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記憶の道  作者: 桐霧舞
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石の使い道



『賢者の石』

 ファンタジーやSFの世界で時折耳にする物。実際、科学の分野でも辰砂と言う鉱石がそう呼ばれていたりもするのだが、作品の媒体毎に設定が違う様に、この世界で言われている賢者の石もまた特別なモノを指している。

「まさか、賢者の石の材料が・・・」

「だが、実在するのか?・・・いや、居たとしてもだ。」

「私はいくつかは見た事があります。あと、何人かも・・・。」

 響也の話した『賢者の石』の材料。その内容に絶句し、響也と同じ様な絶望に近い表情をしながら定まらない視線のまま各々が辺りを狼狽えながら立ったり座ったりを繰り返していた。

「先に言っておく。俺は犠牲を出してまで戻ろうとは思わない。」

 響也の言葉に動き回っていた各々は一瞬動きを止めると同意する意見の言葉だけを言い、再び落ち着きのない動きを始める。聞いた内容が内容なだけに響也が要らないと言った所で『過去にその工程から製造を行った事があるのか』と言う考えが過り数分経ったところで動揺は揺るがない。その長く不快感をも覚える状態を解決したのは案の定と言うべきなのか、いつもの音であった。

「お腹空きました・・・。」

 緊張感の糸が切れた一行は大笑いすると何事も無かったかの様に近くに転がる石で竈を作成する。この先どうするかよりも今目の前で腹を空かせている仲間の事をどうにかする方が先決。ジョゼの腹はいつも良いタイミング鳴ってくれる。


「他には何か書いてなかったの?」

 自分の分を食べ終えたセルジュは熱いスープと格闘している響也に話しかける。

「他にか・・・、そう言えばもう一つ単語を見たな。だが内容までは見れてない。」

 賢者の石の生成法を見た事で嫌悪感を覚えた響也は続きを読むのにも恐怖感があり、その単語だけを見た所でサイコメトリーを解除してしまったのだ。彼が解除する瞬間に見えたその単語とは『エリクシール』。エリクサーとも呼ばれ、ゲーム等では体力を回復させる効果で有名だが、元になったエリクシールその物は錬金術師サンジェルマン伯爵が不老不死の薬として飲んだ水とも言われている。

「『エリクシール』・・・聞かない名前だね。」

 ファンタジーな世界ならば手に入るかと言われれば答えは違う。賢者の石もエリクシールもこの世界では同じく『存在しない物』として扱われているのだが、これは賢者と呼ばれる存在の中でも一部の人間しか知られていない事実。即ち多少の知識があるセルジュでは到底知りえない事なのだ。

「取り合えず『賢者の石』は諦める。『エリクシール』とやらを探すって事で良いか?」

 鍋の中身を全て平らげ手持無沙汰になったルイーザは響也へ確認をする。当然賢者の石を生成する気も無い為肯定するのだが、エリクシールさえも同じ様な生成法であるとも考えられる為、きっぱりと答える事は出来なかった。

「まぁ良い。響也には悪いがもう少しこの世界に居て貰うぞ。そもそもまだ私はニホンの食べ物を全然食べてないんだ。否が応でも居て貰わねばな。」

 ルイーザなりの慰めなのか、彼女の言葉に優しさと温かみを覚えた響也は笑顔で「王都に帰ったら作るよ。」と返答すると、先程からずっと黙っているジョゼへ視線を向ける。そこにはスープが熱く全然食事が進んでいない猫舌な彼女の姿。こちらは温かさではなく熱さを覚えた様だ。

 数分後、ジョゼが平らげた事を確認した一行は、ここまで来たのだから何か役に立つ魔石や素材になりそうな植物、鉱石が無いかを探し回るのだが、目ぼしい物は無く下山を開始しようとしたその時である。

「痛てぇ、何かフードに入ってるな・・・。ジョゼ、見てくれ。」

「もうちょっと屈んで下さい。えっと・・・これですね。」

 そう言って響也のフードから取り出した物は銀色に光る結晶が所々から見える拳大の石であった。どうやら先程の脱出の際、落下してきた物が偶然入り込んだらしい。ジョゼの手からその石を取るとルイーザは「鉱石の様だ。」とだけ言い、そのまま握り潰そうとするのだが、石は割れる事も無くそのままの状態で変わらず。

「鉄の様に硬い何かだ。水晶の類ならばヒビの一つでも入るのだが、全く手応えが無い。」

 とだけ言うと今度はセルジュに手渡すルイーザなのだが、受け取ったセルジュも鉄の様に硬い物はまだいくらでもあるとお手上げ状態。一先ず珍しいものかもしれないと持ち帰る事にした一行は、帰りながらも辺りを見渡し何か役立つ物は無いかと探しながら下山を始める。

