第5回 私にはできません。
「今日はここまでにしましょう。」
夕方になり、きりのいいところで、今日の挨拶回りは終わりになった。
よく歩いた……。
普段はデスクワークだから、足がとても痛い。
「ああ、疲れた。」
帰るとすぐに、椅子に腰をおろした。
でも、一緒に回ったラスターはあまり疲れてなさそうだ。
「ラスターは、あまり疲れてなさそうね」
若さだろうか。まだまだ歩けそうな感じに見えた。
「前は、シスターミッチーと一緒に回っていましたからね。それに……、」
ラスターは、袖をめくって、腕を見せた。
「体を鍛えるのは、趣味だったりします。」
――え、すごい筋肉!!
きれいに、力こぶができていた。
ラスターは、いわゆる『細マッチョ』だった。
意外すぎる……。
もしかして、腹筋も割れていたりするのかな?
気になったけど、さすがに見せてもらうことはできない。
筋肉を見ていると、私は村人の依頼を思い出した。
グランベア退治の件は、本当にどうするつもりだろう?
もしかして、ラスターが倒してくれるの?
あの筋肉なら、戦えるかもしれない。
私は、ラスターに聞いてみた。
「グランベアの件はどうするの?」
袖を直しながら、ラスターは答えた。
「それはですね……、」
「シスターシーナが、なんとかするのです。」
ん?
今、何て?
問題を丸投げする上司のような発言じゃなかった?
「それは無茶です。私には、できません。」
私は、キッパリ断った。
「大丈夫、できます。」
ラスターは、自信たっぷりだ。
そして、隣の部屋から分厚い本を持ってきた。
あっ、あれは時間がある時に読んで、と言われた本だ。
……しまった、まだ開いてもいなかった……。
「シスターは、なぜシスターとして慕われ、村人から心待ちにされているのか……、
それを今から教えたいと思います。」
えっ、それは何だろう。
とても気になる。
ラスターは、本をパラパラとめくると、あるページを開いて、読みはじめた。
「……村にグランベアが出た時の呪文。
この呪文を唱えると、グランベアは村から出ていくだろう。」
呪文?
それって魔法ってこと?
なんだか、ファンタジーな展開になってきた。
あ、今いる世界は、ファンタジーだった。
「つまり、その呪文を、私が唱えればいいのね?」
「はい。シスターシーナ。理解が早くて助かります。」
現実世界なら、笑われてしまいそうだけど、ここは異世界。
魔法も、使えるのかもしれない。
そして、私が魔法を使えるなんて、ちょっと面白そうだ。
試してみたい!
私は、素早く立ち上がった。
善は急げだ。
「わかったわ。さっそく、グランベア退治にいきましょう」




