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記憶の道  作者: 桐霧舞
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サイドストーリー 4 独りぼっちの貴族





 身分の差。この世界では自分より階級の上の者に逆らえば命さえも危うくなる。それと同時に、身分の高い者はそれ相応に力や知識を伴わねばならない。

 西大陸の南に位置する大きな街『カラートレリオ』は物流の悪さからダミアバルに王都の座を渡したものの、比較的暖かい気候な為貴族の別荘が多く立ち並び、上流階級の者が多く住んでいる。

 歪んだ五角形の様な街並みの中心北東部。カラートレリオでも実力で貴族となったクレメンテ家が住んでおり、その一族の力は折り紙付きであった。ただ一人の男を除いて。

「何度も言わせるな!お前もクレメンテ家の人間である事を自覚しろ!」

 館内に響く男の怒号。その声の主は綺麗な衣服に身を包んでおり、対して相手は貴族とは思えない程汚れた服で立っていた。

 この二人に何があったのか。時は数時間前に遡る。

 ある一人の少年が身形の良い服を着ながら館から外を眺めていた。常に勉強と剣術に追われ年頃らしい遊びを一切経験せずにいた為、下町の子供達の自由さに憧れ暇さえあれば窓際から様子を見るのが日課としている。

 自分の周りには身の回りを世話する大人こそ居れど、同年代の子供。況しては友人と呼べる存在が無く、周りとの接触を避けられた環境で育てられていた。

 何故自分だけがこんな生活なのか。何故下町の子は皆笑顔で居られるのか。いつしか少年の心には下町への憧れが芽生え、いつか一緒に遊びたい、常々そう思っており、今日が偶々それを実行する日だった。

 綺麗な服では汚れが目立ち何を言われるか分かった物ではないので、自室にある服で一番平民に近い物を選ぶと、少年は二階の窓から抜け出し館の裏からこっそりと下町へ遊びに出かける。

 一人だけでの外出と、同年代の子に会える楽しみから少年の心はワクワクとドキドキの二重奏を奏で、その音は心音となって本人の耳にも大きすぎるぐらいの音量で聞こえていた。

 同年代の子と会った事が無い。これは同時に遊び方が分からない事を意味する。少年は何時も窓から見ている場所に到着すると、普段は見下ろしていた子達と対等の目線でその場に居る子を物陰から覗くように見つめる。どうやって声を掛ければ良いのかさえ分からず唯々時間だけが過ぎて行く。

 そんな中、視線に気づいたのか遊んでいた五人の少年達は陰に隠れている少年を発見した。心配とは裏腹に少年達は新たなる友人として迎え入れ、日が暮れるまで一緒に遊び始めた。

 鬼ごっこや縄跳び。そんな遊びをしていれば転んでは起き上がり砂まみれになるのは当たり前。少年は帰りの事を全く考えておらず、帰宅後兄に見つかってしまう。ここまでが怒られていた理由である。

「普段から勉強に身が入っていない。剣術も上達しない。お前はクレメンテ家の人間以前に平民としても劣っている。」

 兄は執事を呼びつけ次の様に話す。

「こいつを地下室へ閉じ込めて置け。今までの分の知識が付くまで外へ出すな。」

 弟にも容赦の無い兄。執事は言われた通り弟の手を取るとゆっくり地下室へと向かい始めた。

「ティルノ様。何故一人で外出を?」

「僕も遊びたかったから。」

「確かにお気持ちは分かります。ピエトロ様は幼少の頃より秀才であるが為、弟であるティルノ様も同様の存在であるとお思いなのでしょう。私めとしてもティルノ様には自由に育って頂きたいと思います。」

 聞けば兄ピエトロは知能、技能共に優秀でその才能たるやクレメンテ家のトップになると約束されている程。それに対し弟ティルノは勉強中にも現を抜かし、剣術は全くと言って良い程上達しない。

「大丈夫ですティルノ様。今度私が旦那様に掛け合って見ましょう。地下室から出る時は下町に行く時。そう思いながら頑張って下さい。」

 地下室の扉を閉める時ティルノに対し希望を持たせる執事。当の本人も大手を振って下町を歩けるのならばと地下室に保存してある本を手に取りランタンの光の元読み始めた。

 それから数週間。兄が作成したテストに合格し久々に地下室から出る事の出来たティルノだが、気になる点が一つだけあった。それは普段兄の横に居り動いていたいつもの執事とは違う者が出迎えた事。恐る恐る兄へ聞けば驚きの回答が来る。