 ・・・吹雪になるまでは。


 二日後、手あたり次第の石を持ち帰った響也達は宿に付いた瞬間にダウン。全員が防寒具を付けた、或いは脱ぎ掛けの状態で眠りにつく事に。

 翌日、響也は呼吸がままならなくなり目を覚ますと、口に棒状の筒を使い水を流し込まれていた。拷問の様な仕打ちを受け上半身を起こすと、そこにはランタンに油を補充しているルイーザの姿があった。

「起きたか。」

「起きたよ!起きなかった嫌がらせか?!」

 とルイーザに怒鳴った響也だが、自身の服が妙に濡れている事に気づき、同時に眩暈を感じた。

「脱水症状だ。防寒具を脱がなかったから大量の汗をかいてたんだ。私はある程度脱いでいたから良かった物の、響也とセルジュは干し肉みたいになってたぞ。」

 そう言われ目線を横に向けると、隣のベッドには漫画のミイラの様になったセルジュが同じく水攻めを受けていた。恐ろしく乱暴な水の飲ませ方で、この方法は窒息する可能性の方が高く、起きれた響也は幸運とも取れる。

 が、勿論息苦しさを感じたセルジュも目を覚まし、先程行ったやり取りを再び行うと口に入れられていた物を確認する。

「ルイーザ。漏斗を使う以外に水を飲ませる方法は何か無かったのかな?」

「無い。」

 珍しく怒りを見せるセルジュではあったがルイーザの前では何の意味も無く、響也の苦労を理解し彼とアイコンタクトを取った。

「それはそうと、起きたなら風呂に入ったらどうだ?」

 そう言われ、自分達の着ている服の水分が全て汗である事を思い出した二人は体を起こしいそいそと風呂屋へ向かう。防寒具だけはルイーザが脱がしてくれていた様だが、普段着状態になった二人はへばり付く服に不快感を覚えずにはいられなかった。

 風呂よりも洗濯に時間が掛かり一時間後、宿に戻った響也達は持ち帰った大量の石が無い事に気づきルイーザに問い合わせる。

「私とジョゼで鑑定に持って行ったよ。私等も風呂に入りたかったし結果は聞いていないが。」

 との返答を聞き安堵する二人。ジョゼとは風呂場で入れ違いになったらしく、寝ている間に作業を済ませた事から何処か自慢げな顔をしていた。取り合えず食事を取り、その帰りにでも鑑定結果を聞く事にした一行は宿を出て料理屋へと向かった。登山下山を行った四日間は全員の脚に疲労を与えており、店に着くなり全体重を椅子に預けた。

「あと一日だけここに居て、明日王都へ向かわないか?」

「さんせ~い・・・」

 気力も体力も底をつき、だらしのない体勢で響也に同意する三人。しかし一度食事が届けば一斉に齧り付く。そんな光景に笑い出す店員や客は『いつ見ても面白い奴ら』として四人を記憶している。それと同時に、この面白い奴らとも明日でお別れと言う少し名残惜しい気持ちもあった。

 食事を済ませた一行は結果を聞く為鑑定に出した工房へ向かった。工房の中では複数の箱に石が入れられており、丁度最後の一つを鑑定し終わった様で持っていた石を箱の中に入れる。

「来たか。取り合えず一番多かったこの石だが・・・ただの石だ。」

 ガクンと肩を落とした一行を見て「まぁ最後まで聞け。」と続きを話し出すドワーフ。

「コイツは鉄鉱石。鉄の原料として俺達もよく使っている。だが、これも珍しいって訳じゃないから鑑定代として全部貰うが構わないね?」

 そう言って五キロ程の鉄鉱石が入った箱に手を置きながら説明を続ける。

「そしてこれは結晶の類が付いた石。アクセサリー何か作る時に使えるから買い取りもするぞ。」

 ルビーの様な物が付いていたので集めた鉱石や、コバルトやチタン等も微量に含まれた石等が箱に入っていた。

「そしてコイツ。何処から持って来たのか分からんが、この山でも中々取れない品物だ。」

 そう言って見せたのは響也のフードに入り込んでいた銀色の結晶。中々取れないと聞き結果を聞きたくて前のめりになりつつ返答を待つ一行に少しばかり引くドワーフだが、一呼吸すると鉱石の名前を答えた。

