソレどこで、見たの?」
「何処だったかなぁ〜西方の何処かの国だった。忘れた」
「ソレ、お祭りなの? なんかの儀式じゃないの」
「儀式や祭りじゃないが、サルの頭を切って脳みそを食べるのを見た」
「ティアーナは食べたの?」
「毒の有る物以外はだいたい食べた。珍味だが、歯応えがないものは口にあわない。やはり肉がイイ」
「ティアーナらしいな。オレも肉は好きだ」
「ロラン、エスタより肉好き?」
「あ、その好きとまた違う好きだ」
「? ……」
少しずつだが、覚えた言葉で会話が出来てきたエスタ。
なんか視線を感じる。ミシェールか。なんだ? 相変わらず無表情で何考えてるかわからない。が、オレを見てるのは、わかる。
くだらない話をしてると時がたつのは早い。
「町だ。アレがターツローだ!」
町の真ん中に広場が有り、その中央に台に乗った女神像が。
コレはペンダントとのマコーナ像と同じ姿。ひろげた羽根。祈る手、コレはマコーナかも。
「あなたたちは旅のお方ですか?」
女神像のような服で羽根を背負った女が西方の言葉で声をかけてきた。
辺境の村ではまだ言葉が西方語でも通じたが、こっちに来るとわからないと宿のオヤジが。
「ええ、そうよ女神祭を見に来たの」
馬車上からリンダがこたえた。
「西方のお方ですよね。祭りが西方にも伝わっているのですか」
「いや、辺境の宿で聞いたんだ」
「そうですか。私は女神殿の巫女です。この御札を付けて祭りに参加してください」
「この女神像は、コレと似てるけど、同じ女神か」
「ソレは?」
「北方の神殿で手に入れた女神だ」
と、例の若きマコーナのペンダントを見せた。
「それは、この像を真似て造った物では? この像は総本山の大女神像を模写して造られました」
ありがちなこたえだ。信者は自分のとこがオリジナルだと思ってる。
さて、どちらの方が古い物なのか。
「じゃコレはへガルダなんだ」
「ハイ、へガルダ様です」
で、オレとリンダでメラルダの母親が働くという屋敷に。
「夕飯前までにココに集合な」
馬車には、ラン馬を付けたまま。屋敷へ向かった。
「あたしの記憶では……そこを曲がって。かあさん、あたしとわかるかなぁ」
道をしばらく行くと大きな屋敷が。アレか。
門の前に小さな小屋が。小屋は小さなもんだが人、ひとり入るだけの大きさだ。中に門番だろう老人が一人。
『なんだね?』
やはりここでは、言葉が違う。
『ここ、カーマ様のお屋敷だよね』
『そうだが。なんのようだね、あんたみたいな娘っ子が』
『ここでセルマ・クンという人が働いているはずなんだけど』
『セルマ……ここには女中は多いからな……待て』
老人は小屋から出て鐘を鳴らした。
屋敷の庭の方から女が来た。泥だらけの服に顔も泥だらけだ。何かの作業をしていたのだろう。
『なんですか?』
『あんた、セルマという女中を知ってるか? なんだっけ?』
『セルマ・クンです』
『セルマ・クンだ。知ってるか?』
『それは私ですけど』
つづく