「あいつか。ふざけた事を言ったから解雇してやった。お前は地下室の方が記憶力が上がるみたいだな。何かあれば即刻ぶち込むから覚悟して置け。」

 何と言う事だ。自分の事を同情したせいで長年クレメンテ家に仕えていた執事が出て行ってしまったのだ。唯一の理解者を失い、それと同時に下町へ行く事は永久的に無くなったと宣言されたのと同じだった。


 これらの出来事から十七年。二十五歳となったティルノはすっかり変わり勉強をしても真面目な返答はせず不真面目な態度を取るようになった。それは自分に接する者を拒む事で好意を抱かせない様にするのが目的であり、自分も面倒な思いをしたくないと言うのもあった。

「ティルノ。お前は貴族としての自覚が無さすぎる。」

「誰かをクビにでもすりゃ貴族の態度なのか?」

 彼の態度に嫌気がさしたピエトロが叱咤した所でティルノは恨みを込めた皮肉で返答する。

「いい加減にしろ!学も無ければ剣術も皆無なお前が屋敷から追い出されないだけ感謝しろ!」

「感謝は強要する物なのか。知らなかったぜ、確かに俺は学が無い様だ。」

 その言葉に堪忍袋の緒が切れたピエトロは腰に差していたブロードソードを引き抜くとティルノへ斬りかかるが、持っていた本を盾代わりに受けると更に煽りを入れる。

「剣を持たない相手に斬りかかるのに剣術が必要なのか。そりゃ稽古をしなきゃ出来ない事だな。」

 二度に渡る屈辱を受けたピエトロは怒りは頂点に達し、弟ティルノとの決闘を申し込む。申し込みと言えば聞こえが良いが強制参加で拒否する権利も無ければ答えも聞いておらず、ティルノは胸倉を掴まれそのまま庭へと連れて行かれた。

 使用する剣はティルノに選ばせず、訓練用の刃引き済みサーベルを投げ渡されると渋々拾い上げる。勿論この行為は『侮辱から発展した決闘であり、殺人行為ではない』と大義名分を得る為の物。故に全て自分に有利な状況を立てている。

 だが、彼の誤算としては、自分の使用しているブロードソードよりも重い剣を渡してしまった事。己の剣の重さではサーベルを弾くのも一苦労し、逆に自分が追い詰められてしまう。そんな金属音が響いていたせいか、屋敷から続々と人が出て来ては止める様に説得を始める。だが彼らの耳には届く事は無い。

 勝負はあっけなかった。ピエトロのブロードソードが空を切った瞬間、ティルノはサーベルを振り落としブロードソードを根元からへし折る。これによりピエトロは意気消沈しティルノの勝利で終わる。

「ピエトロ様に勝ってしまうとは・・・」

「となると、次期当主はティルノ様に?」

 等の声が雑音の中から聞こえて来る。何とこの日は現当主である父が次期当主を決める為、親族や商人を集めていたのだ。

「流石はティルノ様だ。地下で暮らしていたとは思えぬ剣技。見事ですな。」

 一人の男がそう言いながらティルノへと近づく。その男には見覚えがあり、普段ティルノへ食事を持って来た際にやたらと見下した目をしていた男である。そんな男がこのタイミングで目立つ行動をする理由は一つである。

「いや全くですな。日頃から訓練しているピエトロ様に訓練をしていないティルノ様が勝利するとは。」

 次々と同じ理由で執事が集まり出す。その理由は単純に『ごますり』である。

 自分が仕えているピエトロに親族の目の前で勝利した事でピエトロへ胡麻を擦る必要も無くなり、今までの態度が嘘の様に手の平を返す。それは親族や父さえも同じであった。

 兄に勝利した。ただそれだけで持ち上げられる。この態度の豹変に何とも言えない怒りを感じたティルノはサーベルをその場に叩きつけそのまま敷地から出て行き下町へと走り出す。目的地はカラートレリオの北門。彼にとって『都合良く動く人間』は信用出来ず関りも持ちたくない存在。そんな存在が身の回り全員だったと知り、『クレメンテ家』に関わりたくないとまで変化した。

