第46話 離れたくない
「……そうですか。」
静かなラスターの声。
「よく、ご決断されました。」
「シスターシーナが、お決めになったことです。それが最善なのだと思います。」
ゆっくりと、言葉を選ぶように話すラスター。
「いつにされますか?」
「決意が揺らがないように、早いほうがいいと思う。」
「私、明日、帰ります。」
「それは、また急ですね……。」
「村のみなさんに、ご挨拶はいいのですか?」
「挨拶、したいけど……、きっと、挨拶をすると、もっと帰るのが辛くなってしまうと思う。だから、このまま帰ることにするわ。」
「わかりました。では、村の皆さんには、私から伝えておきましょう」
ラスターが、真剣な表情で頷いた。
「ごめんなさい、ラスター。村のみなさんのこと、お願いします。」
最後まで、ラスターに頼ってしまった。
窓辺に立って、外を眺める。
もう、この景色を、見ることはできないんだ……。
村で過ごした日々が脳裏に浮かぶ。
とたんに、涙で景色が滲んだ。
こらえきれなくて、嗚咽になってしまう。
うっ、ううっ……。
窓にもたれて泣いていると、
ラスターが、後ろに来た。
そして、私を、包み込むように抱きしめた。
「……ジュリアさんに、こうするといいと教わりました。」
「シスターシーナ、どうか、そんなに泣かないでください。」
ラスターの、声が固い。
……こんな時まで、ラスターらしい。
慰めてくれているようだけど、緊張しているのが、ひしひしと伝わってきた。
そんな、ラスターが愛おしく思ってしまった。
どうしよう。ラスターを、本気で連れて帰りたい。
でも、ラスターは、この村に必要な人だ。
村の困りごとの受付も、結局ラスターが引き受けたままになっている。
連れて行くだなんて、そんなことを考えてはいけない。
――それでも、今だけは、ラスターに寄り添ってもらいたい。
窓から手を離すと、ラスターに手を回し、そのまま顔をうずめた。
温かい。
雪のせいか、部屋の中はしんと静かで、暖炉の火の音だけが聞こえていた。
どれくらい、こうしていただろう。
「……ラスター、ありがとう。」
私は、そっとラスターから顔を離した。
「ラスター、恋人(仮)は、今日で終わりにしましょう。」




