第7回 噛み合わない人
「読めないのですか?」
ラスターは、驚いたように言った。
あたりまえだ。
日本語でも、英語でもない文字が並んでいる。
「私は読めます。」
なぜか、得意気に言うラスター。
「早く読みなさいっ!!」
キレてしまいそうだった。
……いや、キレてしまったかもしれない。
「わかりました。」
「では、私の後について、呪文を唱えてくださいね。」
意味のわからない言葉をラスターの後について唱えた。
――すると、
目の前にいたグランベアが、周れ右をして、ゆっくりと山へ帰っていった。
え、これで終わり??
魔法というからには、もっと派手に光が出たりすると思っていた。
……なんか、地味じゃない?
それでも、グランベアが帰る姿を見て、私は心底ほっとした。
異世界でグランベアに襲われた、なんて話にならない。
「本当に効いたじゃない。」
興奮気味にラスターに言うと、
「まあ、そうですね。」
と、素っ気ない答えが返ってきた。
……なんでこんなに淡々としているんだろう??
ちょっと悔しい。
私は、『いつかラスターを慌てさせる』という目標を密かに作ってしまった。
それにしても、ラスターは出来がいいのか悪いのかわからない。
大事なところで、何かぬけているようだ。
ずっと一緒に仕事をするのは、難しいかもしれない。
会社にいたら、ラスターに怒ってばかりになりそう……。
そんな気がした。
「そういえば、シスターミッチーが、この本の呪文を自分で書いた物があった気がします。」
「明日、探してみますね」
最初から、そっちをだしてほしかった。
噛み合わないラスターに疲れた私は、早く帰って眠りたかった。
――――――
「本当に、ありがとうございました。」
しばらくたった、ある日。
グランベアの相談をした畑の持ち主、ベルグさんがやってきた。
「グランベアは、すっかり出なくなりました。シスターシーナ、ラスターさん、なんとお礼をいったらいいかわかりません。」
何度も頭を下げられた。
そんなに感謝されると、かえって恐縮してしまう。
だって私は、ラスターに続いて、呪文を唱えただけなのだから。
「お礼といってはなんですが、よかったら、お二人で食べてください。」
ベルグさんが、袋を手渡してくれた。
中を見ると……、
壺に、蜂蜜がたっぷりと入っていた。
「わっ、蜂蜜!」
「おいしそうですね。ありがとうございます。」
私は、思わずクマのプーさんを想像してしまった。
「パンに塗って食べますね。ありがとうございました。」
ラスターが、頭を下げた。
また家に寄ってくださいね、と言い残すと、ベルグさんは帰っていった。
「なんか、感謝されちゃった。」
私は、渡されたハチミツの壺を見つめた。
感謝されるなんて、いつぶりだろう。
会社では、やって当然と思われているのか、『ありがとう』なんて、誰にも言ってもらえなかった。
私は、胸がじんわりと暖かくなるのを感じた。
そんな私の様子を見て、ラスターが静かに頷いた。
「シスターシーナ、では行きましょうか」
ラスターが、鞄を手に持った。
私も素早く支度をすると、今日も訪問先に向かうのだった。