 北門から飛び出したティルノはそのまま体力の続く限り北へ走り続け、気が付けば夕方になっていた。服は元より貴族と思われない様なボロボロの服を着ており、金も一切持っていない彼は、暖も取れず一人寒空の元ゆっくりと歩く。

 途中、馬車から落ちて気づかなかったのか錆塗れのロングソードを見つけ、魔物に出会った時用に拝借すると、僅かに残った夕焼けの灯りを頼りに川まで到着する。川の水を手で掬い顔を洗うと彼はそのまま川辺に座り込みこれからの事を考え始めた。

 一時の感情とは言え家を飛び出たので戻る訳にはいかない。かと言って行く当てもない。幼い頃から外へ出させて貰えなかった為、地理は本で読んだ程度の知識しか持っておらず、今の状況を一言で表すのならば『絶望』である。


 それから数カ月、彼はまだ生きていた。

 金は野盗を返り討ちにし巻き上げ、持っていた武器も彼らの物を使用。到底貴族だったと言っても信用されない様な風貌と行動により何時しか彼自身も荒くれ、喧嘩をふっかけて来た者を叩きのめしては迷惑料と言わんばかりに金を奪い、その金で酒を飲む生活を続けていた。

「って事はリトルオーク?」

「そうなるな。確かにアレックスが居れば倒せる相手だが、それは剣を持っていた時の話。ドン、あなたの意見を聞きたい。」

「なぁに、剣が盾になった所で何も変わりはせん。」

「いや変わるだろ?!」

 酒場でほろ酔いになり良い気分な所を大声で話すクランに気が立ち始めるティルノ。唯でさえ手を付けられない状態な彼は椅子から立ち上がると横に居たクランの前に立つ。

「剣だ盾だうるせぇなお前等。生きるだけならどっちだって良いんだよ。おめーみたいなチビは真っ先に死ぬし、そっちのヒョロい奴も死ぬ。んで横の黒いのも黙ってるのも老いぼれも皆死ぬ。」

 支離滅裂な事をクランに伝えるが、当人達も何が言いたいのか分からず硬直してしまう。と、そこへクランのメンバーと思しき一人の男が酒場に入って来ると持っていた盾を自慢気に見せながら笑顔で話し出す。

「どうだ。綺麗に直ってるだろ?やっぱ俺の盾カッコいいよなぁ・・・ってあんた誰?」

 途中でティルノに気づいたのか盾を下げて疑問をぶつける。

「人に尋ねる時は自分から名乗るのが礼儀だろ?お前もこいつらの仲間か?」

 即座に矛盾を発生させるティルノだが本人はそれに気づいていない。

「悪かった、俺はアレックス。で、何があったんだ?」

「質の悪い酔っ払いが話しかけて来たんだよ。」

 アレックスに質問に答えたのは先程ティルノにチビと言われた男であった。しかし、その言い方が気に食わなかったのかティルノは更にヒートアップする。

「何が酔っ払いだ。そもそもお前達みたいに人と一緒に居なけりゃ行動出来ない奴らが一端の冒険者語ってんじゃねぇぞ。」

 その言動に対しアレックスも「あぁ、確かに質の悪い酔っ払いだ。」とチビへ耳打ちをする。

「まぁ話を聞こう。若いの、座れ。お前さんの酒代は儂らが出そう。」

 無料で酒が飲めると聞いたティルノは大人しく席に座り先程の続きと言わんばかりに話し出した。

「そもそもな、人を信用するってのがおかしいんだ。どうせ人間自分の事しか考えてねぇんだ。都合の良い奴に胡麻を擦って、都合が悪くなれば手の平返しだ。」

 これを皮切りにティルノは自分の身に起きた事を愚痴を交えながら数十分話し続ける。後半の頃には同情か、全員がティルノの事を見守るような表情をしていた。

「地下に幽閉され、兄に勝てば手の平返しか。確かに酷い話だ。」

「その後の行動は少々やりすぎな面もありますが、我々もある種似た様な事をしていたので攻める事は出来ない。」

 チビことディーノとヒョロことラキオが呟く。

「ただ、何と言うか。僕らと似た様な感じだな。僕も街から出されたし。」

 黒いのことラトも二人に同意する。

「俺の場合は自棄になってたのは同じだな。最も、俺はもっとボロかったけど。」

 アレックスも続く。

「ピエール。次の任務、こいつを同行させないか?」

 黙ってるのことニコラスが老いぼれことピエールに質問を投げかけると、ピエールもニコラスに同意らしく、その事をティルノへ告げる。なお、ドンとはピエールをの事を指すらしい。

