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第43話 元の世界の忘れ物


「ラスター……、」

「私、元の世界に、帰らないといけないかもしれない。」


ラスターが、目を見開いた。


一瞬だけ、驚いた表情が見えた。



少しの沈黙。



「……どうしてですか?何か、気がつかれたことがあったのですね?」


すぐに、いつもの落ち着いた様子になったラスターは、優しく聞いてくれた。


その様子に、ほんの少しだけ冷静になれた私は、ゆっくりと話し始めた。



「――もうすぐ、元の世界で、決算っていう、とても重要な行事があるの」

「その行事に、どうしても必要な物を私が持っている。それがないと、行事が進まなくなるわ。」


元の世界で課長だった私は、入院中の部長から、決算に必要なデータを預かっていた。


それを共有フォルダに保存するつもりだったけれど、まだ決算まで時間があったから、後回しにしていたんだ。



私は、社外秘のファイルにはパスワードを設定して管理していた。



会社の人がデータを見つけても、パスワードがわからなければ、ファイルを開くことはできない。



――どうして、後回しになんてしてしまったのだろう?


あの時は、毎日が忙しすぎて、すぐに必要のないものは、後回しになっていた。


今、悔やんでも、悔みきれない。


忙しさを言い訳に、すぐにやらなかった、あの時の自分に腹が立った。



もしかしたら、部長が、データをコピーして残しているかもしれない。


でも、『もしかしたら』を当てにして、やっぱり無かった場合は、どうなるのだろう?



私が戻らなければ、会社が困る。



だけど、一度戻ってしまうと、この世界には戻ってこられないらしい。



だんだん打ち解けてきた村の人たち。


ラスターとの日々。


今の生活が、すべて思い出になってしまうなんて、辛すぎる。



私は、どうすればいいのだろう?



「なるほど……。」


「事情は、よくわかりました。」


ラスターが、パンをお皿に置いて、私を見た。


「シスターシーナ。……元の世界に戻ったほうが、いいのかもしれないですね」



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