第25話 森の発明家
私たちは、森の中にいた。
こんな場所があったんだ――。
まだ、昼間なのに薄暗く、少しひんやり感じる。
なんだか、グランベアがでてきそうな雰囲気だった。
森の奥へ続く一本道を歩いていくと、一軒の小屋が見えてきた。
「あそこですね。」
ラスターが指をさした。
小屋の煙突からは、モクモクと煙がでていて、いかにもな感じがした。
「ごめんください」
ラスターが扉を叩いた。
しばらくして、ギイッと音をたてて扉が開かれた。
「ラスターさんか。久しぶりだな。」
小屋の主は、豊かな髭を蓄えた初老の人だった。
「シスターシーナ、こちらは発明家のニコライさんです。ニコライさん、新しいシスター、シスターシーナです。」
「シーナです。よろしくお願いします」
私が頭を下げると、
「知っている。」
「私は、あなたが現れた日に、あの場にいた。」
「えっ、そうなんですね!」
私が転移した日に、大勢の村人が広場に集まっていたことを思い出した。
ニコライさんも、シスターが来るのを心待ちにしていたのだろうか?
「で、私に何の用だね?」
ラスターが、鞄から、一枚の絵を取り出した。
「実は、こちらを作っていただきたくて……。」
その絵は、ラスターと二人で考えた、元の世界でいう、消防車のような物が描いてあった。
「村で、火事があった時に、シスターの力を借りなくても、ある程度の火事は鎮火できないかと考えました。」
「ここに描いてあるように、大量の水を貯めておいて、一気に放出できる物があったら便利だと思ったのです。」
「ほほう。面白いことを考えたな」
ニコライさんは、じっと絵を見つめた。
そして、
――ここは、もう少し短いほうがいいな。
車輪は、もっと大きくしないといけないな……。
ペンで、絵に書き足しながら、ブツブツと言い出した。
「どうですか?できそうですか?」
ラスターが遠慮がちに聞いた。
「……そうだな、できないこともないが、時間がだいぶかかるな」
絵から目を離さず、ニコライさんが答えた。
「できれば、来月までにお願いしたいのですが、それ以上かかっても大丈夫なので、お願いできないでしょうか?」
ラスターが頭を下げた。
「まあ、面白そうだから、作ってやってもいいな。」
「本当ですか!」
私は、思わず声がでた。
「でも、できるかどうかわからんぞ。それでもいいのか?」
「もちろんです。」
これができれば、シスターにしかできなかった火事の鎮火が、村人の力で解決できることになる。
私たちに出来るのは、案を出すことまでだった。
あとは、ニコライさんの腕を信じて待つしかない。
「では、お願いしますね」
「わかった。何かあったら連絡するな」
ニコライさんに挨拶すると、
私たちは、並んで家をでた。
「引き受けてくれてよかった……。」
もしかして、
『こんな物、実現するのは無理だ!』
なんて言われるかも、と思っていた私は、緊張の糸がほどけた。
「そうですね。」
「ニコライさんの腕は確かです。」
「きっと、実現してくれると思います。出来上がるのが楽しみですね」
――私の考えたことが、実現できるかもしれない。
この村に、役立つことができそうで、楽しみなことが一つ増えたのだった。