「若いの。儂らは明日リトルオークを討伐しに行くんじゃが、お前さんも一緒にどうじゃ?分け前は半分出そう。」

 七人で任務をし、その内の半分が貰えると聞いた瞬間ティルノが反応する。普段は巻き上げた金で生活している為『稼ぐ』と言う事と無縁の状態だったのだが、一気に大金が入るとなれば話は別。

「半分。そう言ったな?良いだろう、何が目的か知らないが付き合ってやる。」


 翌日、やや二日酔いの状態でメンバーと合流したティルノはその異様な雰囲気に驚愕した。全員が大型の盾を持ち、護身用と言いたくなる様な剣を腰にしているだけの異様な風貌に開いた口が塞がらない。

「言い忘れておったがのぅ。儂らは『鉄壁の盾』。守るのが目的のクランじゃ。」

 ピエールの言葉で我に返ったティルノは昨夜馬鹿にしていたメンバー全員の井出達に若干の身震いをする。自分の相手をしていたのは本当に同じ人物なのかと疑問さえ浮かぶ。

「目的地は東の森、リトルオークが目撃された。今回の目的は討伐。数によっては撤退も頭に入れる様に。」

 『鉄壁の盾』の参謀であるラキオが伝えると一同了解し東の森を目指す。一方ティルノは先程の大声が響いた様で頭痛に悩まされた。

「居たぞ、数は二。」

 森の中に入り探索する事一時間後、目撃情報と思しきリトルオークを発見したアレックスは全員に報告する。それに応答したのはティルノであった。

「奴らは未警戒。んで俺達は風下だ。奴らは嗅覚は高いがそれ以外はそこまで高くない。周りから同時に仕掛ければ倒せるはずだ。」

 本で得た知識を開かすのは良いが、これらの情報は『鉄壁の盾』は疎か殆どの冒険者にとって周知の事実である。しかしラキオは否定も追及もせず「成程、ではラト、ニック、アレックスはティルノと共に右から、私達は左から回る。」と作戦を立て、全員が納得し行動に移る。なお、ニックとはニコラスの事を指す。

 確かに嗅覚は鋭い。ただ聴覚も決して低くない事を知らないティルノは回り込んでいる最中に枝を踏みつけてしまいリトルオークは即座に反応し戦闘態勢へ移行する。これには不意打ちの作戦が失敗に終わったと理解し全員戦闘態勢を取るが、リトルオークの影に隠れていたゴブリンに先手を取られてしまう。

 最初に動いたのはラト。巨大な盾を使いゴブリンの棍棒を受けるだけでなく、そのまま突撃し盾による体当たりを行う。

「ゴブリンの数は五だ!」

 既に三体のゴブリンに攻撃され数を把握出来ないであろう四人に対し叫び掛けるディーノ。勿論、その叫びは自分達の位置を教えるのも同意。残りの三人に気づいたリトルオークは標的をラト達からピエール達へと変更し丸太の様な棍棒を振り上げた。

「儂に任せろ!」

 振り下ろされた棍棒はピエールの体を叩き潰すかの如く衝撃音が鳴り響くが、当の本人は脚が軽く地面に埋まった程度で全く問題無いと言った表情を浮かべる。

 ピエールの作った隙を付くべくリトルオークの左右に回り込んだラキオとディーノ。持っていた剣を引き抜き一撃与えると即座に離れ盾を構えなおす。俗に言うヒット&アウェイと呼ばれる物ではあるが、盾を構えると同時に剣を鞘へと納め直す行為は居合とも受け取れる。

「攻撃の要はティルノじゃ!命に代えても守れ!」

 ピエールの言葉に言われなくても分かっていると言わんばかりに『鉄壁の盾』全員が返事を返す。その光景を見て初めてティルノは自分が護衛対象だと悟った。体良く言えばメンバー全員で護衛し、ティルノに倒させると言う『お膳立て』。自分の身の上話で上げた『人を信用しない』と言う考えを振り払おうと言う魂胆である。

 その間リトルオークとゴブリンの攻撃の手は休まず続くが、全ての攻撃を盾で受け取り自分の脚は絶対に下がらないと言う『鉄壁の盾』の意志を理解したティルノは自分に出来る最善の手段である『攻撃』に集中すると一つの突破口を発見した。

