第49話 元の世界
目を開けると、白い天井が見えた。
いつも見ていた、木の天井じゃない。
――ここは、どこだろう?
体を動かしたいけど、なんだかとても、だるくて、重い。
首だけを動かして、キョロキョロと周りを見る。
腕につながれた、点滴。
ピッ、ピッと、規則的に音を立てる心電図モニター。
私は、病院にいるようだ。
そのうちに、遠くにいた看護師さんと目が合った。
「まあ、気が付かれたんですね!」
看護師さんは、急いで医師を呼びに行った。
「静田さん、ご気分はいかがですか?あなたは、五ヶ月も目を覚まさなかったのですよ。」
医師の説明によると、私は、会社で倒れていたらしい。
それから、五カ月も、目を覚まさなかったそうだ。
五カ月というと、村と同じ時間が過ぎていたことになる。
――帰る決断をして良かった。決算には、きっと間に合うだろう。
病院の窓の外は、雪景色だった。
すべては、夢だったんじゃないか、
そんなふうに思えてしまう。
ベッドの横を見ると、目覚えのある物がおいてあった。
これは――
ラスターが、お祭りでくれた、赤べこに似た、牛のようなマスコットだ。
そっと触れると、部屋に置いてあった時とかわらず、縦に首を振った。
その前には、ピンク色の花の髪飾りも置いてある。
……ああ、夢じゃなかったんだ。
とたんに、村で過ごした日々が、鮮明によみがえった。
でも。
――もう、あの場所へは、戻れない。
それを悟った瞬間に、大粒の涙が溢れた。
「大丈夫ですか?」
看護師さんに、心配されてしまったけれど、私は、しばらく泣きやむことができなかった。
―――
「静田課長!退院、おめでとうございます!」
相沢さんが、駆け寄ってきた。
「静田課長がいない間、みんなでなんとか仕事を回していましたけど……、課長、一人でこんなにこなしていたなんて凄いです。」
「課長が、どれだけ頑張っていたか、課のみんなが、身に染みてわかりました」
佐藤くんや、永瀬くんも頷いている。
入院していた部長は、私より先に、復帰していた。
心配していたデータも、部長がちゃんとコピーを持っていた。
それなら、急いで帰らなくても、よかったのに……。
そんなことを考えてしまったけど、帰らなければ、ずっと心配が残り続けただろう。
……きっと、これでよかったんだ。
私は、自分に言い聞かせた。
「みんな、迷惑をかけてごめんなさい。」
「私がいない間、頑張ってくれたのね……。これからは、みんなで協力して、仕事をしましょう。」
私の言葉に、みんなが驚いている。
「静田課長、なんだか雰囲気が変わりましたね。」
「柔らかい感じになったというか……。」
「さては、入院中に、好きな人ができたな!?」
相変わらずの部長の発言。
なぜか、ラスターの顔が頭に浮かび、私は赤くなってしまった。
その様子に、
「えっ、当たりですか?」
相沢さんが、わぁっと歓声をあげた。
「さて、決算も近いし、仕事、仕事。」
部長に言われて、みんなが席に戻っていった。
村に行く前と、変わらない日常。
だけど私は、私自身が確実に変わったのを感じた――。