「『アダマント』だ。」

 前のめりになったは良いが聞きなれない言葉にハテナマークを浮かべる一行に対し、察したドワーフは「取り合えず珍しい金属だ。」とだけ教える。

 なお、『アダマント』とはアダマンチウム、アダマンタイトと呼ばれる物で、ダイヤモンドやその他金属宝石等の『非常に堅固な物質』の意である。響也の世界ではアダマントとはこの金属では無いか等言われているが、今居る世界ではアダマントと言う金属として存在しているらしい。

「因みに料金は・・・?」

「結晶は少ないし小さいから八百マルク。アダマントだが、鍛冶屋のゼラムは知ってるか?あいつに話したらあいつが買い取りたいって言うもんだから料金はゼラムに聞いてくれ。」

 ゼラムの名を聞き、ロングソードを返却していない事を思い出した響也は一先ず自分が帰って来た事だけでも伝えようとゼラムの工房へ向かう事を提案し、三人も反対する理由が無い為、八百マルクを受け取ると今度は通い慣れたゼラムの工房へと歩みを進めた。

「帰って来たか。すまないが今手が離せない。明日来れるなら明日来てくれ。」

 ゼラムは響也達の顔を見るなり一方的に物を言うとすぐさま工房の奥へと戻って行ってしまった。こうなってはどうしようもない、どうせ明日まで入るんだからと一行は買い取り価格を聞けず不満気に宿へと戻る事になった。


 翌日、食事を始めとする買い物を終え、全ての荷物を纏めるとベンに挨拶をし宿を後にする。十日以上滞在していた為か名残惜しさもあるが道行く人に手を振って挨拶をしながらゼラムの工房へ到着する。

「来たか!実はお前等に・・・いや、キョウヤと言ったか。お前さんに見せたい物があってな。」

 工房へ着くなりゼラムは奥から持って来た一口の剣をカウンターの上に乗せ、響也の反応を待つ。

「これは・・・。」

「今朝完成した。良い出来だろ?あの後爺さんの手記を見つけて製造法を見たんだ。」

 カウンターの上に乗せられた物。それは以前話していた『日本刀』

「何で爺さんが量産しないか分かったぜ。作るのがめんどくせぇんだ。だから俺は金輪際刀を打つ気は無ぇ。だから料金も釣り上げる。」

「・・・だが金は無い。」

「そこでだ。お前さん等が持ち帰ったこのアダマント。コイツと交換ってのはどうだ?」

 そう言ってカウンターに置かれたアダマントを見て反応した四人。値段は聞かされていないが希少金属と言われた物ならばかなりの値打ちがある。だが、響也としては新しい剣、それも馴染みのある日本刀を引き合いに出されると揺らいでしまう。自分一人ならば即決、しかしこのアダマントは『三日月』の物なので己の判断だけでどうにかする物ではない。

「私は構わない。」

「剣が無いのは心配なので私は賛成です。」

「僕は純粋に『ニホントウ』に興味があるね。」

 全員金が要り用なのは分かった上で交換する事に賛成する。だがこれは響也を気遣っての思いやりと言う事に本人も理解しており、仲間の優しさを痛感する。

「交換だ!」

「よし!ならロングソードを返してくれ。お前さんのロングソードは・・・おっと、俺とした事が・・・その刀を作るのに使っちまったなぁ。」

 まるで交換する事が分かっていたかの様な口ぶりに笑顔で答えた響也はボロボロのロングソードの代わりに刀を腰に差す。ロングソードとは重心の異なる重みに刀を差していると言う実感を覚え何故か涙ぐんでしまう。

「二度と打たないとは言ったが直さないとは言っていない。何かあればまた来い。」

 そう言ってゼラムは四人を送り出すと防寒具を作ったドワーフと目が合う。どうやら工房の近くまで来ていたらしく、ゼラムに近づくと話を始めた。

「行ったか。しかしお前さんも損な仕事をするなぁ。鑑定屋まで茶番に付き合わせやがって、何がアダマントだ。ありゃただの・・・」

「俺に取っちゃアダマントなんだよ!それに爺さんの手記に書いてあったんだ。黒髪が尋ねてきたら力を貸してやれとな。お前だって人の事言えるのか?あの防寒具を作るのに・・・」

「さ~てどうだかねぇ。俺にはそれだけの価値があると思ったなぁあのアイディアは。・・・まぁ、お互い。何だかんだ楽しませてくれたあいつらに何かしてやりてぇと思っただけだろうさ。」

 防寒具も日本刀も本来ならば全く金や素材が足りておらず、それでも何とかしようと懸命になっている四人を見て『気に入ってしまった』ドワーフの支えがあった事を彼らは知らない。




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