「デカブツの棍棒を右に受け流してくれ!」

 リトルオークが上へと棍棒を振り被った事を確認したティルノは自分の前に居るニコラスに言い放つと素早く前進する。同時に、指示を聞いたニコラスは言われた通り盾で右方向へいなすとすぐ横に居るゴブリンからの攻撃に備え盾を構え直す。

 地面へ棍棒が叩きつけられ、辺りには地響きが鳴り響きつつ地面へとめり込む。一度叩きつけた武器は持ち上げなくては再度攻撃には使用出来ない。ティルノは持ち上げる時間を与える事無く剣を胸へと突き刺しては引き抜き周りに居るゴブリンを一掃していく。残りはまるで消化試合だと言わんばかりに全員で攻撃を仕掛け無傷での勝利を収めた。

「見事な剣捌きじゃのぅ。」

「地下室に籠っていてこの腕前は信じられないな。天性と言うべきか。」

 戦闘終了、全員に怪我が無い事を確認するとピエールとラトがティルノに関心し話しかける。実際ティルノが相手をした事があるのは全て人間であり、魔物と闘うと言うのは初めての出来事であった。

 更に言うと他人と協力する事も初めてで、幼少時代に下町へ遊びに行った感覚が蘇る。人との触れ合いから遠ざかったティルノにとって、その感覚は失われかけた古い記憶。『鉄壁の盾』の顔を見て感情が高ぶる。

「大丈夫か?」

 その場で蹲ってしまったティルノにディーノが問いかけるが、それを遮るようにピエールの口が開く。

「どうじゃ?仲間と言うのも悪くないだろう。とは言え協力する大切さを教えてくれたのはラトとニコラスじゃがの。」

「アクアリザード相手に盾しか持って来ない人は見過ごせなかったからね。僕達もドンに会ってから守りの重要さを知ったよ。」

 ティルノの感情が落ち着く間で時間を稼ぐ為昔話を始める二人。彼等曰くアクア居リザード討伐の任務を同時に受けたのが切っ掛けでチームを組み、それから意気投合しクランを結成したとの事。

 数分後、昔話の途中で顔を上げたティルノはピエールの目を見ながら次の様にお願いをした。

「ピエール・・・いや、ドン。お願いがある。俺は今まで人間しか相手をして来なかった。常に人を傷つけていた。だから、今度は人を守るために盾を手に取りたい。俺も一緒に連れて行ってくれないか?」

 その言葉を聞いた一同は口角を上げティルノを温かい目で見守る。『鉄壁の盾』は守りのクラン。守りたいと言う気持ちがあり決して折れない心構えが出来ていれば来る者は拒まない。ピエールはティルノの肩に手を置くと「今の気持ちを決して忘れるな。」とだけ呟き、続けて「『鉄壁の盾』全員引き上げだ!」と叫び街へと歩み始めた。

「盾の扱い方は俺が教えてやる。ビシバシ扱いてやるから覚悟して置け。」

 自分が『鉄壁の盾』の全員に含まれているのか疑問に思ったティルノであったが、アレックスにそう言われ確信を得る。しかしその言葉に失笑したディーノは、

「一番の新人がナマ言ってらぁ。ついでに言うけど、君が俺をチビ呼ばわりした事は許してないからな。」

 と二人に投げ掛ける。

「その兼に関しては全員すまなかった。あの時は気が立って・・・」

「良いよ、許してあげる。でも俺の方が先輩だからな。」

 即座に許しが出た。

「ありがとうございますディーノ先輩。」

「いや、やっぱ普通で良いや。先輩とか無し。」

 背中が痒くなる響きに嫌悪感を出すディーノ。

「アレックス先輩・・・は長いな・・・。綴りを変えると王族を意味する『レックス』になるし強そうだから、レックス先輩。よろしくお願いします!」

「勝手に王族にするなよ。俺も呼び捨てで良いよ。敬語も無し」

 ディーノの一言でめんどくさい事になったと頭を悩ませるアレックス。

「良いじゃんレックス。新人なのに王だってさ。ねぇ皆、これからアレックスは王様のレックスねー!」

 まるで子供の様な会話をする三人に自然と笑みが零れる四人。この日、ティルノを迎え七人となった『鉄壁の盾』が『三日月』に会うのはもう少し先の事。


『鉄壁の盾。全員生還』





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